キュリアと謙次

56回目〜60回目

 晩ご飯の時間です。晩ご飯のメニューはどんな感じかと言われましても、普通の子どもが食べるような晩ご飯を想像してください。言うまでもないと思いますが、実際の奴隷の身分の人が食べるような粗末なスープとかじゃないです。おいしいコーンスープはありますが。
 みんなで手を合わせて、ごちそうさまを言ったその時でした。
 キュリアが椅子からすぐに立って、出口っぽいところに猛ダッシュし始めました。それを見て見張りたちはあわててキュリアを追いかけます。
 まあ、このころのキュリアは全然強くないんで、大人が全力出して追いかけたら、当然つかまってしまいます。
(作者:しかし、なんとキュリアは、そんな絶望的な状況にもかかわらず、見張りたちを振り切って、運良く逃げることが……!!)
 できませんでした。当たり前です。
(作者:ですよねー)
「おいこら新入り、脱走なんかしたらダメだろ」
 キュリアを捕まえた見張りはおだやかに言います。
「お前は入ったばっかだから許してやるが、ここから逃げ出そうとするとロクなことにならないぞ。さっき牢屋の中に泣いてる奴いただろ? あいつは脱走しようとして、鞭で打たれて泣いていたんだぞ? 鞭は痛いぞ〜、おしりぺんぺんの何倍も痛いぞ〜」
 うん、こいつ見張りに向いてなくね? イノブン聞いてて、子どもの世話するのが得意そうな人にしか思えない。
 しかし、キュリアは言い返します。
「それはさっきみた。だから鞭打って」
「……は?」
「そうなること知ってる。だから打てよ」
 キュリアは無表情で言います。
 見張りの人は困惑します。すると、キュリアを捕まえた見張りよりも偉そうな見張りが出てきて言いました。
「面白いじゃないか。……いいだろう、そこまで言うなら鞭打ちだ。もう脱走しようなどどは考えられなくなるぞ?」


57回目
「ただいまー。やっぱり全身がヒリヒリするね」
 鞭打たれたキュリアが奴隷小屋に戻ってきました。キュリアは宣言通り、泣いていません。むしろ、笑顔です。
(作者:この笑顔、守りたい)
 いや、ここまで来るとお前が守ってもらう側になる気がする、うん。子どもならそこは泣いとけよって感じだな。
「だ、大丈夫、……なのか?」
 ためしに脱走してみろと言った子どもが尋ねました。キュリアはケロッとして
「え? 何が? ……ただ痛いだけじゃん」
 痛いだろうから訊いてるんだよ!!
「……でも、脱走するのって結構エキサイティングだね」
 キュリアが何か言い始めました。えっと、子どもの足ではどうやっても捕まる上に鞭打ちの刑が待ってるのに、エキサイティングだと?
「よし、これから毎日やってみよう!」
 ……何か、嫌な予感がするのはイノブンだけでしょうか?
 ちなみにこのあと寝るまで自由時間なので、他の子たちがキュリアと遊ぼうとします。しかし、キュリアはよくわけのわからない言動をします。たとえば、しりとりをしていると、
「りんご」
「ゴリラ」
 と回ってきたのに対し、キュリアは
「ら……、ら!!」
 と、こんなことを言い出すのです。
(作者:今イノブンが言ったことがよくわからないという人のために解説しますと、キュリアは『ゴリラ』に対し、『ら』で対応したのです)
 うん、まあよくわかりませんよね。他の子どもが『意味分からない』と言っているのに、キュリアは『ら』を主張しつづけます。
 あとは、おにごっこのとき、キュリアが鬼のときに逃げたりするなど、まあわけのわからない行動を取りました。


58回目
 キュリアが奴隷小屋に入った翌日、
「……ああ、どうしよう」
 キュリアはとても困っている女の子を見つけました。よく見ると、その女の子は昨日、キュリアに脱走した男の子のことを話してくれたエルカでした。
「どうしたの?」
 キュリアは尋ねます。エルカが言うには、えーと……、どうやら他の奴隷たちの成果を台無しにするようなミスをしてしまったようです。詳しくは作者にどうぞ。
(作者:……まあ、とにかく重大なミスをしたんですよ。ええ)
 ……お前、こういう仕事でどういうミスがあるのか知らないからって、いくらなんでもそれは投げやりすぎじゃないか?
(作者:でも、それについて調べてると、今日は絶対更新できないし……)
 ……まあ、先に進めるか。無駄な議論は時間の無駄だな。
 ともかく、エルカが重大なミスをしたようです。エルカはおびえながら言います。
「もしかしたら、キュリアちゃんみたいに鞭で打たれるかも……」
 キュリアは首をかしげて訊きます。
「そんなに鞭で打たれるの嫌なの?」
「あたりまえだよ! 痛いじゃん! ……鞭で打たれたことないけど」
 打たれたことないのに、よく痛いなんて言えるな!!
(作者:想像できるだろ。第一これ、6歳同士の会話だぞ?)
 キュリアは尋ねます。
「痛いの嫌なの?」
「嫌だよ! 絶対嫌だよ……!」
 エルカはそう言って泣いてしまいます。キュリアは
「……ふぅん」
 と一言いっただけでした。
 時間があまり経たないうちに、見張りの人がやってきました。
「うわ、誰だ!? こんなことをやったのは!!」
 見張りの人が言うと、キュリアが、
「私だよー。ごめんぴー」
 と訳の分からない返答をしました。
「……え?」
 突然のことに、エルカは呆然とします。
 キュリアがエルカの罪をかぶった結果、キュリアは鞭打ちどころか、一切体罰を喰らわず、ただ長い時間怒鳴られていただけでした。
 キュリアはクオリア障害のためか、見張りの人の問いに、訳の分からない返答ばかりしていました。しばらくすると、見張りの人はその応答に疲れ、去って行きました。
「体罰、くらわなかったよ?」
 キュリアがエルカに言いました。エルカは、
「なんで……」
 おどおどしながらキュリアに訊きます。
「なんで、私をかばったの?」
「え? なんでって、だってエルカ、とても嫌そうにしてたもん」
「……え?」
「私は痛いのへいきだから、代わってあげようと思ったんだ」
「……私のことを考えてくれたんだ。ありがとう、キュリア!!」
 このことをきっかけに、キュリアとエルカは仲良しになっていきます。
 なお、この日の夕食後もキュリアは脱走しようとして捕まりました。それ以後も、ずっと夕食が終ると、キュリアは脱走しようと試み、捕まります。


59回目
 この日もキュリアは夕食後に脱走を試み、捕まりました。
 見張りは鞭を打ちながら、弱々しい声でキュリアに言います。
「なあ、もういい加減、脱走できないのは分かったろ? 頼むからこんなことはもうやめてくれよ。……俺たちは子どもが好きだから見張りになったんだ。だから、本当はお前たちみたいな子どもに鞭を振るいたくなんかないんだ」
「じゃあ無理に鞭を振るわなくていいよ」
 キュリアは言いました。見張りは反論します。
「振るわなくていいなら振るってないさ。だが、上からの命令で、脱走だけはこうせざるを得ないんだよ」
 へえ。でもどうして脱走だけなんだろ?
(作者:それは僕の方から言いましょう)
 お前、よく出てくるな。
(作者:むしろ作者が出ない小説の方が少ないだろ?)
 まあ、地の文として作者が出てくるものが多いのは事実だが、なんでだろう、お前は出てきてはいけない存在なのに出てきているような気がする。
(作者:そんなの気のせい。イノブンがそう思うのは、お前が地の文をやっているからだろう)
 そうか?
(作者:そうそう。まあそれはさておき、なぜ脱走だけがいけないのかを説明しましょう)
 おう。
(作者:まず、この国の国民は、あまり教育を受けていませんが、どうしてでしょうか?)
 え? それは国に対して反抗したりしたら貴族が困るからだろ?
(作者:そのとおり。このようにこの国は、国民が国への対抗心を持たないようにさまざまな工夫をしているわけです)
 まあ、国民が反抗したら、この国のシステムは成り立たなくなるみたいだしな。……イノブンもあまりよくわかっていないけど。
(作者:ここでクエスチョン。脱走は国に対する反抗である。○か×か)
 なるほど、そういうことか。国に対する反抗の一種だから、脱走は簡単に許されないのか!
(作者:……できればクエスチョンに答えてほしかった)
 できなかったからしょうがない。ともかく、そういうことだろ?
(作者:まあね。奴隷小屋からの脱走は、明らかにこの国への反抗ですから)
 ちなみに、作者の説明に納得のいかない方はコメント欄までどうぞ。でも、どうせこの作者のことだから、論理に穴の1つや2つあってもおかしくはないんですけどね。
(作者:おいこらイノブン!)
 なんだ? イノブンが何か間違ったことでも言ったか?
(作者:ああ。僕の論理の穴が1つや2つで済むはずがない!!)
 それを自分で言うか!?
(作者:とまあそういうわけですので、本編をお楽しみください)
 無理やり戻したな、まあいい。
 鞭打ちの刑を受けたキュリアは、とぼとぼと奴隷小屋に戻って行きました。
 ただよ〜く見ると、このときのキュリア、なんか嬉しそう。
 またよ〜く耳をすませると、キュリアから、チャリン、チャリンという小さな金属音が聞こえます。


60回目
 その日の夜、みんながもう眠っている時間に、キュリアはエルカをゆすって起こしました。
「ん……、なに、キュリア?」
 エルカは大あくびをしながら言いました。それもそのはず。いつもならスヤスヤと眠っている時間帯なのに、無理やり起こされたのですから。
 エルカの意識が徐々にはっきりしてきます。するとエルカはキュリアの持っているあるものに気付きました。
「え!? ちょっと!! キュリアそれ……」
 キュリアは大声を出すエルカの口をあわててふさぎます。え? なぜって? それはみんなに起きてもらってはまずいからですよ。
 だってキュリアが持っているもの……、それは、この奴隷小屋の鍵なのですから。
「しー……。静かに、エルカ」
「キュ、キュリア、キュリアはどうしてそんなものを持ってるの?」
 エルカは小声で尋ねました。キュリアは答えます。
「私ね、毎日鞭打ちされてるよね。そのときずっと、この鍵を奪うタイミングを待っていたんだよ。それでね、今日ようやくスキができて、この鍵を見張りさんから奪うことができたんだ」
 キュリアって、この時6歳ですよね? あれ? 6歳児って、こんなに頭よかったっけ?
(作者:キュリアはクオリア障害ですが、頭はとってもいいのです)
 なるほど。……あれ? クオリア障害って、精神障害じゃなかった?
(作者:まあ、そうなんですけど、ちょっと変わった精神障害でして……、クオリア障害と頭の良し悪しはあまり関係ないのですよ)
 へえ。まあとにかく、キュリアが天才であるおかげで、キュリアは上手く見張りから鍵を奪うことに成功したわけです。
 キュリアはエルカに言います。
「それでね、今から私、脱走しようと思うんだけど、エルカも一緒に行かない?」
「え!? でも捕まったら鞭打ちだし……」
「私、今回は自信あるんだけどなぁ。まあ、エルカが脱走したくないならいいや」
「脱走はしたいけど、……鞭打ちは嫌だし」
「どうする? 早く決めてよ」
「うぅ〜……、うん、行くよ私。キュリアと一緒に脱走する」
「よし、そうと決まればさっそく脱走だね」
 キュリアはそういうと、エルカを連れて静かに奴隷小屋の鍵穴に近づいて行きました。


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