Jewels of Nostalgia
独断と偏愛による 35mm蛇腹カメラ付属レンズ番付

以下は私が所有し、撮影した経験を持つレンズの中から、それぞれの描写特性に対して、敢えてランキングを付けてみたものである。
極めて限られた特定個体のインプレッションであるから、この評価の客観性はゼロと考えていただいた方が良い。私が「これは素晴らしい!」と記していても、誰しもが素晴らしいと思えるわけではないであろうことを充分理解して読むべきであり、決して評価を鵜呑みされないよう、くれぐれも御注意されたい。


総合

  1. Schneider Kreuznach Retina Xenon F2.0/50mm
    シュナイダー・クロイツナハ社は、ジンマー、スーパーアンギュロンなど大判カメラ用レンズの世界ではローデンシュトックと並ぶトップメーカーであることは今さら述べるまでもない。
    ドイツの温泉町・バートクロイツナハに創業したシュナイダー社の発祥は1913年と、それほど古いものではないが、その社名を確かなものとしたのがクセノンであった。
    クセノンは4群6枚のダブルガウス対称型レンズであり、線が細く繊細な解像感と階調豊かな柔らかさの同居した描写は、戦前に開発されたレンズながら、時代を超えてなお美しい。
    私が所有している Retina II Type 011 に付属しているクセノンは、前玉は拭き傷がトグロを巻き、後玉には気泡が入っているという外観的にはとんでもないレンズである。フレアが出やすく逆光には弱いが、その柔らかく繊細な描写は、他のレンズには無い存在感を持つ。このレンズは撮っていて楽しい。
    Rodenstock Retina-Heligon F2.0/50mm とクセノンは同様のスペック・レンズ構成を持つが、両者の描写もよく似ている。ヘリゴンの方が一層軟調の印象であるが、その違いは、あまり明確なものではない。

  2. Agfa Solinar F3.5/50mm
    ゾラゴンと並ぶアグファの銘玉である。フィルムメーカー製レンズは発色が良いものが多いが、このゾリナーも例外ではなく、コントラスト・彩度の高い鮮やかな発色を示す。加えて、オプトンテッサーをも凌ぐ細密な解像感を持ちながら、絞りを開いたときの柔らかで階調豊かな表現は、下記、Kodak U.S.Ektar ともども4枚玉屈指の描写である。
    Agfa Solinar と Kodak U.S.Ektar は共に「変形テッサータイプ」と言われ、テッサーの3群目が張り合せになっているのに対し、1群目が張り合わせとなっていると聞く。
    当時、アグファ社内でレンズ製作を行なっていたのか、OEM供給によっていたのかは定かではないが、戦前から存在するレンズである。出自については謎が多いレンズであるが、ゾラゴンともども後世にアグファの名前を残した意義は大きい。

  3. Kodak Ektar (Made in U.S.A.)
    写真総合企業であるコダック社は、ある時代、レンズメーカーとしてもトップクラスの実力を誇っており、その頂点がエクターであった。
    Eastman Kodak = EKtar、同社の頭文字そのものがレンズ名となっており、コダック社は自社製最高級レンズにエクターの名を与えてきた。レンズ構成枚数などには関係なく、コダック社発祥の地・オンタリオ湖畔ニューヨーク州ロチェスター工場製高級レンズにのみ、エクターという名前が付けられていたのである。
    エクトラ付属の100mm/F3.5、カードン・レチナ付属の47mm/F2.0、レチナ付属の50mm/F3.5、いずれも銘玉として後世に名前を残したレンズであった。
    Retina I Type 010 付属のエクターは、アグファ・ゾリナー同様3群4枚のテッサー変形タイプであると聞く。コントラスト・発色ともに素晴らしく、すこぶるシャープかつ繊細、加えて立体感あふれる見事な描写である。


解像感・シャープネス

  1. Agfa Solinar F3.5/50mm
    総合の部、参照のこと。

  2. Zeiss Opton Tessar F2.8/45mm
    第二次世界大戦後、西側ツァイスによって作られたテッサーである。戦前のイエナ製F3.5/50mmテッサーに比べると、場合によっては硬すぎるとも思えるほどのシャープさが特徴である。単層コーティングながら、ツァイス独自のコーティング技術を示す赤い「T」マークが与えられ、コントラスト・発色は実に鮮かで明晰、非常にクリアな描写である。この際立った個性ゆえに、好き嫌いがはっきりと別れるレンズである。

  3. Voigtlander Color Skopar F3.5/50mm
    名門フォクトレンダーの3群4枚テッサータイプレンズである。戦前のスコパーを再設計したもので、描写傾向は上記オプトンテッサーに非常に良く似ている。切れ味鋭い解像感と鮮やかなコントラスト・発色は、この時代のレンズとしては一級品である。反面、ボケ足が硬く、人物撮影に向かないのも、オプトンテッサー同様である。


発色・コントラスト

  1. Agfa Solinar F3.5/50mm
    総合の部、参照のこと。

  2. Kodak Ektar F3.5/50mm (Made in U.S.A.)
    総合の部、参照のこと。

  3. Zeiss Opton Tessar F2.8/45mm
    解像感・シャープネスの部、参照のこと。


階調の豊かさ

  1. Schneider Kreuznach Retina Xenon F2.0/50mm
    総合の部、参照のこと。

  2. Rodenstock Retina-Heligon F2.0/50mm
    総合の部、参照のこと。

  3. Agfa Solinar F3.5/50mm
    総合の部、参照のこと。


描写の柔らかさ

  1. Rodenstock Retina-Heligon F2.0/50mm
    総合の部、参照のこと。

  2. Schneider Kreuznach Retina Xenon F2.0/50mm
    総合の部、参照のこと。

  3. Carl Zeiss Jena Tessar F2.8/50mm (Made in GDR)
    第二次世界大戦後、東ドイツで生産されたテッサーである。製造は戦前のテッサーと同じく、イエナのレンズ工場であり、"Carl Zeiss Jena" の銘が刻み込まれている。
    戦後のレンズだけに前玉・後玉ともに美しいコーティングが施され、戦前のテッサーに比べ、コントラスト・発色は一段向上したものとなっている。
    同時代の西ドイツ製テッサー45mm/F2.8に比べるとはるかに柔らかい描写であり、同じ名前のレンズとは思えない。特に絞りを開けた際の階調感、ボケ足の滑らかさは4枚玉としては出色である。


番外

  1. Schneider Kreuznach Xenar F3.5/50mm (1934)
    3群4枚構成のテッサークローンであり、すべてにおいてバランスの良い優れたレンズである。レチナが成功した理由のひとつは、クスナーの優秀さにあったと言っても過言ではない。総合一位にランクしてもおかしくないレンズであるが、一点突破的な強さを持たない控えめな描写のため番外となってしまうのである。
    線が細く繊細で上品な描写は、テッサークローンでありながら、テッサーとは異なる味わいを持つ。無個性な優等生的レンズと言われることが多いが、この繊細な上品さは個性でなくして何であろうか?

  2. Schneider Kreuznach Radionar F2.9/50mm
    三群三枚のトリプレットである。シャープな解像感、ボケ足の柔らかさは三枚玉としては出色のものである。また、各収差もトリプレットとしては低く抑えられており、なかなかに侮り難い。シュナイダーというメーカーの底力を垣間見せられる思いがするレンズである。

  3. Schneider Kreuznach Reomar F4.5/50mm
    こちらも三群三枚のトリプレットである。開放F値は4.5と暗く、明らかにローコストカメラ用に開発されたレンズと思われるが、無理をしない素直な描写は明晰で美しい。解像感、コントラスト、発色、いずれも優秀で、決して安物レンズの範疇にはない。



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