「死にたくなかったらさっさと投げる。でもあんまり早く投げちゃうと、自分に投げ返されてしまう。」 今こうした現状を踏まえると、ここにもう一つの解決手段が見出される。すなわち、“取られないように投げればよい。”というものだ。
しかし、本手段の困難なことは、直ぐに理解されよう。というのも、人間が投げられるものというのは、いきおい、再び投げるということが容易であることを示すからである。投げられにくくしようとして、例えばトゲなどを付けると、確かに投げられ難いという目的は達成するものの、今度は投げにくくなってしまうし、持ち運びすら困難となる。取れないほど速い球を投げるような道具を使えばよいではないかとも考えられるが、それは既に手榴弾ではなく、榴弾という武器に代わってしまうだろう。
さて、考察が停滞したことを幸いに、ここに我々はいま少し視点を変えて、モノを投げる方法について考えをめぐらすことにしてみよう。そして、我々個人ではなく、すでにある先人の技を活用できないかと考えてみるのだ。というのも我々は既に、手榴弾でこそないものの、球を相手に取られない投げ方、すなわち相手を翻弄するという投げ方が存在することを知っており、それを実現した人達のことを知っているからである。
そうした投げ方は一般に“魔球”と呼ばれており、魔球を編み出した代表的人物として、我々は星飛雄馬と番場蛮の名をあげることができるのである。そこで以下、彼らの数ある魔球が、手榴弾投擲にどの程度適しているかを検証してみたい。
彼らの素晴らしい魔球ならば、打者をきりきり舞いさせたように、敵を翻弄することなど造作もないだろうからだ。
まずは巨人の星の主人公、星飛雄馬の魔球、大リーグボールシリーズから見ていくことにしよう。
大リーグボール一号。これは打者の心理状態や大気変動などを直感的に判断し、ビーンボールまがいの球を投げつつ打者のバットに当てて、小フライにしてアウトを稼ぐ省エネ投球法である。
これ、一見して今回の目的には不得手であることが判る。この魔球の特徴は“バット(硬いもの)に当てる”ことにあり、跳ね返ってくるからである。しかも味方の誰に跳ね返るかまでは予想できないのであるからタチが悪い。
では大リーグボール二号はどうか。これは通称消える魔球といわれ、トミーのデラックス野球盤にも機能があるように、魔球の代名詞といわれるほど有名なものだ。これはバッターボックス手前の砂塵を巻き上げて、球を雲隠れさせるという原理を持っているとされる。
これは期待できそうだ。球が消えてしまっては、いくら敵でも投げ返すことは不可能だもの、無敵の魔球か! と一見思わせるのだが、実はそうでもないのである。というのも、確かにその機能が有効であることは確かなのであるが、上述した“砂塵を巻き上げる”という条件が、実際の戦場ではかなり限定されたものにならざるを得ないからである。
原作でも、ライバルである左門は魔球を隠す砂を巻き上げさせまいとして、ベース手前に水分を撒き散らす場面があるが、この魔球は基本的に地面が粘土質の地層や湿地帯では使えないし、乾燥地帯でも敵は、己の陣地の前に散水することで、かの魔球の効果を消し去ることができるからである。
それにそもそも野球場でも、白球を隠すほどの砂塵をどうやって巻き上げたのかが今となっては甚だ疑問なのだが、よしんば白球を隠すほど砂塵を漂わせられたとして、同条件に見合うのは砂漠戦線くらいのものであり、それほどの砂が巻き上がっている風が轟々と吹いているのなら、敵が投げた手榴弾もこっちには見えないのである。
消える魔球をもっと高度に、すなわち、方法はまだ未知であるとは言え、本当に消えてしまう魔球にバージョンアップできたとしたらどうだろうか。この方法は魅力的だ。そんな弾が投げられたとして、敵に対処しようが無いことは明白だからである。だがこれは少し考えれば意味をなさないことも明白になる。敵の前で消えてしまったら、そもそも爆発しないのである。
気を取り直して、じゃあ大リーグボール三号はどうか。これは飛雄馬が投手としての生命線である左腕の犠牲をすら恐れずに開発した文字通り最終兵器である。それはいわゆる超超スローボールを投げるというもので、あまりの遅さにバッターが振るバットの巻き起こす風によって、ボールがバットを避けてしまうというとんでもないものだ。
相手が取ろうとすると逃げてしまう手榴弾。これは正に手榴弾の機能を最高に生かすことが可能な魔球ではないか。流石は飛雄馬、行け行け飛雄馬!!
だが、残念ながらこれにも致命的な弱点があることが、実験段階で暴露されてしまった。
無敵究極と思われた大リーグボール三号は、敵の陣地に辿り付く前に爆発してしまったのである。
野球界でもっとも有名な魔球投手、星飛雄馬の大リーグボールシリーズはこうして潰え去った(巨人の星には、飛雄馬が右投手として奇跡の復活を果たした新シリーズもあり、そこでも当然彼は魔球を繰り出すのであるが、残念ながら筆者はそのシリーズを見たことが無い)。これはあまりにも残念無念な結果といわざるを得ないが、だからこそ今一人の雄、“侍ジャイアンツ”とまで呼ばれた豪快な投手、番場蛮にご登場願おう。
番場の魔球は飛雄馬の大リーグボールの様に通しでシリーズ名が付けられている訳ではないが、大きくわけて全部で三つある。すなわちハイジャンプ魔球(発展してえび投げハイジャンプ魔球となる)、大回転魔球、そして彼の魔球ではもっとも有名な、分身魔球である。
番場の投げる球は、彼の性質同様豪快なものだ。上で指摘したうちの前二つは特にそうで、投げられた球は余程特殊な特訓を積まないとまず打てない。
ハイジャンプ魔球は、投球に落差を持たせるために、かなりの高さまでジャンプして投げ下ろすものだ。高さは重力効果を加えて打者にたどり着くときには剛速球となる。投げるときに握る手が顕わになるために球種が判別されるという弱点があらわになった時も、海老ぞって投げることで弱点を克服し、更に反りのバネで球の勢いを倍化させるという、転んでもただ起きないバイタリティーを見せ付けてくれた。
大回転魔球は、ピッチャープレートの上で片足のまま己を超高速回転させてから球を放るものだ。打者は、高速回転する遠心力の効果でとんでもなく速くなった球だけでも困難なのに、一体何時投げられるかが判らないという、タイミングの取りようが無いという類の負担も強いられるため、これも打つのは至難の技とされた。
両魔球は打たれたとは言っても、どちらも修行を積んだプロの意地が為しえたものであり、普通の兵隊に見極められるはずが無い。よって彼のこの二つの種類の魔球は、投げられた場合に敵を翻弄することは確実であり、これによる手榴弾が飛んできたら、敵はしッポを巻いて逃げ出すほか無いであろう。
斯様に、放たれた球は無敵の威力を示すことが明白な両魔球であるが、残念ながら戦場で採用することは断念せざるを得なかった。投げられる兵士がいないとかそういうハイレベルな問題以前に、それほどまでに豪快に目立ってしまうため、両魔球は投げているところを狙撃されてしまうのである。
だが気落ちしてはいけない。番場にはまだ、彼のもっとも有名な魔球、分身魔球が残っているではないか。
これは偏心、つまり重心が中心からずれた皿を回転投擲した場合、不規則な動きをするためにまるで複数の皿が飛んで行くように見えることにヒントを得て開発された魔球で、ボールを偏心させることで同様の効果を出すことに成功した、これもまたもの凄い魔球である。バッターは己の前で複数に分化する(様に見える)球を前にして、ただただ狼狽し、為す術もなく三振していったのである。
これが手榴弾投擲法として最適であることは言うまでもあるまい。飛んできたのはいいが、己の前でなんだか複数に分離する手榴弾を見たら、恐怖におののいて降参するに違いないのである。
この、今度こそ究極の魔球は、実践配備されたとしたら、それこそ無敵の投擲法であり、もはや怖いものなしの部隊になることは保障されたようなものだ。よーし、早速実験に取り掛かろう!!
こうした解析結果を基に、勇躍して取り掛かった実験であったが、結果は残念ながら失敗に終わり、結局のところ番場の魔球もまた、手榴弾投擲法として不適格だということがわかった。
これによって二人の大投手の魔球は全て不合格の烙印を押されたことになり、悔しいが魔球と手榴弾とは相性が悪いとしか結論付けようがなくなってしまった。我々はまた、安全な投擲法の構築を目指して励まなくてはならない。
では最後に、分身魔球が何故失敗に終わったかを述べることにしよう。分身魔球は先述の通り、球の重心を変化させることにより複雑な動きを生み出すことができるのだが、重心変化は球を握力で変形させて行うのだ。これは野球をする場合、硬球に対しては有効だったかもしれないが、手榴弾でこれを行うと...、
爆発してしまうのである。
おわり
あとがき
ペド理論を除くと久しぶりの新作です。本論は冒頭の言通り、知人の杉山氏と電話で話していたことがベースになってます。こーゆーバカな論は思いつきが一番重要だから、後は楽々書けました。
でもまぁ、手榴弾投げるような境遇には一生なりたくないものですね。
[解説]
加藤論文はオタクネタを基礎においているから、元ネタが判らないと面白さが半分になるんですが、これなんかは特に両作品への依存度が高いから、面白くないかもしれないですね。
個人的には手榴弾ってのは、トムとジェリーが擦り付け合ううちに取り合いになっちゃうっていうシーンが好きですね。ここでもそのネタがあります。
ホントの手榴弾も頭がパンチになるくらいならカワイイもんですが。