4 悪と悪人

 悪と悪人について教える


教訓 159. 悪は善を滅ぼして蔓延するもの。


Bad money drives out good.[Thomas Gresham]「悪貨は良貨を駆逐する」


 コトワザには、善人についてのものが少なく、悪人を扱うものが多いようです。それは、次のコトワザがいうように、そもそもこの世には善人が少なく、悪人が多いからでしょう。

(a) A good man is hard to find.《よい人間は見つけ難い》
 = Good men are scarce.《よい人間は少ない》

 ではなぜ、善人が少ないのでしょうか。それは悪人が善人を追いやり、この世に悪徳と悪人がはびこっているからだと、見出しのコトワザはいいます。これは、16世紀のイギリスの財政家グレシャムの貨幣理論で「グレシャムの法則」として名高いものですが、簡単にいえば、同じ額面価格で金の含有量の多い良貨と金の含有量の少ない悪貨とがあるとすれば、人々は日常の支払いにはもっぱら悪貨を用い、良貨をしまい込むので、流通過程には悪貨が出回ることになる、というものです。同じように、悪のはびこる社会では悪人がのさばり、善人は片隅で小さくなって暮らすことになります。次もその類義コトワザです。

(b) Ill weeds grow apace.《雑草はたちまちはびこる》「憎まれっ子世に憚る」


教訓 160. 悪人は悪運が強い。


The devil's children have the devil's luck.《悪魔の子供は悪魔の幸運をもつ》
          別掲 → 教訓50 幸運は続くものである。


 悪人がこの世で栄えるのは、見出しのコトワザのいうように、親からもらった悪運のお陰であるようです。そして悪徳手段を用いても悪運の強さのためか、法の網にかかることなく、ますます勢力を伸ばし、世の中で大きな顔をしています。小悪人は滅びても、大悪人の滅びることはありません。

(a) Little thieves are hanged, but great ones escape.《こそ泥はつかまるが、大盗賊はつかまらない》「網、呑舟の魚を漏らす」
(b) The devil looks after his own.《悪魔は自分の面倒見がいい》


教訓 161. 善にカモフラージュされた悪がある。


The devil can cite Scripture for his purpose.《悪魔は目的のために聖書でも引用する》
          別掲 → 教訓80 目的のためにはどんな手段でも許される。


 悪は、気づかれないように存在することがあります。偽善がそれです。偽善者は自分の偽善を隠さなければならないため、あたかも自分が評判通りの立派な人間であるかのように見せかけるのです。

(a) Hypocrisy is a homage that vice pays to virtue.《偽善は悪が善に捧げる忠誠である》
(b) Steal a pig and give the feet for alms.「豚を盗んで骨を施す」

 悪人は、自分の悪事や偽善を隠すために、聖書からさえ引用します。それが見出しのコトワザです。うわべだけの聖なるものは、その背後に悪が隠されている場合があるから、用心しなければなりません。次のものも同じです。

(c) All are not saint that go to church. 《教会へ行くのが聖人とはかぎらぬ》 「鬼のそら念仏」

 また、意識せず悪の手助けをしている場合もあります。悪に荷担するものは、悪の張本人に劣らず悪いと知るべきです。

(d) The receiver is as bad as the thief.《盗品の故買者は盗人と同じ悪者である》


教訓 162. 悪はエスカレートする。


As well be hanged for a sheep as a lamb.《子羊を盗んで縛り首になるくらいなら、親羊を盗んで縛り首になった方がまし》「毒を喰らわば皿まで」


 一度悪を犯したものは居直り、悪はますますエスカレートするものです。「濡れぬ先こそ露をも厭え」というのでしょうか。もっとえげつなく「毒を喰らわば皿まで」といった方が、本物の悪人心理に近いのかも知れません。どうせ同じ罰を受けるのなら、大きな悪を行って罰せられた方がいいというのです。

(a) He that will steal an egg will steal an ox. 「卵を盗む者は牛も盗む」「針とる者は車とる」
(b) He that will lie will steal.《嘘つきは盗むもの》「嘘つきは泥棒の始まり」

 だから、盗人に仁義があると思ってはなりません。悪人に情けをかければ、図に乗り、もっと要求します。ここまで来れば、もはや悪へのいささかの同情も禁物です。

(c) Give knaves an inch and they will take a yard.《悪人に1寸やれば、1尺まで取る》「庇を貸して母屋を取られる」
(d) Submitting to one wrong brings on another.《一度不当な扱いに屈すると、またつけ込まれる》
(e) There is no honor among thieves.《盗人には仁義はない》

 悪人は、死ぬまで悪を続けるのです。

(f) Dead men don't bite.《死者は噛まない》

このコトワザの意味は、悪人は死んで初めて安全、生きているかぎり危険であるということです。


教訓 163. 悪に悪を重ねても、正しくならない。


Two blacks do not make a white.《黒に黒を足しても白にはならぬ》


 子供は親に叱られると、よく「だれでもしている」といって、自分の正当性を訴えます。他人が悪事をしているからといって、自分の悪事の免罪にはなりません。他人の悪に自分の悪を足せば、悪が二倍になるだけです。

(a) Two wrongs do not make a right.《誤りに誤りを重ねても正しくならない》


教訓 164. 悪は露見し、悪人の心は安まらない。


There is no peace for the wicked.[Isaiah]《悪人に安らかなときはない》


 悪人は悪事の計画に加えて、悪事が露見しはしないかと心配しなければならず、心身ともに休まることがありません。これは、嫌なことを頼まれたとき、自分を悪人に見立てた冗談としても用いられます。

 次のコトワザは、悪は露見し、結局、得にはならないといいます。

(a) Murder will out.《殺人は露見するもの》
(b) Crime does not pay.《犯罪は儲からないもの》

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