ドラえもんに見る資本主義

藤野竜樹



[0]はじめに

 こんなことEなできたらEな(著作権に触れるため、一部改変してあります。)

 おなじみのフレーズで始まるドラえもんは、今や日本中の誰もが認める我々の憧れだ。彼が小学館の学習雑誌に登場して早や30余年。僕等の成長の傍らには、いつも彼の漫画があったといっても過言ではない。そしてTVアニメ。僕らは大山ドラえもんと、小原のび太の声が脳髄の深い部分まで刷り込まれている。(筆者などは声優陣が卒業されると聞いただけで動転してしまい、思わず本を一冊作ってしまったくらいだ。)

 ドラえもんに憧れる理由は、なんと言っても彼が魅力的な道具をたくさんもっていることが大きいだろう。モノのあることに慣れてしまった国で育ってしまった我々は、周りに広げられたどんな商品にすら興味を失っており(オタクは別)、それが遊戯的な犯罪の根にすらなるほど、購買意欲そのものが脳から消えてしまっている。それなのに彼が出すひみつ道具だけはいつも、一度は手にしてみたいという気を起こさせてくれるものなのだ。

 それは、トムとジェリーに出てくる料理や、ギャートルズでゴンが齧り付くマンモスの肉のように、画面の演出によって欲しくなる。(ドラマの演者達が美味しそうに食べるさまに魅せられて食べたくなる。)そういったものに、あるいは近いかもしれない。だが筆者は、勿論そういうことも含めて、ドラえもんのひみつ道具には、視聴者をして更に欲しくさせる戦略のようなものが潜んでいるような気がしてならない。そしてそういう視線をもって眺めると、ドラえもん及び彼の出す道具からは、それを製作した未来社会が発する意図のようなものが読み取れることに気付く。

 じゃあそれは具体的にはなんなのか。そして、いったい何のためにそんなことをするのか。本稿ではドラえもんと道具から22世紀を垣間見ることで、それを探っていきたいと思う。
 
 

 さて、一般に探索は闇雲に歩き回るよりも、ある“あたり”をつけて行った方が効率が良い。だからここでもまず仮説を立てて、それがどれほど未来社会を言い当てているかを検証するという手順を取ってみよう。すなわち仮説

   ドラえもんの生まれた未来社会(22世紀)は、高度に発達した自由市場社会である

を提唱し、これを実例を挙げることで検証するのだ。
 
 
 
 

[1]自由市場社会の特徴(その1)

   資本主義では市場の自由放任を是とするため、商品に対して

   自由競争が基本とされる
 
 

 ある商品は競争原理が働いてこそ磨かれ、良いものになるという意味だ。が、俗に言えば、ある商品がヒットした場合、それと価格及び機能に僅かな差があるだけの類似品が数多流通するということだ。オフロードカーが流行ればあれよあれよ、家族用ワゴンが流行ればあれよあれよ。車だけではない。この文を打ってるPCだって、筆者のネタであるアニメや映画なんてもう腐るほど実例は挙げられよう。

 そしてそういう視点からドラえもんを見よう。すると、次のことに気付く。

   ドラえもんのひみつ道具には、使用途が類似する道具が多い

 これはすぐに実例を挙げられる。
 
 

   表1 ドラえもんにおける類似道具の実例
 
空を飛ぶ道具
タケコプター
ヒーローマント
小さくなる道具
スモールライト
ガリバートンネル
擬似世界シムレータ
もしもボックス
USO800

 他にも例はあるが、こういうのは読者のほうが得意だろうから、あとは任せる。まぁともかくこんな風に、“あのひみつ道具を使えば、今回ののび太の悩みは解決できるんじゃないか”と思うのは一回や二回じゃないはずだ。にも拘わらず、こうした類似商品が出ているというのはどういうことだろう。

 しかし現在と違って興味深いのは、現在が前記したように亜流としか思えない商品が跋扈するのに対し、表1に挙げた類似道具の、しかし機能が違うという点である。例えば空を飛ぶ道具として呈示した“タケコプター”と“ヒーローマント”は、前者が曲がりなりにもプロペラの飛行原理を用いている(?)のに対し、後者が半重力だかなんだか、とにかく現行の物理では測れない機構を用いている。他の二例についてもこうした機構の違いは同様に見られるから、これは一種、後発メーカーが先発商品に対する特許抵触を免れるために行っているのではないかと類推できるのだ。

 類似の商品を出しているけど独自性は保つ。そうした企業姿勢が読み取れることから、我々は22世紀の社会が道徳的に成熟した市場を有することを知り得るのである。
 
 
 
 

[2]自由市場社会の特徴(その2)

   粗悪製品は淘汰され、安くて使い易いものだけが生き残る。
 

 パチもんが多く出るのは世の常だ。だが我々がいろいろ使ってみた結果生き残っていく商品というのは、痒いところにまで気の効いた商品であることが多い。(勿論そこには独占禁止法が正しく運用されていることが前提ではある。)勿論高機能化することも商品を特徴付ける手ではあるが、やはり一方の方向性として、面倒くさがりの消費者には、できるだけ簡単な商品を提供するといった考え方はある。(この方向性で筆者がいつも感心するのはファミコンのインターフェースで、小難しい機械やCADに苛つく度に、「ファミコンの三国志を見習え!」とか言ってしまう。)まぁ、そういう思想ばかりが先走りしたのが5年ほど前にはやったITで、担当者は訳もわからず上から降ってくる呪文のようなこの言葉に、まさに呪いを掛けられたような苦悩を味わされたようだ。

 まぁそんなことはいいんだが、そうした目でドラえもんを見よう。すると明らかに思うのは、

   ドラえもんの道具はとんでもなく使い易い

ことだ。これはほとんど究極といっても過言ではない。というのも、ひみつ道具のほとんどは、使い易い商品が必ず持っている特徴である以下の三点をほとんど常に満たしているからだ。

(i)作動させるためのスイッチが極小数

   :どのくらい少ないってあなた、のび太が使えるくらい少ないんだよ。

 (ii)中味をブラックボックスとしている

   :道具ってのは使えれば良い。機能が出せれば原理なんて知らなくていい、

    という自信が見えるくらいの完成度

 (iii)基本的にハードウェアである

   :一道具一機能という意味。“ほうき”は、“掃く”って機能に特化しているから

    使い易いのだ。

 国土の狭く従って住環境が劣悪な日本では、現実問題として収納を考えなくちゃならないから、(iii)は今のところ徹底しているとは言いがたいが、もしできるならそれに越したことはないことは理解いただけると思う。未来にこれを実現したのはやはり四次元ポケットの存在が大きいだろう。
 
 
 
 

[3]自由市場社会の特徴(その3)

   消費者保護が徹底している
 
 

 これは市場が健全であることを示す指標になる。具体的には、

 (i)欠陥商品情報の迅速な開示及び回収

  :これを怠った三菱自がどれほど酷いしっぺ返しにあったかは言わずもがな

 (ii)商品情報、提供に差別化が無い

  :地域で値段に格差がないとか、人を選ばないとか、そういうこと。

   (これはあんまり突き詰めると、「お嬢ちゃんならまけとくよ。」ってのも駄目ってこと

    になり、結構窮屈なんだけどね。)

 (iii)クーリング・オフの適用

  :無理やり買わせる商品をつき返せないと大変なことになるもんね。
 
 

 で、これをドラえもんについて見てみると、

(i)について

:ドラえもんは恐ろしい道具を出す場合、それの持つ危険性や恐ろしさなどをきちんと説明している。

(ii)について

:これは[1]の類似商品というとこにも繋がるのだが、ドラえもんはとにかく特定の商品に固執しない。ほとんどが一回限りの使用で、社名すら公表しないのだ。これはドラえもんが道具を選択する基準に、ブランド嗜好というものが皆無であることを意味している。

(iii)について

:実を言うと筆者は、ドラえもんのひみつ道具は、ほとんどこれを適用しているのではないかと考えている。というのも、ドラえもんのひみつ道具は、その使用にお金を払うことを匂わせるシーンがほとんど出てこないのだ。のび太未来の子孫であるセワシが金持ちであるという事実は無いから、影で払っているというのは考え難いのだ。むしろドラえもんが影でメーカーに返却交渉をしているという方が現実感がある。(夢はなくなるが。)
 
 
 
 

[4]自由市場社会の特徴(その4)

   第三次産業(サービス部門→情報部門)が過剰発達する
 
 

 ある商品を売ろうとする場合、国民全体が貧困状態にある規模の社会では、生活必需品だけでも十分利益を得られるから、そうして出回る商品はたいして特色の無いものになる。だが、現代日本のようにある程度裕福にな社会では、市民一人一人は既に生きるに足る物資は持っているから、そうしたところに更に自社の製造物を割り込ませようとする場合、いかに購買意欲を沸かせるかがカギとなる。商品はモノとしてだけではなく、イメージを付加することが必要なのだ。もともと生活が多様化する中で第三次産業は発達するが、サービス産業からそうした理由で情報産業が発達することになる。何故なら、1.商品を売るには消費者ニーズを的確に捉え、また、2.そういう商品を製造していることを知らせる必要があるからだ。具体的に1.はアンケートや帳簿ビジネスが挙げられるし、2.にはコマーシャルとかダイレクトメール、セールスマンの存在などが挙げられる。
 
 

 で、ここにいよいよドラえもん自身が、仮説としていた未来社会の自由市場社会の特徴を表す証拠となることを呈示することになる。

 何故なら上記した、1.消費者の情報収集、及び2.消費者への商品情報の提示は、すなわち(1.=)のび太の願いを聞く、(2.=)のび太にひみつ道具の解説をする、という行為にあたる。すなわちドラえもんが普段行っていることがそのままあてはまるからだ。

 ここにドラえもんという、自由市場社会である未来社会の家庭一般に普及していると思われるロボットの存在理由が明らかになる。彼は一般家庭に入り込みその家人のニーズを的確に汲み取り、しかもそれに最適な商品を提供する、メーカーにとっては究極の宣伝マシンだったのだ。
 
 

 ドラえもんは未来の“みのもんた”である。(奥さん!)
 
 
 
 

[5]まとめ・ドラえもんとのび太の位置関係
 
 

 ドラえもんの製造された未来が自由市場社会であるという仮説を検討することで、ドラえもんが未来社会で持つ社会的位置付けとその機能が明らかになった。我々はこうして、未来社会から派遣されてきたドラえもんが、パーソナル個人)を対象とした多分無料の)宣伝マシンであることを納得するのである。(ドラえもんが過去に派遣されたことは、例えば未来社会がのび太を、21世紀消費者をターゲットに商売の手を広げる前のモニタとして選んだと解釈できる。)

 こうした例は現在でも、例えばYahooBB.のルータ無料配布などがあるから、必ずしも特異というわけではない。そして奇しくもこの例が明らかにするように、ドラえもんの無料配布もまた、慈善事業ではないと考えるのが正しいだろう。

 ドラえもんは確かに“のび太の友達”だが、それは明らかに、

   $$のタグのついた友達

なのである。

 そして我々は思うのだ。そんなドラえもんが派遣されてきた未来社会は確かに自由市場社会であると。そして些かげんなりと、こうも思い至るのである。

   未来社会もやっぱり、紛うかたなき、資本主義社会であると。



                             おわり





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