2 楽観主義の是非

 二面性の観点から人生を眺め、人生が幸と不幸、禍と福の交互の繰り返しから成り立っていると悟れば、不幸のどん底にあるものもいずれ幸運が訪れるという希望をもつことができます。また反対に、幸福の絶頂にあるものも先はどうなるかわからないという、不安に襲われることになります。ここに、人生を楽観的に生きることをすすめるコトワザと、楽観をいましめるコトワザとが生まれるゆえんがあります。

 楽観をすすめる


教訓 58. 不幸の後には幸福が来る。


Every cloud has a silver lining.《どの雲にも銀の裏地がついている》


 楽観的見方をすすめるコトワザの背景にあるものは、むしろ厳しい現実生活です。その苦しさを軽減させるためには、明るい楽天主義が必要なのです。「禍福は糾える縄の如し」ですから、不幸の次には必ず幸福が訪れます。見出しのものも、不吉な雨雲の向こう側には太陽の光明が輝いていると指摘し、不幸にあるものを勇気づけてくれます。「待てば海路の日和あり」「苦あれば楽あり」に相当するコトワザは、次のように多くあります。

(a) Everything will turn out for the best.《何ごとも最善に向かうものである》
(b) The worse luck now, the better another time.《今は運が悪くても、いつかはよくなる》
(c) Tomorrow is another day.《明日という日がある》「明日は明日の風が吹く」

(c)は、映画「風と友に去りぬ」のラストシーンで、ヒロインのスカーレット・オハラがつぶやいた言葉としても有名です。レッド・バトラーに去られたスカーレット・オハラは、愛するふるさとタラの土地で、ひとり雄々しく生き抜こうとします。映画では、この言葉は、「明日という日がある」とか「明日は明日の風が吹く」とか訳されています。

(d) The third time lucky.《三度目は幸運》「三度目の正直」
 = The third time pays for all.《三度目はすべてを償う》 「三度目の正直」
(e) Every dog has his day.《どんな犬にも最盛期がある》
(f) After night comes the day. 「朝の来ない夜はない」
(g) The longest day must have an end.《どんな長い日でも終わりがある》
 = The longest night will have an end.《どんな長い夜でも終わりがある》
(h) It is a sad heart that never rejoices.《どんな悲しい心でもいつかは喜ぶものである》
(i) It is a long lane that has no turning.《どんな長い道でも必ず曲がり角がある》
(j) It is an ill wind that blows nobody any good.《どんな風でもだれかには幸運を運ぶ》「風が吹けば桶屋が儲かる」

 次の(k)〜(o)は、同じ楽観主義を天候や気候に関するコトワザで言い表します。これらのものは、本来天気コトワザとしての役割を担っていたものですが、次第に一般的教訓を含むものとして、使われるようになったものです。

(k) After a storm comes a calm.《嵐の後には凪がくる》「雨降って地固まる」
          別掲 → 教訓2 ものには対立する相手がある。
(l) Cloudy mornings turn to clear afternoons.《朝の曇りは午後晴れる》
(m) Rain before seven, fine before eleven.《7時前の雨は11時前に晴れる》
(n) March winds and April showers bring forth May flowers.《3月の風と4月の雨で5月の花が咲く》
 = April showers bring forth May flowers.《4月の雨は5月の花を咲かせる》
(o) If winter comes, can spring be far behind? [Percy Bysshe Shelley]「冬来たりなば、春遠からじ」

(o)は、抒情詩人シェリーの「西風に寄せる歌」の一節ですが、引用句として多くの人に愛唱されてきました。口ずさめば、だれにも冬の厳しさに堪え抜こうとする勇気が湧きます。

 次の楽観主義のコトワザは、もっと具体的に、失敗からの立ち直りを忠告してくれています。

(p) Fortune knocks at least once at every man's gate.《幸運は一度はだれの門にも訪れる》
(q) What one loses on the swings one makes up on the roundabouts.《ブランコでの損は回転木馬で取り返す》
(r) Lightning never strikes twice in the same place.《雷は同じ場所に二度と落ちない》


教訓 59. 最悪のときに希望が兆し始める。


It's always darkest before the dawn.《夜明け前がいつも一番暗い》


 とくに、人をかぎりなく勇気づけてくれるのが、見出しのコトワザです。最悪の事態にあるときは好転の兆しが一番大きいという考え方には、深い人生の真理があります。

(a) The darkest hour is that before the dawn.《最も暗いときは夜の明ける直前である》
(b) When things are at the worst they begin to mend.《物事は最悪のときに好転し始める》
(c) The sharper the storm, the sooner it's over.《嵐は激しいほど早く終わる》


教訓 60. 生きているかぎり希望はある。


Hope springs eternal in the human breast.[Alexander Pope]《希望は人間の胸に永遠にわき出る》


人間を敗北から救うものは希望です。希望がなければ人生は絶望の連続ですが、希望があるから人間は失敗や不運の打撃からも立ち上がれるのです。生きているかぎり希望を失ってはいけないと、コトワザは教えます。

(a) If it were not for hope, the heart would break.《希望がなかったら胸が裂ける》
(b) While there is life there is hope.《生きているかぎり希望がある》
(c) Hope is the last thing that man has to flee unto.《人が最後に逃げ込むのは希望という避難所だ》
(d) Hope is the poor man's bread.《希望は貧者のパンである》
(e) Never say die.《死ぬなんていうな》

 死んでしまえば終わりですが、生きているかぎり、いかに最悪の事態に対しても解決策はあるものです。日本のコトワザも「命あっての物種」といいます。

(f) There is a remedy for everything except death.《死以外にはすべて救済策がある》
(g) A living dog is better than a dead lion.《生きている犬の方が死んだライオンよりまし》


教訓 61. 将来について取り越し苦労をするな。


Don't cross a bridge till you come to it.《橋まで来ないうちに橋を渡るな》


 コトワザはまた、将来についてもあまり取り越し苦労をせずに、楽観的に考えよと教えてくれます。実際に不運や不幸が来ないうちから、先のことを考えすぎて心配に泣くものがいますが、苦難への処し方は苦難に出会ったときに考えればよいのです。見出しのコトワザも、ことが起こらないうちから心配するなという意味のものです。

(a) Don't cry before you are hurt.《怪我をしないうちから泣くな》
(b) Don't meet trouble half-way.《災難を途中まで出迎えにいくような真似はするな》
(c) Never trouble trouble till trouble troubles you.《苦労に出会うまで苦労するな》
(d) Sufficient unto the day is the evil thereof.[Matthew]《一日の苦労は一日にて足る》


教訓 62. 現在の不幸は将来の幸福をもたらす。


Sweet are the uses of adversity.[Shakespeare]《逆境のもたらす利益はすばらしい》


 コトワザはまた、すぐれた精神衛生について教えてくれます。不幸にさいなまれているものでも、その境遇への対処の仕方によっては、それを幸福に変えることができるというものです。この種のものとしては、まず見出しのコトワザのように、不幸というものは自分を育て鍛えてくれるための糧であると考え、不幸から幸福になるための知恵をくみ取れというものがあります。次の類義コトワザもそうです。

(a) Adversity makes a man wise.《逆境が人を賢くする》「艱難汝を玉にす」
(b) Trouble brings experience and experience brings wisdom.《苦労が経験をもたらし、経験が知恵をもたらす》
(c) Failure teaches success. 「失敗は成功の基」
          別掲 → 教訓183 学問より経験の方が重い。

 考えてみれば、幸も不幸も相対的なものでから、現在の不幸も、もっと大きな不幸と比較すれば、それほどでもないことになり、少しは気持ちが楽になるものです。

(d) Misfortunes tell us what fortune is.《幸運の何たるかは不運が教えてくれる》
(e) Nothing so bad but it might have been worse.《これ以上に悪化することはないと思えるほどに悪化した事態はこれまでにない》(どんな悪化した事態にもまだ救われる余地がある)
(f) Worse things happen at sea.《航海に出るともっとひどいことがある》

 同じように、悪に苦しんだものの方が善の何たるかを知っているのです。

(g) No man better knows what good is than he who has endured evil.《悪に堪えたもの以上に善を知るものはいない》

 このような考え方を進めていきますと、次のように不幸あっての幸福ということになり、また幸福を味わうとかえって不幸になるという極端な人生観にまで行き着きます。

(h) If there were no cloud, we should not enjoy the sun.《雲がなければ太陽の有り難さはわからない》
(i) It is misery enough to have once been happy.《むかし幸福であったことは非常に不幸なことだ》

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