キュリアと謙次

206回目〜210回目

206回目
(壁があるから『ブラッディレイ』は効かない。『グレイヴスラッシャー』を使えば、壁を巻き込んで破壊され、私に反撃が襲いかかる)
 キュリアはもう手詰まりなのでしょうか?
「だったら、『ブラックトルネード』!!」
 いえ、まだこの魔法がありました!
 アテラスの足元で、漆黒の風が渦巻きます。そしてすぐに、その風は大きな竜巻へと変化しました。
(この魔法なら、壁に邪魔されず、アテラスを直接狙うことができる! これでどうだ!?)
 しかし、そんなキュリアの期待はすぐに打ち砕かれました。なんと、竜巻がヘドロの壁を巻き込み、重みのためか止まってしまったのです。竜巻と似た形状のヘドロを残して。
 そして、そのヘドロはキュリアに向かって飛んできました。さすがに飛んでくることは予想できていたようで、キュリアは上手くそれを避けることができました。
 さて、キュリアが最近使っていた魔法はすべて出尽くしました。
 キュリアは他にいい手がないか、考えます。しかし、考えている最中に地面からヘドロが襲ってきたり、
「『ブラッディブラスター』!!」
 アテラス自身が魔法で攻撃してきたりして、ちゃんと考える時間が作れません。
(このままじゃ、いずれヘドロに飲み込まれて負けてしまう!)
 そう考えたキュリアは、ある結論にいたりました。
「仕方がない、奥の手を使おう」


207回目
「奥の手?」
 アテラスは、キュリアの言葉を聞いて首をかしげます。
「うん。奥の手。本当は使いたくなかったけど、なるべく安全には配慮するよ」
 安全? つまり、使うと危険な手なのでしょうか。
 キュリアは言い終わると、両手の平をアテラスに向けました。
 すると、キュリアの手の平のすぐそばで、黒球が大きくなっていきます。
(黒球? なんか、この魔法って、『グレイヴスラッシャー』に似てるわね)
 アテラスがそう思っていると、キュリアはその魔法の名前を叫ぶと同時に、アテラスに向けて放ちました。
「『グレイヴスラッシャー』!!」
「っておい!?」
 これはアテラスもノリツッコミせざるを得なかったのでしょう。先ほど、使っても無駄だということを証明された『グレイヴスラッシャー』を、奥の手と称して使ってきたのですから。
(作者:204回目の話ですね。その回では、『グレイヴスラッシャー』がヘドロを巻き込み、ヘドロに負けて破壊された揚句、『グレイヴスラッシャー』を破壊したヘドロがキュリアに向けて反撃しました。つまり、使うと無駄打ちになるだけでなく、さらに敵からの反撃を受けることになるわけです)
 当然、今放たれた『グレイヴスラッシャー』も、ヘドロを大量に巻き込んでいきました。
 しかし、当然でないのはここからです。
 今放たれた『グレイヴスラッシャー』は、大量のヘドロを吸って徐々に巨大化していき、その上きれいな球形を保っています。以前放たれた『グレイヴスラッシャー』と違い、壊れそうな感じは全くありません。
 そのまま『グレイヴスラッシャー』はアテラスのすぐ前に迫りました。アテラスは急いでヘドロの壁を作りました。
(作者:ヘドロの壁を『作った』というより、自然にヘドロの壁が『できた』という方が正しいですけどね。『ベルベンドロウ』はある『法則』を持っている呪文です。アテラスの意思をある程度反映しますが、攻撃や防御はほぼ自動で行ってくれます)
 壁ができたはいいですが、『グレイヴスラッシャー』はそこに何もなかったかのごとく、簡単にヘドロの壁を破壊して進んでいきます。
 そしてついに、アテラスと『グレイヴスラッシャー』との距離が30cmを切ろうとします。
 その時でした。
「ぐあっ!?」
 突然アテラスの腹部を激痛が襲いました。アテラスは自分の腹部を見ると、赤いレーザーが貫通していました。『ブラッディレイ』です。
 そして、今度はアテラスの足元で、黒い風が渦巻き出しました。おそらく、『ブラックトルネード』でしょう。
 今の『ブラッディレイ』のせいか、目の前に迫っていた『グレイヴスラッシャー』は壊れたようです。
(ならばもう目の前を守る必要はない! 今すぐ体全体の防御を!!)
 そうです。速くヘドロを集めないと、キュリアの『ブラックトルネード』を喰らってしまいます。
 しかし、『ベルベンドロウ』が行ったのは、アテラスの防御ではなく、キュリアへの反撃でした。
(作者:先程も言いましたが、ベルベンドロウ』はある『法則』を持っている呪文です。攻撃や防御はほぼ自動で行ってくれますが、アテラスの思い通りに動かないこともあるのです)
「しまっ……」
 時すでにお寿司。『ブラックトルネード』はヘドロに阻まれることなく、アテラスを襲いました。


208回目
 さて、前回の『グレイヴスラッシャー』はなぜかヘドロを吸いこんでも破壊されず、安定していました。一体どういうことなのでしょう。
 実は、前回の『グレイヴスラッシャー』こそが、キュリアの真の『グレイヴスラッシャー』だったのです!
 『グレイヴスラッシャー』の周囲の風は、黒球周囲の相手に小ダメージを与えるだけではなく、黒球が球形を保つ作用も行っているのです。『グレイヴスラッシャー』の持つ引力も、球形を保たせるためにあります。
 風と引力によって安定化した黒球は、安定化されてない状態の黒球に比べ、数倍の威力を持っています。
(作者:え? 安定化しただけでなんでそうなるのかって? 某忍者マンガの主人公が使う必殺技を知ってる方は想像できるはずなのですが)
 おいこら。
 ただし、この『グレイヴスラッシャー』には1つ問題点があります。それは、あまりに高威力なので、キュリアと同じぐらい強い相手に当ててしまうと、相手が死んじゃうんです。
(作者:『グレイヴスラッシャー』! 使うと相手は死ぬ!)
 今行っている戦闘は殺し合いじゃないですし、第一キュリアが誰かを殺したとなると、フェニックスがキュリアを抹殺しにかかるでしょう。
 しかし、この『グレイヴスラッシャー』を使わなければ、ヘドロの壁は破れないでしょう。だから、キュリアは『奥の手』として使ったのです。
 もう一度言いますが、この『グレイヴスラッシャー』を使った目的は、ヘドロの壁をなんとかすることです。だから、ヘドロの壁がなんとかなった時点で、キュリアは『ブラッディレイ』を放ち、『グレイヴスラッシャー』を自分の手で破壊したのです。
 そのあとすぐ、『ブラックトルネード』で追い打ちをかけましたが、『ベルベンドロウ』がキュリアに反撃をしかけようとしなかったら、おそらく『ブラックトルネード』は防がれていたでしょう。キュリアもそこまでは考えていませんでした。
(作者:『ブラックトルネード』が直撃したことで、アテラスの敗北が決まりました。これにてキュリアチームVSアテラスチームの戦闘は、キュリアチームの全勝で幕を閉じました)
 うん。……え? キュリアもう勝ったの?
(作者:うん。そだよ)
 イノブン思うんだけどさ、『ブラックトルネード』ってただの黒いだけの竜巻じゃん。この魔法がどうして決め手になったのさ?
(作者:それは、『ブラックトルネード』が闇属性魔法だからです)
 闇属性って、そんなに強いの?
(作者:まあ、強いかどうかは使い方によります。確かに、闇属性は火とか風とか雷とかと比べて、どんな力で相手にダメージを与えるのか、想像しにくいですよね)
 だな。
(作者:でも、闇属性が一番単純なんですよ。闇属性の魔法は、あるエネルギーを使った魔法です。そのエネルギーの役割は、人や物にダメージを与えることなんです)
 え? どゆこと?
(作者:たとえば、『ブラックトルネード』のような黒い風で手をあおられると、それだけで手がめちゃくちゃ痛み出します。外傷はほとんど目に見えないのですが、皮膚も肉も骨もダメージを負っていて、痛いのです)
 うわぁ、なんかえげつなさそう。
(作者:今の説明でよくわからなかった方は、『闇属性は純粋にダメージを与えるだけの属性』と考えて下さい。雷属性は魔力を電気に変換してダメージを与えますが、闇属性はその変換過程がないのです)
 え? さっき、闇属性の魔法はあるエネルギーを使った魔法って言ってたことない?
(作者:……まあ、変換過程があってないようなもので、それだけ効率がいいのです。闇属性の魔法は、ただ純粋に、相手にダメージを与えることに特化した魔法なのです)
 なるほど。


209回目
「……さて」
 周囲から『ベルベンドロウ』が消え、殺風景な部屋に戻ったところで、キュリアはその部屋の出口に向かいます。あれ? 入口? 入口と出口、両方とも一緒の場合はどう言えばいいんだ?
 まあいいや。ちなみに、アテラスは気絶して倒れています。外傷だけ見ると軽傷に見えるかもしれませんが、闇属性魔法の攻撃を喰らっているため、実際は重傷です。
 そんなアテラスを無視して、キュリアは部屋を出ます。まさに外道。
(作者:外道なのは、シーノをさらってまでキュリアたちと勝負しようとしたアテラス組だと思うけど)
 ま、そうだね。あと、ガイも怒らせたもんね。
(作者:それは何か悪いことなのかい?)
 ……ま、そうだね。その点に関しては、アテラス組に非はないよね。
 キュリアが部屋の扉を開けると、
「あら? これで私たちの全勝ってこと?」
「おう! 割と手こずってたみてぇだな!」
 そこにいたマリエルとガイに声をかけられました。
「みんな! ……ってことは、マリエルたちも?」
「ええ。圧勝だったわ」
「そうだな。圧勝だったな」
 確かに圧勝に見えますね。……受けた傷だけ見れば。
(作者:マリエルはダーパの能力に苦しんでいただけで、雷属性魔法『ライトニング』によるダメージしか受けてないので、軽傷。ガイはエルメスから、攻撃を封じるための魔法『サウンドウェーブ』を2発喰らっただけなので、軽傷。キュリアはヘドロに巻き込まれて一撃必殺される恐れがあったものの、ヘドロにダメージはないので疲労が残っただけのノーダメージ。ダメージ量からすると、確かに圧勝と言えます)
「あ! シーノも無事だったんだね! 良かった!!」
 無傷のシーノの姿を見て、キュリアは喜びました。
 しかし、
「無事? いいえ!! この子はあの変態に毒されていたわ!! ……まったく、酷い目に遭わされたわね、シーノ」
「そこまでダーパを悪く言わなくても……」
「何よシーノ!? まさか、あなた……、もう手遅れなの?」
「手遅れって何だよ!?」
 何やらマリエルとシーノのやり取りがおかしいですね。ダーパのせいですが。
(作者:うん。あいつが悪い)
 今になって思うけど、よくあんなキャラ出したな。
(作者:後悔はしている。反省はしていない!)
 ダメだこいつ、早くなんとかしないと。


210回目
 アテラスたちとのバトルが終わり、1ヶ月後。謙次が『テレパシー』の魔法を勉強し始めてから1ヶ月後のことです。
 ここ1ヶ月ほど、謙次は朝早く起きて『テレパシー』の勉強を始めています。
(作者:以前は、朝ごはんができたぐらいにキュリアに起こされる感じだったのですが、今はキュリアと同じ時間に起きるようにしています)
 今はキュリアが買い物に出かけている時間ですが、謙次はこの時間も『テレパシー』の勉強に励んでいます。
(作者:以前だったら、間違いなくゲームしてたのに……。『お前の食べるもの買いに行ってくれてるのに、お前は家でぐうたらしてるとは何事だ!?』状態だったのに……)
 人って変わるもんだな。
(作者:そうですね)
 ……まさか、お前!? 何の取り柄もないような人でも、たとえ自分をダメ人間と思っている人でも、コミュニケーション障害[コミュしょう]でも、頑張って人の役に立てるときが必ず来る的なメッセージを込めて、この小説を書いたのか!?
(作者:……は?)
 ……あれ?
(作者:……なにそれカッコイイ。じゃあそういうことにしとこう)
 ……申し訳ありませんでした読者様方。コイツがそういうことを考えてるわけがありませんよね。
 さて、話を戻します。テーブルの上には、『テレパシー』の教科書と、『テレパシー』のプログラムにおける個々の処理を、自分なりにまとめた紙が置かれていました。
(ここがこうで、……次にアレを実行するんだよな?)
 謙次は『テレパシー』のプログラムを頭の中で再確認しました。
(……よし! これで完璧なはず!! キュリアと連絡が取れるか、試してみよう!!)
 え!? 何、もうできるの!?
 確か魔法って、一般人には難しすぎて使えないから、一部の人しか使ってないんですよね? それを謙次が使えるの!?
『キュリア、聞こえるか? 昼飯はカレーが食べたい』
 メッセージがひどい!
『え? 謙次!?』
 通じちゃったよ!! 成功しちゃったよ、『テレパシー』!!
 でもこれって、一般人には難しすぎて使えないから、一部の人しか使ってないっていう設定と矛盾してない?
(作者:矛盾してないですよ)
 え?
(作者:たとえば、東大に合格するぐらい優秀な文系の高校生が、必要ないのに3Dゲームを作れると思います? ちなみに、その人はゲームをやらないし、気になることがなければパソコンを使うこともないっていう設定です)
 うーん。……無理だろうな。いや、3Dゲーム作らなきゃ死ぬ的な場面だったらともかく、……無理があるな。
(作者:そうです。いくら頭が良くたって、やる気がなければ無理なんです。魔法が使えると便利に見えますが、暗記ものな上に魔法のプログラムの仕組みを理解する必要があります。プログラムは、得意な人と得意じゃない人がいますからね。だから、頭がよけりゃ魔法が使えるってわけじゃないんです)
 なるほど。でも、魔法みたいに便利なものなら、誰だって覚えようとする気がするんだけど。
(作者:じゃあ、イノブン、T○EICっていう英語試験は分かる?)
 一応、伏字にはするんだな。伏せれてないけど。
 アレだろ? 就活でハイスコア持ってると有利になるやつだろ? 合格・不合格はなくて、10〜990点で評価されるやつ。
(作者:その通り。でも、T○EIC自体を受けてなかったり、受けてても『コイツ英語苦手なんだな』と判断されるようなスコアの人は割と多くいるのです)
 そりゃあ、英語が苦手ならそうなるだろ。英語の勉強って、めんどくさいし。
(作者:魔法の勉強は、おそらくもっとめんどくさいと思いますよ)
 ああ、なるほど。
(作者:魔法を勉強してみようって人は、割と多いのですが、大体3日坊主です。『こんなん無理!!』。だいたいの人がそう言います)
 なるほど。
(作者:まあそもそも、この時代には地下交通機関が発達しているので、空飛べるようになってもならなくても、移動に不便はないのです。『テレパシー』なんて、電話使えば会話できるし)
 でも、交通費とか電話代とかかからなくなるだろ?
(作者:でも、魔法使っている間は集中力が必要ですよ。長いプログラムを頭の中で思い出して使っているので。移動中や電話中に、そんな集中力を使いたいですか?)
 使いたくないです。申し訳ございませんでした。
(作者:まあ、話を戻すと、謙次が魔法を使えたのは、@キュリアのために役立ちたいと思っていた上に、Aプログラムに苦手意識を感じなかったからです。だから、たった1ヶ月で成功できたのです)
 なるほど。
『すごい謙次!! 「テレパシー」だよね、これ!!』
 謙次の声を聞いて、キュリアは大喜びのようです。
『ああ!! ……よかった、通じたか!!』
『うん!! あ、喜んでるところ悪いけどさ』
『ん?』
『今裁判中なんだ、ごめんね』
『え?』


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