機会について教える

 人の運命を決めるのは、ほんの一瞬の機会であることが多く、それをいかにとらえるかによって、人は幸福にもなるし、不幸にもなります。昔から、時機や潮時についてのコトワザはおびただしくあり、そのほとんどが好機を逸するなと忠告するものばかりです。


教訓 112. 何ごとをなすにも潮時がある。


There is a tide in the affairs of men.[Shakespeare]《人のすることには潮時がある》


 コトワザはまず、物事にはすべて時機があり、事をなすにはその機の熟したときが一番よいといいます。見出しのコトワザはシェークスピア「ジュリアス・シーザー」の中のブルータスの言葉にあります。

(a) There is a time for all things.《何ごとにも時期がある》「物には時節」
(b) There is a time and place for everything.《すべてのものには時と場所がある》
(c) Everything is good in its season.《どんなものでも旬がよい》「鬼も十八番茶も出花」


教訓 113. 一度逃がした好機は取りもどせない。


Opportunity seldom knocks twice.《好機は二度と訪れない》


 教訓58でいうように「好運は一度はだれの門にも訪れる」のですが、しかし見出しのコトワザのいうように、一度逃がすと「好機は二度と訪れない」のも事実です。

(a) An occasion lost cannot be redeemed.《機会は一度逃すと二度と取り戻すことはできない》
(b) Time lost cannot be recalled.《失われた時間は二度と取り戻せない》「盛年重ねて来たらず」


教訓 114. 好機を逸するな。


Strike while the iron is hot.《鉄は熱いうちに打て》


 だから、機会は見つけ次第、即刻自分の手でつかみ、時機を逸せず直ちに利用すべきであると説きます。「好機逸すべからず」です。次のコトワザも、すべてその意味のものです。

(a) When fortune smiles, embrace her.《幸運が微笑んだら抱きしめよ》
(b) Take time by the forelock(,for she is bald behind).《時間はその前髪を捕まえよ(後ろ髪はないから)》
(c) The tide must be taken when it comes.《時機が到来したら捕まえよ》
(d) Make hay while the sun shines.《日の照るうちに干し草をつくれ》
(e) Hoist your sail when the wind is fair.《順風のときに帆を張れ》
(f) He who hesitates is lost.《ためらうものは失敗する》
          別掲 → 教訓96 勇気をもって事に当たれ。
(g) Gather ye rosebud while you may.[Robert Herrick]《摘めるうちにバラのつぼみを摘め》「命短し、恋せよ、乙女」

(g)は17世紀のイギリスの抒情詩人、ロバート・ヘリックの詩の一節から取られたものですが、その詩は一行おいて次に
   And this same flower that smiles today
   Tomorrow will be dying.
     そして今日ほほ笑むこの同じ花は
     明日には枯れているだろう
という行が続きます。青春を楽しめ、というメッセージなのです。


教訓 115. 何ごとも早く始めるのがよい。


An early bird catches the worm.《早起き鳥は虫を捕まえる》「早起きは三文の得」


 時機を失しないためには、何ごとも早めに始めるのがよいのです。とくに、一日を単位にして考えた場合、なんといっても早起きが大切です。「早起きは三文の得」として、早起きをすすめるコトワザが多くあります。

(a) The cow that's first up, gets the first of the dew.《最初に起きる牛は最初に朝露を吸う》
(b) An hour in the morning is worth two in the evening.《朝の一時間は夕方の二時間に相当する》
(c) Go to bed with the lamb, and rise with the lark.《子羊と一緒に寝てヒバリと一緒に起きよ》
(d) Early to bed and early to rise, make a man healthy, wealthy and wise.《早寝早起きは人を健康に、裕福に、賢くする》「早寝早起き病知らず」

 早起きだけではありません。日常生活万般を通して、早く始めればそれだけ成功率も高くなるのです。

(e) Sooner begun, sooner done.《早く始めれば早く終わる》
(f) Early sow, early mow.《早く蒔けば早く刈り入れる》
(g) First come, first served.《早く来たものからもてなされる》「先んずれば人を制す」「早い者勝ち」
(h) He gives twice who gives quickly.《すぐに援助すれば二倍援助したのと同じ》
(i) The foremost dog catches the hare.《一番先の犬がウサギを捕らえる》
(j) A stitch in time saves nine.《時宜を得た一針は九針の手間を省く》
          別掲 → 教訓35 危険の芽は小さなうちに摘め。


教訓 116. 思い立ったが吉日。


Never put off till tomorrow what can be done today.《今日できることは明日まで延ばすな》


 ここに集めたコトワザは、現在という時がいかに大事であるかを強く訴え、「思い立ったが吉日」で、何ごともその日の中にやれとすすめます。

(a) There is no time like the present.《現在ほどよいときはない》
(b) Tomorrow never comes.《明日という日は決して来ない》(明日になればその日は今日になってしまう)

 何時かそのうちにしようと思うと、何時までたってもできないものだといいます。

(c) One of these days is none of these days.《いつかそのうちにという日は来たためしなし》「紺屋の明後日」
(d) Procrastination is the thief of time.《一日延ばしは時間の泥棒》
(e) He that will not when he may, when he will he shall have nay.《出来るときにしようとしないものは、しようとするときに拒絶される》
(f) What may be done at any time is done at no time.《何時でもできそうに思えることは何時になってもできないもの》


教訓 117. 後の祭りになるな。


A mill cannot grind with the water that is past.《水車は通り過ぎた水で粉をひくことはできない》


 機を逸して後からやることを A day after the fair「後の祭り」といいます。「後の祭り」がうまくいかないことを、これらのコトワザはいいます。

(a) After death, the doctor.《死後に医者》
(b) It is too late to lock the stable when the horse has been stolen.《馬が盗まれてから馬小屋に鍵をおろしても遅すぎる》「泥棒(盗人)を見て縄をなう」


教訓 118. 後悔しても無駄である。


It is no use crying over spilt milk.《こぼれたミルクを見て泣いても無駄だ》「覆水盆に返らず」


 同様に、一度行った行為はもう取り返しがつきません。「後悔先に立たず」で、あきらめることです。これらのコトワザは、だからこそ行動するには慎重さが必要であると説くとともに、過去にこだわらない決断の勇もすすめています。

(a) Repentance comes too late.《後悔したときは手遅れ》「後悔先に立たず」
(b) Things past cannot be recalled but may be repented.《過ぎたことは悔やむことはできても取り返すことはできない》
(c) What is done cannot be undone.《一度したことは取り返しがつかない》

 失敗して後悔するくらいなら、最初から危険を避け安全でいるのがよほどましです。

(d) Better be safe (or sure) than sorry.《後で悔やむより最初から安全でいるのがよい》
          別掲 → 教訓121 危険に近づかないのが一番安全。


教訓 119. 機会を逃しても、次の機会がある。


When one door shuts another opens.《ドアが一つ閉まるともう一つが開く》


 このように、コトワザは事をなすに当たっては好機を逃がすなと、声高に注意を促しています。しかし、不幸にして好機を逸したものへの思いやりも忘れません。見出しのコトワザは「後悔先に立たず」の対義コトワザです。機を逸して後悔しても、また次の機会があると、楽観的生き方をすすめています。「棄てる神あれば拾う神あり」です。しかし、この種のコトワザはあまり多くありません。ちなみに、日本のコトワザにもこの種のものはあまりないようです。

(a) Repentance never comes too late.《いくら遅く悔い改めても遅すぎることはない》
(b) He that falls today may rise tomorrow.《今日転んでも明日は起きあがるだろう》
(c) There are as good fish in the sea as ever came out of it.《海にはいつもの魚に劣らずよい魚がいる》
(d) There are plenty of other pebbles on the beach.《浜にはほかの小石がいくらでもある》
= There are more pebbles on the beach than one.《浜の小石は一つだけではない》

これらはいずれも、機会を逸したり、失敗したものへの激励のコトワザです。

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