ボクの恐竜(しんぞう)

 












 
   胸が重い。
 ボクはそっと目を開けてみる。
 
 ボクの胸の上で恐竜が足踏みしている。
  ドスン  ドスン
   ドスン  ドスン
 
 今日はステゴザウルスの登場だ。窓から入る暖かな日射しを背中のソーラーパネルにため込んでいる。
 ボクの胸の上で、ゆっくり足踏みをしながら、力を充電しているのだ。
 ねえ、日光浴中に悪いんだけど、ちょっとどいてくれないかな。
 
 重たいんだ。
 苦しいんだ。
 
 ボクがそう話しかけると悲しそうな顔をする。
 そんな悲しそうな顔しないでよ。ボクだって君たちに会いたいんだ。でもできれば、ボクの上に乗るのはやめて欲しいな。動けないと一緒に遊べないよ。
 
 ふしぎなんだ。こんなにボクにはハッキリ見えるのに、他の人には見えないんだ。
 ほら、今も胸に乗って足踏みしてるのに。
 イヤだ。注射なんかしないで。ステゴザウルスがどいてくれれば苦しくないんだから。
 
 しばらくすると悲しい顔のままステゴザウルスは帰っていった。
 はあ、やっと動けるよ。
 
 ボクは恐竜日記を取り出した。出てきたステゴザウルスの絵をかくために。
 今日の絵をかき終えるとページをめくった。
 一ヶ月前、一週間前、三日前。どんどん出てくる回数が増えてきた。
 そこにはいろんな恐竜たちが足踏みしてる。
 
 ―4本足の―
 角の立派な、トリケラトプスにトロサウルス。
 首の長い、ブラキオサウルスにマメンチサウルス。
 ―2本足の―
 優しい口をした、イグアノドンにパラサウロロフス。
 怖い歯が生えてる、アロサウルスにデイノニクス。
 
 大きけりゃ重たいし、暴れれば苦しい。恐竜によっていろいろだ。
 だけどみんな顔は同じなんだ。じっとこっちを見つめてる悲しそうな顔。たまには嬉しそうな顔も見せてよ。
 
 ふしぎと言えばもう一つ。恐竜の王様、ティラノサウルスだけはまだ登場してないんだ。
 苦しいけど楽しみにしてるのに。
 
 この日から恐竜たちは毎日毎日くり返し出てくるようになった。そんなにたくさん出てくると、とっても苦しいよ。
 
 そしてとうとう王様が登場した。
 ティラノサウルス・レックスだ。
 王様に捧げるいけにえは、冷たい四角い台に寝かされている。
 怖い。鋭い牙に大きな口。今にも飲み込まれてしまいそうだ。
 
 もしかしたら、ボクを食べにきたの?
 
 今までの、どの恐竜よりも激しく足踏みをする。
 ドッスン  ドッスン
  ドッスン  ドッスン
 
 やめて、それ以上あばれないで。
 
 苦しいよ。
 痛いよ。
 
 ボクの一生懸命のお願いは聞いてもらえず、顔がだんだん近づいてきた。
 牙が胸に刺さる。
 
 うわっ、もうだめ。
 
 そう思った瞬間、ティラノサウルスは笑った。たくさんの恐竜の中で初めて笑った。
 
 食べるんじゃないの?
 
 ティラノサウルスはニヤッとすると、どこかへ行ってしまった。
 
 
 それから恐竜は二度と出てこない。苦しい思いはしなくなったけどちょっと寂しい。やっと走り回って遊べるようになったのに。
 
 だからボクは恐竜と遊べる日をずっと夢みてる。日記の最後のページにかかれた笑顔の王様を見ながら‥‥
 
 
 
 
終わり