常滑市

―住民の力でやきもの散歩道を生かす―

(2004.1.15)



1.都市概況
2.中心市街地の現況と課題
3.中心市街地活性化のとりくみ
4.事例からみた教訓と今後の課題

1.都市概況

(1)基礎データ <2000年国勢調査>
    ○人   口 : 50,183人 (愛知県第28位、市では下から4番目)
    ○人口増加率(1995〜2000年) : −1.3% (1975年55,495人をピークに減少)
    ○世 帯 数 : 15,843世帯
    ○高齢化率 : 20.0%(愛知県平均:14.5%)
    ○面   積 : 52.45ku(空港埋立地を含む)
(2)都市の沿革と産業
     瀬戸、信楽などと並ぶ日本六古窯(他に越前・丹波・備前)の一つで、平安時代後期から窯業が盛んに行なわれてきた。現在でも、朱泥急須に代表される茶器を始め、花器、食器、置物など多種多様な製品が作られている。また、INAXを始めとしてタイル、衛生陶器、セラミックパイプ(陶管)などの窯業製品も多く作られ、一時は市の工業出荷額の50%以上を占めていた。
     こうした焼き物の町であると同時に、江戸時代から明治前期にかけては廻船業の町でもあり、常滑湊から伊勢湾周辺の地域と上方・江戸を結び、多くの廻船主が栄えていた。そうした廻船問屋の一つ瀧田家がやきもの散歩道の中で復元保存されている。
     また半島丘陵部は広く圃場整備が行なわれ、水稲の他、イチジクなどの果樹や花き、野菜が栽培され、酪農、養鶏、養鶉、養豚などの畜産も盛ん。市南部には酒造・醸造メーカーもいくつかある。
(3)中部国際空港と関連開発
     2005年春の開港をめざし、現在、常滑市沖に中部国際空港(愛称:セントレア)の建設が進められている。24時間運用可能な第1種国際空港として、成田、関空に次ぐ日本の玄関口となることが期待されている。
     空港整備に関連して空港島内に約107ha、対岸部に約123haの地域開発用地が予定され、空港と名古屋を結ぶアクセス道路、アクセス鉄道の建設を急ピッチで進められている。

2.中心市街地の現況と課題


(1)中心市街地の範囲
     常滑駅周辺、やきもの散歩道、本町銀座商店街を含む約114ha。
(2)基礎データ <2000年国勢調査>
    ○人   口 : 4,368人 (市全体の8.7%)
    ○人口増加率(1995〜2000年) : 2.4%
    ○世 帯 数 : 1,538世帯
    ○人口密度 : 約38人/ha
    ○高齢化率 : 23.9%

    ※常滑地区とは、中心市街地を含む昭和25年合併前の旧常滑町の区域
    (データは住民基本台帳による)

(3)土地・建物の利用状況
     中心市街地活性化基本計画で設定されている中心市街地は、伊勢湾に面する低地と急に駆け上がる丘陵部(最高標高87m)からなっている。
     低地部には1913年(大正2年)に開通した名鉄常滑駅があり、市役所、消防署、警察署などの官公庁、市民文化会館、図書館などの文化施設、市民病院、商工会議所、金融機関などが集積している。
     一方、丘陵地一帯は、登り窯による常滑焼の製造に適していたことから、常滑焼の窯元や製陶工場等が密集している。かつては300〜400本もの煙突が林立し、コールタールを塗られた黒い家並みが斜面を埋めていたと言われる。現在では閉鎖される製陶所も多く、煙突も80本程度(使用中のものは数本)となっているが、それでも起伏に富んだ地形の中に、煙突や黒い外壁の工場、土管や甕などの陶器を利用した擁壁や坂道の路面などがそこかしこに見られ、特徴的な景観を形作っている。
     この丘陵地を巡る散策路として「やきもの散歩道」が1974年に設定され、案内看板等が整備されるとともに、1994年には登り窯広場、2000年には廻船問屋瀧田家がオープンした。最近は観光名所として取り上げられることも多く、年間20万人近くの観光客が立ち寄り、製陶工場を転用した飲食店やアトリエなども見られるようになってきた。
     やきもの散歩道の西側、低地部との間には県道大府常滑線が通り、沿道商店街を形成している。
     またやきもの散歩道の南側にはかつての中心的商業地であった本町・銀座商店街があり、小売店舗が集中して立地しているが、衰退の傾向にあり、廃業する店舗もみられる。
(4)市街地の動向
     中心市街地内には全部で6つの字があり、それぞれが山車を持ち、春祭りで並べられる。昭和30年代(1950年頃)まではよく栄え、映画館などもあったが、1960年(昭和45年)以降は人口の減少が進んでおり、現在は約4,300人程度である。
     高齢化も進行しており、高齢化率は地域全体で約24%、栄町、本町、市場町では28%前後にも達している。
     市が実施したアンケート調査では、商業者の約9割は50歳以上で、戦前からの店舗が約1/3。後継者も少ないのが実情である。また、やきもの散歩道への来訪者の増加は歓迎する声が強いが、家を覗くなど、マナーの悪さに対する批判の声もでている。

名鉄常滑駅
中部国際空港を結ぶ連絡鉄道と高架化事業に伴い、改修中。(2003年10月完成予定)

廻船問屋滝田家
県の「魅力ある愛知づくり事業」の補助を受け、2000年にやきもの散歩道内に復元整備しオープン

土管坂
陶器を利用した擁壁と坂道

常滑屋
工場跡を再利用した飲食店

やきもの散歩道の風景
陶器製品と煙突が並ぶやきもの散歩道らしい風景。

やきもの散歩道心得の披露
2002年10月に登り窯広場で行なわれた散歩道心得おひろめ会の様子。

3.中心市街地活性化のとりくみ

(1)活性化基本計画の内容
    ●計画提出日
       2001年9月4日
    ●中心市街地の将来像と基本理念
       「世界に開かれた"やきもの・ものづくり"が息づくまち 常滑」
      多くの人が訪れ、さまざまな交流活動が活発に行なわれるとともに、そこに住む人々がまちづくりへの関心を持ち、いきいきと暮らし輝いているまち
    ●計画の特徴
       区域内を以下の5つの地区に分け、地区別に将来目標と事業方針を掲げている。
      ◇Aゾーン:市役所周辺地区(安心で便利な居住ゾーン)・・・「交通利便性の高い住宅地の形成」
      ◇Bゾーン:常滑駅周辺地区(常滑の玄関ゾーン)・・・「常滑の顔にふさわしい都市核の形成」
      ◇Cゾーン:やきもの散歩道周辺地区(やきもの歴史文化体験ゾーン)・・・「観光商業地の育成」
      ◇Dゾーン:本町・銀座商店街周辺地区(ふれあい商店街ゾーン)・・・「交流型商店街の育成」
      ◇Eゾーン:県道大府常滑線沿道地区(にぎわい沿道商業ゾーン)・・・「沿道型商業地の育成」
       中でもCゾーンの「やきもの散歩道周辺地区」は中心市街地活性化の戦略の要と位置付け、@イメージアップの推進、A集客機能の充実、B情報発信力の強化、に取り組むこととしている。
       区域内で取り組む具体の事業として、市街地の整備改善に関する施策・事業を19事業、商業等の活性化に関する施策・事業を20事業、それぞれ取り上げている。この中で、Cゾーン「やきもの散歩道周辺地区」の主な施策・事業としては、多目的駐車場の整備、ポケットパークの整備、空家・空工場の活用等が挙げられる。
(2)行政の取組み
    ●協議会と部会
       計画ではTMOについては積極的な記述はない。当面、市民・企業・商工会議所・行政による中心市街地活性化推進協議会を立ち上げ、各々の役割に応じた検討と推進を図ることとしている。この協議会は2001年9月に設立。商業部会、TMO研究部会、散歩道部会の3部会に分かれ、活動を始めた。
    ●やきもの散歩道景観構成要素調査
       2002年度に、日本福祉大に委託して、やきもの散歩道景観構成要素調査を実施している。この調査では、約700棟の建物と地区内の道路・擁壁の現地調査を行なうとともに、地区内の住民・事業者に対してアンケート調査を行なっている。住宅が全棟の約半分、窯屋タイプのものが多いが、プレハブも約1割あることなどがわかった。また、アンケート調査では、「道が狭い」、「防災上不安」が欠点として挙げられる一方、「静かで落ち着いている」と評価する声も高い。
    ●空き家の購入
       市では廻船問屋滝田家に続いて、隣接する土管坂上の住宅を購入したが、その後の利用方法については明確な方針が出ていない。やきもの散歩道内では時々空き家や空き工場の売却の話がでる。2002年度に地元から市で購入活用の声が上がった製陶所は結局民間で売買されており、その後は市が積極的に購入を行なうという状況にはない。
(3)住民のまちづくりへのかかわり
    ●散歩道フェスティバルと散歩道の会、窯屋クラフトなど
       15年ほど前に、青年会議所が中心となって、やきもの散歩道フェスティバルをスタートさせた。その後2年間ほど観光協会が主催した時期を経て、1997年に地域内の出店者や住民、保存を願う有志等でやきもの散歩道の会が結成され、その後、この会の主催でフェスティバルが継続されている。
      また、常滑案内人の会も結成されており、散歩道の会と連携し、様々な活動をしている。
       フェスティバルでは、地域住民と各店舗や観光客との交流をめざし、ギャラリー・工房・工場の展示即売や登り窯広場での出店・イベントなどが行なわれているが、一方、地域内で生産を続けるアトリエ・工房が主体となり、自作の展示即売と来訪者との交流を目的に、2000年から窯屋クラフトが実施されている。
       空き家・空き工場が次々と発生する一方で、散歩道内で陶芸活動を始めたいという若手陶芸家の希望はあるが、彼らの経済状況に見合う受け皿は乏しく、なかなか実現していない。
    ●まちづくり協定とタウンキーピングの会
      やきもの散歩道心得
      土管、煙突、路地、職人。
        ものつくりの町 常滑の、
         心と風景を、次代につなげるために・・
      一 常滑らしい 歴史と文化の薫る
      風景を守り、伝えます。
      一 ふれあいとぬくもりを大切に、
      訪れる人をあたたかく迎えます。
      一 あいさつと気づかいで、
      散歩道をゆっくり 楽しみます。
      一 住む人、働く人、訪れる人が、
      手をたずさえ この町を支えます。
      一 食、ひと、モノの、常滑らしさにこだわり、
      町の魅力を育みます。
       2002年に、やきもの散歩道内の常滑屋(ギャラリー・飲食店)を拠点に、特定非営利活動法人タウンキーピングの会が設立された。散歩道の会のメンバーや市役所職員、市外の都市計画コンサルタント、建築士、経営系コンサルタント、公務員等で構成されている。
       もともとは中部国際空港開港のインパクトをやきもの散歩道の再生・活用と結んで考えたいという趣旨で研究等の活動をスタートしたが、その後、来訪者の駐車場利用調査やまちかどフォトギャラリーなどのイベントも実施している。
       中でもこの会が中心的な役割を果たしてきた活動に、まちづくり協定の提案と散歩道心得の発表がある。この地域のまちづくり協定は、地域住民だけでなく、商業者や工場・工房さらには来訪者にも視野を広げ、@建築物とその周りのしつらえ、に加え、A商工業を営む上でのルールやB来訪者のルールまで対象にしている点が特徴である。協定の発足に当たっては、散歩道の会会員が、散歩道内の商工業者や住民をくまなく廻り、理解と協力を得た。また、お年寄りや来訪者にも一目でわかるものが欲しいという意見に応え、「やきもの散歩道心得」を作成し、広場に立て札として掲示するとともに賛同者の店舗等に貼られている。

4.事例からみた教訓と今後の課題

    ●住民主導のまちづくり
       常滑市では、2000年度から2001年度にかけて、常滑市中心市街地活性化基本計画策定委員会が設置され、商工会議所副会頭を委員長に、とこなめ焼協同組合などの業界団体や婦人会などの地域団体、地元区長、さらに散歩道の会も参加して、計画の検討を行った。しかし結果として、計画としては一通りの施策・事業を列記したものの、例えば再開発事業等の中心的に取り組むべき市街地整備事業はなく、TMOも引き続き検討を重ねることとなった。
       率直に言えば、市は当面、中部国際空港関連の諸事業で手一杯であり、中心市街地の問題は、商工会議所や観光協会、とこなめ焼協同組合などの業界団体や市民グループが中心となって取り組んでいってほしい、というスタンスだと思われる。衰退する中心市街地の歯止め策を考えるより、新たな空港ビジネスの効果を引き込むほうが、経済的にも直接的で展望が描きやすい。一方、中心市街地施策でこれといった決め手は見つからない。
       こうした中で、前述したように、市民レベルの活動は着々と新たな展開を見せてきている。
       この背景には、景観的にもすぐれ、産業遺産といった新たな視点からの魅力にもあふれる「やきもの散歩道」の存在があることはもちろんだが、社会の成熟化に伴い、経済性よりも生活の豊かさを求める人々が増え、観光客として訪れる者、陶芸・生産活動の場として魅力を感じる者、研究対象や社会貢献活動の場として魅力を感じる者など、様々な人が興味と関心を持つようになってきたことが挙げられる。
       多くの人が集まることにより、区域内へ出店する店舗も飛躍的に増加しつつあり、経済的な効果も生まれつつある。
       こうした状況の中で、従来から懸念されていた問題が顕在化し、また拡大しつつある。駐車場問題、土地利用の変化、景観の悪化、観光マナーの問題などである。
       これらに対しても、タウンキーピングの会を中心とする市民グループがそれぞれの活動の中で、少しでも解決できるよう努力が図られている。例えば、駐車場利用状況調査や実験的な有料駐車場設置、まちづくり協定の締結や心得の配布・掲示、コーポラティブ・ハウスの提案などの活動である。
       しかし、市民活動でできるものには限界がある。例えばまちづくり協定のうち、建築物の景観や形状に関することは、市が地区計画を決定することが最も有効であるし、駐車場問題も市の積極的な関わりなしには抜本的に解決するのは難しい。
       今後、市民活動を生かしつつ、いかに市が連携してまちづくり施策を講じていくかが大きな課題となる。
    ●空き家・空き工場の活用
       中心市街地における空き店舗活用の事例は全国的にも数多くあるが、空き家や空き工場の再生活用の取組みはそう多くはない。
       最近の民家ブームの中で、空き家については県内でも足助町を始め山間部の町村で、行政による取組みが行なわれている。また、京都西陣を中心とするエリアでは、市民団体である町家倶楽部が率先する形で、町家の活用が始まっている。
       空き工場についても、散歩道という環境の中で陶芸活動をしたいという要望は強いが、それらを受け入れる仕組みや体制が整っていない。
       商業店舗の場合は、その立地を活かすことのできる業種が見つかれば、成立の可能性はある。一方、空き家や空き工場の場合は、用途を住宅又は工房に限定すると、利用者の経済的な負担能力が乏しい点が問題である。
       また、経済的な問題だけでなく、景観の維持保全の観点からは、建物や窯などの修繕に関する知識や能力も重要である。
       貸す側、借りる側の両者をつなぐ情報提供の機能を果たす機関の設立と支援の仕組みを検討する必要がある。
    ●コーポラティブ・ハウスの可能性
       空き工場の発生に伴い、相当規模の土地の売買事例が増えてきている。こうした土地利用転換も、景観に配慮された質の高いものが導入されるのであれば、地区としても歓迎するところである。
       また、やきもの散歩道という特徴ある地域に住みたいという需要は必ずや一定程度存すると思われ、こうした需要と土地処分の意向をつなげ、質の高い地域形成に寄与する手法として、コーポラティブ手法の導入が期待される。

参考資料 1.常滑市、常滑市中心市街地活性化基本計画、2001.8

世界のタイル博物館(INAX TILE MUSEUM)

 タイルの製法や歴史を紹介するとともに、オリエントを始め、世界の古いタイルを展示している。美しく芸術性に富んだタイルを絵画鑑賞のような感じで見学できる。美しい絵を施した染付古便器は一見の価値あり。

■入館料■ 一般500円
■休館日■ 原則月曜日・年末年始・夏期
■交 通■ 名鉄常滑駅より徒歩30分(バスあり)
■電 話■ 0569-34-8282