キュリアと謙次

36回目〜40回目

36回目
「……にわかに信じがたいね」
 謙次の説明を聞いて、キュリアは言いました。
 それもそのはず。先ほどまで、謙次に妙なことを吹きこんでいたのに、キュリアが来たら突然消えてしまうなんて、とても信じられないでしょう。
 それでも謙次は必死に信じさせようとします。
「でも、この世界には魔法があるんだろ!? もしかしたらソイツ、姿を消す魔法を使ったりしているんじゃ……」
「確かに、魔法で姿を消すこともできるよ。……だけど、それだけだとその悪魔のようなのはこの部屋に残っていることになるよね?」
「ああ。そうなるな」
「私は風の魔法でこの部屋中にある物体の位置を把握することができるから、姿を隠すぐらいじゃあ私に気付かれるんだよ」
「へえ、そんなことができるんだ」
「うん。風を部屋中に漂わせて、ものの感触を確かめることができるんだよ。だから、私に気付かれずにこの部屋から消えるとなるとなぁ……」
「……やっぱり、こんなこと言っても信じてもらえないか」
「いや、謙次の言うことが嘘だとは思っていないんだけど」
「え?」
 今の話を聞く限り、キュリアは謙次の発言をあまり信じていないように思えるんですけど。
「前にも言ったけど、私は人の言っていることが嘘か本当かを見抜けるんだよ」
 そういえばそんなことも言ってましたね。確か、キュリアみたいに強い人だと、相手の行動を先読みできる人が多いと。そして、その『先読み』というのは相手の顔を見て、相手が次にどういう行動をするのかを相手の顔から読みとることであると。さらに、先読みができれば人の言っていることが本当か嘘かを見抜けると。
「だから、私には謙次の言っていることが本当だって分かるんだよ。……ただ、逆に謙次の言っていることが本当だから、心配なことがあるんだ」
「え? それはどういうこと?」
「さっきも言ったけど、姿を消すとかそういう方法だと、この私から逃げることはできないんだよ」
 ずいぶん自信満々に言うなぁ、キュリア。
(作者:まあ、それなりに実力がありますしね)
「でも、私から逃れる方法が無いわけじゃないんだよ。その方法のうちで、一番考えられるのが……、時空系魔法だね」
「なっ!?」
 謙次は驚きました。謙次をこの世界に連れてきた方法として一番考えられるのも時空系魔法ですし、先ほどいた小悪魔っぽい生き物デビルも時空系魔法を使った可能性が高いだなんて。もう謙次をこの世界に連れてきた犯人はデビルで確定なんじゃないですか?
「そういえば謙次、その悪魔の姿をした変なモンスターって自分の名前を名乗ってたりしない?」
 変な『モンスター』、……まあ、悪魔の姿をしていればモンスターになるんですかね?
「さあ、名乗ってなかった気がするなあ」
 思い切り名乗っていただろうが!! 前回を読みなおせ貴様!!
(作者:いきなり現れた上、キュリアのことを悪く言いながらさりげなく名乗ったから、謙次はデビルの名前を覚えられなかったんですよ)
 そうか……? 姿と名前が合致しすぎている気がするんだが。
「……まあ、こんなことがあったからと言って、その悪魔みたいなモンスターも今はいないし、証拠も何も残っていないし、心配するだけ無駄だね。そんなわけで昼ごはんにしようか、謙次!」
 と明るく言うキュリア。お前明るすぎだろ! 謙次の身に危険が迫っているのに!
 そんなわけで、謙次とキュリアは部屋を出て行きました。
『……ククク』
 あれ? 今キュリアたちが出て行った部屋から声が聞こえたような……。


37回目
 ランチタイムの時間がやってまいりました。さて、今日の昼ごはんは!?
 って、謙次はもう食べ終えちゃってましたよ。あいかわらず謙次は食べるの早いですね。ひょっとして謙次、早食い選手権に出れるんじゃないですか?
(作者:食べる早さだけだったらね。食べる量がなんとかなれば出れると思うよ)
 というと、謙次は小食なのか?
(作者:小食というほど少なくはないよ。むしろたくさん食べる方だけど、ほら、早食い選手権に出てるような人って、早いだけじゃなくて大量にいろいろ食べるじゃないですか)
 つまり、早食い選手権に出れるほど、謙次はたくさん食べないということか。
 とまあ、そんなこんなで先に食べ終わってしまった謙次はおとなしくキュリアが食べ終わるのを待っているわけです。
 キュリアが食べ終わるまで黙っているというのもただヒマになるだけなので、謙次は少し気になっていたことをキュリアに聞きます。
「そうだキュリア。ちょっと気になっているんだが、お前の家の2階にある宝石、あれは何なんだ?」
 そんなものがあるんです。改めてキュリアの家の2階にあるものの説明をしましょう。まず、階段を上がってすぐ右側の角には、なにやら台座の上に赤・橙・黄・緑・青・藍色の6つの色の透明な石が並べられてました。そして階段がある壁とは反対側の壁のそばに、テレビやテレビゲーム・トランプなどが置いてありました。また、階段を上がってすぐ左側をみると、4段の本棚があります。まあ、そのうちの1段目だけ本が埋まりそうで、あとの段には1冊も本が入っていないという状態ですが。
(作者:余談ですが、今のイノブンの発言は前のある部分をコピペしただけなので、すごい楽につくれました)
 まあとりあえず、そのキュリア家の2階にある『6つの色の透明な石』は一体何なのか? ということを謙次は聞いたわけです。謙次の問いに対し、キュリアは、
「ああ、あの石、あれはね……儀式のために必要なんだよ」
「儀式?」
「うん。あの石を赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色集めると、ある儀式を行えるんだ」
 キュリアは声を低くして言いました。小さくではないですよ、低くですよ。これは、何かありげな感じですね。
「その儀式って?」
 謙次は尋ねます。キュリアは、
「その儀式はね、生贄1人の命と引き換えに、強大な力を得る儀式なんだよ」
 キュリアの発言に、謙次は驚きました。
「……その生贄って?」
 謙次はおそるおそる聞きました。それに対するキュリアの答えは、
「私の目の前にいるじゃん」
 やっぱし!! というかこれ、急展開すぎだろ!!


38回目
 謙次は突然すぎる事実に、自分はどういう行動をとればいいのかを決められずにいます。
 迷っていると、キュリアは突然、プ、と笑いをこぼしました。ついには、大声で笑い出しました。
「あはははは!! なーんてね!! どう謙次? おもしろかった? 私の渾身のギャグ!!」
「……ギャグ?」
 謙次はきょとんとして言いました。
「このネタ、マリエルにやっても、ガイにやっても、あまりウケがよくなかったんだけど、普通におもしろいよね? あはははは!」
 キュリアにそう言われても、謙次は動揺することしかできません。
「……えっと、キュリア? 一体どういうことなんだい? ……つまり、今のは、……その、生贄の儀式って言うのは……?」
「え? だからただのギャグだよ! まったくの作り話!」
 笑いながらキュリアは答えます。しかし、謙次が笑わないでいると、だんだんとキュリアの笑い声が小さくなってきました。
「あはは……、あれ? 謙次、もしかして、あまり面白くなかった?」
 キュリアの問いに対し、謙次は
「……面白くないというか、……普通に身の危険を感じたんだけど?」
 それを聞くなり、キュリアは絶句し、『orz』のポーズをとって落ち込みました。
(作者:分からない人のために補足しますと、oが頭、zが足です)


39回目
 キュリアが落ち込んでから立ち直るまで、しばし時間がかかりました。その間、謙次はあることを考えていました。
 キュリアがだいたい立ち直ってきて言いました。
「さて、こんなことで落ち込んでいても意味ないし……」
 当たり前だ。キュリアは続けて言います。
「そろそろ食器も洗わないとなぁ」
 すると謙次は、
「なあ、キュリア」
「ん? 何、謙次」
「えーと、お前が食器を洗っている間、先に家に戻ってゲームしてていいか? 俺弱くて、お前に迷惑かけてるし」
 何を言い出すんだこの居候は。
「いいけど……」
 キュリア、お前も甘やかしすぎだろ。
「でも、一人になると危ないんじゃないかな? もし謙次の言ってた悪魔のようなモンスターが謙次をこの世界に連れてきた張本人だとしたら、謙次は何されるか分からないよ」
 キュリアの言葉を聞いて、謙次は唾をのみました。そして答えます。
「ああ、分かってる」
 分かってて言ってるのかよおい! 死ぬ気でゲームするのか!!
「……危険だと分かっていて行くんだね? 私は謙次の身に何があっても責任取れないよ?」
 キュリアが真剣な顔つきで答えます。
「……分かってる」
 かなり弱弱しく、謙次は答えます。本当に大丈夫か、コイツ。
「……分かった。連れていくよ」
 連れて行くのかい!! コイツはゲームしたいだけだし、一人にすると危険なんだろ!?
 キュリアは続けて言います。
「まあ、どうせ時空系魔法を使えるようなのが犯人だとしたら、私なんかで太刀打ちできないしね」
 時空系魔法が使えるのは、超上級者だもんな。


40回目
「じゃあくれぐれも気をつけてね」
 キュリアは謙次を家に連れていくと、そう言い残して食器洗いをしに行きました。
 誰もいない家の中で、謙次は言いました。
「おい、さっきの悪魔みたいなの、いるか?」
「悪魔みたいなのとはなんだ、謙次」
 謙次の背後に、そいつはいました。
 さっきからずっと、あたりを見回すために回ってあちらこちら見ていたのですが、謙次から見えない部分に突然ひょっこりとそいつは現れたのです。
 そいつ、……すなわちデビルは言いました。
「俺には一応デビルという名前がついているんだぜ? さっき名乗っただろう?」
「……名乗ったっけ?」
「名乗ったよ!? 俺ちゃんと名乗ったよ!!」
「しかも、デビルって悪魔のことだろ? 見た目がそれで名前もそれだと、キュリア以前にお前が悪魔じゃねえか」
「うるさい、これが本名なんだ!! 今でもこんなDQNネームをつけた親を若干恨んでいるさ!!」
 なんか少し、デビルがかわいそうになってきましたね。ちなみにDQN[どきゅん]ネームとは、最近の馬鹿な親が自分の子どもにつける、ひどい名前のことです。なかなかひどいので、興味がある方は『DQNネーム』で検索してみてください。
 デビルは自分を落ちつけて言いました。
「まあ、俺の名前はいいとして、あいつは悪魔だ。それを示すのにいいものがある。謙次、ちょっと2階に行こうか」
「2階に? いいけど」
 デビルに誘われるまま、謙次は2階に行きました。
「ほら、階段を上がってすぐに、何かよくわからない台座があるだろ?」
 デビルの指さすところには台座があって、その台座の上には6色、赤・橙・黄・緑・青・藍色の透明な石が1個ずつ置かれていました。
 謙次は答えます。
「あ、ああ。一体何なんだ、この石は? キュリアはよくわからない冗談を言っていたんだが、この石の実体は聞きそびれたんだ」
「冗談? キュリアがどんなことを言ったんだ?」
「えーと、確か……」
 謙次はさきほどのキュリアの冗談とやらをデビルに説明します。
 あれ? そういえば謙次って、ゲームしにきたんじゃないの?


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