Jewels of Nostalgia

KODAK Retina I Type 010
Kodak US.Ektar F3.5/50mm
Compur-Rapid B,1sec. - 1/500sec.
1947, Made in Germany

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レチナシリーズ誕生の経緯、およびそのメーカーであったドイツ・コダック社の沿革については、Retina Type 117 に記したとおりである。
第二次世界大戦勃発後、ドイツ・コダック社がレチナシリーズを生産できたのは、1941年までのことであった。1941年以降、アメリカ資本であるドイツ・コダック社は、ナチス政権の管理下に置かれ、否応なく軍需工場への道を歩まされたのである。そのため、大戦末期には連合軍の空爆に曝され、甚大な被害を被ったという。

第二次世界大戦後、ドイツ・コダック社の工場があったシュツットガルトは、ヤルタ協定により、米国側すなわち西ドイツに属することとなった。そのため、意外と戦後の復興は早く、1945年11月には最初の戦後型レチナ Retina I Type 010 が出荷されるはこびとなった。Type 010 の初期型では、戦後の物資不足により、アルミニウムや真鍮で作るべき部分も鉄板製であったという。
材料不足解消後、Retina I はよく売れたようで、1945年〜1950年までの累計販売数は、41万台を超え、戦前に生産された全ての Retina 1 の合計生産数を上回った。

Retina I Type 010 は、戦前の Type 148/149 をほぼ踏襲した構造である。外観は Type 148 と良く似ており、特にレンズフェースプレートが白っぽいことから間違いやすいモデルである。戦前型との識別点は、軍艦部取付ビスの位置、フィルムカウンター指標の位置、ファインダーカバーと軍艦部の接続状態、フォーカシングヘリコイドノブの位置・形状などと云われるが、実際には戦後型の中にも戦前型の形状を持つものもあり、判然としない場合も多い。

このページの Retina Type 010 は、1945〜1949年にかけて製造されたものの中の一台であるが、装着されたレンズ "Kodak Ektar F3.5/50mm" のシリアルナンバーは、1947年製を示しており、カメラ自体の製造年も1947年頃と推測される。
1930年代末以降のコダック製レンズは、シリアルナンバーにより、製造年を特定することが可能である。シリアルナンバーの先頭文字と製造年(下二桁)の対応は以下のとおりである。

C A M E R O S I T Y
1 2 3 4 5 6 7 8 9 0

例えば、"RAxxxx" というレンズの場合は、52、すなわち、1952年製ということになる。このレチナのエクターの場合は、"ES3696"であるから、1947年製ということが分かるのである。
なお、レチナに装着された "Ektar" と記されたレンズの中には、Schneider OEM の Xenar も多く存在するが、この方法による製造年特定が可能なのは、あくまでも、Made in U.S.A の Ektar のみである。

比較的レンズバリエーションの少ないレチナシリーズの中、Retina I Type 010 は、最も多くのバリエーションが存在するモデルである。
標準的な、Schneider Kreuznach Retina-Xenar の他、Kodak Ektar (Made in USA)、Kodak Anastigmat、Kodak Anastigmat Ektar、Rodenstock Ysar などが存在する。シャッターは、いずれも Compur / Compur-Rapid である。
レチナの普及型である Retinette が戦後再生産されたのは1949年のことであるから、多様な購買層のニーズに応じるための一時的な処置、あるいは、戦後復興期の資材不足などの要因により、このような多種類のレンズバリエーションが存在したのかもしれない。


コダック社は、自社製最高級レンズにエクターの名を与えてきた。
Eastman Kodak = EKtar、同社の頭文字そのものがレンズ名となっており、コダック社発祥の地・ニューヨーク州ロチェスター工場製高級レンズは、構成枚数などに関係なく、全てエクターと名付けられていたようである。
このエクターは3群4枚のテッサー変形タイプであり、テッサーが3群目を張り合せレンズとしているのに対し、1群目を張り合せレンズとしているときく。コントラスト・発色ともに素晴らしく、すこぶるシャープかつ繊細な描写で、現代でも通用する一級品である。

軍艦部は左から、リワインドノブ、ファインダー、フィルムカウンター、シャッターレリーズボタン、巻上げノブ、リバースクラッチと実にシンプルな構成である。ファインダー左側にアクセサリシューが付いた機体も多く存在する。
この機体は、ノブ類に軽い腐食が見られるなど、あまり保存状態は良くない。しかしながら、各機構は製造後50年あまりを経た現在もなお確実に動作する。総じて、レチナの作りは非常に良い。ドイツ製品ならではの「質感の高さ」が、レチナの魅力のひとつである。

Retina I Type 010 の段違い軍艦部は、このモデルの最も印象的な部分である。
Type 117/118 の初期レチナでも、巻上げノブ側が数ミリほど盛り上がっているが、この部分は、Type 119〜141 と、代を重ねるごとに高くなっていく。
Type 148 以降は、このモデル同様、ファインダーとほぼ同じ高さとなっている。

前蓋にディスプレイスタンドを持ち、縦に立てられるのも、段違い軍艦部を持つモデル、すなわち、Retina I Type 010 までである。Type 013 以降の Retina I や、Retina II、Retina III は縦置きすることができない。
このことは、カメラ自体が鑑賞対象物であった時代が終焉を告げ、生活の中の実用品となったことを示している。




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