「母校の門」                       安藤 邦男

                               「ちぐさ」No.30 愛知県立千種高等学校
                                          昭和46年 3月 1日


 「人は二度と同じ流れの中に入ることはできない」とは、ヘラクレイトスの言葉である。

 例えば、三年前、諸君が初めてはいったこの学校の門は、諸君が今去ろうとしている門と同じではない。たとえ、その外観が変らないように見えても、それは諸君が気づかないだけであって、校門は大きく変化している。何故なら、すべての「もの」は、それを受けとめる諸君との関わりの中に存在しているからである。諸君がこの三年間に大きく変った以上は、その諸君の目に映る校門の姿も、明らかに以前のままであるはずはない。

 いま、諸君はそれに気づかないかもしれない。しかし、何年か後に、再びこの校門を訪れるとき、諸君はかって見馴れた校門とまったく違った校門を発見するにちがいない。それは、古くなった外形のせいでもなければ、過ぎ去った歳月のもたらす感傷のせいでもない。それを眺める諸君自身が以前の諸君ではないからである。

 諸君、何年か経ったら、もう一度母校のこの門の前に立とうではないか。そして自分自身の成長を確証しようではないか。それは、われわれ教師のひそかな願いでもあるのだ。

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