プロポーズ大作戦2|
「ええーっ!! ほんとにオッケーもらったん?」 「へへっ、ほんとほんと」 「どおりで朝から鼻の下伸ばしてると思ったわ」 「うん、でら幸せ」 今日はカレーをつつきながらお昼の会話である。 「かーっ、やってられんが」 俊太は断られると思っていたのか祝福してくれない。 「お前ね、おめでとうの一言くらい言えんのか?」 「わぁったよ。言やーええんだろう。お・め・で・と・う。ちえっ、こんなに差ぁ付けられて俺はでーらー悔しいぞ。これから誰と遊びに行けばいいんだ」 「何でぇ、お前うちへ五月に会いに来るって言ってたじゃないか」 「ふん、そんな熱々の新婚さんの所へなんか行けるかってんだ。ああ、五月さん。なんでこんな男のものに」 まったく五月のファンを工高の頃から自称している俊太には参るわ。でも同じ事思ってる奴は大勢いそうだな。 食堂を出て廊下を歩いていると正面に五月が右へ向かって歩いて行くのが見えた。何だか無性に五月の顔が見たくてあとを追った。普段は一応社内では慎んでいるのだが今日は感動していたのでそんなことは頭から抜け落ちていたのだ。 「‥‥ええ、だって可哀想でしょ」 「そんなことで?」 「だってまだ子供なんですもの」 俺の足はそこで固まってしまった。 「おい、荒地。どした?」 遅れてきた俊太が俺で詰まる。 「俺ってやっぱまだ男として認められてないのかなぁ」 胸がぎゅうっと絞られてどうにかなりそうだった。五月の話は絶対に俺のことだ。結婚すら五月には余り重要なことではないのだろうか。俺をあやす方が大事なんだろうか。 でも俺の方が大事ってことは結婚してもいいぐらいにって事で、でもそれは同情で大人になったら別れるってこと? ぐわーっ! よく分からんぞ。 「なんだなんだ、一体どうしたんだよ」 頭をかかえる俺を変な生き物でも見つけたような目で俊太は見る。 「五月は俺のこと子供だと思ってる」 だからあんなにあっさりと了解してくれたんだ。本気で好きでもないのに悲しませないために。大事に思ってくれてるのは本当だろう。自分の一生を懸けるくらいに。でもそれは男としてではなく弟みたいな感情じゃないんだろうか。五月はそのことに気付いているのだろうか。 「そりゃ仕方ないだらぁ。実際に子供なんだで」 「そうだよな」 「だけどそういうとこが好きなんかもしれんで?」 「子供が?」 「いや、年下が好きとか、若い男が好きとかいろいろあるじゃん」 「‥そうか。若いけど男になればいいんだ」 五月をちっぽけなプライドで手放せるほど大人ではなかった。一緒になってからでも俺が成長すればいいんだ。 「そっか。俊太。ありがとな」 よし。そう思えばやりがいもある。絶対に五月に認められてみせる。 「あら、荒ちゃん。どうしたの? そんなところで」 突き当たりの角の自販機でコーヒーを買ってきた五月たちが帰ってきた。 「五月。俺はちゃんと男になるから。それまで待っててくれよ」 「なあに、急にそんなこと言って。どっから見ても荒ちゃんは男だけど」 小首を傾げながらもニッコリとする。 「くうっ、こんな綺麗な人がお前のもんに」 俊太が悔しそうに俺の首を絞める。 「えっどういうこと?」 五月と一緒にいた根津さんが訝る。 「あっ、そうだわ。今度結婚することになったのよ」 「ええっ、だってまだ木村くんって十代なんじゃない?」 「結婚するのに年って関係あるの?」 その会話になんか変な感じがしたが、そういうことをあっさりと言っちゃうのは五月らしかったので俺は重要なことを逃した。 「未成年たぶらかすと捕まるんじゃない?」 「もう、ひどいわ」 五月は何だか嬉しそうだ。結婚するのは嫌ではないんだな。 「でも2人はお似合いよ」 「ありがとう。私には荒ちゃんしかいないから」 そっと俺と腕を組んで「ねっ」っと言って五月は俺を見た。 もういい。なんだっていいや。この五月が俺のもんになるんならちょっとくらい理由が気にかかったってなんの問題もない! 「いやん、もう」 「なんてことを」 根津さんと俊太は同時に脱力している。スキップでもしそうな五月はひらひらと手を振っていってしまった。 「おい、なんか問題があるのか。五月さん、でら嬉しそうだったじゃんか」 「いっいや。なんも問題ありません」 「もう、お前といると当てられっぱなしでどうかなるぜ」 それでも五月の言葉は小さなトゲとなり俺の心に突き刺さっていた。 その週末、俺たちは結婚式場を見て回った。やっぱりこの五月が輝く瞬間なのだ。いいところで挙げたかった。 金は俺が1年間必死で貯めた分と、残りはうちの親が出してくれることになっていた。五月も貯金があるからなんて言ってたんだけど、うちの親は頑として譲らなかった。 俺はうちの両親に拍手を送りたかった。親も五月がもらえるのならなんでもするぞ、そんな意気込みだったのだ。 やっぱり八事迎賓館、これに決まりだな。俺は大人の男になるためにも、迷わず即断した。そう、五月の意見を聞かなかったのだ。 そして11月に日取りが決まると次の週にはドレスを見に行く予約も入れた。 「ええーっ、絶対日曜なんかよ。こっちだって都合があるんだぜ」 『◇▽※○□%☆★!』 「わあったよ。俺の部屋だけ貸してやる。好きにしろ。こっちは一生が懸かってるんだからな。そう簡単には曲げれんのだわ」 俺はビッと携帯を切った。 「なに?」 「ったくもう、何もこんな大事なときに」 「誰からの電話だったんだよ」 いつものお昼に掛かってきた電話は後輩からだった。 「放送部だよ。まったく8トラ貸して欲しいんだと」 「ええっ、もう卒業してんのに?」 「だらぁ? でも一応可愛い後輩に頼まれちゃあな。おれしか持っとらんでかんわ」 別に音楽をやってたわけじゃないけれど、放送部でのダビング作業が楽しくて、夏中バイトして買ったのだ。だからうちには結構な音響装置が揃っていた。そして6月の第三土曜日に放送コンクールがあり、それに間に合わせようと日曜日も編集と音撮りをやりたいといっているのだ。 「だけどお前五月さんと式場に行くんだろう?」 「おう、だからドレスだけ選んだら速攻で帰るわ」 「いいのか? そんなことして?」 「何が?」 「五月さん、怒んねぇか?」 「ああ、五月はそんなつまんないことで怒るような器の小さい人間じゃねぇよ」 実際、五月が俺に怒った事なんて1度もない。もちろん、惚れきってる俺はいつも五月のことだけ考えて生きていた。だから怒られるようなことは何もしてないと思っている。 はあ〜〜っ。 さっきからため息しかついてない気がする。 「荒ちゃん、どう?」 俺の目にはまたジワ〜っと水分が浮かんでくる。こんなに綺麗な五月が俺の物になってくれるなんて。なんて幸せ者だろう。 また決意を新たにする。絶対に大人の男になってやる。五月がやっぱり結婚して良かったって思うように。 「荒ちゃんってば」 返答のない俺に五月がもう1度呼びかける。 「はいぃぃっ。もうどれでもいいです。‥五月ってばどえらい綺麗」 「どれでも‥?」 五月は少し困った顔をする。 はっ。そうだ。さっき決意したばかりじゃないか。大人の男はきっとここで、 「五月。お前にはこれが1番似合う」 とか何とか渋い声で言うんだよ。そんで選ぶのはやっぱ超有名ブランドで、1番高い奴! 俺は五月が着た中で1番レンタル料が高いのを取った。 「五月、これが1番良い」 実際にどれでもよく似合っていた。しかし五月の背の高さが映える形のドレスが、俺は本当は1番似合ってると思ってたのだ。 だが俺が取ったドレスは胸元が大きくあき、ビーズが豪華絢爛に埋め込まれているお姫様ドレスだった。 「私あんまり胸が無いからなぁ」 「そんなのかんけーないじゃん」 俺のその言葉と共に係りの人がいくらでも詰めれます、とか言う。 「このマーメイドのよりも?」 あっ、それ‥俺が思ってたドレスだった。これを着た五月はめちゃくちゃにセクシーで大人っぽかった。五月じゃないと着こなせれないデザインだった。けれど何も付いてないのだ。本当に質素なのだ。 まだ俺はなんも分かっちゃいなかった。 「そりゃそれもいいけどやっぱこっちの方がいいて。な、おばさんたちもそう思うだろ?」 「そうだね、五月。一生に1度のことだからぐっと豪華にしたらええじゃにゃあ?」 「そう? みんながそう言うならこれにしようかしら。それとももっかい着てみようかな」 五月にしては珍しく他に未練が残るような言い方だった。ここで悩ましちゃ男じゃない。 「いいって。これが1番。だでこれにしやー」 今までにないような押しで攻める。 「うん、わかった」 五月は素直に決めた。そして色ドレスの方は淡い水色のミニスカートのドレスに決めた。俺としては五月の綺麗なおみ足を参列者みんなに拝ませてやることはないと思ったのだが、これは五月が譲らなかったのだ。 「少しは可愛く見える格好もしなくちゃね。荒ちゃんと釣り合うように」 ああ、五月にこんなことを言わすなんて。やっぱり俺が子供なのがいけないんだ。このとき俺に五月側の気持ちなんて考える余裕はなく、ただ自分がガキなのを悔やんでもどうしようもないのに悔やんでいた。 着物は五月の「来てくれる人をほったらかしにするのはイヤ」という一言で着ないことになった。俺は式は教会で挙げるし、どっちでも良かったんだがおばさん達は着物が着て欲しかったようだ。 しかしお色直しをしなければ披露宴にずっと居れる。教会に白いドレスで出て、披露宴には初めから色ドレスで出るというのだ。 まだ連れの結婚式にすら出たことのない俺には良く分かんなかったが、ヒロインはずっと居る方がいいに決まってる。着物は振り袖姿は何回か見てるし、俺に未練はない。 おばさんたちには悪いが、五月の案に賛成だ。 「結構早く決まったし、どっかでお昼でも食べてこうか」 そう言って五月に誘われたが後輩が来るのでそうもいってられない。おじさん、おばさんにも丁寧に断って、俺だけ先に帰ってきたのだった。 |
