「コンピュータを活用した教育活動ー昭和高校の実践ー」
 <日常の業務処理以外に多変量解析の手法をもちこめば活用の範囲はうんと広がっていく>

                                              安藤邦男

         「高校教育」 第16巻 第11号,1983年(昭和58年)9月号 学事出版 

【筆者注】これは上記論文「生徒指導にも生かすデ−タ分析」とほぼ同じ内容のものを,教育関係の専門誌であ「高校教育」に,発表したものである。この記事を読んで,全国の教育関係者が多数,実情視察のため昭和高校を訪問した。


はじめに

 本校へコンピュータが導入されたのは、昭和五十五年度ーすなわち「コンピュータ校長」といわれた鈴木泉前校長の赴任の翌年ーからであった。以来、コンピュータの研究や利用が盛んとなり、現在ではミニコン一台、マイコン五台を備えて、試験の成績処理や各種統計処理を行っている。ソフトはほとんど校内で開発したものである。最近、多くの学校にもマイコンが導入され、プログラムの実用化も進んでいるようだが、それらの学校の多少の参考になればと思い、以下、本校で取り組んだ実践を報告する。

1 日常の統計的業務処理について

 最初に、授業以外の統計的業務に利用されているシステムについて取りあげる。

(一)成績処理システム

 コンピュータ利用のうち、もっとも実用価値の高いものは、定期考査や実力考査の成績処理である。本校教諭の開発になるこのシステムは現場の要求に応えた優れたもので、初心者にも扱えるよう懇切な指示が与えられている。主なプログラムをあげると、(1)「得点状況一覧表作成」(生徒番号順に科目」との得点を表示し、得点総計、学年およびクラス順位がわかる。さらに得点総計の高い順に並べかえた表、科目ごとに得点順に並べかえた表も出力される)、(2)「科目毎得点分布一覧表とヒストグラム」、(3)「成績上位者・下位者の検索」、(4)「素得点の偏差値への変換」、(5)「成績個表の作成」、(6)「学年末五段階評定作成」などである。愛知県下のいくつかの学校でこのプログラムが使用されている。

(二)時間割編成システム

 このプログラムは前校長の労作であり、これも愛知県下のかなりの学校で実際に利用されている。担当職員と担当クラスをそれぞれ記号化し、パンチカードに打ち込んでミニコンにかけると、たちまち全職員の時間割一覧表が出力される仕組みである。この方式を始めてから三年になるが、プログラムも改良され、現在では、(1)同じ曜日に同系統科目が重ならないこと、(2)同じ週に同じ科目が連続しないこと、(3)同じ教師が同じ曜日に三時間連続しないこと、(4)同じ教師が同じ曜日に四時間を超えないこと、などの条件を満たすように、ソフトが組まれている。

(三)マークテスト処理システム

 共通一次テストのような選択肢による客観テストは、このプログラムを使用すると、集計処理が実に便利である。解答は直接マークカードに記入させ、ミニコンにかけると、五〇問題一〇クラス分の処理は五分で完了する。出力されるのは、「個人別得点と順位の一覧表」「得点の分布表」「問題別正答率一覧表」などである。

(四)図書貸出統計システム

 生徒がどんな書籍を、いつ借り出し、返却日まで何日あるかがプリントされるので、管理に便利である。またクラス別貸出冊数のヒストグラムも作成できる。文献検索システムはまだ研究段階である。

(五)身体測定処理システム

 身長、体重、胸囲など形態測定結果を、クラスごとに一覧表として出力する。クラス平均、学年平均のほか、ローレル指数の算出、やせ過ぎと太り過ぎの生徒の検索など出力され、健康管理に役立つ。

(六)類型・科目登録処理システム

 本校では、二年生から文理別コースを設定しており、科目選択が多い。このプログラムは、生徒の類型・科目の選択登録をクラスごとに文理別、男女別に分類集計するもので、その後のホームルーム編成、スタディルーム編成が容易になる。

(七)事務室関係業務処理システム

 事務室関係の業務処理ソフトとして利用しているのは、事務長自らが開発した(1)「諸雑費差引個票」、(2)「県費・PTA費収支計算」、(3)「超勤手当計算」などのプログラムである。

二 多変量解析による各種データの分析について

 さて、以上コンピュータによる日常業務処理のいくつかを見てきたが、これらは比較的単純な「数字の集計作業」であって、時間をかければ人間の手作業でもできるものである。だが、コンピュータのもう一つの利用分野として、多変量解析の世界がある。これは近年コンピュータの普及にともなって、新たに脚光を浴びつつある統計的データ解析の手法である。政治、経済、教育などの人文科学の分野における人間行動は、複雑で不定量であるが、それを定量化し法則性を明らかにすることによって予測や判別を行おうとする、きわめてチャレンジングな学問といえる。しかしそれだけに未開拓な問題も多く、本校での実践もまだ試行的研究の域を出ていない。

(一)重回帰分析による入試得点の予測

 重回帰分析とは変数間の相関を考慮しながら、外的基準変数の値をもっとも有効に予測できるように予測式をたて、それによって入試の得点などを予測する方法である。本校では、校内実力考査の五教科の平均偏差値をもとに、共通一次と地元のI大とN大(この二つの私大は入試の得点を公表している)の入試得点の予測を行った。その予想点と実際の入試の得点との相関係数は、次のとおりである。

〈五十五年度〉共通一次 〇・八一九
〈五十六年度)共通一次 〇・八三二
           I 大    〇・七七四
          N大    〇・七二四

(二)判別分析による入試の合否判定

 判別分析とは、たとえばある個体がある二つのグループのうちどちらに分類されるかを判定する方法である。具体的には、I大とN大の二つの私大の受験者について校内実力考査の偏差値をもとに判別式をたて、算出した数値があらかじめ定めた境界値を超えれば、合格の可能性が大きいと判定する。判別の結果は、次の判別率(全体の人数中の正しく判定した人数のパーセント)の示すとおりである。
〈五十五年度〉I大 六八・九パーセント
        N大 六一・一パーセント
〈五十六年度)I大 七五・六パーセント
        N大 七八・九パーセント

(三)因子分析による学力因子の抽出

 人間の意識や行動は千差万別で、一見なんの脈絡もないように思われるが、子細に観察すると類似性や規則性があることがわかる。このようにいくつかの行動様式に共通する要因を見つけ、その科学的把握を目指すのが、因子分析という統計解析の方法である。具体的には、一年生と二年生の数クラスを選んで、学年末の五段階評定を入力し、因子負荷量(仮想因子Xに対する相関係数)を求める。それを配列して抽出したのが、(1)文科系因子、(2)理科系因子、(3)芸術系因子、(4)体育系因子の四つである。各因子の特徴を略記すると、「文科系因子」の中では国語系と社会系の科目が強い結合を示す。その理由はおそらく両者に共通する文章読解力と歴史・文化に対する興味のためであろう。「理科系因子」では、数学・物理系科目と化学・生物系科目の二系統に分離する傾向がある。それは前者が物の関係や原理を追求する科目であるのに、後者は経験や事実に関わる科目だからであろう。また、抽出された因子の特性を各個人がどの程度強く持っているかを示すのが因子得点であるが、これを個々の生徒について調べ、クラスター分析をすれば、個人の進路・適性指導にも応用できる。

(四)因子分析による生徒の行動因子の抽出

 生徒の「日常生活における意識・行動に関するアンケート」を因子分析し、学習態度や生活態度の確立の指導に役立てる試みにも取り組んだ。詳細は、本誌五十六年五月号に「コンピューターを導入しての生徒指導」として発表したので、ここでは説明を省く。ただ一言したいのは、学習習慣の因子と生活習慣の因子は密接に結びついているので、学習指導は生活指導と一体化して行われなければならないことが痛感されたということである。なお後日談をつけ加えるならば、かねて本校のコンピュータ導入による生徒指導に批判的であった朝日新聞と毎日新聞は、上記小論からの引用を交えながら、因子分析による生徒実態の解析を「愛知における管理教育の新しい形態」であるかのように紹介した。しかしいうまでもなく、本校が因子分析に取り組んだのは、生徒を管理・抑圧する意図ではなく、それどころか生徒の意欲喪失の原因がどこにあるのか、意欲を高めるにはどうすればよいかを、より深く追求しようという願いからであったのである。

(五)因子分析などによる体力診断テストの分析

 毎年、一回行う五〇メートル走、走り幅とび、ハンドホール投げなどの体力診断テストのデータについて、各種目ごとの相関係数、回帰直線、因子分析、ワイブル確率分布などの多様な手法を用いて分析を行い、体力向上の指導に役立てようとした。因子分析によって抽出された因子としては、基礎体力、筋力、瞬発力、持久性、柔軟性などがある。

(六)数量化V類による生徒の行動パターンの抽出

 数量化V類というのは、相関の高いアンケート項目を集めて、パターンとしてまとめる方法である。「生徒の日常生活に関するアンケート」の集計を数量化V類処理プログラムにかけると、選択肢番号が二次元平面のX軸とY軸に仕切られた四つの象限に分散されて配置される。その分散の仕方からX軸およびY軸がそれぞれ何を分離しているか、また四つの象眼に配置されたパターンはどんな特徴をもっているかを解釈するのである。その結果について触れると、一年生の集団からは、(1)「学習良好型」、(2)「生活良好型」、(3)「学習・生活ともに不良型」の三つのタイプが抽出された。二年生集団からは、(1)「学習・生活ともに良好型」、(2)「平均型」、(3)「学習良好・生活不良型」、(4)「学習・生活ともに不良型」の四つのタイプが見られた。これについていえることは、一つは生活習慣の良好の者は学習習慣も良好であり、その逆も成り立つということ、もう一つは生活習慣は悪いがよく勉強するいわゆる「ガリ勉型」の生徒が二年生では生まれていることである。

(七)数量化V類による保護者のしつけパターンの抽出

 「家庭における生徒・保護者の実態調査」に数量化V類による処理をほどこして、親のしつけのタイプを四つ抽出し、それと子どもの生活実態との相関を調べた。(1)「指導型」の親は学校を信頼し、親の権威を自覚し、ときには体罰も辞さないというしつけの実行家である。子どもの生活習慣はたいへん良好。(2)「保護型」の親は子どもの生活に強い関心を寄せるが、自由を尊重し、強制より説得に訴える。子どもの生活習慣はだいたい良好。(3)「放任型」は子どもに関心を払わず、しつけを学校に依存する。子どもの生活習慣は普通か、またはそれ以下。(4)「評論型」は子どもや学校に不満をもち、勉強の注意はするが生活は放任し、体罰は必要と思いながら実際には加えたことがないという、いわば実行の伴わない評論家的タイプである。子どもの生活習慣はもっともよくない。

おわりに

 以上、本校でコンピュータを利用して行っている教育活動の概略を述べた。このほかにコンピュータを直接授業に応用するいわゆるCAI的利用もあるが、これは本校でも今後開拓すべき領域として残されている。最後に、教育にコンピュータを導入する場合の問題点について一言したい。朝日新聞の「続・平和の風景」(五十六年八月十八日)と、毎日新聞の「教育を追う」(五十七年十月五〜九日)とは、それぞれ「昭和高校のコンピュータ導入」に触れ、どちらもコンピュータを教育の場、とくに生徒指導の場に導入するときに陥りやすい形式主義、管理主義の危険を指摘している。無論、コンピュータを過信したり、絶対視することは、形式主義、管理主義以外のなにものでもないだろう。生徒指導に一人ひとりの生徒との心の触れ合いが大切なのはいうまでもないからである。しかし一方では、心の触れ合いだけで十分であった人間教育の時代は、すでに過去のものとなったともいえるのである。多様化し、集団化する今日の生徒の実態は、勘や経験だけではつかみ切れないものがある。そのようなとき、生徒との接触から得た日常観察を補強するものとして、科学的に処理された実証的データを取り入れることは、現代を生きる教師としてはむしろ当然ではなかろうか。 (愛知県立昭和高校教頭)

〈付記〉
 参考文献として、校内で発行された「研究レポート」の一覧表を掲げる。

「研究レポート」既刊分
  1. 多変量解析の基礎理論とその実際例T(中川豊久)
  2. 指導上の基本事項に関する考察(安藤邦男・田中義視)
  3. 成績処理とクラスター分析(鈴木泉)
  4. 多変量解析の基礎理論とその実際例U(中川豊久)
  5. 績処理と因子分析皿(鈴木泉)
  6. 学習と意欲(その一)(全員)
  7. 成績処理T(八木美和・川村司)
  8. 授業時間割の作成(鈴木泉)
  9. 学習と意欲(その二)(全員)
10. 教務用プログラムの実践列(米倉逸見)
11. 学校業務処理プログラム(八木美和)
12. 成績処理U(川村司)
13. 多変量解析による進学資料の分析(大畠啓三)
14. 基本事項の定着指導に関する研究(全員)
15. 数量化理論(V類)とそのプログラムおよび分析15例(中川豊久・安藤邦男)
16. 成績処理システム利用の手引き(川村司)
17. 体力テスト・データの解析(名付英夫)
18. 数量化理論V類による保護者アンケートの分析から見た「しつけ指導における親のタイプの考察」(安藤邦男)
19. 授業時間割の作成U(鈴木泉)
20. OKIATC50/10による成績処理プログラム(鈴木泉)
21. コンピュータによるマークテストの成績処理(中川豊久)
 

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