第3章 成功の条件

 コトワザは、何をすべきかという価値判断にまったく無関心ではありませんが、それよりもいかになすべきかという具体的な方法論にいっそう大きな関心を寄せます。コトワザが、処世訓として多くの人々に愛されてきたのは、そのような理由のためでもあります。その中から、目的を成功裏に達成するために必要な条件として用意しているものを、ここでいくつか取り上げ、コトワザがどのような知恵を教えてくれるかを見てみましょう。

1 目的と方法

 目的と方法について教える


教訓 78. 目的達成には手段や方法が大切である。


What is a workman without his tools?《道具なしで職人が何の役に立つか》


 ものごとを遂行する場合に、人がよく忘れがちなことがありますが、それは方法や手段のもつ重要性のことです。適切な方法や手段がなければ、ものごとは達成できません。そこでまず、見出しのコトワザや次のものがあります。

(a) You cannot make bricks without straw.[Exodus]《藁なしでは、煉瓦をつくることはできない》
 むかし、エジプトではレンガを作るのに、ナイル川の泥に藁を混ぜて作りましたが、藁を入れないとひび割れを起こすといわれました。
(b) Give us the tools, and we will finish the job.[Winston Churchill]《われに道具を与えれば、仕事を完成してみせる》


教訓 79. 目的達成のための方法は一つではない。


All roads lead to Rome.「すべての道はローマに通ず」


 同じ目的を達成するのにも、手段・方法は一つではなく、多種多様であると、コトワザは教えます。かつてローマ帝国は放射状の道路があらゆる地方へと広がっていました。ローマに達する道は、文字通りいくつもあったのです。人はとかくある目的を達成するのに、古い方法に固執しがちなものですが、うまくいかないときは躊躇なく新しい方法に切り替えなければなりません。変化の激しい世の中では、とくにその必要があります。次もその類義コトワザです。

(a) There are more ways to the wood than one.《森へ行く道は一つだけではない》
(b) There are more ways of killing a cat than by choking it with cream.《猫を殺すにはクリームで窒息させる以外にもいろいろある》


教訓 80. 目的のためにはどんな手段でも許される。


The end justifies the means.《目的の達成は手段を正当化する》
          別掲 → 教訓42 全体が部分に優先する。


 このコトワザの意味は、《そうなって欲しいという結果が得られたら、そのために不正な手段を取っても、それはやむを得ない》というものです。望む結果を得るためにはどんな手段であれ、それが有効であれば用いてかまわないというものです。望む結果が得られれば、方法は正しかったということになるのです。

(a) Might is right.《力は正義である》「勝てば官軍」
(b) All is fair in love and war.《恋と戦争では何でも正しい》「恋は仕勝ち」
          別掲 → 教訓253 恋は盲目である。
(c) The devil can cite Scripture for his purpose.《悪魔は目的のためには聖書でも引用する》
          別掲 → 教訓161 善にカモフラージュされた悪がある。


教訓 81. 目的にふさわしい方法を用いよ。


Take not a musket to kill a butterfly.《チョウを殺すのに鉄砲を持ち出すな》 「鶏を割くになんぞ牛刀を用いん」
          別掲 → 教訓69 極端な手段を取るな。


 しかし、目的達成のためには、やはりもっともふさわしい手段・方法があるはずです。その方法のコツを身につけることが、まず成功へ導く最善の道でしょう。

(a) There are tricks in every trade.《すべての商売にはコツがある》

 ただ、コツを身につけることは、そんなに簡単なことではありません。コツとは、まず対象にもっともふさわしい方法を用いて自分の意図通りに物事を成就させる能力とでもいいましょうか。対象の特徴や周囲の状況を無視して、同じ方法を機械的に用いてはなりません。

 次のコトワザは、不適切な方法を用いた例です。

(b) He sets the fox to keep the geese.《キツネにガチョウの番をさせる》「盗人に金の番」「盗人に鍵を預ける」「猫に鰹節」「盗人に蔵の番」

 ことを成就させるのは、対象にもっともふさわしい手段・方法を用いるべきです。不適切な方法を用いれば、目的が達成されないばかりか、逆に目的そのものが台なしにされてしまうことがあるのです。

(c) Never take a stone to break an egg, when you can do it with the back of your knife.《卵はナイフの背で割れるのに、石を持ち出すことはない》「鶏を割くになんぞ牛刀を用いん」
          別掲 → 教訓69 極端な手段を取るな。
(d) Pouring oil on the fire is not the way to quench it.《火に油を注いでは、消すことにはならない》

 不適切な方法を用いれば、目的そのものが台なしになります。

(e) The remedy may be worse than the disease.《治療が病気より悪いこともある》「角を矯めて牛を殺す」
(f) Don't throw (or empty) the baby out with the bath water.《湯水と一緒に赤ん坊を流すな》

(f)は手段としての湯水の扱いを誤れば、目的である大事な赤ん坊まで流す危険があることをいましめています。

 学問や知識も生半可なものである場合には、適応を誤って目指す目的に合致せず、危険を招くことがあります。

(g) A little learning is a dangerous thing.[Alexander Pope]《わずかばかりの学問はかえって危険である》「生兵法は怪我のもと」
          別掲 → 教訓33 小なるものにも危険なものがある。
          別掲 → 教訓173 十分な知識と経験がないと危険である。

 ほめ言葉も与える相手を間違えると、かえって逆効果になります。

(h) Praise makes good men better and bad men worse.《褒め言葉は善人をさらに善く、悪人をさらに悪くする》

 また、思うような成果が得られないときは、状況に合わせて、当初の方針を変更しなければならないときもあるといいます。

(i) If the mountain will not come to Mahomet, Mahomet must go to the mountain.《山がマホメットのところへ来なければ、マホメットが山のところへいかなければならない》


教訓 82. 名人は手段を選ばない。


There's many a good tune played on an old fiddle. 《古いバイオリンでもよい曲が多く弾ける》「弘法筆を選ばず」
          別掲 → 教訓228 だれにでも長所や才能はある。


 「弘法筆を選ばす」といいますが、名人は手段としての道具を選びません。仕事の不出来を道具のせいにするのは、経験や技量のないもののすることです。

(a) A bad workman always blames his tools.《下手な職人は道具にケチをつける》「下手の道具調べ」
 = A bad workman finds fault with his tools.《下手な職人は道具のあら探しをする》
 = A bad carpenter quarrels with his tools.《下手な大工は道具に難癖をつける》
(b) A bad shearer never had a good sickle.《刈り入れの下手なものはよく切れる鎌を持ったためしがない》

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