2 言葉と世間

 言葉のもつ力について教える


教訓 187. 噂をするとその人が現れる。


Talk of the devil and he is sure to appear.《悪魔の話をすれば悪魔が現れる》「噂をすれば影が差す」


 東西いずれの文化にあっても、昔から言葉は呪術的な魔力をもつものとして畏敬されてきました。ある事柄について言及すると、よかれ悪しかれそれが事実となって表れるという経験が、そのような言葉の呪術力への信仰を生み出したのでしょう。そのようなことはむろん偶然ですが、しかしある人について噂をする状況はその人が現れる状況と重なる場合が多く、この偶然の確率はかなり高そうです。それに、噂の最中に当の本人が現れるのはばつの悪いもので、そのこともこのコトワザを生みだした理由の一つかもしれません。

(a) Speak of the wolf and he will appear.《狼の噂をすれば狼が現れる》
(b) Talk of angel and you will hear the fluttering of its wings.《天使のことをいうとその翼の音が聞こえる》


教訓 188. 言葉は人を斬り、世の中を動かす力をもつ。


The pen is mightier than the sword.「ペンは剣よりも強し」


 また、言葉は人を斬る力をもっています。それは場合によって暴力より強く、人を傷つけます。しかし、使い方によっては、不正と戦う大きな力になります。世論としての言論は、武力にまさるのです。

(a) The tongue is not steel, yet it cuts.《舌は鋼鉄ではないがよく切れる》「寸鉄人を殺す」
(b) Words cut more than swords.《言葉は剣よりもよく切れる》

 だから、われわれは世間の人たちの言うことが気になるのです。世論を恐れないものはいません。恐れるあまり、世論の奴隷になる人もいます。

(c) What will Mrs Grundy say?《グランディ夫人は何というか》(世間の人は何というか)
(d) We are all slaves of opinion.《人はみな世論の奴隷である》

(c)のグランディ夫人とは、Thomas Morton 作の喜劇 Speed the Plough の中の登場人物が、いつもたしなめられることを恐れていた相手の名前で、伝統的しきたりのシンボルとして存在する人です。

 最後に、世論の正しさを述べる有名なコトワザがあります。

(e) The voice of the people is the voice of God.(= Vox populi vox Dei.)[Alcuin]「民の声は神の声」「天に口なし、人を以て言わしむ」

世論というものはその良し悪しは別として、神の声のごとく抗しがたいという意味です。

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