プロポーズ大作戦

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「しっかし五月さんなのに誕生日が6月ってどういうことなん? 前から不思議だったんだわ」
 居酒屋でジョッキを1杯空けたあと、串カツを食いながらの会話である。
「ああ、そのこと? 五月が生まれてくる予定日が5月だったんだと。超音波かなんかで女の子だってのも分かってて。だからお腹にいる頃から五月って決めて呼んでたんだって」
「ふーん、五月さんの両親がね」
「うん、それだけじゃなくてジジババももうそう呼んでたらしいよ。そしたら大幅に予定日より遅れて、生まれたのは6月になっちゃったんだってさ。でもすでに半年もの間その名前で呼んでたから今更ほかの名前に出来なくて、そのまま付けたんだって」
「ふーん。だで6月5日生まれなのに五月さんなんだ」
「いいじゃん。それくらい。五月にはでら似合ってるし」
「うん、まあな。俺的には桜とかでも良かったと思うけどな」

 そう、それは俺も思った。五月は細かい花がたくさん集まっているような上品な花が似合う。でもすぐに散ってしまう桜は少し寂しいかもしれない。
「で? あと1週間しかねえがどうするんだよ」
 そこで俺は昨日寝ずに考えた計画表を見せた。
 しばらく眺めていた俊太はぷぷっと吹き出す。

「わははは、何だこれ? おめぇな、まるで高校生の初デートプランじゃん」
「わっ、笑うかぁ? 人が必死で考えてきたものを」
 俺はムッとすると同時にやっぱこんなんじゃダメかなという思いが押し寄せる。
「ははっ、わりい。あんま乙女ちっくだもんで。雰囲気のある喫茶店に入ってそれから公園でブランコに乗って、そんで漕ぎながらバラの花を渡す? どうするんだよ。それまで花を持ってるのか? だいたい五月さんがブランコになんか乗るか? それに雨だったらどうすんだよ」
 うっ、現実的な俊太の指摘は俺をめげさすのに十分だった。

「それになんだぁ。左から言わにゃならんのか? なになに。左耳から入った声は右脳に伝わり、右脳は感情を支配してるから恋心に直接響く。ふーん、そうなんだ。これは俺も使わせて貰おうっと」
「ああ、昨日ネットにプロポーズで検索してたら載ってたんだ」
「他にはなんか出たか?」
「うん。俺は読んでて泣けたよ」
 俺は昨日見たいろいろな台詞を話した。
「でもやっぱり20年、30年、老後も一緒に過ごそう、とかあなたより1日でも長く生きることを誓う、とかが良かったなぁ。だってそれなら女の方が平均寿命が長いから、いくら年上のしっかりした男がきたって俺の方が有利じゃん。そう思わん?」
 めげてた俺はちょっと復活する。
「そうだな〜。普通5歳ぐらい年上と結婚するって思えばお前は10歳も若いって訳だ」
「そうだらぁ。そう思うだろ」
「じゃあなんも悩む必要なんか無いやん。素直にそれを言えばええんでないの?」
 気分が向上してきてたのにまた停滞する。
「だで五月もそう思ってくれとるかどうかが分からんもん」
「ったくもう。あれだけ五月さんに大事にされとって何をそんなにウダウダ言っとるんだ、お前は。だいたいそれを確かめるためにプロポーズするんだろう? 違うんか?」
「うっうん‥その通りなんだけど」
「なんだよ。入社のあの挨拶ぶちかました奴と同じとは思えんな。いつも通り行けばええだろう」
 俊太はそう言って俺の背中をばんばん叩く。
「そだな。そうだよな。いつもの俺らしく」
「そうそう。頑張れよ。骨は拾ってやるで」
「〜〜っ!。このヤロ〜」


 6月5日。ついにこの日が来てしまった。
 俺は給料3ヶ月分の指輪と赤いバラの花束を持って五月の家に行く。
 今日だけは定時で帰ってと、そうお願いしておいたのだ。もちろん俺は有休を取った。いろいろ用意しなきゃならないし、何より心の準備が必要だ。
 五月が帰宅したのは2階の窓から確認済み。
 俺はこの日のために新調したスーツで身を包んだ。
 いつものように勝手に玄関を開け、奥に声だけかけてから2階へ上がる。

「あれっ、どうしたん? そんな格好して。ああ、五月の誕生日だからだね」
 おばさんは後ろ姿を見て1人で結論を出すと止めもせず行ってしまった。
 うっ、心臓が止まるかと思った。止まってしまった足をまた進める。いつもあっと言う間の階段がやけに長い。登り切ると息が切れる。ゼイゼイしていると突然ドアが開いた。

「荒ちゃん?」
「うわっ、とと」

 あんまりびっくりしたので階段を落ちるところだった。ふうっ、何やってんだ俺。頑張れ。落ち着いて。
「やだ、どうしたの? あんまり上がってくるのが遅いから見に来ただけなのに」
 五月は相変わらずで優しく微笑む。
「誕生日おめでとう。これ」
 ああ、いろいろ考えてたのに。結局出てきたのはありきたりの、ごく当たり前の台詞。それでも五月は凄く嬉しそうだ。
「ありがと。とっても綺麗。すぐに活けるね」
「あっあの‥」

 俺の次の言葉は言う間もなく、五月は花瓶を取りに下りていってしまった。
「お母さん。これ荒ちゃんがくれたの。花瓶ちょうだい」
 なんておばさんと話してる。くっくそー。もう1回やり直しだ。

 指輪の入った青い箱をポケットから出す。五分刈りの頭みたいな感触のその箱を撫で回していると、綺麗に活けられたバラを持って五月が上がってきた。
「見て。すっごいきれいよ。こんなに豪勢だと高かったんじゃない?」
 もう、いつまでも子供扱いしないでよ。俺だって働いてるんだぜ。そりゃ大卒と高卒の違いがあるから五月より給料は安いけれど。
「五月、ちょっと座って」
「えっ、なあに。改まって」
 少し不思議そうな顔を見せる。それでも安心しきったような顔。これから俺が言うことなんて想像もしてないだろう。
 ふと思い出してなるべく左耳に声が届くよう位置をずらす。

「あっ、あのな。俺は五月と40年、50年と一緒に過ごしたいと思ってる。五月だけ残して10年も20年も1人で居させないから。だから‥結婚してくださいっ!」

 そっとフタの空いた箱を差し出した。

「わーすごーい。荒ちゃん、これ本物?」
 すごい真面目に言ったつもりなのに、いつも通りの反応で無邪気にそんなことを言う。
「ほっ、本物に決まってるだろう。誰が結婚の申し込みに来るのにニセモノ持ってくるんだよっ」
 五月は指輪を手に取ると俺の言ってることなんか気にしてない風でこう言った。

「ねっ、だったら荒ちゃんが嵌めて。そういうものでしょう」

 そして左手を出す。
「えっ? さっ五月‥わかってる? 誕生日プレゼントじゃないんだよ。プロポーズしてるんだよ」
 五月はきょとんとしている。
「ええ、だから左手の薬指でいいんでしょう? 違ったかしら」
「いっいいんだけど‥‥けどっ」

 あとは言葉に出来なかった。俺は差し出された手を取り薬指に指輪を嵌めた。

 似合うかどうかあれだけ想像していたのに見えない‥。なぜ見えないんだろう。
 ボタボタっと何かが落ちた。
 溜まっていた涙が落ちるとやっと少し見えた。ああ、俺ってば泣いていたんだ。ぴったりと嵌まった指を握りしめ額に付けて拝むようにしてさらに泣いた。

「さっ五月。五月‥愛してる。五月だけが好きだった。ずっと五月に恋してる」

 絞り出すように告白した泣いて震える俺を空いてる右腕で抱きしめて頭を撫でてくれる。
「荒ちゃん。私も荒ちゃんのことがすごく好きよ」
 俺は頭を上げて五月を見つめた。
「本当に俺と結婚してくれるの?」
「なあに? やっぱり私は信用がないの?」
 泣いてるのは俺で、五月は変わらず微笑を湛える。
「だって、あんまりにもあっさりと。真剣に考えてるのかなって」
「だって、荒ちゃん以外の人なんて考えたことがないんですもの。なんか悩んだりした方が良かったかしら」
 そうしてニッコリとする。そうか、五月は俺を信用してくれてたんだ。いつも信用がないのって聞いてたのは、逆に私は信用してるよって事だったんだ。
「じゃあ、すぐにしてくれる?」
「いいよ。いつでも。荒ちゃんのしたいときで。そうだ。それならすぐに報告に行こうよ。そんでお祝いに美味しいものでも食べに行こう」
 ああ、いつでも五月は五月らしい。


 そしてこのあと両方の親に報告して回り、五月の言うとおり美味しいものを食べに行ったのだった。
 びっくりする親たちを尻目に秋にはしようと約束をした。

 俺は吠える。五月愛してるーっ! と。

 これからもずっと一緒に居れる喜びでいっぱいだった‥。

終わり



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