Vol.28
ニーナ・シモン
「NINA SIMONE AND PIANO!」
きっちりとした旋律のきれいなピアノだな、きっとクラッシックなんかをきちんと勉強した人なんだろうな。。。。と油断していたら、いきなり力強く響く声にうしろからギュッと抱きしめられた。「Darlin'・・・・」1曲目のその一言で涙が溢れ出して来た。音楽は詳しくない。英語も分からない。でも、この人の伝えようとしていることはよく分かった。歌というより語りと言った方がいいかもしれないが、おすすめレビューにもあった通り、これはまぎれもない「音楽」だと感じた。

CDの解説によると、ニーナ・シモンは1933年2月、ノース・カロライナのタイロンという街で生まれた7人兄妹の一人だそうだ。6歳から独学でピアノを弾き、オルガンも独学で弾いていたという。高校の時に総代となったため、奨学金で1年間ニューヨークのジュリアード音楽院に通った。たぶん音楽をやりたいから一生懸命勉強したんだろう。しかし、目標はフィラデルフィアのカーティス音楽院に入ることだったらしいが、人種差別のためか選考から落ちてしまい、コンサート・ピアニストの道をあきらめた。その後、アトランティック・シティのバー&グリルでジャズを歌うようになり、何らかの機会で送ったテープが認められて吹き込んだ「アイ・ラブ・ユー・ポーギー」が大ヒットして大スターとなった。

歌詞は完全には分からないが、時々しっかりとことばが耳にはいってくる。どの曲も素晴らしいが、特に3曲目の「きょうは雨」(I THINK IT'S GOING TO RAIN TODAY)では号泣させられた。割れた窓、空に浮かんだ月、凍った顔をした案山子、缶詰のカン。それを蹴る私。溢れ出てくる人の情感。今日は雨だと思う。雨だといいな。。。きっと雨はいろんな乾いたものや詰まったものを流してくれるんだろうな。明日はきっと晴れるんだろうな。雨は降ってくるんだけれど、なんだかちょっとあたりは明るくて、カエルや草木は雨をよろこんでいて、家の中から雨を見上げてぶつぶつ言う人もいれば、やさしく微笑みながら読んでいる本か、編み物針を軽く指でトントンとたたく人もいる。子供を家の中に呼び寄せる人もいれば、ただ空を見上げてなぜか涙があふれてきてしまう人もいて・・・うん、なんか天気が変わると、人の心はちょっとだけ、でも確実に動くんだろうな。

このCDはカミさんがネットで買ったものだが、レビューには、もし無人島に10枚のCDしか持っていけないとしたら、迷わずこのCDを選ぶ。しかも10枚ともこのCDを持って行く。そして、もし無人島で人に出会ったら、このCDを渡して聴いてもらう、とあったそうだ。ニーナに負けないソウルを、この方もお持ちのようだが、そうやって言う人の気持ちもこのCDを聴けば分かる。

歌を聴いて泣くことはあったけど、歌っている人の姿を見ない状態で、しかもはじめて聴く歌で泣いたのは、このアルバムがはじめてだ。言葉が分からないのに伝えたいことが伝わる。役者としては一度でもいいからそんな体験をさせてほしい、そしてお客様にも体験していただきたい。しかし、歌う態を見せずに純粋に曲だけでソウルを伝えるということになると、役者の場合、それは台詞だけでソウルを伝えるということになるんだろうか。そこまでできるものなんだろうか・・・そういう芝居を志向していないから分からないけど、もし、やれと言われたら、自分には到底そんな自信はない。

ニーナ・シモンは個人的に大好きなシンガーであるカサンドラ・ウィルソンも敬愛するアーティストだそうだ。カサンドラはとてもやさしい人で、以前名古屋のブルーノートで、通りかかる彼女に自然に出してしまった手をやさしく握り返してくれた時のしっとりとしたあのあたたかさとやわらかさの感触が忘れられないのだが、このアルバムは、冒頭でも書いたとおり、後ろからしっかりと抱きしめられる感触がするアルバムだ。「何かきょうはうまくいかなくってさ、話が違ってたっていうか、しっかり確認してなかったオレが悪いっちゃあ悪いんだけどさ・・・」なんてスーツを脱ぎながら言い訳しているサラリーマンに、このCDは最高に効くだろう。ニーナがきっと後ろからしっかりと抱きしめてくれるはずだ。


| Next Stage | What's | Member | Room | Infomation & link | NEWS mail || | Home |
劇団へのメ−ルはこちらをクリックしてください。