一時に一事をすすめる


教訓 83. 別のことに心を奪われるな。


Let not your wits go wool-gathering.《とりとめのないことを考えるな》
 = Your wits are gone a wool-gathering.《君の心はうわの空だ》


 まず、一度何かを始めたからには、そのことだけに精神を集中し、取り組むのが成功の秘訣です。ほかのことを考えている暇はないはずです。見出しのコトワザの wool-gathering 《羊毛集め》とは、むかし子供が生け垣に引っかかった羊毛を集める作業をさせられたとき、あちこち歩き回った様子がまるで放心状態でさまよっているように見えたところから、この慣用句が生まれたといいます。

(a) Let the cobbler stick to his last.《靴直しに靴型から離れさせるな》(本分を守らせよ)


教訓 84. 一時に一事をせよ。


Jack of all trades and master of none.《あらゆる職業に手を出すものは、一芸に秀でることはできない》「多芸は無芸」


 また、ことを行うにはあまり多くのことに手を出さないことも大切です。欲張って多くのことをしようとすると、すべてが中途半端になると、これらのコトワザは教えます。

(a) One thing at a time.《一時に一事を》
(b) Don't have too many irons in the fire.《炉の中にあまり多くの蹄鉄をいれるな》
(c) He who begins many things, finishes but few.《多くのことに手を出すものは、少ししか完成しない》

 また、選ぶべきものが多すぎると、目移りがしてしまい、なにが最善か判らなくなります。的は、最小限に絞らなければなりません。
(d) He who chooses, takes the worst.《選り好みして最悪を取る》「選んで滓を掴む」
          別掲 → 教訓72
(e) A maiden with many wooers chooses the worst.《求婚者の多い娘は最悪の人を選ぶ》
          別掲 → 教訓72

 もっとも、なかには「一石二鳥」を意味する To kill two birds with one stone という慣用句もありますが、しかしそんなことは僥倖であって、しばしば望めることではありません。次のコトワザは、二つのことを同時にしようと欲張ると、いずれも失敗すると教えます。

(d) If you run after two hares you will catch neither.「二兎を追う者は一兎をも得ず」
 = He that hunts two hares loses both.
(e) Between two stools you fall to the ground.《二つの腰掛けの間に座れば尻餅をつく》「虻蜂取らず」


教訓 85. 矛盾する二つのことは同時にできない。


You can't eat your cake and have it.《ケーキを食べたら、残っているはずはない》「二つよいことはない」


 論理学には「SはPであると同時に非Pであることはできない」という矛盾律がありますが、この形式を借りていうコトワザがいくつかあります。見出しのものもそれで、人は矛盾する二つのことを同時に行うことはできないといいます。次のものも、矛盾律またはそれに近い表現のコトワザです。

(a) A door must be either shut or open.《扉は開くか閉まるかしていなければならない》
(b) One cannot be in two places at once.《同時に二箇所にはおられない》
(c) You cannot sell the cow and drink the milk.《牛を売り、かつ牛乳を飲むことはできない》
(d) You cannot run with the hare and hunt with the hounds.《野兎と一緒に逃げ、かつ猟犬と一緒に狩りをすることはできない》
(e) You cannot burn the candle at both ends.《ロウソクは両端から火をつけることはできない》
(f) The longer east the shorter west.「東に近ければ西に遠し」 (両方に近くあることはできない)(中立は難しい)
(g) You cannot have it both ways.《二股はかけられない》

 これらのコトワザは、両方を同時にすることは物理的に不可能であることを説いていますが、次のものはそれが精神的にも不可能であることを強調します。

(h) No man can serve two masters.[Matthew]《人は二人の主人に仕えることはできない》
(i) You cannot serve God and mammon.[Matthew]《汝ら神と財宝に兼ね仕えることあたわず》

 また、両立できないものには、恋と理性があります。

(j) Love and knowledge live not together.《恋と知識は両立できない》
          別掲 → 教訓253 恋は盲目である。
(k) One cannot love and be wise.《恋する人が賢明であるはずはない》
          別掲 → 教訓253 恋は盲目である。


教訓 86. 一つの仕事を二人以上でするな。


Two of a trade can never agree.《同業者が二人いると、意見が合わない》


 人は同時に二つ以上のことをやるとうまくいかないように、一つのことを二人以上でするとやはりうまくいきません。見出しのコトワザは、同業者は互いに競争しあい、仲が悪いことをいっています。次のものも、多くのものが同時に同じことをすると混乱を来し、うまくいかないことを教えています。

(a) Too many cooks spoil the broth.《料理人が多すぎるとスープの味が駄目になる》「船頭多くして船山に登る」 
          別掲 → 教訓68 極端は悪である。
          別掲 → 教訓133 多人数のグループはまとまりにくい。
          別掲 → 教訓142 指導者は一人がよい。

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