「一冊主義の教え」
              ー東奔西走ー                 安藤 邦男

                    「たまみず」24号 愛知県立昭和高等学校 PTA会報
                                       昭和61年 3月 1日


▼三学期は、受験の季節である。毎年この時期になると、書店には「これさえやれば絶対合格」式の受験雑誌や参考書の類が氾濫する。学力に自信のない受験生にかぎって、飛びついて買う傾向がある。だがこの期に及んで、そんな買い物は、百害あって一利なしである。実力をつけるところか、知らないことが余りに多いのを発見して、不安を増すのが落ちである。受験間際となって一番大切なことは、使い古した教科書や参考書を、今一度ゆっくり読み返すことである

▼先日ラジオで、ある受験指導の権威が、一冊の参考書の徹底的精読を勧めていた。入試に最も有効な方法が参考書の「一冊主義」であるとは、今も昔も変わらない鉄則なのかと思って、その話を聞いた。ただ、昔は本が少なかったので、いやでも「一冊主義」にならざるを得なかった。出版物のあふれるこの情報化社会では、敢えて「一冊主義」に徹することは、はなはだ難しいことである

▼上智大学の渡部昇一教授は、この情報過多の時代に生きる知恵として、「情報の遮断」ということを説いている。教授によれば、現代人の判断力を狂わせるものは、情報の不足ではなく、かえってその過多である。情報を遮断し、情報量を減らすことで、想像力を回復し、本質を見抜く力を得ることができるという。まさに情報の「一冊主義」である

▼浅い穴はいくつ掘っても、水は出ない。深い井戸なら一つ掘れば、無限の湧き水が手にはいる。書物や情報についても、事情は同じである。
 
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