第5章 人間の文化
1 知識と経験
無知の利点について教える
教訓 168. 無知は幸福である。
Ignorance is bliss.《無知は至福である》「知らぬが仏」
庶民の知恵として発達してきたコトワザは、知恵あるものより知恵なきものに対して、愛着の心を寄せます。見出しのコトワザや次に取り上げるいくつかのものは、すべて無知は幸せであるという、無知礼賛のコトワザです。人間は「知らぬが仏」で、「知ったが病」です。
(a) Where ignorance is bliss, 'tis folly
to be wise.[Thomas Gray]《知らないのが幸福なら、知ることは愚か》
教訓 169. 知らないことではだれも傷つかない。
What the eye doesn't see the heart doesn't
grieve over. 《目に見えないことを心は嘆かない》
ただ、注意しなければならないとことは、コトワザは100パーセント無知がよいといっているのではないということです。この社会にあっては、知ることは生きることと同じように大切なことです。コトワザは、その前提に立った上で、知りすぎることがかえって苦しみや悲しみの原因になることがあるという事実に注意を引きます。いっそ知らなかったら自分も相手も傷つかなかったであろうという考えが、無知を礼賛するコトワザを生みだすのです。
(a) What you don't know won't hurt you.《自分の知らないことでは心は痛まない》
結婚生活も同じで、相手の欠点や短所を知りすぎては不幸の始まりです。
(b) Keep your eyes wide open before marriage,
and half shut afterwards.《結婚前は目を十分開け、結婚後は目を半分閉じよ》
教訓 170. 無知なるものがかえって真実を語る。
Children and fools tell the truth.《子供と愚者は本当のことをいう》
別掲 → 教訓248 子供と愚者は正直である。
無知なるものの代表として、コトワザは愚者と子供を挙げます。彼らは嘘をついて他人を傷つけることもありません。彼らの語ることは、つねに真実です。
(a) Children and fools cannot lie.《子供と愚者は嘘がいえない》
別掲 → 教訓248 子供と愚者は正直である。
教訓 171. 才能あるものは早死にする。
(Those) Whom the gods love die young.《神々に愛されるものは若死にする》
= God takes soonest those he loveth best.《神は愛するものをすぐ連れ去る》
別掲 → 教訓52 運命の神は気まぐれである。
このコトワザのいうように、才能に恵まれたものは、若死にします。無知なるものは、その心配はありません。日本のコトワザでも「佳人薄命」「才子多病」といいますが、世人は若死にした人の才能を惜しむからこそ、いっそうこの感を深くするのでしょう。
(a) Too wise to live long.《賢すぎて長生きできない》
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