キュリアと謙次

66回目〜70回目

66回目
 キュリアは試行錯誤を繰り返し、なんとか修行場である城から抜け出すことに成功しました。
 キュリアたちが修業していたのは城の2階。抜け出すのは困難でしょう。しかしキュリアは、修行のため城に入るとき、城がどのようになっているか、だいたいの間とり、もっといえば脱出ルートを覚えていたのです。そのおかげもあってか、なんとか2人は抜け出すことができました。
 え? なんで脱出ルートを覚えていたかって? それはキュリアが当初、ここからの脱走をしようと思っていたからです。なぜ脱走したかったか? 理由は単純です。『エキサイティングだから』。
 今となっては、キュリアにとって他に『エキサイティング』なことができたようなので、修行場から脱走することをそこまで楽しんでいない様子。しかし、友達であるエルカのため、キュリアはエルカを連れ、奴隷小屋に戻っていきます。
「ねえ、キュリア、四天王が後を付けてきたりしてないよね?」
 心配そうな顔でエルカが尋ねました。キュリアは、
「大丈夫だよ。付いてきてないって」
 そのような嘘をついたのです。実際にこのとき、四天王はキュリアたちの後を付けていますし、キュリアも四天王がこそこそと自分たちの後を付けてきていることを知っています。
 キュリアはなぜ嘘をついたか? 理由は2つあります。1つはエルカのためを思ったからです。もう1つは、『エキサイティング』だったからです。
 そんなこんなで、目的地に着きました。奴隷小屋のある洞窟の入り口です。
 キュリアはエルカに言います。
「じゃあエルカ、ここからなら1人で行けるよね?」
「……え? キュリアは一緒に行かないの?」
「行かないよ。私はあそこで、もっともっと修業がしたいんだ!」
「え? じゃ、じゃあここまで付いてきてくれたのは、わざわざ私のために?」
「そうだね。というわけで、ここでしばらくさよならだね。……またね、エルカ!」
「うん。……あのさ、キュリア」
「ん?」
「……ありがとね!」
「……どういたしまして」
 そんな感じの対話を終えると、エルカは洞窟の奥へと進んで行きました。ここから抜け出す時は、洞窟に明かりがついていなかったため、かなり苦労しました。しかし、今回は洞窟に電気がついているので、エルカ1人で大丈夫でしょう。
「……さて」
 キュリアは振り向き、にっこりと笑っていいました。
「ごめんね、エルカを逃がしちゃって」
 すると、茂みや岩陰など、人が隠れるのに適した場所から、四天王が出てきました。
「……いつから気付いてた?」
 四天王のリーダー格である女性はキュリアに質問しました。キュリアは答えます。
「修業の部屋を出てからずっと」
 四天王のリーダー格は言います。
「……そう。まあ、あいつはあまり才能ないから、私らにとっても都合はいいんだけどね。……ただ、こんな勝手な真似をしてくれたからには、少しおしおきが必要かな?」
 少しじゃないだろ、絶対。まあ、キュリアには無意味だと思いますけど。


67回目
 エルカを逃がしてからも、キュリアは積極的に修業に取り組みました。
 傍[はた]から見たら、ただの児童虐待ですが、キュリアは嫌がるどころか、むしろ好き好んで修業に取り組んでいる様子です。
 そんなキュリアの様子を見て、リーダー格の女性はキュリアの寝室を移し替えました。
 以前は四天王と同じ部屋で寝ていましたが、ここから魔法関連の本がたくさん置いてある部屋に移し替えられました。ここでの修業は主に魔法の修行なので、こういう本をたくさん読め、ということでしょうか?
 ここに寝室を移し替えられた当初は、キュリアはほとんど寝ませんでした。なので、しばらくすると四天王たちは、12:00までには電気を消すよう、キュリアに言いつけました。まあ、キュリアは当時6,7歳なので、あまり夜更かしをさせるべきでないという、四天王なりの配慮でしょうか。
 言いつけられたからには、キュリアは言う通りにしました。……ただ、四天王の言う通り、電気を消すだけで、キュリアは『どんな明るさでも周りが普通に見える』能力を使って、結局夜更かししていたのです。


68回目
 それから約2,3年が経過してからのことです。キュリアは9歳。
 平和活動をし始めたフェニックスがこの国に目をつけ、戦争をおっぱじめました。この国の戦闘要員は、四天王を始めとする兵士約100人。対してモンスター王国側は、国王であるフェニックス1人(匹?)のみ。
 兵士100人とはいえ、皆戦闘機やら兵器やらが充実しているため、丸腰の弱い兵隊などではありませんでした。ましてや四天王もいるため、丸腰のフェニックス1人(匹でも羽でもなんでもいいや)なんかが飛び込んだところで、かなうはずが……
 ありました。結果は、南エジプト第13帝国の惨敗です。この圧倒的戦力差をものともせず、しかも敵兵に1人の死者も出さなかったというように、このころからフェニックスの強さは異常だったのです。
(作者:ただ、このころはフェニックスが最強ではなかったんですけどね。ちなみに、戦闘気に乗ってる人は、戦闘機のコックピットを破壊し、操縦士を救出してから戦闘気を破壊していました)
 ってか、このころフェニックスいたんだな。……フェニックスって何歳?
(作者:キュリアよりも6歳年上だから、当時15歳、現在50歳かな)
 年食ってるなあ。……まあいいや。
 フェニックスが戦争に勝ってくれたおかげで、子ども奴隷は解放され、国民には大量の知識が行きわたることになりました。おかげで、この国の悪い風習に浸る国民はいなくなりました。
 ただ、キュリア1人だけを除いて。
 キュリアは『子ども奴隷』ではなくなってたので、いまだ四天王たちと修業していました。キュリアは、戦争があったことすら知らされておりませんでした。なので、これからも四天王たちと修業を続けることになったのです。
 ただ、戦争と一切関係ありませんが、このころキュリアにも1つの変化が起こっていました。
 キュリアは主に、風属性魔法の修業をしていました。火・水・風・地・雷の5つの主要な属性の中で、キュリアが一番得意としていたからです。また、風属性の魔法はリーダー格の十八番でもあったからということもあるでしょう。
 しかし、このころキュリアは、『エキサイティング』な属性の本を見つけてしまったのです。
 その属性の魔法は、火とか風とか雷とか、そういうものを使うことなく、ただ効率的に相手を傷つけるという、恐ろしい魔法なのです。
 キュリアはこの属性の魔法を、四天王にバレないように、夜の時間だけで勉強していました。
 その属性とは、……闇属性!!


69回目
 キュリアが修業を始めて約5,6年、珍しいことに四天王たちはキュリアの12歳の誕生日を祝ってやろうと言うのです。
 どうやら、四天王たちが何か企んでるわけでもなく、四天王たちは気持ちを込めて祝ってやろうとしているみたいです。
(作者:ホントですよ。イノブンは作者じゃないから、たまに間違ったこと言うかもですけど、今回はイノブン嘘言ってませんよ)
 たまに間違ったこと言ってるって、え? たとえば?
(作者:それは言えない)
 なぜ!?
(作者:読者の方にも間違えていただきたいからですよ。イノブンの言ってることはわずかに嘘が混ざっていますが、わざと嘘をついているわけでなく、情報を取り間違えているだけなので、一切問題ありません)
 嘘が混ざっているって、どのくらい?
(作者:うーん、……ぱっと思い浮かぶのは1つかな)
 今までに?
(作者:うん。『キュリアは悪魔である』という嘘を除いて1つ)
 それだけしかなかったのか。なら安心だな。
(作者:うん。まあ、僕の思い浮かぶ範囲でですが。というわけで、読者のみなさん、安心してイノブンの発言を信じてください。その方がこっちも都合がいいんです)
 別にイノブンが嘘をついてるわけじゃありませんしね。むしろ、作者が読者を騙していることになるんじゃ?
(作者:僕が考えた裏設定を、イノブンが間違えて言っているだけなので、騙してるわけじゃありませんよ。どの作品にも裏設定というのがあるでしょう)
 まあ、……ならいいか。
 えー、前置きが長くなりましたが、キュリアは四天王たちから誕生日を祝ってもらえるそうです。
(作者:祝ってやる)
 作者は無視して。それで、キュリアは言うんですよ。
「じゃあ、私から四天王のみんなに、やってもらいたいことがあるんだ!」
「へえ、何だい? 言ってみなよ」
 リーダー格はキュリアに問いかけます。すると、キュリアは笑顔で答えました。
(作者:僕と契約して、ま……)
 言わせねえよ!! 何がしたいんだ、お前は!?
 気を取り直して、キュリアのセリフをどうぞ。
「私とデスマッチしてよ!」
 ……え? おい作者、お前キュリアの声マネて何か言った?
(作者:いいや? 強いていえば、『末永く爆発しろ』と)
 お前はさっきから何を言っているんだ?
 でも、そうなると今のは本当にキュリアの発言!? 誕生日祝いに四天王とデスマッチしようぜとか、何言っちゃってんのこの子!?
「……いいよ。やろうか」
「ちょっと!! リーダー!?」
 リーダー格の発言を聞き、四天王の一人が突っかかりました。
 リーダー格は言います。
「いいじゃないか。私らにたてついたこと、ひどく後悔させてやろうじゃないか。こっちは4人がかりだし、殺されるわけがないだろう。……もちろん、デスマッチとはいえキュリアを本当に殺しちゃだめだぞ?」
「……なるほど。それはいい考えだ」
 リーダー格に突っかかった人が言いました。


70回目
「じゃあ、どっからでもかかってきていいよ!」
 キュリアは笑顔で言いました。
 これを聞いたリーダー格は言い返します。
「おいおい、私らはお前の師匠だぞ? その師匠が4人いて、弟子1人相手から先手を奪うなんてのは、いくらなんでもひどい話じゃないか? そっちからかかってきなよ」
「うん、じゃあそうするね」
 キュリアはそう言うと、両手を前に突き出し、その魔法の名前を言います。
「『ダークドーム』!」
 すると、キュリアの手から黒い大きな球体が出現しました。
「なっ!? 何だあれは!? どういうことだ、キュリア!?」
 四天王のうちの1人が言いました。
 黒い球体は、みるみる大きくなっていき、すぐに部屋全体を覆ってしまいました。
「『どういうことだ』って?」
 先ほどの四天王の問いに、キュリアは答えます。
「こういうことだよ!! 『ファントムゲイル』!!」
 部屋は暗くて何も見えませんが、その部屋に黒い真空波がいくつも生まれ、四天王たちを傷つけていきました。
 しばらく4人の悲鳴が続きましたが、真空波が消え、リーダー格は弱々しい声で言います。
「おい、……お前たち、……生きているなら返事をしろ」
 しかし、しばらくしても返事はありませんでした。
「他の3人はもうピクンともしていないよ?」
 キュリアは明るい声で言いました。
「……お前」
 リーダー格は声を低くして言いました。
「一体なぜこんなことを……。私たちが何かお前にひどい仕打ちでもしたというのか?」
 してたじゃん。
(作者:思い切りしていましたね)
 しかし、キュリアはこう言いました。
「いいや」
「じゃあ一体なぜこんなことを!?」
 リーダー格は大きな声で聞きました。ただ、相当な傷を負っているせいか、声を発してから痛そうにして体をすくめました。
 キュリアは、そんなリーダー格に近づき、手のひらを向けました。そしてその手のひらから、黒くて複雑な形をした物体が出てきました。
 リーダー格の断末魔を聞く前に、キュリアは笑顔で明るく、リーダー格の『じゃあ一体なぜこんなことを!?』という問いに答えてあげました。
「エキサイティングだから」


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