慎重さをすすめる


教訓 97. しりぞくのも勇気のうち。


One must draw back in order to leap better.[Montaigne]《よく飛ぶためには、まず後ろへ引け》


 しかし、成功のためには、必ずしも勇敢に振る舞うだけがよいわけではありません。行動を起こす前には、周到な準備や情勢判断が必要です。

(a) Look before you leap.《飛ぶ前に見よ》「転ばぬ先の杖」 
           別掲 → 教訓121 危険に近づかないのが一番安全。

 その意味では、真の勇気とは、無鉄砲な勇気ではなく、慎重さと思慮に富んだ勇気でなければならないのです。

(b) Discretion is the better part of valor.《思慮分別が勇気の大部分》

 だから、戦いの場合は、戦局不利となれば逃げるのも勇気の一つです。それは一見憶病に見えますが、実は勇気ある選択なのです。敗れて全滅するよりは、逃げて再起を図る方がはるかに賢明な戦術です。見出しのコトワザおよび次のコトワザは、そのことを説いているのです。

(c) He that fights and runs away may live to fight another day.《戦って逃げるものは、生きてまた戦うこともある》「三十六計逃げるに如かず」
(d) One pair of heels is often worth two pairs of hands.《一人の踵は二人の手に値する》「逃げるが勝ち」
(e) Better bend (or bow) than break.《曲がる方が折れるよりまし》「柳の枝に雪折れはなし」「柔よく剛を制す」
          別掲 → 教訓77 何ごとにも順応して生きよ。

 真の勇気は硬直した蛮勇からは遠く、むしろ憶病に近いのかもしれません。

(f) Many would be cowards if they had courage enough.《十分に勇気があれば、多くのものは憶病者になるだろう》

 そして、一見勇者に思えるものが、実は逃げる勇気もない憶病者である場合があるのです。

(g) Some have been thought brave because they were afraid to run away.《逃げる勇気がなかったから勇敢だと見なされたものもいる》


教訓 98. あせらずゆっくりが勝利への道。


Slow but sure wins the race.[Aesop]《ゆっくり着実にやれば、必ず競走に勝つ》
 = Slow and steady wins the race.


 さらにコトワザは、仕事の成功をもたらすものは急いでやることではなく、ゆっくりと慎重にやることであるといいます。

(a) Make haste slowly.《ゆっくり急げ》「急がば回れ」
          別掲 → 教訓3 ものは正反対のものに変化する。
(b) More haste, less speed.《急ぐほど、ゆっくりと》「急がば回れ」

 考えを実行に移すときも同じです。一度考えただけでは不十分です。二度考えた末、決断するのが最善です。

(c) Second thoughts are best.《二度目の考えが最善である》「念には念を入れよ」

 急いだりあわてたりするのは、失敗のもとです。何ごとも時間をかけてしなければなりません。一夜漬けの勉強では、すぐ忘れます。結婚も同じで、急いで結婚すると、後でいつまでも悔いることになるといいます。

(d) Haste makes waste.《急ぎは浪費のもと》「急いては事を仕損ずる」「短気は損気」
(e) Haste trips over its own heels.《急ぐと自分の踵につまずく》「急いては事を仕損ずる」
(f) Soon learnt, soon forgotten.《すぐに覚えたことはすぐに忘れる》「早合点の早忘れ」
          別掲 → 教訓186 学問に王道はない。
(g) Marry in haste, and repent at leisure.《急いで結婚し、ゆっくり後悔せよ》

 人間の成長についても、早熟型より大器晩成型がよいといいます。早く成長すれば、早く駄目になるのです。

(h) Early ripe, early rotten.《早く熟すれば、早く腐る》
(i) A man at five may be a fool at fifteen.《五歳で大人並みの子は十五歳では愚か者》「十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人」
          別掲 → 教訓68 極端は悪である。
          別掲 → 教訓180 腕白少年の方が立派に成長するもの。
(j) Rome was not built in a day.《ローマは一日にして成らず》
          別掲 → 教訓103 少しずつでも継続してやれ。


教訓 99. 人の説得は柔らかく、また間接的に。


Honey catches more flies than vinegar.《酢より蜂蜜を使う方がたくさんの蝿がつかまる》
 = You can catch more flies with honey than with vinegar
.


 人を説得したり服従させたりするには、厳しい態度より柔らかい態度の方が有効であることが多いのです。

(a) A soft answer turneth away wrath.[Proverbs]《やさしく応答すれば相手の怒りはしずまる》
(b) There is great force hidden in a sweet command.《やさしい命令には大きな力が隠されている》

 次のコトワザは、日本の「将を射んと欲すればまず馬を射よ」と同じで、人の説得は直接的にするよりも、彼に影響力のあるものを介して間接的に行った方が有効な場合があるという教えです。

(c) He that would the daughter win, must with the mother first begin.《娘を獲得しようとするものは、まず母親から始めよ》


教訓 100. 近道よりも回り道を。


The longest (or farthest) way round is the nearest way home.《一番遠い回り道が一番の近道だ》
          別掲 → 教訓124 近道は危険、中道を歩め。


 一見すると回り道に思われる道の方が、実は安全で、結局は一番の早道であるというのが、見出しのコトワザです。

(a) The shortest way round is the longest way home.《一番近い道が一番遠い帰り道になる》
          別掲 → 教訓124 近道は危険、中道を歩め。

 次のものも、成功するには迂遠に思われようと、初歩から一歩一歩着実に進んでいくのが安全な方法であるといいます。これらは奇策を弄することを禁じ、定石をすすめるコトワザです。

(b) He who would climb the ladder must begin at the bottom.《梯子を登ろうとするものは、最下段から始めよ》「千里の道も一歩より起こる」
(c) Learn to walk before you run.《走る前に歩くことを習え》
          別掲 → 教訓186 学問に王道はない。

 成功のためには、直接的で、短兵急な方法より、間接的で、回り道的方法がよいということになりそうです。

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