「長文読解のコツ」                      安藤 邦男

                                    「MY COACH」英文解釈2月号 洛英社
                                                昭和50年 2月


高2の皆さんへ

 今月は、みなさんの机上に「長文読解のコツ」をお届けしよう。これまでは、主として重要な文法事項に基いて、いわゆるshort sentence中心の英文解釈を勉強してきたが、2年生も終りに近づいたこの辺で、じっくり長文読解力をつけてもらいたいものである。

 前号の巻頭で述べたが、まず英文を読んで理解する力(reading comprehension)が不足しては、来たるべき大学入試にはお手上げである。もちろん長文問題も短文が集まって、一つのまとまりを構成しているのであるからまず、英文全体を「理解しようとする心構え」が、もっとも肝心である。さて、長文といってもピンからキリまであるが、本号では大体1ぺ一ジ位の長さの英文を選んでみた。実は、これぐらいの英文だと内容的にも、かなりまとまりのあるものになり、しかも一つの英文を読んだという満足感をも味わうことが出来るからである。

1.はじめに

 みなさんの中には、英文解釈の勉強は、辞書を引いて「ただ英語の文章を日本語に直せばよい」と考えている人が少なくないかも知れない。これは大きな間違いである。もちろん「辞書を引く」ことも、また「日本文に直す」ことも重要ではあるが、英文解釈の勉強はそれだけではない。もっと重要なことがある。

 ここで、みなさんは「いったい何のために英文解釈を勉強するのか」と自問していただきたい。よく言われているように、英語の技能として次の四つがある。

 @耳を通して聞く力 A目を通して読む力 B口を通してしゃべる力 C手を通して書く力

 そこで、@とAは「理解する能力」であり、BとCが「表現する能力」であることは、すでにみなさんの知るとおりである。つまり、この原点に立ち返って考えると、答はおのずから明らかだろうと思う。みなさんが教科書(Reader)を通して学習しようとすることは、主として「目を通して読む力ー読解力」を養うことである。いいかえれば、英文解釈は「読解力」養成の一手段にすぎないのである。したがって、英文を日本語で(あるいは日本語に)解釈するだけでは、不充分であることが理解されたと思う。もっとも、最終的には「読解力」とは、日本語の媒介なしで「直読直解」、要するに英語が英語のままわかる能力のことである。

2.具体的な学習の進め方

 さて、いよいよ長文読解の「コツ」だが、まず学習のすすめ方を次のように分類して勉強することにした。名づけて「5ラウンドの読解過程」という。

第1ラウノド 予備知識ゼロ    → 例文の第1読解
第2ラウンド 読解へのアプローチ →  例文の第2読解
第3ラウンド 語句の意味     → 例文の第3読解
第4ラウンド 全文和訳      → 例文の第4読解
第5ラウンド 語法・文法の解説  → 例文の第5読解

 いま図示したように、まず第1ラウンドでは、一切の予備知識なしに、いきなり「例文」に入る。そして何が書かれているかのおよその見当を付ける。

 第2ラウンドの「読解へのアプローチ」へ進み、文章の背景をつかむ。そして、再度「例文」に取り組む。

 第3ラウンドでは、「語句の意味」を勉強し、不明の語句の意味を明らかにする。次に、三度目の「例文」に移ると、全体の意味がいっそうハッキリしてくる。

 第4ラウンドでは、模範訳である「全文和訳」を読んで、自分の読みとった意味把握と照合し、更に4度目の「例文」に移る。

 第5ラウンドでは、「語法・文法の解説」をすませてから、5度目の「例文」の読解で、総仕上げをする。

 以上の学習過程がすむと、ようやく「第1章」が終る、という構成である。

 次に、以上の5ラウンドの勉強法を具体的に述べる。

3.5ラウンドの勉強法」

◇第;1ラウンド読解

 少しの予備知識もなく、いきなり例文にアックする。ところで、この際ぜひとも守ってもらいたいことは、「読解へのアプローチ」以下の解説を絶対に見ないことである。もちろん辞書の使用も禁ずる。要するに、自分の持っている力だけで、問題の内容を読みとってもらいたい。知らない語句や構文があっても差しつかえない。いやむしろ、一行の英文の中で知っている単語が二つでも三つでもあれば「もっけの幸い」ぐらいの気持で、その単語を手がかりに、大体の内容を推測するのである。

 こうして、例文がいったい「どんな題材を扱っているのか」「小説なのか、論文なのか」を知るぐらいでも、結構である。われわれのふだんの読書方法にも、「三行読み」とか「斜め読み」などの速読法があるが、その要領である。すべての語句に目を通さなくても、大まかな内容はだいたいつかめるはずである。

◇第2ラウンド読解

 さて、一通り読解したら、例文から離れて「読解へのアプローチ」へ進む。ここでは、例文の背景や輪かくにふれながら、どのような点にポイントをおいて読解したらよいかについて、いくつかのヒントが与えてある。つまり、例文をどのような問題意識をもって読んだらよいか、が述べてある。「読解へのアプローチ」を読み終えたら、再び例文に戻って第二読解に入る。今度は2度目であり、多少の予備知識もあるから問題の内容がかなりハッキりと把握できるはずである。内容が明らかになるにつれて、いままでもやもやしていたものが次第に姿を現わし、わかる個所とわからない個所が区別できるようになる。

 そこで、読解を進めながら、未知の語句や不明の文章にはアンダーラインをしておくことである。下線を引きながらも、不明の個所の意味を推測してみることである。確かなイメージが浮かばなくても、だいたいどんな意味合いなのか、ぐらいは見当がつくものだ。さて、これだけの作業が終ったら、次へ進もう。

◇第3ラウンド読解

 ここで初めて「語句の意味」に目を通す、まず、発音記号が付けてある語は、必ず声を出して読むことである。こうして「語句の意味」を参照しながら、第3読解をはじめる。こん度は、一字一句をゆるがせにせず、徹底的に吟味しながら、正確な意味内容の把握に努めなければならない。第2読解で、アンダーラインした語句が果たして自分の推測した通りの意味であるかどうかも、ここで確かめることだ。自分に不明の語句が解説されていなかったら、すぐに辞書を引くことである。もちろん、調べた語句はノートするか、テキストの欄外にでも、書き込むことを忘れてはならない。

 さらに、できれば例文全体の和訳をノートに書いてみるのもよい。ただし、テキストの「全文和訳」は見てはいけない。とにかく、とことんまで自分で考えて自分で訳すことである、この第3読解は、もっとも時間と根気の必要な段階であるから、この肝心なところをいい加減にすませると、いわゆる「言語的思考力」は絶対に身につかないといっていい。

◇第4ラウンド読解

 さて、このラウンドでは「全文和訳」を大いに参照してもらいたい。そして、自分の解釈には間違いはなかったかどうか、さらにアンダーラインやチェックしておいた個所はどのように訳してあるか、などを徹底的に調べることである。ここで得心がいったら、みなさんは「例文が完ぺきに理解された」ことになる。この理解されたことを前提にして、いよいよ第4読解に進むことにしよう。

 この第4読解では、これまで勉強したことを「読解能力」として自分の頭に定着させるプロセスである。いいかえれば、これからが本当の意味での読解の勉強である。したがって、いままではその準備過程といってよい。

 まず、意味をとりながら、声を出して例文を読むことである。すでに、例文の意味は完全に把握されているはずであるから、「意味をとりながら」というよりは、むしろ自分の把握している意味のイメージに「英文を当てはめながら」読んでいくという方が、事実に近いかも知れない。それでよいのである。ただ、ここで大切なことは日本語にひかれて、英文の語順をひっくり返したりすることだけはしないことである。かならず頭から意味をとっていくこと、そのためにも、声を出して読んでほしいのである。もしも、諸君が語句の意味を取り違えていたとしたら、もう一度その箇所をくり返し読むことである。いや、語句だけでなく、その文章全体を繰り返して読むことである。繰り返すことは、読解力の養成には絶対必要なことであることを銘記して欲しい。

◇第5ラウンド読解

 いよいよ「語法・文法の解説」である。ここでは、例文に出てきた語句や文法をさらにいっそう理解してもらうために、他のいろいろな例をあげながら「説明」と「解説」がほどこされている。「応用力をつける」という立場からは、一つの語句をたた特殊なシチュエーションに結びつけて覚えるだけではダメである。他のいろいろな例文の中で、一般化して覚えてこそ、応用範囲は一層広くなる。ここでいう応用力とは、ただ読解における応用力ではなく、英作文への応用力のことでもある。英語を読んで理解する力は、最終的には「英語で表現する力」にまで高められなければならない。したがって、この意味で「語法・文法の解説」は「読解力」から「英作力」へのいわば橋渡しをするものである。徹底的に学習してほしい。

 さて、最終のの第5読解に進もう。いうまでもなく、読解力養成の最後の仕上げ段階でもあり、すべての読解の中でもっとも重要な学習段階である。もちろん、この段階は一度読めばよいというものではない。すでに、第4読解で述べた要領で、上から順番に意味を把握していくこと。読む回数を重ねるうちに、読解の速度も増していくものである。

 こうして、「音読」の次は「黙読」、つまり目だけで英文の意味をとっていく。みなさんは、だんだん日本語を意識していない自分に気づいてくることだろう。いままでは「英語」→「日本語」→「理解」と進んだ意味把握のブロセスが、こんどは「英語」→「理解」というプロセスに変化した、となればしめたものである。これが、「長文読解のコツ」であり、いわば「直読直解」という<読解力の最終目標>なのである。

 さて、「長文読解のコツ」も、言うなれば自分で学びとってこそ、自分の身につくものである。一つの「例文」だけでも、何回となく読むことになり、したがってこれに要する時間もかなりかかるばかりでなく、相当の苦しさも感じるだろう。

 しかし、最初に英文を読んだとき、ほとんど理解できなかった内容が、ついに第5ラウンドにきて、ハッキリとみなさんの前にその輪かくを現わしてくる。ということは何とすばらしいことではないか。それは、あたかも視界数メートルの濃霧が、次第に晴れわたり、美しい自然の山々が、みなさんの眼前に姿を見せるのによく似ている。それまでの時間が長ければ長いほど、そしてまたその苦労が大きければ大きいほど、その喜びもまた大きいのである。

 最後に、ちなみに「直読・直解」を達成するための一つの意識的な方法を紹介しておこう。例えば、こんな文章がある。

 A young Italian boy came running into the stadium with the Olympic torch in his hand.

 まず、A young Italian boyという英語からは「一人の若いイタリア少年」という日本語を連想するのではなく、みなさんの経験のなかにある、実際に知っている(さもなければ映画や読書で得た)イタりア少年の顔や姿をイメージとして描いてもらいたい。つぎに、 came running では勢いよく走ってくる動作そのものを思い浮かべてほしい。 into the stadium ではテレビや映画で多分見たことのある、ひとびとが大勢集っている、広いオリンピック・スタジアムのイメージを心に描いてみる。つぎの with the Olympic torch in his handも同様。このように、映画やテレビの描き出す画面を、英語そのものから直接自分の頭の中に、できるだけ鮮明に描いてみる練習をしてもらいたい。この方法は「直読・直解」の〈読解力〉を養成するにはもっとも効果的なやり方であるから、ぜひみなさんにおすすめしたい。

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