遠くのものへの期待について教える


教訓  10. よいものは去っていく。


All good things come to an end.《どんなよいことにも終わりがある》
  別掲 → 教訓63 人はいつ不幸になるかわからない。


 人の世は無常です。時はすぐに移ろうし、離合集散は常ならずであります。しかし、嫌なものが去ってくれる有り難さより、好きなものが去っていく口惜しさの心の方が、心には重くこたえます。そこで、よいものはすぐに去っていくという実感が、コトワザとして残ります。

(a) The best of friends must part.《どんなに仲のよい友達でも別れるもの》
          別掲 → 教訓63 人はいつ不幸になるかわからない。


教訓  11. 遠くのものには憧れがわく。


Absence makes heart grow fonder.《別れた人はいっそう恋しさを募らせる》
「遠ざかるほど思いが募る」


 よいものが去っていくという口惜しさは、その反動として遠くのものへの憧れを引き起こします。

(a) Men are best loved furthest off.《人は最も離れているとき、最も愛される》

 ところで、別れたものが実際以上によく思われるのは、なぜでしょうか。それは、再会を困難にする距離がそこに介在するからだといえるでしょう。会えないものはいっそう恋しいのです。距離は、ものに魅力と尊敬を与える最大の要因です。

(b) Respect is greater from a distance.《離れている方が尊敬を増す》
(c) Distance lends enchantment to the view.[Thomas Campbell]《距離は風景に魅力を添える》
(d) Blue are the faraway hills.《遠くの丘は青い》
          別掲 → 教訓19 美は見る人の目の中にある。
(e) Far fowls have fair feathers.《遠くの鳥には美しい羽がある》
(f) The best fish swim near the bottom.《一番よい魚は底を泳いでいる》

 遠くにあるものがよく見える理由の一つは、それが簡単に手に入らないからでしょう。入手の困難なものは、すべて価値があります。

(g) The best things are hard to come by.《よい物は入手が難しい》
(h) Things that are hard to come by are much set by.《入手し難いものは珍重される》


教訓 12 隣の芝生は立派に見える。


The grass is always greener on the other side of the fence.《塀の向こう側の芝生はいつも青い》
「隣の芝生は青い」 「隣の花は青い」


 だから、たとえ距離的に近くにあっても、それを手に入れることが困難なものは、やはり実際よりもよく見えます。わが家の花よりも、「隣の花は赤い」のです。この意味の類義コトワザは、次のように数多くあります。

(a) The apples on the other side of the wall are the sweetest.《塀の向こうのリンゴが一番うまい》
(b) Our neighbor's ground yields better corn than our own.《隣人の土地には自分の土地よりもよい穀物ができる》
(c) My neighbor's goat gives more milk than mine.《隣人の山羊は自分の山羊より多くミルクを出す》
(d) A fence between makes love more keen.《間の垣根がいっそう恋を燃え立たせる》

 他人のものがよく見えるのは、それが自分のものでないという単純な事実に由来します。他人のものを自分のものにすることが禁じられているからこそ、それが甘美に思われるのです。この人間心理がさらに高じると、創世記のアダムとイブから取られた次のようなコトワザになります。

(e) Forbidden fruit is sweetest.《禁断の木の実が一番甘い》「怖いもの見たさ」
(f) Stolen pleasures are sweetest.《盗んだ快楽が一番楽しい》

しかし、このようなコトワザまで来ると、そこに見られる天の邪鬼をただ笑ってすますことはできなくなり、次のコトワザのように、その行きすぎに警告を発することになります。

(g) Too much curiosity lost Paradise.《好奇心が強すぎると楽園を失う》
          別掲 → 教訓120 好奇心は大敵である。



教訓  13. 現実より将来への期待の方が楽しい。


Prospect is often better than possession.《現実の所有より所有の期待の方がよい》


 このコトワザは、現にもっているものより、これからもてると期待することの方が、ずっと楽しいといっています。先に見た教訓5「現在所有しているものが一番よい」とは、ハッキリと対義コトワザをなすものです。現にもっているものよりもっていないものの方が魅力があるということは、人は欲しいものでも手に入れてしまえば、もうあまり魅力を感じなくなるということです。楽しいのは欲しいものを手に入れるまでで、手に入れた後ではありません。まだ「見ぬうちが花」なのです。それどころか「開けて悔しき玉手箱」にならぬともかぎりません。

(a) Expectation is better than realization.《期待は実現にまさる》
(b) Nothing is as good as it seems beforehand.《予想ほどよいものはない》
(c) It is better to travel hopefully than to arrive.《目的地に到着するより期待して旅をしているうちが花だ》

これらのコトワザは、期待は実現するとむしろ失望に変わるということを、その裏の意味としてもっています。

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