[7章]美少女の免疫システム
 
 
 人のネットワークの内に存在する統合少女体は、その性質上、常に外からの影響に晒されている。統合少女体はレトロウィナスの事例ようにそれを利用してもいるが、そうした外乱を全てまともに被ることは、統合少女体の変質、引いては消滅にも繋がりかねない重大な問題である。では実際、彼女らはこれら外乱からどのように身を守っているのだろうか。それには免疫という機能が働いているのだが、それはネットワーク全体を利用した巧みな自己保存システムなのである。

[7-1] 免疫システムの作動
 

 免疫を司る厨坊シンパ球という。シンパ球は更に真っ黒ファージb厨坊〒厨坊に分けられる。シンパ球という名が示すごとく、このような名を冠して実際に活動するのはその統合少女体のファン達である。厨坊はちぃ胞の変質したものであるが、少女と言うよりファンの個性が強いため、同等には扱わない。ただし厨“坊”と付いているからと言って彼らがいい歳をした大人であるかもしれないというのは、60の僧侶でも坊主と言われるがごとくである。
 さて、統合少女体の存在するネットワークに何らかの噂、ここでは悪い噂(抗言という)、が流れたとしよう。その様な場合にまず動き出すのが真っ黒ファージである。この厨坊はネット内を常に探索する必要があるから、引きこもりなオタクがこの役を担っていることが多い。(コミケなんかの“それ系”イベント以外表舞台に姿を見せない暗黒存在であるため、“真っ黒”と表現される。)彼は少女に関する黒い噂を見つけることが役割のひとつだ。見つけると、まず詳細を読み下し、多くの場合はそのまま放置する。こうした噂の多くは高速でログが流れる掲示板でなされるから、ほとんどすぐに流れてしまうし、マイナーな個人blogなどにアップされていてもほとんど省みられることなどないからだ。
 感染性の強いのはログの保存が一月以上の結構長期間になる掲示板や、ビジュアルとして圧倒的な力を持つyoutubeやニコニコ動画などの動画配信サービスである。こうした場所で生ずる噂はほうっておくと瞬く間に広がるし、うっかり削除依頼などしようものなら却って面白がって火勢が拡大するのだ。こうした場合、真っ黒ファージはとにかく状況確認と噂の分析に入る。引きこもりである彼らが個人プレーを駆使して活動できるのはこの程度までだ。彼らも小理屈(だけ)はあるから噂の本質に関わる部分を抽出し、仲間のシンパ球にその本質部分を提示する。こうした情報伝達は彼と同じく少女体を好む仲間が集う掲示板にタレこむことでなされる。同じく掲示板に書くのでは逆に噂を広めているように感じるかもしれないが、こうした場所以外でコミュニケーションをとることのない彼らの文章は極端に符丁に満ちた体裁を取るため、普通の人が読んでも何が書いてあるのかさっぱりわからない暗号のようなものなのである。
 符丁を読み解き、提示された本質部分に反応するのが〒厨坊と呼ばれるファン連中だ。彼らは職を持つもしくは学生であるため、24時間の掲示板周りなどは不得手だ。しかし好みの掲示板回りは毎日行っているため、その場所での報告的な書き込みには敏感に反応するのである。〒厨坊はオタクであるとは言え実社会に生きている連中であるから、まだしも他人との連携というような行動力を有しており、ためにオピニオンリーダーや実行部隊やらになることが多い。ちなみに〒マークをつけているのは彼らの活動の中心が批判行為(ポスト)であることに拠る。
 役割の一つ目、オピニオンリーダーとして働くのがヘルパー〒厨坊と呼ばれる連中だ。彼らはインターロリ禁という18禁系のネタをほのめかすことによって仲間を呼び寄せ、掲示板のスレッドを立てる(テーマを決めた書き込みのグループを始めること)のだ。“荒らしはスルーで行きましょう”との注意も忘れない。(“荒らし”とはこの場合電子掲示板に悪口を言うような内容の書き込みをする行為を指す。悪口は無視しよう。というほどの意味だ。)
 このスレッドで喚起されるのがb厨坊だ。彼らは長文の記述に長けて*1おり、blogを持っているものが多いことからこの名前が付いている。彼らはその文才によって悪い噂を丸め込むような処理を行う。この、丸め込むために発せられる言説を好体と言い、こうした処理全般を抗言好体反応という。この処理によって噂は少女体への影響を無害化されてしまうのだ。
 アイマスのキャラでメインを張っているはずなのに、(初心者向けのため)無個性だった天海春香。ネットラジオにおける中の人(声優)が、地を出しすぎたために立った噂である“裏に一物”性格が、b厨坊の好体の反応によって“黒春香”化されたことはこの好例である。黒春香が白春香と別キャラのような処理をされたことで、基キャラへのダメージは無害化されたのである。
 類似の例は同じアイマスの如月千早がらみで成立した“メカ千早”もあげられよう。両者に共通するのは、ネガティブな噂を否定するのではなく、敢えて統合少女体の一部として取り込み、更には属性化したことである。これによって少女体はその命脈を危うくするどころか、却って活発化した(ニコニコ動画における黒春香人気は凄かった)ことを思えば、水面下で行われたb厨坊の免疫システムは非常に優れていたと言わねばなるまい。
*1 ネット全体で三行以上の文章を読まない&書かない人間が増えてきているから、彼らに比べてということだ。ちなみに本論みたいな、彼らに対する揶揄や批判的な記述はこれまでのシリーズでもちょくちょくしているのだが、そうした連中はそもそもこんなところまで読まないせいか、まっとうな反論のメールをもらったことがない。(面白いってメールは来るんだよ、ちなみに。 ...来るってば。負け惜しみじゃないんだからね!
 さて、〒厨坊にはもう一つ、上述したようなエレガントな免疫システムではないが、実行部隊としての働きも持っている。これは噂の元になっている掲示板などに大量のコピー文章を送り込むことで該当する噂を消去してしまう方法や、個人blogなどには中傷的なトラックバック(書き込み)を行って噂を削除させてしまうという、かなり強引な方法を取る者達で、キラー〒厨坊と揶揄されている。対抗する側にもこれと五十歩百歩の奴がいて、餌としての悪口を踏むとブラウザをバグにより消滅させてしまうという自殺ソフトを仕掛けるなんてこともする。引っかかって殺られると、“阿呆とー死す”といって悔しがるらしい。
 しかし、実行部隊で最も恐ろしいのは、“製作会社への通報”措置だろう。こうした悪口が人気の裏返しであることは製作者側も承知しているから、ある程度は黙認しているのだが、表立ってこのようなタレこみが来てしまうと、動かないことが却って不利益をもたらす。という訳で、訴訟も仄めかすようなおとなげない手段をとらねばならなくなるのだ。突然の掲示板の閉鎖などには結構こんな野暮な状況が影にあることが多い。

[7-2] 免疫システムのしくみ
 

 b厨坊が作る好体が上手く噂を丸め込んでくれることは前項で述べたが、考えてみるとどんな中傷があるかなどはそれこそ千差万別である。にも拘らず、“誰が上手いこと言えと言った”的な好体はどうやって作られるのだろう。悪口一つに付き一つの対応マニュアルをいちいち開いて好体を作っていては、デアゴスティーニの“週刊・世界のジョーク集”全3200巻を買い揃えたとしても足りないし、そもそもそんなの家に入らないだろう。
 b厨坊の作る好体(Hinnuno-krobrin)は図7-1のような格好をしている(Hk-E)。


図7-1 好体(Hk-E)

この図のうち、上半分の“orz”が多様な噂に対して反応する可変部、下半分でそれを支えている  “_O−=”が固定部である。可変部が噂に適合することにより、噂の中にある毒が無害化される。ここで重要なことは、この可変部が挫折アスキーアートであるorzの格好を取っていることだ。というのも、挫折アートにはさまざまな種類があり、OTZもあれば○NLなんてのもある。同アートを頭部分と胴、脚部分に分けて考えると、現在知られている“頭”の種類は公称で500種類、“胴”は100種類、“脚”は30種類ある(同じ文字でもフォントを変えて表現できるから、これほど多彩になる)。これらが組み合わさって一つの挫折アートを形作るとき、順列組み合わせから言って
   500× 100 × 30 = 1,500,000 種類
ものバリエーションが存在することになるのだ!!
 なんという数であろう。これだけの種類が存在するならば、どれかが噂に対して有効な対処を行えても不思議ではない。b厨坊は、一人で全ての噂に頭を悩ませる必要は無く、これだけ膨大な挫折のどれかを利用することで、勝手に対処してくれるというわけである。
 そう考えてくると、この挫折画像とは現実社会においてどういう存在なのかが薄々わかってくる。現実社会で負け組みであり、かつ考える時間だけはある存在。それはすなわちニートたちのことではないか。確かにそれならば、全国に150万種いるというのも頷けるというものだ。が、反面でその数に空恐ろしくもなる。日本は大丈夫なのか。
 


 

[7-3] 免疫の不全と将来
 

 免疫システムが正常に機能している場合、上記のような働きをもって噂は無害化されるが、これに失敗するとどのような結果になるかを示そう。
 “夜明け前より瑠璃色な”というアニメが、去年秋から暮れにかけて放送されていた。元は18禁ゲームらしく、キャラデザイン氏は例年のコミケでも壁に列する人気画家だから、とても可愛らしい少女が出てくるゲームで、内容も彼女と織り成す恋愛アドベンチャーである。で、その人気にあやかってアニメ化されたのが本作というわけだが、いわゆる三文字制作(中・韓への丸投げ作画のこと。EDテロップに三文字の名前が並ぶことから。)であったために作画の崩壊が著しかった。これが原因で統合少女体の体力がガタ落ちになって免疫力は低下していたのだが、そこにもってきていわゆるキャベツ回が放送されてしまったからたまらない。キャベツという噂(というか事実)は瞬く間に本作の特徴として増殖し、そもそも長いタイトルは“明け瑠璃”とか“けよりな(平仮名だけとった)”とかの愛称で呼ばれていたのだが、“キャベツ”という呼称が代名詞と化してしまうほどの知名度を誇るようになってしまったのだった。*1(一時期はウィキペディアの「キャベツ」の項目にまで載っていた。)
 これは免疫システムが機能しなかったというよりは、上記のような例では好体の持っている仕組みが対処しきれないことが病因となっていたのだというのが正しい見方である。というのも、そもそも好体とは根拠薄弱(中にはそうでもないのもあるようだが)な噂を、その嘘っぽさを利用してオブラートで包み、笑い飛ばすことで作用するシステムなのだが、全国放送したアニメに証拠として厳然と残ってしまう“作画崩壊”というウィルスは、罹患してしまうと笑って誤魔化せる種類のものではないからである。
 作画崩壊ウィルスがもたらす病気を後天性(原作つきアニメだから)免疫不全症候群と呼ぶ。(原作絵と似ても似つかなくなるので別名“絵異図”とも呼ぶ。)これは近年の“時間”“コスト”インフルエンザ(分金A型)の影響によってクリエーターの間に大流行する可能性が懸念されている。だがこれには、DVD修正を行うためのワクチンとして用意されたアミフルでも挙動不審な行動を示すなど、根本的な対応が難しいのが現状だ。
*1 地上波で○かったキャベツ(まるでガンダムのハロのようだった)はDVDでまともなキャベツの絵になったが、全く印象を改善する効果は無かった。該当シーンを見れば判るが、包丁での切り方がギロチンを落とすような斬法のまま絵だけ修正したもんだから、そもそも不自然極まりない切り方が直っていないのだ。一度でも使えば判るが、包丁ってのは先端からや手前刃まで、切る部分をいろいろ複雑に変えるからこそ切れるもので、上記したようなやり方では力が分散してしまって切れないのだ。

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