「コンピューターを導入しての生徒指導」              安藤邦男

                  「高校教育」第14巻・第6号 学事出版 昭和56年5月1日

【筆者注】 愛知県立昭和高校が県の研究指定校になったとき、研究責任者の筆者は生徒の実態調査を行い,それをコンピュータにかけて因子分析を行った。その分析によって、われわれは例えば勉強以外のことに興味を持つ生徒の方が,勉強だけをしている生徒より,勉強の熱中度が高いということを知った。この論文は、学習態度と生活態度との間には大きな関連があるから,生徒指導を有効に行うためには,それを学習指導と一体化しなければならないことを強調したいわば実践記録である。


一 はじめに

 昭和五十四年度から五十五年度にかけ、本校は愛知県における生徒指導の研究委嘱校となった。研究テーマは「学習と意欲−意欲を高めるための生徒指導のあり方」であった。これこそ、実は本校が新しい校風づくりをめざして飛躍するためには、ぜひとも取り組まなければならないテーマであった。

 本校の創立は昭和十六年にさかのぼるが、戦後は二十三年に学制改革により愛知県立昭和高等学校として発足した。翌年、文部省の東海北陸実験校に指定されるや、時の遠藤慎一校長を中心に、新制度のモデル校として人間教育の理想を追求することになる。それはさらに「愛・敬・信」という校訓と相まって、後年「昭高カラー」と呼ばれる師弟愛と家庭的雰囲気の校風として定着した。しかし、学級増や群制度の導入など押し寄せる近代化の波に、その伝統も次第に色あせ、いまなお残る家庭的雰囲気は、むしろ無気力さの温床とさえ感じられるにいたった。どうしたら生徒の意欲を高めることができるかは、ここ数年来の本校の大きな課題であった。たまたま研究を委嘱された五十四年度、新しく本校に迎えた鈴木県校長は、コンピューターのいわば専門家であった。これからの教育はたんに経験や勘に頼るのではなく、科学的実証と分析に基づいて行われなければならず、そのためにはもっとコンピューターが採り入れられねばならないというのが、新校長の考え方であった。ここに「意欲を高めるための生徒指導」と同時に「コンピューターの導入」による教育活動が始まったのである。

二「因子分析」による生徒の実態の解明
 研究活動を進めるに際して、われわれには一つの意図があった。それは、生徒の学習意欲が生活習慣の確立とどのようなかかわりをもつかを、生徒の実態に基づいて明らかにすることであった。そのための方法としてコンピューターによる「因子分析」が最も有効であると知ったわれわれは、さっそくそれを採用することにした。そして、生活指導部を中心として作成したのが、表1の「生徒の意識と行動に関するアンケート」である。アンケートは各学年男女がほぼ同数になるよう任意抽出した二五二名に対して実施し、それを愛知県教育センターに送って、コンピューターによる因子分析を行った。

 さて、ここで因子分析とはどのようなものであるかについて、最小限必要と思われる説明をしよう。従来の統計処理の方法は、選択肢の示すパーセントにより、各質問項目の全体的傾向や学年別・男女別等の相違を知るには便利である。しかし、ある質問にイエスと答えたものが他の質問にどのように答えているか、すなわち各質間項目の間にどんな相関があるかを知るには、膨大な計算作業を必要とし、まことに不便であった。だがコンピューターの発達した現在、われわれは一瞬のうちに各項目間の相互関係を知ることができるだけでなく、各項目の表わす意識や行動の背後にあってそれらを支配している共通の要因さえも、発見できるようになった。これがいわゆる「因子分析法」と呼ばれるものである。

 具体的には、各質問項目から選んだ選択肢番号をマークシートに記入させ、それをコンピューターに読みとらせる。コンピューターはあらかじめ仕組んだプログラムにより、各質問項目の「因子負荷量」を算出する。「因子負荷量」というのは、ある仮想因子(かりにXと呼ぶ)に対する各質問項目の相関係数であるが、これが○・五以上あるとその仮想因子に対してかなり強い相関があるといえる。そしてその算出された因子負荷量の数値の高い順に各質問項目を配列し、Xという仮想因子としてまとめる。これを因子の抽出という。

 次に、抽出された因子は解釈されなければならない。ここにようやく、機械ならぬ人間の頭脳の出番が訪れるのである。たとえば、表2の第二因子「積極的行動意欲」を取り上げて図示しよう。すべての質問項目のうち、「勉強への熱中度」をはじめ三つの項目がXに対して高い負荷量を示している。この三つはXのもつ本質が表面に現われた属性と考えられる。その属性を手がかりとして、それらが構成しているXの本質はなんであるかを見極めるのが、「因子の解釈」である。そこで「勉強に熱中」するものは「学校行事にも積極的に参加」しながら、しかも「授業の理解度」もよいという特性から、われわれはこの因子を「積極的行動意欲」と名づけたのである。

 このように、因子の抽出と解釈を、アンケートを実施した二五二名の生徒全貝に対して行ったのが表2である。次いで、男女別・学年別にそれぞれの集団についても、因子の抽出と解釈を行い、表2のほかに七種の分析表を作成した(それらはいずれも省略する)。そしてそれらを比較しながら、全体の傾向や男女別・学年別の特徴を考察したのである。次に紹介するものがそれらの考察の主なものである。

三 分析結果の総合的考察

明らかにされた本校生徒の実態

(一)低学年では学習態度と生活態度の間に密接な関連があって、両者の態度を結びつける因子が多く見られるが、学年進行とともに分離し、それぞれの態度として確立されていく。
(二)とくに低学年では、勉強以外のものに興味のあるもののほうが、勉強への熱中度も高い。また、学校行事などに積極的に参加するもののほうが、授業理解度も高い。
(三)学習態度は男女の特性にも表われていて、男子は自発的・積極的に熱中するタイプが多いが、女子はコツコツと反復する努力型が多い。
(四)英語の好きなものが最も学習態度が良好である。それは英語の勉強が最も高度な学習習慣の確立を必要とするからであろう。
(五)家庭生活への満足度の高いものほど友人の数は少なく、満足度の低いものほど友人が多い。友人の多さは社会性の表われというより、むしろ家庭的不満足の表われと考えられる。
(六)一方では、家庭への適応度の高いものに頭髪や服装の規則違反者が多い。それは家庭への適応が「しつけ」不在の放任に由来するからであろう。
(七)「しつけ」の厳しい家庭の子は少ない小遣いに我慢し、節度のある生活態度が身についている。
(八)学校生活に満足できるものは、三年男子では授業に満足できるものであり、一年男子では先生や友人に挨拶のできるものである。低学年では挨拶の励行が集団生活への適応をもたらし、満足につながるものである。
(九)全体として、男子の生活態度は「自律性」に優れているが、「適応性」に問題がある。すなわち基本的生活習慣やきまりを守る態度は身についているものが多いが、一方では家庭生活や学校生活に満足し適応しているものに、かえって甘えが見られ、遅刻や服装の乱れが多い。
(十)女子の生活態度はどうかというと、全体的に「協調性」に優れているが、「公共性」に問題がある、すなわち、身のまわりのことには几帳面で、他人に対しては協調的態度が見られるが、その反面、清掃をよくやり交通ルールをよく守る生徒が服装違反をしたり下校時に寄り道をしたりする。それは彼女らの公共的態度がむしろ「集団志向性」と呼ばれるべきものだからである。清掃をサボれば他人から非難されるのでそれはできないが、おしゃれや寄り道など他人の迷惑になるわけでなし、みんながやっているから許されるというのが、彼女らの言い分である。

四分析結果の生徒指導への生かし方

 次の問題は、分析結果をどのように評価し、どのような指導対策を講ずるかということである。このことはさらに今後の分析・検討にまつところが大きいが、現在職貝の間でほぼ共通理解されている基本的方向について、次に記すことにする。

(一)因子分析によれば、学習態度と生活態度とは驚くべきほど密接な関連をもっているが、それは生徒たちが学習する人間であるとともに生活する人間であり、それぞれの態度が同一の基盤の上に築かれる以上は、きわめて当然の結果である。一方の態度の確立はもう一方の態度の確立があってはじめて完全なものになるし、一方が向上すればもう一方も自然に向上する。学習指導と生徒指導の一体化は、今後ますます追求されなければならない課題とされている。

(二)学習指導がただ教科指導にとどまってはならないことも認識されつつある。学習指導はまた「学習習慣形成の指導」でもなければならない。学習を「習慣的行為」として捉えその定着をはかろうとするとき、その方法は「反復練習」以外にはないであろう。現在、本校の学習指導は「基本事項の反復練習」を合い言葉として行われている。

(三)学習意欲を高め学習効果を増すためには、とくに低学年では学習以外の校内諸活動に積極的に参加させるのがよいことも、あらためて確認された。五十六年度からは、一年生の課外クラフ活動を従来の自由加入から全員加入に改め、積極的意欲の喚起をはかることにした。

(四)家庭生活に不満をもつものが外に多くの友人をつくることも明らかにされたが、そのことはひとはだれでも自分の安住できる人間関係を求めずにはいられないことを示しているといえる。だから、親や教師にはまず子どもが適応できる人間関係を家庭や学校の中につくってやろうとする努力が大切である。そのためには家庭では話合いが必要であるし、学校では新入生へのオリエンテーションが重要である。五十六年度から、本校では一年生のためのサマー・スクールを新たに行うことに決定している。

(五)適応のためには挨拶の習慣が必要であることも、因子分析は見事に示した。挨拶は儀礼的作法であるが、たんなる形式でなく、精神である。形式を踏むことによって、他人への敬愛の心が生まれるのである。「かたち」から「こころ」へという挨拶の心髄は、日本古来の武道や芸道の伝統の中にもあって、これは「しつけ指導」の中で今後もっと生かされなければならないであろう。

(六)しかし、適応が大切であるといっても、努力を伴わない適応は努力を伴わない不適応と同じく無価値である。たんなる家庭や学校における満足が服装や規律の乱れにつながることを、因子分析は示した。適応を意欲との関連で見るならば、度を過ぎた適応は意欲の喪失をきたすだけである。意欲はむしろ不適応の中で、環境との間の対立を解消しようとする緊張感の中に生まれるのである。われわれが「厳しさこそ意欲の源泉」であるという共通認識に立って学習指導と生徒指導を進めているのは、そのためである。

(七)女子だけでなく男子にも見られる「集団志向性」は、自らの意志で自らの行動を規制する「自律性」にまで高められなければならない。それには最初はまず親や教師の側からの「他律的」規制が必要である。「他律的」な規制はくり返ししつけられ生活習慣となって定着するにつれ、それは次第に自己の中に自己を規制する「もう一つの自己」の成長を促し、やがて自分で自分を規制する「自律的生活態度」が確立されるであろう。そのために必要なのはやはりしつけにおける「反復練習」なのである。

五 おわりに

 コンピューターの抽出する因子には、ときに意表をつくものがあって、われわれはそれから新しい事実を発見することがある。だが、多くのものは日常の観察と一致し、ただそれを裏づける働きをするにすぎない。しかしだからといって、因子分析が無意味だということにはならない。数値的に裏づけられれば、われれれの日常観察は正しかったことになるのである。しかも、抽出された因子の解釈をめぐってさまざまの意見が交わされ、その過程で実態の把握の仕方やその対策が自ずと明らかにされてくる。むしろ、そこに大きな意味があると言えるのである。

 現在、本校では因子分析やクラスター分析による生徒実態の解明だけでなく、時間割編成、定期および実力考査の成績処理、大学入試の資料づくり等に、コンピューターを導入している。そのためのプログラムづくりも盛んである。まだまだ改善の余地があるが、それだけに今後の教育の分野におけるコンピューターの利用価値は大きいのである。(愛知県立昭和高校教諭)

〈付記〉
 因子分析の統計処理については愛知県教育センター情報研究室の谷口誠示指導主事に、抽出因子の解釈や考察については本校の鈴木泉校長と中川豊久教頭に、アンケート項目の作成については田中義規教諭に、それぞれご指導、ご協力をいただきました。記して感謝の意を表します。


表1 生徒の意識と行動に関するアンケート

   1.何年生であるか
 2.男か女か
 3.家庭での学習時間は1日平均何時間か
 4.それは毎日一定しているか
 5.高校生として家庭で1日何時間勉強すべきだと思うか
 6.予習・復習は毎日必ず行うか
 7.最も好きな科目は何か
 8.最も嫌いな科目は何か
 9.学習意欲は自分で高いと思うか
10.ひとに言われなくても進んで勉強するか
11.勉強に熱中できるか
12.授業はどの程度理解できるか
13.授業に満足しているか
14.解らない点は主に誰に尋ねるか
15.解らない箇所は徹底的に調べるか
16.宿題は出してほしいか
17.宿題はどの程度やっているか
18.テストの答案は間違いなどをよく検討するか
19.ノートはきちんと整理しているか
20.学校では空き時間を利用して勉強しているか
21.家庭ではすぐ勉強に取りかかるか
22.覚えるまで何回でもくり返すか
23.文学書・教養書などよく読むか
24.図書館はよく利用するか
25.勉強以外のものに強い興味・関心があるか
26.それは何か
27.休みの時よく外出するか
28.パーマ・アイパーなどかけたことがあるか
29.服装で先生に注意を受けたことがあるか
30.学校の清掃は真面目にやっているか
31.遅刻は最近1ケ月に何回したか
32.遅刻は悪いことだと思うか
33.学校のきまりはよく守っているか
34.朝先生に会うと挨拶するか
35.朝友人や先輩に会うと挨拶するか
36.自分の生活態度は高校生としてよいと思うか
37.高校生活に満足しているか
38.家族のしつけは厳しいか
39.家事の手伝いはよくするか
40.自分の部屋をよく整理しているか
41.朝起こされなくても自分で起きるか
42.小遺いは月平均いくらか
43.テレビは1日平均何時間見るか
44.家族のものに学校のことをよく話すか
45.自分の家庭は明るい楽しい家庭だと思うか
46.睡眠時間は1日平均何時間か
47.現在悩みごとがあるか
48.それはどんを悩みか
49.悩みごとの相談はだれにするか
50.校内に話し合える友人は何人いるか
51.課外クラブに加入しているか
52.学校行事には積極的に参加するか
53.通学するのに疲れるか
54.下校途中で飲食店などに寄り道をするか
55.歩道橋など交通ルーレはよく守っているか

表2 因子分析(抽出生徒252名について)

因子 質問番号・質問項目 因子負荷量 解              釈
自主的学習態度 3.学習時間が長い
6.予復習をよく行う
9.学習意欲は高いと思う
4.学習時間が一定している
20.学校の空き時間によく勉強する
46.睡眠時間か短かい
10.強制されなくても勉強する
15.疑問点は徹底的に調べる
22.覚えるまで何度もくり返す
21.勉強にすぐ取りかかる
.7341
.6342
.6143
.5827
.5656
.5646
.5606
.5069
.5017
.4745
○家庭における白主的な学習習慣の確立を示す因子である。
○この因子は学年進行にしたがって高くなり、特に3年生の男子が高い。
○また英語の好きをものが、この因子に高い得点を示している。
○当然ながら、勉強以外に関心のないものが高く、反対にオートバイ、男女交際等に興味のあるもの、服装・頭髪で注意を受ける生徒は、低い。
○また男子全体と女子全体のそれぞれの集団の因子分析を比較すると、男子は勉強に「自発的に」「熱中できる」など、自主性・積極性において優れているが、女子は「勉強時間が一定」して「覚えるまでくり返す」など、持続性・耐久性において優れていることがわかる。
積極的行動意欲 11勉強に熱中できる
52学校行事によく参加する
12授業は大体理解できる
.5174
.4644
.4391
○授業でも行事でも、学校の指導には積極的に適応しようとする因子。この因子に高い負荷量をもつ項目は、「自主的学習態度」にも高い負荷量をもち、両者の関連が大きいことがわかる。2・3年生に比べ、1年生が高い。
教養志向性 23よく読書する
24図書館はよく利用する
.6381
.5320
○真面目で内向的を傾向を示す因子である。学年別では余裕派の2年生が高く、受験期の3年生は低い。またテレビ・ラジオの好きなものも、低い。
心理的充足度 13授業に満足している
57通学に疲れる
37高校生活に満足している
.6639
.4649
.4536
○この因子は、文学や国語の好きなものが高く、体育の好きをものや勉強以外に関心の強いものは、低い。だから非活動的タイプを暗示し、生来の無気力から来る満足という傾向が大きいと思われる。
協調的生活態度 44家で学校のことをよく話す
35友人や先輩に挨拶する
45家庭は楽しいと思う
39家の手伝いはよくする
50話し合える友人は少ない
33学校のきまりはよく守る
.5836
.5588
.5077
.4070
.4016
.3965
○親子の対話があり、明るい、しつけのよい家庭の中で、節度ある協調的態度が確立されていることを示す因子である。
○この因子は男子より女子が高く、3年生が低い。
○話し合える友人の少ないのは、それだけ家庭生活への適応を示すものとして、興味深い。
集団的志向性 54下校時に寄り道をする
55交通ルールはよく守る
30学校の清掃は真面目にやる
27休みによく外出する
.5593
.4899
.4454
.4250
O「交通ルールの遵守」や「清掃の実行」という望ましい生活態度に、「寄り道」や「外出」という望ましくない生活態度の結びついた因子。
○きめられたことは守るが、他人の迷惑にならないかぎりは、多少の寄り道や外出はかまわないという、現代っ子的集団志向性を示す因子である。
家庭のしつけ度 38家庭のしつけが厳しいと思う
42小遣いは少ない
.4951
.4484
○家庭のしつけの厳しさは小遣いの少なさに表れることを示していて、興味深い因子である。


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