次世代冷蔵庫

藤野竜樹

 最近の冷蔵庫はとても優秀らしい。何しろ全国共通模試で一位をとってしまうほどだ。「本当!? なぞなぞ博士。」「嘘〜。」...だが、性能がいいのは確かだ。何しろかつてのフロン冷媒型に比して同性能で遥かに低燃費を実現しているし、これまでは美味しくなくなるといわれていたキャベツなどの生鮮食料品野菜でも、細胞組織を破壊することなく冷凍保存できるようになったため、収穫時から店頭に並ぶまでに日が経ってしまう現状よりも新鮮味が保てるようにすらなっているのだ。このように、オープンな部分ですら我々の気付かないうちに冷蔵庫はどんどん進んでいるというのが現状で、まったく中の人も大変だ(?)。
 消費者に便利を提供する。冷蔵庫の先見性はこれほどに極まっているようだが、この方向性に対し、筆者は一抹の反感を覚える。それはあたかもあらゆる事に長けた執事を側に置いている時に似ている。というのも、気がついたときにタバコの火をそっと出される程度ならともかく、ドアを開けた瞬間にトイレットペーパーを持って待機していたり、玄関先の水溜りでこけた時のためにタオルを用意していたりしたら(一言危ないっていえよ!)どうだろう。あまりに有能なその執事に、見透かされ、馬鹿にされているような気がしないだろうか。すなわち冷蔵庫に見る、消費者の要求レベルをはるかに凌駕しているこうこうした一方的な進歩はどこかで、時代を先んじるというより、我田引水、自分の優位なほうに体よく引率されているような気がするのだ。
 これは本来、憂慮すべき事態なのではなかろうか。何故なら、欲求とはすべからく、常に今あるものよりも良いものを欲することであり、それを目指すことが資本主義の正しく進歩のあり方だからだ。今のように受動型の消費を続けていてはだから、いずれ冷蔵庫市場は冷え切ってしまうのではなかろうか。(いや確かに冷すのが本来の機能なのだが。)
 それじゃあ駄目だ。我々は冷蔵庫よりも常に前に進みイニシアチブを取ることで冷蔵庫になめられない(舐めてもいけない。特に製氷室を舐めると悲惨なことになる。)用途を見出さねばならない。
 それこそ冷蔵庫の先を決める“熱い”思いを、我々にもたらすのだ。あれ?
 

 というような前置きをしないと、性能が上がった近年の冷蔵庫でやってほしいこと、また、将来的に冷蔵庫に期待することを列挙するのに気が退けるのだったりする。

1.朱鷺(トキ)の保存
 食料品としての価値がトキにどれだけあるか、とかそういうレベルではない。絶滅危惧種として筆頭視されており、現に日本にはいなくなってしまったトキのような動物を、どうしたら後世に残すことができるのか? 未来への遺産という、こうした切実な願いはどうすれば実現できるのか。これには、生きたトキ(死んだ者を生き返らせる技術はそうそう出来ないだろう)をフリーズドライ化し、繁殖可能なほど将来的に自然が回復(本当にするかどうかはともかく)したときに解凍して野に放してあげるのだ。上述した様に現在の冷蔵庫は細胞組織を破壊せずに凍らせることができるため、これに一役買ってくれることは間違いない。どうやって生き返らせるか? 簡単だ。“解凍”ボタンを押すだけだ。
 佐渡にあるトキ保護センターでは「なぜ20年前にこれが出来なかったのだ。」と悔やむ向きもあると聞くから、中国にトキがまだ野生生息するうちにこれを利用することが急務だろう。もし実現すれば、夏への扉を開く最初の生物となる栄誉を、トキは与えられるのだ。
(冷凍冬眠の話に信憑性があるかは、単純構造の昆虫などでは氷の中から復活するなど当たり前のように行っていることを指摘しておこう。身体保全機能の全細胞が解凍時に修復可能ならば、理論的成功は疑う余地がない。では何故ホントにやらないのかというと、大きく二つ理由がある。一つは、冷凍や解凍するとき、身体を構成している物質は僅かながらに融点が不均一なためだ。例えば一般細胞が凍る前に血液が先に凍ってしまうと、細胞は酸素が来ないから壊死してしまう。かと言って逆だと、行き場を失った血液が破裂を起こすから厄介なのだ。そして、もう一つは水が凍りになるときに体積が増える問題。単純に急速冷凍すると細い血管が破裂してしまうのだ。だから冷凍冬眠実験では血液の代わりに不凍性の冷媒を入れたりしているが、一つ目の困難は明らかに技術的に未達であり、常温で生活することを前提に作られている我々の身体が、如何に微妙精密なものであるかが思い知らされる。)

2.炎の冷凍
 グリムだったか、昔の北欧系を起源とする物語では、魔女に呪われた王国は、一瞬で何もかもが氷付けにされてしまい、ろうそくの炎までも凍った、なんて記述がある。技術的是非はともかく、炎の保存ができることの利点は大きい。炎だから軽い(浮くから)し、光を出すし、第一暖かい(?)し。揺らめく炎をそのまま固めるという欲求は、火炎式土器を作成した縄文時代に遡れるため、研究の歴史も長い。
 瞬間急速冷凍を是とする近年の冷蔵庫ならば、どう考えても不可能と思えるこの技術も可能になるに違いない。カイロとして使うもよし、コンタクト型にして目に入れてみるもよし、てなもんで。
 もっとも現在までのところ一部研究者が躍起になっているようだが、冷凍室にロウソクを灯して行う実験では、冷蔵庫を燃やしてしまうか消えてしまうかのどちらかで、消防署から目をつけられている程度だというのが残念なところ。

3.キトラ古墳
 見つかった瞬間から外気に晒されることになる古墳の壁画は、空気中の湿度やカビ、光による化学変化といった諸現象により、劣化の一途を辿ることになる。同様に昭和時代に発見された高松塚古墳壁画の状況を踏まえれば、キトラ古墳の素晴らしい壁画も遠からず生黴、剥落の運命にあることは疑いない。現時点で壁画のみを取り去って保管する計画を進めているので、この古墳も近いうちにただの岩穴になりそうだ。
 これは仕方の無いことと諦めるのは簡単だが、筆者はここに、冷蔵庫の持つ驚異の能力を適用できないかと考えてしまうのである。
 古墳全部を覆う冷蔵庫の威容、そのくらい巨大な冷蔵庫の開発は、今の企業の力ならたやすいものだろう。難を言うなら、近くに家庭用コンセントが見当たらないくらいだ。古代のインフラが遅れていたことが悔やまれるところだろう。

4.ネタ
 どちらかというとこれは筆者が切実に欲しかったりする。というのも、この机上理論は夏と冬しか本を出さないので、中間時期にその時にとても面白いネタを思いついても、本が出る頃にはまったくもって色あせてしまうからだ。そうした時事ネタを以前扱ってみたが、二月前の出来事が落胆するほどわからなくなっていた。
 製氷室に入れて「急速冷凍!」。これでネタが古くならないのなら、少々高くても筆者なら買う。

5.昭和の雰囲気
 学会発祥の地である岐阜県美濃加茂市には、昭和村というテーマパークがある。ここは昭和30年代をイメージした街並みを再現し、いわゆる懐かしい気分を味わってもらおうというものだ。
 この様な施設をあえて作らなくとも、冷凍庫を開ければ昭和が香ってくる。そんな冷蔵庫を作れないだろうか。
 もっとも、筆者の家の冷蔵庫は何をしなくても昭和の雰囲気をかもし出しているのだが。
 

 う〜む。これまで挙げたような機能は、現行の技術的ラインをもった冷蔵庫ではとても達成できそうもない。そこで最後に、まったく新しい冷蔵庫の可能性を秘めた研究をご紹介しよう。
 もともと冷蔵庫なんか要らない気もする青森に在中している凍山冷子さんという研究者がいる。彼女は「月夜の晩の丑三つ時にヤモリと薔薇とロウソクを...。」と、ほとんど魔法のような話をし出すと止まらない人なのだが、この人が、冷蔵庫を開発しようとしているのだ。これがまた他人には訳がわからない。
 冷媒にフロンを用いなくなったのは最近の冷蔵庫の傾向(フッ素系物質を用いない代替フロンと総称される)だが、彼女が用いる代替フロンは“浮ロン”なる物質を用いるそうだ。なんでも空中に浮かんでいるナニモノかを取り込んで利用するらしい、仕組みとしては、冷そうとするモノの背中に回ってツツーっと触れるというもの。判ったようなわからない様な話だがこの冷却力は凄まじく、トムさんを入れると2秒で氷漬けになってしまうほどだ。その気になれば自宅をスケート場にできると豪語するほど高性能らしいが、副作用として突然夜中に白っぽいものが上のほうに浮かぶ、とのこと。ゾゾー。
 いったい一般人が使えるのかすら疑わしいが、冷媒に浮ロンなどという特異物質を使おうと思い立つのは、やはり彼女の職業柄というほか無いだろう。
 なんといっても、彼女は霊媒師なのだから。

                            おわり


 
 


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