虹の下をくぐろうとするようなものだ、――という言葉がある。
無謀なことをしようとした時、または不可能なことをしようとした時に用いられる言葉だ。
虹の下をくぐることなど、できない。
虹はいつも遠くにあって、どんなに手を伸ばしても、どんなに早く駆けても、届かず、追いつけない。
「虹の下をくぐれたらいいのに」と、窓の縁に頬杖をつき、空にかかる虹を眺めて、リアネイラは呟いた。
せっかく雨が上がったというのに、屋敷の外へ遊びに出ることもできず、リアネイラは鬱屈していた。
十三歳になったばかりの王女は、「暇をつぶす」のが苦手だった。
すぐ後ろに控えているセオドアスは、返答に窮した。
虹を見つめ続けるリアネイラを、元気付けられたら良いのに。
……リアネイラが、かつて自分を励ましてくれた時のように。
セオドアスは庭園にリアネイラを連れ出した。
宮廷の中庭にあるものと比べたら稚拙な造りの噴水が、庭の中央にある。
リアネイラが「もったいないから、止めさせて」と命じたばかりに、ただのため池になってしまっていた噴水だったが、
「水が……」
吹き上がって、しぶきを弾かせていた。
西日に反射して、水しぶきが光る。
「姫、こちらへ」
「? セオ、何?」
太陽が噴水の向こうに見えるように、セオドアスはリアネイラを促した。
そして。
「見えますか」
「……あ」
それは、小さくかすかな、虹だった。
時折消えて見えなくなってしまうが、吹き上がる水しぶきに強い西日があたり、そこに虹が現れる。
「くぐるのは、難しいかもしれませんが」
虹は、すぐ近くにもある。それをくぐることは、やはりできなくとも。
「…………」
リアネイラは、目を細めた。
日がまぶしくて。そして、嬉しくて。
涙を堪え、微笑んで、リアネイラは振り返った。
「セオ、ありがとう」
それ以外の言葉は、浮かばない。
「ほんとにありがとっ!」
願う想いが心にあるように、虹も心にある。
それをくぐろうとする心も。
凛と顔を上げ、水しぶきにかかる虹を見つめるリアネイラの背後に立って、セオドアスも虹を見る。
振り返り、リアネイラが言った。
「いつか、願いは叶うかな」
虹の色のように、願いはいくつもあるのだけど。
「姫ならば、きっと叶えられますよ」
セオドアスは、優しく笑んで応えた。
自分がリアネイラの「願い」の一つだなどと、思いもせずに。
* 了 *