Jewels of Nostalgia

KODAK Retina Type 117
Schneider Kreuznach Xenar F3.5/50mm
Compur TB,1sec. - 1/300sec.
1934, Made in Germany

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一連のコダック・レチナシリーズは、KODAK と云えども米国製ではなく、ドイツ・コダック社(KODAK AG)で生産された、生粋のドイツ製カメラである。レチナシリーズは、1932年の米国コダックによるドイツのカメラメーカー「ナーゲル社」買収を契機に誕生した。
ナーゲル社は、1928年、Dr. August Nagel により、シュツットガルトに設立されたカメラメーカーで、Anca、Librette、Recomar などの精密カメラの製作で知られていた。米国コダックは、その高い技術力に着目し、欧州におけるカメラ製造拠点設立を目指したのだと思われる。

買収から2年目の1934年、初代レチナ(KODAK社内番号 Type #117)が発売された。このレチナから始まる一連のレチナシリーズは、コダック型パトローネ入り35mmフィルム販売促進のために作られた戦略商品であった。コダック型パトローネ入り35mmフィルムとは、現在市販されている最も一般的な35mmフィルムのことである。
それまでの35mmフィルムカメラでは、映画用35mmフィルムの100/400feet缶から任意の長さを引き出し、それぞれのカメラのマガジンに装填するという方法であった。これは「暗装」と呼ばれ、暗室内での作業が必要であり、35mmフィルムの普及を妨げていた。
コダックがレチナとともに発売したパトローネ入り35mmフィルムは、この面倒な作業が不要なため、一般利用者の間に急速に普及していった。当初、コダックは35mmパトローネ入りフィルムの普及促進にそれほど熱心ではなかったと云われるが、このフィルムシステムが大成功をおさめたことは後世の歴史が示すとおりである。

この Retina Type 117 は、1934年に作られた初代レチナであり、オリジナルレチナ、ファーストレチナなどと呼ばれるモデルである。世界初の35mmパトローネフィルム導入モデルとして、カメラ史上特筆すべきカメラとなっている。
発売当時は、"Retina I" とは呼ばれず、単に "Retina" と呼ばれていた。"Retina I" という呼称が登場するのは、1936年、連動距離計付の Retina II (Type 122) が誕生した以降である。
戦前レチナの中でも、Type 117 と Type 118 は、Type 119 以降のモデルとはかなり形状が異なるため、Type 118 までを「クラシックレチナ」、Type 119 以降のものを「モダンレチナ」と呼ぶコレクターが多い。

クラシックレチナとモダンレチナの大きな違いは、軍艦部にある。
巻上げノブ、巻き戻しノブが平板で大きなものがクラシックレチナ、やや細みの円筒形のものがモダンレチナである。
また、フィルムカウンターがファインダーの左側にあるのがクラシックレチナ、ファインダーの右側にあるものがモダンレチナである。

仕上げも、クラシックレチナは黒エナメル塗装のみであるが、モダンレチナではクロームメッキのものも多い。

ファインダー左側の巻き戻しノブとフィルムカウンター。
このフィルムカウンターは Retina Type 117/118 特有のものである。中央部の突起はシャッターボタンではなく、フィルムカウンターリセットギアである。
シャッターボタンは画面右奥に見える、レンズ鏡胴から生えた短いレリーズボタンである。
Type 117〜126 までの Retina I はボディレリーズではなく、レンズ鏡胴のレリーズホールに専用ショートレリーズを差込み、シャッターを切る仕組となっている。このショートレリーズは紛失しているモデルが多いが、自作は可能である。

ファインダー右側の巻上げノブとフィルムリリースノブ。
1コマ(8パーフォレーション)分を巻き上げると、フィルムはロックされる。ここで撮影を行ない、その後、巻上げノブ左横のフィルムリリースノブを回転させ、フィルムロックを解除し、次のコマを巻き上げる仕組となっている。

Type 117/118 では、フィルム巻き戻し時のリワインドクラッチを、巻上げノブ中央のレバーで切り換える。フィルム巻き戻し時には、リワインドクラッチを「A」から「R」に切り換え、フィルムスプールをフリーにしてから巻き戻すのである。

レンズは、シュナイダークロイツナハ・クスナーである。シュナイダーといえば、現代では、アポジンマー、スーパーアンギュロンなど大判カメラ用レンズとして知られているが、この当時は小型カメラ用レンズでも一大勢力をなしていた。
このクスナーは、戦前のレンズとしては異例に保存状態が良く、コントラストはやや低いものの、カラーバランスは良く、発色もなかなか濃厚である。解像感も充分で繊細な描写である。
なお、この機体にはシンクロ接点が付属し、実際に使用可能であるが、オリジナルのものか、後世改造されたものかは不明である。

底蓋左側に装着された被写界深度ゲージ。外縁部が回転するようになっており、絞り値に距離を合わせると、被写界深度が分かる仕組となっている。

この円盤形被写界深度ゲージは、ドイツコダックの前身ナーゲル社時代から Pupille、Vollenda などのカメラで使用されていた由緒あるものである。
レチナから、この円盤が無くなったのは、戦後モデルの Type 013 から、すなわち、1949年以降のことである。

レチナの特色のひとつである、堅牢なダイキャストボディ。板金プレス加工ボディのカメラが多かった当時、軽合金製ダイキャストボディを持つレチナは、剛性感、質感の高さで抜きん出た存在であった。

なお、Type 117 と、Type 118 の一部は、この写真のように、スプロケットシャフトが上下に貫通しておらず、上部のみにスプロケットギアが存在するという特異な構造となっている。

初期型レチナ独特の優雅な雰囲気を漂わせるボディ。
メッキ類はニッケルメッキが主体で、やや黄色味を帯びた温かみのある仕上げはブラックボディに良く似合う。
蛇腹のタスキには顔が写り込むほど磨き込まれたメッキが施されているが、Type 117/118/119 などのブラックボディモデル特有の仕上げである。

私の手元にある、Retina Type 117 は、外装のハゲはあるものの、写真を撮る道具として見た場合は全く問題が無い。レンズの保存状態はほぼ完璧で、シャッター全速OK、絞りOK、蛇腹ピンホール無し、巻上げ・巻き戻しなどフィルム給装関係もスムーズ、現代においても実用性充分である。
誕生後70年近くを過ぎており、しかも、第二次世界大戦の戦禍をくぐってきたカメラであることを考えると、つくづく、シンプルながら頑丈なカメラだと感心してしまう。




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