[6章] 美少女の分子生物学
 
 我々が普段接している二次元少女はこれまで、固定して提示された情報を一方的に受け入れ、ちぃ胞(四章参照)として形作ってきた。クリエーターが作成した情報(萌伝子)もほとんど変わらなかったから、極端に言えば放送終了後に遅れて少女が出演している作品を知った人がいたとして、その人が必死になってビデオを視聴し、更に関連書籍まで買い漁ったとしたら、以降その人がしたり顔で少女について語るなんてことも可能であった。ところが、インターネットの普及はそうした追随を不可能にするほど情報の変質を早め、同様にメディアの中に生きる二次元少女もめざましい勢いで変化するようになった。このため、ある時期にその少女に接しているといないとでは少女に対する印象がまったく異なるといった現象すら起きるようになってきた。
 十勝ブームがいい例で、実を言えば双海亜美はアーケード版で人気最下位のキャラクターだった(ゲームが出た当時のポリゴン表現が未熟だったということもある)のだが、十勝現象後は人気、知名度共にダントツの一位にのし上がっている。十勝現象はゲームという、クリエーター側から提示された情報からはほとんど読み取れない瑣末な部分から起こっているから、よしんばゲームを追従したとしてもその魅力を等質に理解できるわけではないのだ。こうした魅力は少女と、“時代の共有”をしているからこそ知り得るものなのである。
 “時代と変容”がこれまでにもあったことは確かだ。今ヤマトや999という作品を見たとして、時代の持つ雰囲気までは伝わらないから、筆者のようなおっさんの熱弁が半分も伝わらないとしてもそれは詮無いなんてことはあった。しかし現在はそれが年単位から月、下手をすると時間単位で変わったりする。そうした印象の変化はあたかも少女らが生きているかのごとくである。
 萌伝子とはそもそも固定したものであった。そのそもそもの仕組みと、そしてそれがどうして今、上記のように変化するようになったのか。以下ではそうしたことをテーマに説明する。

[6-1] DNAの役割
 

 一章にて、萌伝子の招待がDNAであること、四章でそれが複写されて我々に受け渡されることで、少女の持つ属性情報が正確に我々に伝達されることを示した。
 しかし、DNAには実のところ、もうひとつ重要な役割がある。DNAが持つ属性情報を統合少女体に反映させるという役割がそれだ。と言っても、実際の少女の体がほとんどプニテインから出来ていることは三章に示した。20種のアニメたんが手を繋いだ長い紐状物質が幾重にも複雑に合体することにより正義と友情のパワーを生み出す...じゃなくてプニテインを生み出し、10万種とも言われるプニテインが少女属性を効果的に少女体に反映させているのであった。それならDNAは何処に役割を反映させる余地があるというのだろう。
 結論を言ってしまえば、DNAはこのプニテインを作るための設計図として存在する。プニテインの長い紐一つ一つは20種のアニメたんのうちどれかが使われているのだが、その一つ一つを指定しているのが萌伝子の正体・DNAなのだ。体を構成するプニテインの設計図、それは引いては少女の体の設計仕様書でもあるということである。

[6-2] プニテインの出来るまで・DNA編
 

 では具体的に、DNAからどの様にしてプニテインは作られるのだろう。DNAがプニテインの設計図となると言っても、DNAはA(大人)とT(ロリ)、G(豊満)とC(貧乳)のわずか四属性、これに対してプニテインを構成するアニメたんは表3-1に見たように20種類もあるのだ。O次郎はバケラッタだけでQ太郎と正確にコミュニケーションをとっていたが、あれと同じような超自然的カラクリがそこには潜んでいるというのだろうか。そうではない。DNAはここでは超自然というよりは真っ当に数学的なカラクリでこれを可能にしている。というのも、DNAは四種一組で読むのではなく、四種三組を一つの単位として読ませているからである。四種一組なら組み合わせは四つしかありえないが、四種三組なら大・ロ・ロ、豊・ロ・貧など、4×4×4=64通りの組み合わせが考えられ、これなら20種のアニメたんを指示するのは簡単というわけだ。
 ではDNAの並びから直接プニテインが読み取られるのかというと、そうでもない。少女の情報中心として大切な存在であるDNAは、シスコンドリアの様にちぃ胞の中で更に隔離された女核校という寄宿型校舎に住んでいるから、ヒトに分化する時以外外出を許されない。*1 ところがプニテインのような巨大属性はこの建物の門から入ることが出来ないのである。ならばどうするのか、プニテインの代わりに硬く閉ざされた女核校に出入りでき、DNAの秘密を垣間見ることが出来る者がいるのである。ロリ核たん(RNA)だ。(RNAって書くより、ロリ核たんの方が語感的に面白いからこっちで統一する。)
*1 DNAの二本鎖ペアが異性ではなく、ホモセクシャルであるのは女核校であることを考えるととても暗示的だ。

[6-3]  プニテインの出来るまで・ロリ核たん編
 

 ロリ核たんはDNAと構成が似ており、図1-2に見るヌクヌクオシドに入る政党がデオキチロリボース党の場合がDNAだったが、ロリ核たんではロリボース党が入る。両者の違いは五章でも書いたが政党構成員に過激なオキチを入れるかどうかだけだ。しかし、厳格な寄宿学校内での生活を強いられるDNAがオキチを採用していないこと、対してロリ核たんが後述するように積極的にプニテインを作らねばならない過敏性のために敢えてオキチも許容していることは非常に理に適っているといえる。ロリ核たんはDNAのヌクヌクオシドが四種の演基を有するのと同様に、四種の演基を有する。ただ、DNAがA(大人)とT(ロリ)、G(豊満)とC(貧乳)だったのに対し、ロリ核たんではこのうちのT(ロリ)がU(裏知る)に変わっており、これがTの代わりにA(大人)とペアを組むというところが異なっている。これはロリ好きには残念かもしれないが、筆者などはますます秘密を垣間見ているという雰囲気が盛り上がるように感ずるのだが、どうだろう。
 このロリ核たん、先ほどは“出入りする”と書いたが、出入り自由なのは更に構成属性の小さいヌクヌクオシドのことで、ロリ核たんは正確にはほとんど学校から“出る”ばかりである。何故ならそれはDNAがロリ核たんを“作る”からである。
 DNAはプニテインを作る属性仕様書を持っている。しかしDNAは女核校を出られない。そこでその仕様書を写し、学校外に持ち出せるようにした存在がロリ核たんなのだ。すなわちDNAの二本鎖ダンスを少し解いた状態で、ちぃ胞コピーの時のようにDNAのヌクヌクオシドがくっつくのではなく、ロリ党の四種ヌクヌクオシドA、U、G、Cがくっついて、作りたいプニテインの属性仕様書分だけ繋がったものがロリ核たんなのである。プニテインの情報を持って学校からを走り去るという意味で、これをGo疾駆(ゴシック)ロリ核たんと言う。
 ゴシックロリ核たんは学園を出るのだが、女核校外は既に一般ちぃ胞内であるため「コスプレ禁止」となり、ゴテゴテの衣装は校内に脱ぎ捨てられる。これをコスプレイシングと言い、帰りのりんかい線に乗っても一般人と見分けが付かないくらいスマートな存在となり、ゴスロリ核たんという略称が似合うようになる。

[6-4]  プニテインの出来るまで・コスプレ喫茶ロリボソーム編
 

 ゴスロリ核たんはしかしりんかい線は使わず、ちぃ胞秋葉への直行バスでロリボソームなるコスプレ喫茶に向かう。ここは大きな本館と吸収して隣にある小さな店舗が合体した店で、ゴスロリ核たんはそこで三人一組になって客の応対をする。この三人一組というのが重要だ。その店には非常に重要なリピーターが20人いるのだが、彼らの好みは非常にマニアックであるため、UCG、GCAなど、三人一組でないと満足させられないのである。どうしてそんな思いまでして彼らの対応をしなければならないのか。それは彼ら20人が非常に金を使ってくれると言うことも確かにあるのだが、むしろ彼らだけが連れてくることの出来るある者の存在が重要なのだ。
 彼ら、運び屋たんと呼ばれる20人は、各々別の属性を常連として有しているのだが、店側がゴスロリ核たんのうち三人一組で応対したときのみ、その属性は一緒に来店してくれるのである。そう。プニテインの材料となり、20種の属性があるアニメたんだ。
 そこで我々取材班はさっそく調査を行い、この20人のリピーター対策として店側が作ったらしいシフト表を再現することに成功した。それが表6-1だ。
 左がシフトの一人目、上がシフトの二人目、右がシフトの三人目の演基属性が何であるかを示している。例えばマセリンは一人目が裏事情に詳しいUちゃんと二人目に貧乳のCちゃん、そしてもう一人UGCAちゃんの誰か三人で「いらっしゃいませご主人様〜」と店内に招いたときのみ、マセリンというアニメたんをつれて来てくれるということだ。*1
 この客の対応をまとめてみよう。
1.ゴスロリ核たん中の三人がアニメたんと一緒に客を引き入れる。
2.客とアニメたんが店内に入る。
3.アニメたんはとなりのアニメたんとくっつく。(プチペド結合)
4.込んできたので一つずれてもらう。
5.運び屋たんだけ先に帰る。(アニメたんはくっついたまま)
6.1.に戻って、ゴスロリ核たん中の次の三人が客を引き入れる。
 このループで、結局繋がったアニメたんは店内から押し出され、ロリボソーム周辺に数珠繋ぎの状態で存在することになる。そしてそれを上手く折り畳んで属性を上手く引き出したものがプニテインと言うわけである。
*1 裏事情知ってる子と貧乳ちゃんがいればあと誰でもいいなんて、マセてるんだかオヤジくさいんだか良くわからん趣味だ。

[6-5] プニテインの出来るまで・補足説明
 

 表6-1には補足が必要だろう。大人で裏事情通かつ豊満な三人が対応するFet(フェチオニン)の横には“開始”と記載してあるが、これは女核校内のDNAからロリ核たんが出来るときまで遡る。これはDNA上にある、「ここからプニテインの属性情報だよ。」という目印なのである。同様にUAAなどに終止とあるのは「属性情報はここまで。」という目印なのであり、つまりロリ核たんはAUGで始まりUAA(G)、UGA(G)のどれかで必ず終わっているのである。すなわちAUGで必ずフェチオニンを連れてくる客というのは、なにがなんでも開店一番に入ってくる客(一番フェチ!?)なのであり、常連を通り越してそれはもう出勤なのである。

 また、実を言えばDNAにはプニテインの属性情報は全体の5%くらいしかない。この領域はモエキソンと呼ばれるのだが、だから注意したいのは少女の属性を決定するプニテインの属性情報がある部分が萌伝子なのであるから、正確には萌伝子=DNAでは無いことだ。


図6-1 DNAのコピー

 では他の95%は何なんだって事になるが、ほとんどジャンク的な部分だったと考えられていたこともあり、メガトロンと呼ばれている。*1 なんだとメガトロン! と思わず叫びたいところだがこんな名前にしているのは、どうにも萌えの神様はロボマニアらしいからだ。というのも、メガトロン部分には合体変形ロボよろしく一見バラバラなパーツがあるのだが、よく見るとたまに同じパーツがあったりする。実はDNAってのはコピーや修復の際にある領域の最初と最後を見るだけで判断するとたまに間違える。図6-1(a)はDNAの修復時、始めの“ナジ”と最後の“”だけを見て修復したのだが、上のDNAの“ナジ”は“オサナナジミ”というプニテインを作るモエキソンの一部であるため、性格に関する部位に入っている“ナジラレ”と入れ替わったら“オサナナジラレ”となってしまい、意味が通らなくなってしまう。*2 これに対して図6-1(b)では、“ツインテール”と“ブルマ”のモエキソンはまるまる無事であるため、場所の入れ替えが正しいかどうかはともかくとにかく少女に表れる属性としてプニテインは無事なのであり、結果例えば“頭にブルマ”という属性が新たに出来たわけで、それはもしかすると次世代の少女を引っ張る進化の始まりなのかもしれないのである。
*1 [6-3]におけるゴシックロリ核たんのコスプレイシングはこのメガトロンの部分を取り去っている。

*2 これはこれで、と言われるかもしれないが。


 

[6-6] 萌伝子の逆流
 

 ここまで見てきたのは、DNAからプニテインを作り出す流れだ。それは言うなればクリエーター由来の萌伝子がどのようにして統合少女体を構成するかを見る流れと言ってもいい。DNA構造を解明したフリンスキ・クリックはかつてその流れをセントラル・ペドグマといい、萌伝子まずありきのこの考え方は“萌えの中心教義”であり、揺るぎないものだとされてきた。
 だが近年の流れはどうだろう。これまで何回か触れてきたように、昨今の少女がインターネットの中で日々様相を転じ、新しい魅力を付加してゆくのは決してクリエーター提供の萌伝子に成し得る事ではない。それはこれまで消費者とされてきた個々のオタク達からあがってきたことで付加されることになった属性であり、これはまさしく統合少女体の萌伝子が書き換えられていることを意味する。我々は今、中心教義の崩壊を目の当たりにしているのである。

 統合少女体の萌伝子書き換えの主役をなすのはレトロウィナス(ビーナス)だ。レトロウィナスは希に出元を特定できる場合もあるが、多くの場合ファンの誰かから自然発生する。レトロウィナスは必要な属性萌伝子だけを持ったロリ核たん構造体であり、統合少女体全体に比べれば僅少な存在だ。レトロウィナスはしかし、統合少女体に取り付くと、逆転写好素を用いて属性萌伝子DNAを合成し、少女体のDNAに潜り込ませるのだ。まるで図6-1で萌伝子がまるごと入れ替えられたように、新属性は女核校内にある少女体のDNAの該当部分に入り込み、そうすることで少女体に新しい属性萌伝子を定着*1させるのだ。
 こうしてレトロウィナスによってDNAの一部が変質した統合少女体は、まるでその属性が元々からだの一部であったかのように振舞い、我々もそういうもんなんだと納得することになるというわけだ。
 レトロウィルスがファンに由来した物であることは非常に興味深い。それもクリエーターの萌伝子を押しのける形で発現するという部分が。ファンはある意味クリエーター以上に少女に思い入れをしているから、そこから発せられるウィルスはしばしばクリエーターの持つセンス以上に的確に少女の本質を言い当てるという事実を反映しているのだ。そう言う意味では、アイマスにおいて少女をアイドルに育てるプレイヤーのことをマネージャーではなくプロデューサーと呼んでいたのは、新属性が次々とファンの間から創生されていったことを暗示しているようでとても面白い。ただ、そうした一部分の萌伝子の的確な表現が可能なのは、あくまでもファンが少女そのものを創生する(クリエーター)わけではないからでもある。それはファンとしての思い入れの限界、またファンとしての集中力の限界とも言えるが、そもそも一ファンが全て少女をデザインして発信するということは、新たな統合少女体を誕生させることになるからである。

*1 属性だけが内部で増殖し、少女体のちぃ胞を破壊して広まることもある。ツンデレトロウィナスがいい例で、お嬢様系ウィルスから変異してできたことまでは判明しているが、現在では既にオリジナルとして取り付いていたのが誰だったか判らないようになってしまった。
 一般に言うウィルスとはしばしば生命の存続を脅かす存在なのであるが、レトロウィナスに罹患した統合少女体はそれを逆に取り込んでしまい、自身をファンの間で再活性させることに利用しているのだ。これこそが本書で見てきた美少女の成長とは異なる、実際に生きていく上での手段、“統合少女体の生長のシステム”なのである。我々は美少女に現実にはありえない可憐さ、美しさを見出すことで憧れるのであるが、彼女の総体としての統合少女体という存在は、決してそればかりではなく、確実に、かつしたたかに彼女らの世界を生きているのである。
 

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