[1章]萌伝子
 
 

[1-1] 萌伝子発見史
 
 

「次の停車駅は、惑星・十勝〜、惑星・十勝〜。」

 決して性格は悪くないが、真っ暗な顔に目だけが二つ光っている異様な風貌の車掌がそう告げながら鉄郎の横を過ぎていく。いつも何気なく聞いている鉄郎だったが、今日の彼は珍しくその言葉に耳を傾け、あれっと首をかしげた。というのも、確か前の駅に止まったとき、次の駅の名前は「惑星・溶かし」と書いてあったことを記憶していたからである。だから車掌が復唱したときには注意を向けていたのだが、その彼の耳にもやはり、「十勝」と言っているように聞こえた。

「花粉症って知っている?」鉄郎の前に向かい合わせで座っている女性が言った。「次の星は、一年中スギ花粉が舞っているので、住人たちはずっと鼻が詰まっているの。だから名前もいつからか正式な言い方はされなくなったの。」

 鉄郎の心の中を察したようによどみない答えだった。彼はふ〜んと言いながら、不思議そうに目の前の彼女を見つめた。彼女は何でも知っているんだなぁ。

 喪服のように真っ黒な服と、これも黒の山高の帽子を被ったその神秘的な美しい女性の名前はメ〜デル。青春の一頁に憧れる永遠の存在。数多の美女の先駆けとなる彼女は統合少女体の元祖とも言うべき存在であり、だからこそ全ての萌えの元となる萌伝子を見つけることが出来たのだろう。

 
 統合少女体の話を始めるにあたって萌伝子を選んだのは、萌伝子が統合少女体を語る上で核となる概念だからだ。本書では統合少女体がいかに生まれ、いかに生きるのかを説いてゆくものだが、そうした話を始めようとすると萌伝子の話がどうしても出てきてしまうため、そもそも萌伝子がどんなものかが判らないと説明ができなくなってしまうのである。で、更にその萌伝子の存在を最初に指摘した人物こそメ〜デルなので、本章もこうして始まったと言うわけだ。では当のメ〜デルはどうやって萌伝子の概念に行き着いたのだろう。それを知るためには、銀河鉄道の乗客としての前項の姿よりもずっと遡った、彼女が修道院に居たころに行っていた実験について述べねばならない。

 エンドウマミ。メ〜デルが裏庭の隅で好んで育てている植物がそれだ。それは彼女が数年来続けている実験にとって、このエンドウマミから取れる元気双子悪戯好きという多くの属性を持つ可愛らしい実が都合が良いからだった。彼女はこの植物についての複数年にわたる観察を行い、マミと、マミと同じ形質を持つアミの両者が、実を付ける割合にある法則を持っていることに気付き、それを定量化するための交配実験をしていたのだ。

 メ〜デルは[十勝]の形質を持つ[アミ]苗と、[溶かし]の形質を持つ[アミ]苗、[十勝]の形質を持つ[マミ]苗と、[溶かし]の形質を持つ[マミ]苗を踏まえてデザインされた子の代の性質に、次の比率で参考にした少女苗の形質が表れることを見出した。

     アミ  : マミ  = 1 : 1

     十勝 : 溶かし = 3 : 1

 当時は子に伝えられるデザイン形質は単純に液体が混ぜ合わされるようなものとされていたのだが、彼女はこの結果から、各形質が独立のものであること、すなわち、「デザインするときには、対立的な形質のどちらかが表れる」と仮定した。そうしてそこから、次の表を作成した。

 左列と上行は参考にする先代の形質、残り部分がそこからデザインされた次世代の苗だ。これに列記された[アミ、マミ]と、[十勝、溶かし]の二つの対を成す形質を持つデザインを参考にしたとき、子のデザインにどのような形質が表れるかを示している。(アミ・溶かし)と(アミ・十勝)を掛け合わせると、子は形質に(アミ・十勝)が表れるというものだ。

 このモデルによればアミとマミという形質にはデザイン的な差は無い(双子だから)が、十勝と溶かしという形質では参考にした元デザインにどちらも[溶かし]形質を持たない苗でないと子デザインには表れない、すなわち[十勝]形質の優位性が読み取れるのだ。*1

 メ〜デルはこれにより、対立的な形質は後代にどちらか一方が発現すること、発現に当たっては有利不利があることを突き止め、更にそうした形質を伝えるものとして、はじめて“萌伝子”という存在を提唱したのである。この萌伝子モデルの重要性は、単に彼女の行った実験結果を数量的に言い当てているだけにとどまらなかった。それは萌えデザインを継承するとき、継承される過程で“何ものか”が元の形質を複製するようにはたらくものがあることを示したのであり、だからこそ萌伝子はその後のペド生物学の中心となったのである。

*1 奇妙なことに、アミマミ以外の少女でこの実験を行っても、十勝は優位に継承されるわけではない。アミマミの持つ蓄膿形質が影響していることを知っていたのはレコーディング担当の人だけだったとか。

 

[1-2] 萌伝子の正体
 

 萌伝子がメ〜デルによって仮定されたのは前項で示した。これを明らかにすることは美少女の本質を明らかにすることになるのだから、後の研究者がその特定に躍起になったのも不思議ではない。ここに萌伝子特定の過程を追ってみよう。
 

 RSハイエンド双子という、なんかのプラモデルのようなキャラクターがいる。Rアミというキャラ及びSマミという双子のことなのだが、Rアミをフィギュア化してSマミフィギュアと置いておくと、何故かコスチュームが緑色になるという現象が起きる。なんだそれだけかというなかれ、緑色はルイージの時代から2Pキャラの色とされており、どうでもいい存在とみなされることが多いため、そのキャラにとっての一大事なのである。この現象はSマミがフィギュアとして完成していなくても起きることから、Sマミの持つ何らかの要素がRアミを2Pキャラ化したことになる。キャラクターの属性を変えうるもの、オズワリオ・エイブリーは慎重ながらも、それこそが萌伝子ではないかとあたりをつけた。そして統合少女体の各要素のうち、どれとRアミを置いたときに緑になるかという実験を片っ端から行った。そして、地味かつ助平なこの作業によって、萌伝子の正体がDNAであることが確認されたのである。

 DNA(デオキシロリ核たん)とは、統合少女体の中でも好色体と呼ばれる部分に存在する核たん*1の一種である。それまでは4種類のヌクヌクオシドなる物質がおしくらまんじゅうをしているだけだと考えられていたのだが、どうやらそうではないようだということを突き止めたわけだ。
 

*1 〜たん、とは、美少女化学変化の基礎である。伝子をやり取りすることで少女属性が変化することから、伝子をはずしても単体でキャラクターが存立しうるほど有名になった少女を“〜たん”(例、シャナたん、みくるたん、むねぺったん、etc.)と、伝子を余分に持つことで属性の方が有名になった少女を“アリアリ系”(例、ネコミミ系、ダウン系、ツンデレ系、etc.)と呼ぶ。本書では〜たんの出番が圧倒的に多い。ちなみに核たんはそれだけではキャラ名が思い浮かべ難いが、正式名称の『透けたん核たん』だとわかりやすいだろう。

 
図 本学初期における誤ったヌクヌクオシド像

 DNAは四種のヌクヌクオシドで構成されていることは前述したが、この四つ、A、T、G、Cの四つのタイプは、その存在比が常にA=T、G=Cであることがシャイガチによって控えめに明らかにされた。このため、後は四タイプの正体が何で、どんな構造を持っているのかの解明が鍵となったのだが、その時点においてこの研究で先鞭をつけていたのはXbox線解析のスペシャリストロリンド・フランクリンだった。彼女はXbox版アイマスの歌うシーンをディスクから解析する(0と1のデータがどうして萌えに至るのかを調べる)という途方もなくマニアックな研究を行っていたのだ。彼女はこの研究で、ATGC四タイプがどうやら少女属性であること、彼女らがユニットを組んでダンスしていることを突き止めていた。だが...

 DNAはA(アダルチン)=T(チビン)G(グラマニン)=C(Cトシン)が互いに向き合ってマイムマイムをしている!

 との構造を発表し、ノーヘル賞(ペド心理学参照)をもらったのはジェームズ・ワトサンフリンスキ・クリックの二人であった。このモデルは萌伝子が何故DNAで無ければならないのか、ATGCがどう振舞っているかと言った疑問を一気に解決した。そしてこれがきっかけでペド分子生物学が創始される偉大な一歩となった。ただ、そうした称賛が彼らに与えられるのは当然であるとしても、そもそもどうやってそんなモデルを思いついたのか、という微妙な問題が実は孕まれている。「そんなの公園で少女を見てたたずんでいればパズルを解くように出来るものさ」と、エクセルサーガの四王寺みたいなことを言われれば、そうかもしれないし、そういうものなのだろう。ただ、こうした評価を認めたうえでなお、彼らがロリンドの研究室で行われていたという少女らのダンスシーンを覗いたのではないかという疑惑は晴れていないことを指摘するくらいはしておこう。
(芸術ならば、いや研究ならばロリは許されるのか。エコール問題として、これは我々に重くのしかかる倫理的課題なのである。)
 


 
 

 [1-3] 萌伝子DNAの二重らせん
 

 こうして発見された萌伝子について、現在わかっているところを説明しておこう。

 DNAの基本単位であるヌクヌクオシドはそもそも図1-2のような構造をしている。


図1-2 ヌクヌクオシド

図中における党とプルルンの詳細は後章に譲るが、右手の演基*1には更に図1-3 のように4種類存在する。


図1-3 演基

これがまずプルルンによってプル結合され、 図1-4のような一本鎖になるのだが、驚くべきはこの一本線の演基どうしはAとT、GとCで対になってくっつき、二重らせんとなることである(図1-5)。

図1-4 一本鎖       
図1-5 二重らせん 

 大人(A)には子供(T)が、豊満(G)には貧相(C)*2、お互いを補完しながららせん状にダンスを踊ってゆく。進行方向はお互いに逆方向であるため、盆踊りのような同方向回転ではなく、マイムマイムのようなパートナー変更型のダンスになる

 萌伝子の中心を為すにふさわしい神秘なる二つの構造がそこにはあった。一つ目は、統合少女体が己の情報を究極に還元した存在としてAとG、TとCで代表させていたことだ。一見単純な四属性だが、大人と子供によって、その間で揺れ動く微妙な心の揺れが、また豊満と貧相によって、その間で揺れる悩ましい胸のラインが...いやいや、さまざまな身体的属性が表現可能だ。つまりそれが無限と言っていいほど並べられた一本線とは、非常に詳細な心と身体の情報を表現していることに他ならない(萌情報の保存)のだ。更にその線が二本、常に大人は子供と手を繋ぎ、豊満は貧相と手を繋いで*3二重らせんを踊っていることも重要だ。これが二つ目、お互いがお互いを補完しあっているということは、お互いが離れたとしても、自分のパートナーを見つけることで全体が再構成できるということに他ならないからである。そしてこれこそ萌伝子のもつもう一つの神秘、統合少女体増殖の秘密なのである(自己複製)。

                                             
 萌伝子が上記のような経緯で我々の前に明らかにされてきたこと、またそもそもどういうものなのかがなんとなくでも理解いただけたであろうか。我々が統合少女体の神秘を解明できているとはとても言えないが、それでも、これまででわかったことをこれ以降の章で説明しようとしている。そしてそれを読者諸君が面白いと思える準備は、これでようやく出来たのである。
                              

*1 演基は似素(ニトルゲン)を含む化合物で、不見に溶けると様々に艶のある振る舞い(演技)をすることから命名。アデニン(艶ニン)を持つから艶基と呼ばれることもある。

*2 Cが貧相かというのは、個人的には首を傾げるのだ(と言っておかないと総スカンを喰らいそう)が、貧相という言葉自体アイマスの荻原雪歩に拠っており、彼女によれば「穴掘って埋まりますぅ。」ということらしい。

 *3 大人と子供はともかく、豊満と貧相の組み合わせが仲良くやれているのかにつ いては定かではない。

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