2 近くのものと遠くのもの
人間は、対象との距離によって好悪の情が大きく変わるものです。ここでは、そのような距離に関係するコトワザを取り上げ、距離がいかに人間心理に影響を与えるかを見てみましょう。
身近にあるものの利点について教える
教訓 4 近くにあるものが一番よい。
There's no place like home.[John Howard Payne]《わが家にまさるところなし》= Be it ever so humble, there's no place like home.[John Howard Payne]
このコトワザは、アメリカの劇作家ジョン・ペインが自作の歌劇の中で、女主人公に歌わせた「ホームスウィートホーム」から出ています。どんな粗末な小屋でも、自分の住む家にまさるものはないという家庭第一主義の考え方はそれまでの日本にはなかったものだけに、それが「埴生の宿」と訳されて明治期の小学校唱歌に取り入れられると、多くの人々の心をとらえ、広く愛唱されたものです。
(a) East or west, home is best.《東西いずこへ行っても、わが家が最高》
(b).Every bird likes its own nest best.《鳥はみな自分の巣が一番好き》
そして、自分の生まれ育った場所では、だれでも「お山の大将」になれます。
(c).A(or Every) cock is bold on his own dunghill.《オンドリは自分の糞の上では勇敢だ》「内弁慶」
= Every cock crows on his own dunghill.
現に自分の住んでいる家や故郷は、たとえ小さく貧しくても「住めば都」ですから、大切にしなければなりません。自分の家庭や職場を悪くいうのは、愚か者のすることです。
(d).It is a foolish bird that soils its own
nest.《自分の巣を汚すのは愚かな鳥だ》
= It is an ill bird that fouls its own
nest.《自分の巣を汚すのは悪い鳥だ》
愛もまた、我が家から始めなければなりません。家族を愛してこそ、他人を愛することができるのです。
(e).Charity begins at home.[Terence] [Timothy]《博愛はわが家から始まる》
この聖書起源のコトワザは、しかしながら他人への奉仕を断る口実としても使われることもあるようです。
「近い」といえば、「他人より身内」という言葉からも連想されるように、血縁の近さというものがあります。次のコトワザも、血のつながりの強さをいいます。
(f).Blood is thicker than water.「血は水よりも濃い」
しかし、次のコトワザはその反対に、遠くにいる兄弟より近くにいる他人の方がよいといいます。
(g).A good neighbor is better than a brother
far off.《仲のよい隣人は遠くの兄弟にまさる》「遠くの親類より近くの他人」
同じ「近さ」といっても、ここでは「血縁の近さ」より「地縁の近さ」の方が重要な意味をもっているようです。
教訓 5 現在所有しているものが一番よい。
A bird in the hand is worth two in the bush.《掌中の一羽は叢中の二羽に値する》
「明日の百より今日の五十」
身近のものがよいという考えをさらに一般化すれば、見出しのコトワザのように、現在所有しているものの方が、将来の可能性として期待できるものよりずっと価値があることになります。次の一群のコトワザもそれです。
(a).Better to have than wish.《もちたいと願うより現にもっている方がずっとよい》
(b).Better an egg today than a hen tomorrow.《今日の卵一個の方が明日の鶏一羽よりまし》
(c).Think not on what you lack as much as
on what you have.《足らないもののことを考えるより、有るもののことを考えよ》
これらはいずれも、大きな可能性より小さな現実性を尊重せよと説くコトワザです。しかし、このようなコトワザがあるということは、逆に考えれば人は身近なもの、現実的なものをあまり大切に思わないことの証拠でもあります。事実、英語のコトワザの多くは、次に見るように、近くのものより遠くのものの方がずっと魅力的だといいます。