キュリアと謙次

86回目〜90回目

86回目
 帰り道、……まあ飛行中なのを『道』と言っていいかは分かりませんが、謙次はキュリアに尋ねました。
「なあ、キュリア。シーノが薬物中毒っていうのは、一体どういう意味なんだ?」
 キュリアは少し考えて答えます。
「そのままの意味だよ。シーノは以前、薬物に手を出していたんだ」
「薬物って、麻薬とかのことだよな」
「うん」
 キュリアは少し考えて、若干言うのをためらっているようなしぐさをしながら続けます。
「……あのね謙次、今言ったことはシーノが触れてほしくない過去だから、間違ってもシーノに問いただしちゃだめだからね。別に犯罪を犯しているんじゃないんだし」
「ああ、分かっ……、いや、犯罪じゃないのか?」
「え?」
 キュリアは不思議そうな顔をして聞き返しました。
「『え?』って、いや、犯罪だろそれ!?」
「いや、薬物をやること自体は犯罪じゃないよ。謙次の世界では犯罪なの?」
(作者:今のキュリアの発言で勘違いなさる方がいると思うので今のうちに言っておきます。僕は薬物をやってもよいと主張するためにこれを書いているわけではありません。むしろ逆です)
 謙次はキュリアに反論します。
「当然だろ!? 逆に何で犯罪じゃないんだよ!?」
「だって、薬物をやってる本人にはめちゃくちゃ不利益だけど、他の人には被害出ないじゃん」
「え? ……でもさ、薬物をやってるやつって、友達にも勧めたりするんじゃないか?」
「それは、ほぼ死刑確定だよ」
「え?」
「言い忘れてたけど、他の人に勧めたり、無理やりやらせるのは基本的に死刑になるんだよ。無罪なのは、あくまで他の人にまで被害を広げないという条件付きなんだ。ついでに言うと、薬物やってる上で他の犯罪を犯すと、罪が重くなるよ。軽く済む罪でも重罪になるし、ある程度重い罪だったら死刑になるね」
「へ、へえ」
「他に、何か薬物が罪になる理由はある?」
 謙次は他に理由を見つけられないみたいなので言っておきますが、現実世界ではもっといろいろありますよ。イノブンが一番の理由だと考えてるのは、薬物が暴力団や闇組織の資金源になるということですね。普通の物を買うためにお金を使うのは、市場を活性化させ社会のためになると言われているのでいいんですけど、薬物は社会のためになるどころか、悪い連中を援助しているも同然ですので、社会に悪影響を及ぼすだけです。
(作者:あと、補足しますと、キュリアのいる世界では、『先読み』をかなりマスターしているものじゃないと裁判官にはなれません。少なくとも、相手の心がある程度読めるものでなければならないのです。だから、この世界で薬物を勧めたりしたら、やっていないと言っても見抜かれてしまうのです)
 なるほど、だからこの世界では薬物をやるのが罪にならないのね。
(作者:詳しく説明すると、この世界のほとんどの国が麻薬とかを『非推奨薬物』として指定しています。この『非推奨薬物』は危険度別に分かれていて、危険度が低いものの中には、酒やたばこもあります)
 それは危険なのか?
(作者:まあ、依存症がありますし、体に害をおよぼしますしね。特にたばこは、肺がんになる人多いじゃないですか)
 なるほど、そういう意味ね。
(作者:われわれの世界で『違法』とされている薬物は、ほとんど危険度が高いものです)
 まあでも、他の人に被害を及ぼさないのならいいのかも……いや、本当にいいのか?
(作者:少し前、脱法ハーブも問題視されました。脱法ハーブは本来違法薬物になってもおかしくないのですが、法律の網目をかいくぐって合法な成分だけで作られた危険な薬物です)
 でも、法律で取り締まれないんだよな。周りに迷惑をかけないわけじゃないし。人間関係の中で広まっていくんだろ?
(作者:むしろ僕は、服用者自体に焦点を置いています)
 お?
(作者:誰かに不利益を及ぼすから、法律で禁止されているから、だから薬物は『ダメ、ゼッタイ!』なのか。それを今一度考えるべきだと思います)
 なるほど。
(作者:まあ、僕自身服用したわけじゃないので、実際にどうなのかは分かりませんが)
 してたら大問題だ。
(作者:まず、してたら『薬物はいけない』という結論に持っていかないって)
 やっぱりそういう結論か。
(作者:当たり前だよ!! あんな自分の人生台無しにするものはやるべきじゃないよ!!)
 ですよね。
(作者:あんな薬物推奨動画みたいに、薬物は問題ないという記事を書いたら絶対問題視されるって!!)
 記事じゃなくて小説だと思うけど。……ってか、そんな動画あったの?
(作者:うん。……推奨なのかどうかは知りませんが、僕はそう思いました。ランキングに挙がっていたから見ましたが、まさか某同人シューティングゲームの二次創作で作るとは。……おぞましい内容でした)
 ってか、いつまでこんな議論するの? ……まあ、どうでもいいとまでは言わないけど。
(作者:……これから本編でこんな議論しまくったらマズイかな?)
 ……確認するけど、これ小説だよね?
(作者:となると、この議論はテキトーに終わらせなければならないか。とりあえず、『ダメ、ゼッタイ』という結論に持っていくために、テレビで見た知識を使って主張していきたいと思います)
 テレビか。……不安だ。
(作者:ネット検索めんどい)
 ……少なくとも、薬物は問題ないという風にとらえられる展開にはするなよ。
(作者:そんな展開には恐くてできません。社会から排除されますって。とりあえず、もう薬物やってる人は止められないと思いますが、薬物をやろうとしている人を止められるような内容にしたいです。では今回はこのへんで)
 ……あれ? 本編すくな……


87回目
「とにかく、この世界だと薬物乱用は犯罪じゃないんだよ。もちろん、薬物乱用していることが犯罪につながったら困るから、薬物乱用者の罪は重くなるけどね」
 キュリアは念を押してもう一度、謙次にそう説明しました。むしろイノブンたちが雑談しすぎて混乱している読者のために言ったのだとも取れますが。
(作者:もう読者を混乱させないように気をつけるんだぞ、イノブン)
 いや、主にお前のせいだよ! お前作者だよ!
(作者:いつだれがそんなことを言った?)
 言ってなくてもお前のセリフの始めに『作者』って書いてある。
(作者:な、なんだと……)
 おっと、こんな雑談ばっかしてるから読者を混乱させるんだよな。本編に戻ろう。
 そして、キュリアは続けて言いました。
「あと、薬物の話題はシーノに出しちゃ絶対だめだからね! シーノは薬物をやったせいでひどい目にあってるし、何より『フラッシュバック』が恐い」
「フラッシュバック?」
(作者:ちょっとタンマ! 薬物に関する知識が少なすぎるためしばらくググって調べてきます!)
 おいこら! 事前に調べとけや!!
(作者:……うん、ある程度調べた! 先進めていいよイノブン)
 まったく、なんて迷惑な作者なんだ。まあいい。
 キュリアは説明します。
「薬物で得た快楽を思い出すこと、とかかな。私もあんまり詳しく知らないんだけど、薬物のことを話したらそうなっちゃうかもしれないし」
「なるほどな」
(作者:補足説明です。ググったところ、どうやらフラッシュバックは薬物使用時から数カ月たったら起きることは稀だそうです。あと、フラッシュバックが起きる条件ですが、『ストレスや不安、瞑想や酩酊や大麻の吸引など、自我の働きが変容しているときに起こりやすい(※1)』みたいです)
(※1:「フラッシュバック薬物- Wikipedia」から引用)
 なるほど。そういえばシーノは薬物乱用からどれぐらい経つの?
(作者:ネタバレしたくないのであいまいに答えますが、1年以上経ってます)
 ……じゃあ起きないんじゃない?
(作者:あくまで、起きることが『稀』なだけです。起きたらまずいじゃないですか)
 でも、薬物の話題を出しただけで本当に起きるのか?
(作者:さっきキュリアが言った通り、シーノは薬物をやったせいで悲劇を経験したので、薬物の話題を出したらストレスになること間違いないでしょう)
 なるほど。だから子どもがシーノに『薬物中毒』と言ったことで、マリエルはマジギレしたのね。……あの一言で、シーノがフラッシュバックを起こしたりしないよな?
(作者:起こることは『稀』だそうです)
「分かった謙次? 絶対に話題に出しちゃだめだからね! 絶対にだよ!」
 今のキュリアのセリフが振りに聞こえたという人は自重してください。振りなわけがありません。その証拠に次のキュリアのセリフを見てください。
「もし話題に出したりしたら、手の指の爪10枚全部剥ぐからね」
「わ、分かったよ。絶対に言わないって」
 謙次はあわててそう言いました。今のセリフに恐怖を感じたみたいです。当たり前ですが。
 謙次の言葉を聞いて、キュリアはにこりと笑って言います。
「よかった。あ、そうだ謙次、シーノと今日やってたカード、明日買いに行こうか!」
「本当か!? うん、行こう行こう!!」
 それから、薬物乱用の話題から明るい話題に変え、楽しく話しながら2人は家に帰りました。


88回目
 その日の夜、マリエルの家にて、
(何で私、あんなことやったんだろう?)
 シーノが自分の過去を見つめながら、考え事をしていました。
(いや、駄目だ駄目だ!! 薬物をやってたときのことを考えたら、また手を出しかねない!! もっと違うことを考えよう!! そうだ、素数を数えるんだ!! 2,3,5,7,11……)
 なぜ本当に素数を数えるし!? そこは『1,2,3,4,5,6……』とか言ってボケようよ!! 素数を数えようと言って本当に数えている作品はこれ書いてる作者もみたことないぞ!!
(作者:見たことが無いだけで、探せばあるんですかね?)
 素数を27まで数えたところで、シーノを『薬物中毒』と言った子が話しかけてきました。
(作者:『薬物中毒』と言った子「27は素数じゃないよ?」)
 そんなこと言わねえよ!! 確かに3で割り切れるし間違えやすいかもしれないが、シーノは口に出して数えてないから言わねえよ!!
 実際にその子が言ったセリフはこちらです。
「あのね、シーノ、……僕とカードしようよ」
「ん?」
 シーノはその子の方を振り向きました。ちなみに、どうやらこの家庭では年齢に関係なく名前を呼び捨てにするみたいですね。
「謙次っていうお兄ちゃんも今度買うんでしょ? ……そうだ! 謙次が来たら僕も謙次と対戦させてよ!」
「……ああ、いいぜ!」
 シーノは答えました。『今から対戦しようよ』という提案が『謙次が来たら対戦させてよ』に変わってますが、マリエルが自分を元気づけるように、この子を無理やりシーノのもとへ来させたのだとシーノは分かったので、気にしないことにしました。
(どうせマリエルは今頃、自分の部屋にこもって能力で私たちを見てるんだろうな)
シーノはそこまでお見通しでした。
(作者:マリエルは『両手を合わせると世界中のどこでも見ることができる』能力を持っています。よく分かってますね、シーノ。その通り、マリエルは実際に今、あなたを自分の部屋から見ていますよ)
シーノが答えてから、別の女の子がシーノのそばへやってきました。
「ねえ、シーノ、もしよかったら今からみんなでカードのトーナメントしない?」
「お、いいな! やろうか!」
 シーノがそう答えると、他の子がワイワイ集まってきました。
 その日の就寝時間はいつもよりかなり遅くなりましたが、マリエルはあえてみんなを怒りませんでした。


89回目
 翌朝、キュリアの家にて、
「キュリア、そろそろ店が開くんじゃないのか?」
 謙次がそわそわしながらキュリアに尋ねます。
「そうだね。じゃあそろそろ行こうか」
 キュリアは笑顔でそう言いました。キュリアがそう言うと、謙次もうれしそうな顔をしました。
 え? なんで謙次がうれしそうな顔をしたのかって? キュリアにカードを買ってもらえるからですよ。みなさんも中学生時代、カードゲームに夢中になりませんでしたか? ブースターパックを買いすぎて、財布の中身を見てゾッとしませんでしたか?
(作者:僕は1日1パック以上買ってたら、月2パックまでしか買ってはいけないと制限されました)
 お前は買いすぎだ。ちゃんとした金銭感覚を身につけろ。
 とまあ、そんな感じで謙次は浮かれていたのです。謙次はキュリアに抱えられ、大空に飛び立とうとした、その時でした。
「ちょっと待ちな!」
(作者:その前にてめぇの片割れが話があるってよ!)
 お前は何を言っているんだ、作者。
 誰かの声が聞こえました。少年のような声でした。そう言えば、この小説にこんな声をしたマスコットキャラみたいなモンスターがいたな。
「いきなり何? フェニックス?」
 キュリアが驚いてフェニックスことマスコットキャラのいる方向を見ました。
(作者:イノブン、君『AことB』でググってみ。そもそもフェニックスはマスコットキャラと呼ばれているわけじゃないんですけど)
「キュリア、君は今何をしにいくつもりだったんだい?」
 フェニックスがキュリアに質問。
「何って、カードゲームを買いに……」
「はぁ、……キュリア、君は謙次を甘やかしすぎじゃないのかい?」
「う……」
 キュリアはフェニックスに言われ、微妙な顔をしました。『甘やかされている』と言われた張本人である謙次もムッとした顔をしました。
「でも、謙次に買ってあげるって言っちゃったし」
「そういうことはちゃんと考えて言わなきゃダメだよ。今度から気をつけなよ、分かったね、キュリア」
「……はーい」
「というわけで、カードゲームを買うという話はなしだね」
「……うぅ」
 そんな感じでキュリアとフェニックスが会話していると、
「なあ、フェニックス?」
 謙次が言いました。
「お前、何の権利があってキュリアにそういうことを言うんだ?」
 おお、主人公っぽいセリフ。……セリフだけは。
(作者:何でこんなことを言ったかを考えたら、めちゃくちゃかっこ悪いですが)
 生意気なクソ中学生に対し、フェニックスは丁寧に説明します。
「謙次、キュリアには今、人権が無いというのは知っているよね?」
「ああ。そういえばそんな話をしてたな」
「人権が無いってことは、殺されても文句言えないってことなんだ」
「それが、どうした?」
「僕ってめちゃくちゃ強いというのは、君も知ってるよね? ……キュリアなんか一瞬で殺せるぐらいに強いと言うのは」


90回目
「そ、そんなわけで、フェニックスにはあんまり逆らえないんだよ」
 キュリアが苦笑いしながら言いました。さすがに自分の命が奪われるという例を出されたら、誰だって嫌でしょうね。特にキュリアは。
「そ、それに、フェニックスは世界の独裁者だから、そもそも……うん、そうなんだよ! 逆らえないんだよ!」
 キュリアが早口で言いました。話を変えたがっている気持ちが丸分かりですね。
「……え? 独裁者」
 えらい謙次! ちゃんと話題を変えてくれた!! ……多分キュリアの気持ちを一切考えてませんけど。
 謙次の問いに、フェニックスが答えました。
「そうだよ。僕は世界の独裁者なんだ」
 マスコット風情にそう言われても説得力でねぇ。
(作者:※フェニックスはマスコットではありません)
 フェニックスは続けます。
「……信じられないみたいだね。でも、僕の強さを目の当たりにした君なら想像できるんじゃないかい?」
「……というと、ひょっとして逆らっちゃまずい存在?」
 謙次がおどおどして尋ねました。フェニックスは、
「お? 何かその態度気に入らないね。今すぐ3回土下座し、10回まわってワンと言いなさい。10秒以内にやらなきゃ即死刑ね。いーち……」
 フェニックスに言われるや否や、謙次はすぐにしゃがみ、土下座を始めました。その光景を見るや否や、フェニックスは笑って言いました。
「ははは、冗談だよ謙次」
「フェニックスが言うと冗談に聞こえない」
 とキュリア。
「やっぱり嘘か、フェニックス」
 謙次はため息をついて言いました。
「もちろん。独裁者なのは本当だけど」
「本当なんだ!!」
 謙次は驚きます。いや、でもやっぱりこんなのが独裁者だなんて信じられない。そう謙次が思っていると、キュリアが、
「疑っているようだけど、本当だよ。無理やり力で独裁者になったモンスターなんだ」
「そのとおり」
 フェニックスは自信満々気に言いました。
「国のトップが裏でいろいろやってたり、トップのくせに今の謙次みたいにゆとりの心を持っていたりしたから、僕が無理やり力で独裁者になったんだ」
 さりげなくフェニックスに『ゆとり』と言われた謙次ですが、突然背中がかゆくなってそこらへんを聞いていなかったようです。そんなんで大丈夫か主人公!?
(作者:背中がかゆくなったのは伏線でもなんでもないですよ)
 分かってるって。逆にどういう伏線があるんだよ。


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