楽観をいましめる


教訓 63. 人はいつ不幸になるかわからない。


All good things come to an end.《どんなよいことにも終わりがある》
          別掲 → 教訓10 よいものは去っていく。


 さて、人生を二面性においてとらえるコトワザは、一方では前述のような楽観的態度をすすめるコトワザを生みますが、同時に当然のことながら、他方ではあまりの楽観は禁物であるとして慎重をすすめるコトワザをも生み出します。現在いかに幸せな境遇にあったとしても、運は不運と隣り合わせだから、いつ不幸が訪れるかもしれません。幸福や快楽は、決して長続きしないものです。そして、幸福の後には不幸や苦痛が来ます。「驕れる者久しからず」が世の常です。ここに取り上げるコトワザは、すべてそのようなものです。

(a) The best of friends must part.《どんなに仲のよい友達でも別れるもの》
          別掲 → 教訓10 よいものは去っていく。
(b) After pleasure comes pain.《喜びの後には苦しみがくる》「楽あれば苦あり」
(c) After a calm comes a storm.《凪の後には嵐が来る》「嵐の前の静けさ」(つかの間の不気味な静けさに用心せよ)
          別掲 → 教訓2 ものには対立する相手がある。
(d) If you sing before breakfast, you will cry before night.《朝食前に歌えば、夜の来ないうちに泣くことになる》
(e) The pitcher goes so often to the well that it is broken at last.《水差しは何度も井戸へ運ばれ、ついには壊れてしまう》(長く続いた成功もついには失敗する)「驕れる者久しからず」
          別掲 → 教訓230 才能の誇示や高慢は失脚をもたらす。

 また、規則正しく平穏な生活を営み、不幸とは縁遠く思われる人にとっても、災いや事故はいつ何時起こるかもしれません。

(f) Accidents will happen in the best-regulated families.《どんな規則正しい家庭にでも事故は起こるもの》
 = Accidents will happen.《事故は起こるもの》
(g) If anything can go wrong, it will.《災いの起こりそうな場合はきっと起こるもの》


教訓 64. 将来に備えよ。


Prevention is better than cure.「予防は治療にまさる」「薬より養生」「転ばぬ先の杖」


 人生が禍福の綯い交ぜたものであるとするならば、現在の幸福は決して将来の幸福を保証するものではないはずです。将来の幸福を確保するための最善の方法は、不幸になってからその脱出の道を探すのではなく、不幸になる前にそうならない対策を講じることであるというのが、見出しのコトワザの教えです。次の類義コトワザは、もっと端的に「治にいて乱を忘れず」の気構えを説きます。

(a) Hope for the best and prepare for the worst.《最善を望み、最悪にそなえよ》「備え有れば患い無し」
(b) Lay up for (or against) a rainy day.《雨天に備えて蓄えよ》「備え有れば患い無し」
(c) In peace prepare for war.《平和の時に戦いにそなえよ》「治にいて乱を忘れず」
(d) Forewarned is forearmed.《あらかじめ警告されることは、あらかじめ武装することだ》(警告されればそれに備えることができる)


教訓 65. ぬか喜びをするな。


Don't count (or Count not) your chicken before they are hatched.《卵がかえらないうちにヒヨコの数を数えるな》「捕らぬ狸の皮算用」


 この人生では、先のことはどうなるかわからないのですから、たとえ期待が実現しそうであっても、その気になったり、先走って喜んだりしますと、失望に終わるのが落ちです。ぬか喜びをいましめるコトワザは、次のように多くあります。

(a) First catch your hare.《まずウサギを捕ってからにせよ》
(b) Catch your bear before you sell its skin.《クマの皮を売る前にクマを捕らえよ》「捕らぬ狸の皮算用」
(c) Don't halloo till you are out of the wood.《森を出るまでは喜びの叫びをあげるな》
(d) Never spend your money before you have it.《金が手に入らないうちに金を使うな》
(e) Don't pour out the dirty water before you have clean.《きれいな水が手に入らないうちに、汚い水を捨てるな》             別掲 → 教訓125 逃げ道を多くし、危険を分散せよ。
(f) There's many a slip between the cup and the lip.《茶碗を口にもっていくまでのわずかな間にも失敗はいくらでもある》

(f)はギリシャ神話の故事にちなんだもので、以下は Brewer's Dictionary of Phrase and Fable の中の説明によるものです。アルゴー船の舵手アンカイオスは、彼のブドウ畑から取れたぶどう酒を生きて味わうことはないという予言を、彼の奴隷から受けていました。しかし、ぶどう酒が出来上がったので、奴隷を呼んで予言の取り消しを求めると、奴隷は前掲のコトワザを口ずさみました。その瞬間、イノシシがブドウ畑を荒らしに現れたので、アンカイオスはぶどう酒の杯をその場に置き、イノシシ退治に出かけましたが、そのまま死んでしまい、結局、ぶどう酒は飲めなかったといいます。

 だから、人間の一生がどうなるかということや、ある人が幸福であったのか不幸であったのかということは、その人の死の瞬間までわからないのです。

(g) Call no man happy till he is dead.《だれでも死ぬまではその人を幸せだというな》

このようなおびただしい数の類義コトワザを見ていると、昔からいかに多くの人たちがさまざまな状況の中で、ぬか喜びに泣いてきたかが痛いようにわかります。


教訓 66. 希望や期待は人を惑わすものである。


Hope is a good breakfast but a bad supper.《希望は朝食としてはよいが、夕食としてはよくない》


 人生に期待や希望が必要だからといって、あまりにそれに執着するのはよくないこともあります。希望に満ちて一日を始めるのはよいのですが、希望が夕方になっても実現しないときは諦めなければなりません。希望に執着しすぎると、幻滅に終わりがちなものですから、その意味で希望は人を惑わすものということができます。

(a) Too much hope deceives.《過大な希望は人を欺く》
(b) Hope often deludes the foolish man.《希望はしばしば愚者を惑わす》

 次のコトワザはもっとはっきりと、期待するなと説きます。期待のないところには、失望もないからです。

(c) Blessed is he who expects nothing, for he shall never be disappointed.[Alexander Pope]《期待しないものは幸いである、失望することがないから》
(d) He that hopes not for good, fears not evil.《善を望まなければ、悪も恐ろしくない》
(e) Abandon hope, all ye who enter here.[Dante Alighieri]《ここから入らんとする者はすべて希望を捨てよ》

(e)の出典はダンテの「神曲」の「地獄編」ですが、地獄という絶望の極地に入ろうとするものには、一切の希望は無用であるというものです。実際は、このコトワザはユーモラスに用いられることが多いようです。

 さて、楽観をいましめるコトワザは、最後にはこのようなシニカルな処世訓に到達していまいました。

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