私の中の鈴木泉先生                        安藤 邦男

   ーコンピュータ教育の先駆者として、また、伝統的教育の推進者としてー

                                  「淡々 鈴木泉先生を偲ぶ」
                                    平成13年 7月28日


 いまを去る2年前、平成11年8月のある日、一枚の葉書が届いた。鈴木泉先生からであった。その年の7月、出版した拙著「英語コトワザ教訓事典」を謹呈したところ、受け取った旨の丁重な返書であった。

 とりあえず電話でお礼を申し上げるとともに、拙著の教訓の分類には、先生に教わった因子分析の方法が用いられていることを申し上げた。そのときの「お役に立ててうれしい」という先生の暖かい言葉が私の聞いた最後のお声になろうとはー。それは、いまも私の耳に残っていて、思い出すたびに20年前の昭和高校へ私を連れ戻すのである。

 思えば、私は鈴木先生から二つの大きなことを教えられた。私の生活や考え方はいまだにその影響下にあることに気づいて、驚くことがある。一つはコンピュータによるデータの科学的処理の方法であり、もう一つは教育における伝統的方法の大切さである。

 鈴木先生が校長として赴任された昭和54年、昭和高校は生活指導研究委嘱校に指定された。研究テーマは「学習と意欲」であった。そこで資料として、生徒の意識調査を行うことになったとき、鈴木先生の助言があって、単に従来のパーセントによる全体的傾向の把握だけではなく、生徒の行動と意識の内部に入り込み、彼らを動かしている要因を探ろうということになった。たまたま、指導部で研究をまとめる立場にあった私が因子分析などの多変量解析の世界へ足を踏み入れたのは、そのときからであった。

 当時、先生はすでに時間割編成プログラムのソフト化など、教育へのコンピュータ導入では、先駆者的働きをされておられた。私たちは先生の指導を受けながら、生徒の実態の解明とそれにもとづく学習意欲の喚起に取り組んだ。その成果は、当時の「昭和高校研究レポート」のいくつかに結実している。

 鈴木先生から受けたもう一つの教えは、教育における伝統的方法の大切さであった。先生はそれを「反復練習」というキーワードで、幾度となく職員や生徒に話されたものである。それは、自由な創造力や高度な思考力は基本的事項の反復学習があって初めて養われるし、行動における自主性や自律性の涵養は適切なしつけの反復訓練を経て初めて可能であるというものであった。この考えの正しさを、私はいまだに信じて疑わない。

 教育現場へコンピュータを導入し、IT時代の到来を先見された先生は、同時に反復練習の復権を説く伝統的教育の推進者でもあられた。
 先生の遺徳を偲びつつ、ご冥福をお祈りする次第です。

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