「カタカナ英語と英語教育(2)」                    安藤邦男

                  名経大・市邨学園人文科学論集51号 1997(平成9)年12月


<はじめに>

 今日,夥しく氾濫しているカタカナ英語について,さまざまな意見が交わされているが,これはもっぱらカタカナ英語を国語として扱い,日本人同士の意思伝達の道具としての側面から見たものが多いようである。つまりここでは,英語圏に向かってのコミュニケーションの道具としてカタカナ英語を見るという観点が欠如している。この欠如している観点を補うという立場から,カタカナ英語の現状を見直し,その表記法・アクセント・和製英語の問題などを検討しつつ,英語圏に通じるカタカナ英語のあり方を探ろうとするものである。

 前号では,主としてカタカナ英語の表記の乱れや問題点を取り上げたのであるが,本稿では,英語が借用され外来語として根付く過程でどのような変容を受けるか,そしてもとの英語との間にどのような音韻上のズレや意味上のズレが生じるかを,いくつかの例を挙げて検討する。そして最後に,カタカナ英語のあるべき表記方法を具体的に試案として示したい。

T 外来語化される場合に英語の受ける変化

 カタカナ英語からアルファベット英語(正真英語)へとさかのぼる道は,そう簡単ではない。それは英語を外来語として受け入れた際に,英語が受けた変化があまりにも大きいからである。したがって順序としてまず,外来語一般が借用されるときにこうむった変化には,どんなものがあるかを明らかにし,しかる後,それらをいかにして原型に近く復元し,発信の用に使うかというふうに問題を考えることにする。

 英語が外来語化されるに際し受ける変化としては,1.音韻の変化 2.文法の変化 3.意味の変化の3種類があるので,順番に見ていくことにする。

1.音韻の上で受ける変化
外来語化において日本語の音韻体系の受ける変化には,さらに次の3種類が考えられる。@開音節化現象 A促音化現象 Bアクセントの移動現象である。

(1) 開音節化現象
 日本語の音韻構造は,英語のそれとは大いに異なっている。英語では,例えばstrikeにおける母音 [i] の前には [str] という子音が3個続くし,語尾は [k] という子音で終わる。ところが日本語の音韻構造では,音節は開音節(子音+母音)で始まり,開音節で終わるのが原則であるから,母音に先だって子音が二つ以上続くことはないし,最後が子音で終わることもない。だから,子音で終わる閉音節を主体とする英語が日本語に借用される場合は,子音はすべて母音を伴って音節化されることになる。その結果,外来語の音節数は原語に比してかなり多くなる。例えば,spring(1音節),strike(1音節)などは,スプリング(5音節),ストライク(5音節)になる。

 さて,このように原語の子音を外来語として移し替える場合,原語の子音の次に母音を加えて開音節化するが,ではその場合どのような母音が加えられるであろうか。矢崎源九郎氏は開音化における母音を次のように分類している。*1

ア.[f], [v], [s], [k], [g], [p], [b], [l] などの子音の次には,母音 [u] を添えることが多い。
  knifeナイフ,screenスクリーン,ballボール, clubクラブ

イ.[t], [d], の場合は [o] をそえて「ト」「ド」と表記することが多い。しかし一部には,[u] をそえて「ツ」「ズ」とすることもある。
 ・[o] をそえて「ト」「ド」とするもの
  trumpトランプ,coatコート,drinkドリンク
 ・[u] をそえて「ツ」「ズ」とするもの
  treeツリー,shirtシャツ ,drawersズロース

ウ.[ch], [ge] の次には,[i] を添えて「チ」「ジ」とする。
  touchタッチ,pinchピンチ,purgeパージ,
 ただし,フランス語系のge は,[u] を添え,「ジュ」とする。
  camouflageカモフラージュ,rougeルージュ

エ.[sh] の後には [u] を添える場合が多いが,一部には [i] を添える場合もある。
・[u] を添えて「シュ」とするもの
 Englishイングリッシュ,bushブッシュ
・[i] を添えて「シ」とするもの
 brushブラシ,sashサッシ など少数。

オ.[k] の後には [u] を添える場合が多いが,一部には [i] を添える場合もある。
・[u] を添えて「ク」とするもの
 milkミルク,strikeストライク,parkパーク
・[i] を添えて「キ」とするもの
 stickステッキ,cakeケーキ,steakステーキ

 さて,このように開音節化する場合に子音に伴う母音の種類には,「ウ」「オ」「イ」があるが,そのうちもっとも多いのが「ウ」である。ウ列のク,ス,ツ,フ,ムなど,あるいはそれらの濁音,半濁音が使用された外来語は,多くの場合,その原音は子音であると考えてよい。とくにそれが語尾に来る場合は,いっそうその傾向が強い。

 いずれにせよ,カタカナ英語の著しい特徴はこのような語尾の開音節である。日本語の音韻体系は,語尾に「ン」が付く語以外は原則的にすべて母音で終わるというものである。これがカタカナ英語にも当てはめられるので,そのまま発音すれば原語とはかなり異なった音になる。外国人に理解不能と言われる日本人英語の大半は,ここに原因がある。

 カタカナ英語とは逆に,アルファベット英語ではかなりの語が子音で終わり,語尾が母音で終わるものは少ない。中学基本語を調べてみると,母音で終わる語は大体4分の1ぐらいで,4分の3が子音で終わっている。*2

 だから,子音+母音の音節に慣れた日本人にとっては,子音だけの発音をひどく難しく感じる。聞き取ることもさることながら,音をつくることに四苦八苦する。しかし,母音で終わる語が多い言語はなにも日本語だけとは限らない。石綿敏雄氏は子音の多い英語の発音の難しさに触れ,英語と比較するとスペイン語やイタリア語などの南欧系の言葉の方が日本人にとってはるかに近づきやすいこと,そしてそれはそれらの言葉が日本語と同じように,語尾がたいてい母音で終わる音韻体系に由来していることを述べている。*3 例えば,スペイン語では英語を借用する場合,dogがdogoとなり,pamphlet が panfleto に,ballast が balasto になるという。*4

 外来語が英語学習に及ぼす影響について,メリットとデメリットがいろいろ指摘されているが,デメリットについてそれを発音面にかぎっていえば,主としてこの子音を開音節化するカタカナ表記のせいである。カタカナ英語を発信の手段として使用する場合,第1にクリアしなければならない関門はこの開音節における母音の除去という問題である。日本人的発音の癖の修正は,若いうちから意識的に行わなければならないし,またそれは中学校における英語教育の一つの課題でもある。しかし本稿ではそれを表記の問題としても考えてみたい。第U章の「新しい外来語表記試案」でそのことに触れ,その対策を考える。

(2) 促音化現象
 次に,外来語化に当たって見られるものに促音化現象なるものがある。短母音の次にp, b, t, d, k, g, ts, ch,geなどの破裂音・破擦音が来る英語の音節は,外来語化するとき短母音の次に促音を1拍入れて表記するのが原則である。例えば,cat, bookなどの1音節語は,「キャット」,「ブック」のように3拍語となり,原音より2拍分だけ音節数が増える。拍数の増加という点では,開音化現象と同じである。touchタッチ,bridgeブリッジ,Mississippiミシシッピなど,みなそうである。しかし,実際の英語の発音では,破裂音などの前の短母音は短く促音化するが,日本語のように3拍になるのではない。「短母音+(促音)+子音」の単位で1音節だから,一気に発音される。したがって日本語の促音よりずっと短い。場合によっては,促音が感じられないこともある。

 ここに、外来語化における促音の表記の難しさがある。日本語には英語におけるような中途半端な促音がないからである。日本語では促音があるかないかで,意味形成上重大な違いがある。例えば,日本語で「いと」といえば「糸」または「意図」を表し,「いっと」といえば「一都」「一途」「一斗」などを表す。そして両者は厳密に区別される。しかし,英語ではIt is a pen. における It は強く発音すれば,「イット」となり,弱く発音すれば「イト」であるが,いずれにしても意味は変わらない。また,この場合 is は軽く「イズ」と発音されるし,さらに軽くIt と結びついて無声化し「ツ」とも発音される。しかし,Yes, it is. における is「イズ」は強勢がおかれ,長く「イーズ」とも,短く「イッズ」とも発音される。長音化されようと,促音化されようと,is であることに変わりはない。英語には,日本語におけるように固定し,それ故に意味に直結した1拍の促音なるものは存在しないのである。だから,英語圏の人にとっては「糸」を「一都」と区別して発音することが難しいのである。

 
ライシャワー博士はいう。「英語国民が日本語を話すときに経験する,おそらくは唯一の困難は,長音と短音の区別であろう。ココとコーコー<高校>,キタ<北>とキッタ<切った>などがこれである。英語にはこの種の区別が存在しないからである。」*5 このように自在な発音をもつ it や is を外来語としてどう表記するかは,なかなか頭の痛い問題である。

 この促音の表記については,国語審議会は慣用主義に徹している。昭和29年の「外来語の表記の原則」では,「原語の綴り字に引かれて「ッ」を添えて書き表したものは「ッ」を使わない」とし,アッコーディオンをアコーディオンに,アクセッサリーをアクセサリーに改めている。外来語化における促音のもつ拍数を減らし,なるべく原音に近づけようとする意図は感じられるが,しかし,一方ではシャッターやバッテリーを例外としてそのまま認めている。この矛盾は平成3年の「表記の原則」にも引き継がれ,ここでは「促音は小書きの『ッ』を用いて書く」とだけ記され,「ッ」を入れる例としてリュックサックやロッテルダム,「ッ」を入れない例としてアクセサリーやフィリピンを挙げているだけである。そこには「慣用」はあっても「原則」はないという印象を免れない。

 この問題についての詳細は第U章の「新しい外来語表記試案」にゆずるとして,ここではただ促音「ッ」の表記の問題はアクセントの問題と切り離しては解決できないとだけいっておこう。

(3) アクセントの移動現象

ア. 英語とカタカナ英語との間にあるアクセントのズレ
 さて,外来語を英語として通用させるためにクリアすべき音韻上の障害がもう一つある。それは外来語と原語との間にあるアクセントのズレである。外来語の表記にあたって,原語の音韻体系を日本語のそれにはめ込んだのと同じように,外来語を発音する場合のアクセントも,原語を無視し日本式に置き換える傾向が著しい。

 例えば,次の外来語は原語のアクセントとはっきり違う。(英語のアクセントおよび外来語のアクセントは、ゴシック体で示す。)
 career(キャリアー),hotel(ホテル), routine(ルーチン),pattern(パターン),stewardess(スチュワーデス),

 アクセントは意味伝達に直結する。例えばcareerを外来語の発音にならってキャリアーと発音するなら,英語圏の人は保菌者のcarrierと取るであろう。外来語のアクセントは表記の対象にならないので,ややもすると無頓着になりがちであるが,しかし通じるためのカタカナ英語では,アクセントの正確さが何よりも求められる。やはり原音のアクセントを正確に移し取る必要がある。この点,外来語を音声言語として使用する関係者,例えば放送従事者や学校の教師などの責任は重い。

 少し前の話であるが,NHKテレビは話題のストーカー問題を取り上げ,関係当局がその対策に乗り出したことを報じた。英語のstalkerは「ト」にアクセントをおいて「ストーカー」と発音するが,アナウンサー氏は「ストーカー」と平板読みにしていた。*6 これは,外来語を東京アクセント方式で平板読みをする一般的傾向に従ったものであろう。新しい外来語はやはり原語の発音を取り入れて欲しいものである。アクセントの見本提供者であるアナウンサー氏がこの調子であるから,一般の人が外来語のアクセントに関心をもたないのは当然かも知れない。

 平成8年,国語審議会も「近年,主として東京語アクセントにおける平板化の傾向が見られ,アクセントにゆれのある語が増加している」という報告を発表している。*7  この平板化の傾向はまた外来語のアクセントにもおよんでいる。言語学者の柴田武氏は,近年の若者が「パーティー」といわず,平板読みで「パーティー」というアクセントを使う例を挙げ,外来語の頭高アクセントが次第に平板化する傾向を指摘しながら,「外来語のアクセントが平板化するのは,いわば一層日本語(在来語)らしくなる」ことだという。そして「在来語についていうと,47.3%が平板」であり,「将来は平板だけになるだろう」という。*8 確かに平板化は時代の趨勢であろう。しかし,外来語の中にはことさらに外国語らしさを強調しようとするせいか,「アクセサリー」や「アドバイス」という,原語のアクセントとは違う頭高のアクセントも目立つのである。

 では,実際の外来語一般のアクセント傾向はどのようになっているのか。英語のアクセントと比較しながら調べることにする。

イ. 外来語における拍数とアクセントの位置の関係
 アクセント辞典によって外来語のアクセントを原語との比較において調べてみると,いくつかの興味ある事実がわかる。*9

 最初に断っておきたいことは,日英のアクセント体系の違いについてである。英語のアクセントは強弱アクセントであり,日本語のそれは高低アクセントであるから,本来別個のアクセント体系に属するものである。しかし,比較のためには,両者を同一のものとして扱わなければならず,日本語アクセント分類による頭高型,中高型,尾高型は,アクセントのある拍を太字で示すことにした。アクセントのない平板型は二拍目からアンダーラインを付けて示した。また,後部下降型は下降する語の前までアンダーラインをつけて示した。なお,例として挙げた外来語の語頭にそれぞれ○印や×印がつけてあるが,○印は日英が同じアクセントであることを示し,×印は異なるアクセントであることを示す。

@2拍・3拍の外来語は原則として語頭にアクセントがあり,原語のアクセントと一致するものが多い。
 ○ジャムjam,○パイpie,○ショーshow,○ピンpin,○ペイpay,○ケーキcake,○ダンスdance,○セットset,○ゲームgame

 ただし,「子音+子音」で始まる英語が外来語化する場合,第1拍目にアクセントが来ると,英語のアクセントと一致しない。*10
 ×グラスglass,×クラスclass,×プラスplus,×クラブclub

A3拍の外来語でアクセントが語尾から2拍目にくるものは,原語のアクセントと一致するものが多い。
 ・原語が「子音+子音」で始まる語の場合
 ○トライtry,○ドライdry,○フライfly
 ・語尾が長音「ー」に終わる場合
 ○グレーgrey,○タブーtaboo,○フリーfree,

B3拍の外来語でアクセントが語尾から3拍目に来るものは,原語のアクセントと一致しないものが多い。
 ×パジャマpajamas,×バニラvanilla,×バザーbazaar,×ポリスpolice,×トマトtomato,×ポテトpotato,×バナナbanana,

C4拍語以上の外来語のアクセントは,原則として語尾から3拍目に来るが,この場合アクセントが原語と一致するものもあればしないものもある。とくに拍数が多くなると一致しないものが多い。
 ・アクセントが一致するもの
 ○トランクtrunk,○トランプtrump,○ストライクstrike,○パーセントpercent,○クリーム cream,○ドライブdrive,○クイーンqueen,
 ・アクセントが一致しないもの(多拍語に多い)
 ×バイオリンviolin,×クリスマスChristmas,×ファシズムfascism,×ブロマイドbromide,×プロローグprologue,×サッカリンsaccharin

D4拍語以上の省略語や複合語は,アクセントのない平板型になる傾向が強い。しかし中には頭高型もある。
 ・平板型 ×インフレ,×アナクロ,×マスコミ,×エアコン,×クリームパン,×ボールペン ,×ワープロ,×プレハブ,×リストラ
 ・頭高型 ○ワンマン,○ネクタイ,○ガード(マン),○ペンパル

E古くから借用され頻繁に使われる3拍以上の語は,平板化する傾向がある。
 ×バケツbucket,×タイヤtire,×アイロンiron,×テーブルtable,×フェイントfeint,×プリントprint,×ハーモニカharmonica

F語尾から4〜5拍目にアクセントがくる多拍語は,アクセントが原語と一致するものもあれば,一致しないものもある。
 ・一致するもの ○ハイフンhyphen,○ビジネスbusiness,○ピンポンping-pong,○ネガティブnegative,○フェンシングfencing,○プライバシーprivacy
 ・一致しないもの ×エジンバラEdinburgh,×バドミントンbadminton,×クライマックスclimax,×ボランティアvolunteer,×プロテスタントProtestant

G新しく入り十分国語化していない外来語は,原語のアクセントと一致するものが多い。
 ○フライfly,○レコードrecord,○アルバムalbum,○アクセントaccent,○ストッキング,stocking,○パイロットpilot

H語尾に「ーション」( -tion)のつく外来語は原則としてその前の拍にアクセントが来て,原語のアクセントと一致するものが多い。
 ○ステーションstation,○コンディションcondition,○バケーションvacation,○センセーションsensation,○イミテーションimitation

I 長音「ー」,撥音「ン」,促音「ッ」の 前の拍は自ずと強く読まれ,アクセントがおかれる傾向が強い。この場合アクセントは原語と一致するものもあれば,一致しないものもある。
 ・一致するもの 
 ○ストーリーstory,○スポンサーsponsor,○ミッションmission,○セーターsweater,○キャンディーcandy
 ・一致しないもの(多拍語や複合語に多い)
 ×アナウンサー announcer,×ボイコットboycott,×ホームランhome run,×セールスマンsalesman,×レモンティーlemon tea

Jアクセントのない [-ar] [-er] [-or] を語の途中にもつ英語が外来語化されると,しばしば長音化されアクセントをおいて読むので,原語のアクセントと一致しないことが多い。
 ×エドワードEdward,×オックスフォードOxford,×スチュワーデスstewardess,×ハーバートHerbert,×パターンpattern

 外来語の長母音は一般にアクセントをおいて読むことが多いので,原語の短母音を長母音化して表記すれば,原語にはないアクセントが生まれることになる。

 矯正法としては,これらを原音通り短母音化して表記することである。そうすれば,正しいアクセントが復活する可能性がある。
 Herbert(×ハーバート → ○ハーバト),pattern (×パターン → ○パタン)

Kアクセントのない [a]の綴り字をもつ英語が外来語化されると,しばしば「エー」と表記され,アクセントをおいて読むので,原語とは一致しないことが多い。
 ×ダメージdamage,×デリケートdelicate,×マネージャmanager,×イメージimage,×プライベートprivate,×セパレートseparate,

 アクセントのない [a] の綴り字は,大体 [i] と発音されるが,外来語では「エー」と読むことが多いので,どうしてもアクセントが生じる。

 矯正法としては,これも原音通りに短母音化して読めば,正しいアクセントが復活する可能性が高い。
 damage(×ダメージ→○ダメジ),delicate(×デリケート→○デリケト)

Lアクセントのある長母音や二重母音のi[i:][ai],a[ei][a:],o[ou]をもつ英語が外来語化されるとき,短母音化してアクセントをおかずに読むことがあるので,原語とは一致しないことが多い。
 ×ポリスpolice,×トマトtomato,×ポテトpotato,×バナナbanana,×ソナタsonata,×バニラvanilla,×オクラホマOklahoma

 これらは本来 「アー」「イー」「オー」と読むべき二重母音や長母音を,短く「ア」「イ」「オ」と読んだために,アクセントが前にズレたものである。

 矯正法としては,これも原音通り二重母音または長母音に戻して「エイ」「アー」「イー」「オウ」と読むことである。そうすれば,アクセントは正しい位置にもどる可能性がある。
 police(×ポリス → ○ポリース),banana(×バナナ → ○バナーナ)

2.文法の上で受ける変化

(1) 文法的機能の排除
 さて,次は文法上の変化についてであるが,英語が外来語として借用される場合,それと一緒に文法的機能が取り入れられるということはほとんどない。日本語の文法体系が英語とはあまりに違いすぎるため,借用しようとしてもできないからである。もっと正確にいえば,まったく異種の英語文法に対してあたかも異物を拒絶するような激しい生体反応が働くからであろう。とくに統語法に関係する文法はほとんど日本語の中には入ってきていない。例えばthank you という英語の成句は,外来語化されるとそこには英語が本来もっている「他動詞+目的語」という統語法の意識は消え,「サンキュー」という一つの名詞相当句として定着するのである。

 また,例えばatという前置詞を借用するとしても,それはat home「アットホーム」や at random「アットランダム」という成句としてしか借用できないのであって,「アット学校」や「アット6時」というように他の名詞を自由に目的語として後ろに取ることができるというatの統語的機能まで,借用することは出来ない。

 だから,文法上の変化といっても,名詞を中心にした品詞にまつわる変化がほとんどである。しかも,それは借用した後でいかに変化させたかという問題というより,借用にあたって始めから何を切り捨て,何を借用しなかったかという問題である。

 では,外来語化に際してどのような文法的機能が切り捨てられるのかを見てみよう。

ア.名詞は複数形語尾のsを切り捨て,単数形として取り入れる。(カッコの中は切り捨てられた文字)
 サングラス(イズ)sunglasses, ストッキング(ズ)stockings, フォアボール(ズ)four balls, オフリミット(ツ)off limits

イ. 動詞は語尾の -ed,-ing などの語形変化を切り捨てる。
 ハッピー・エンド(イング)happy ending, フライ(イング)パンfrying pan, コンデンス(ト)ミルクcondensed milk

ウ. 副詞は語尾の -lyを切り捨て,「〜に」をつけて用いる。
 リッチ(リ)にrichly, スムース(リ)に smoothly

エ.接続詞を省略する。
 ハム(アンド)エッグ(ズ)ham and eggs, カレー(アンド)ライス curry and rice, カレー(ド)ライスcurried rice

 複数語尾 -s, -esは,複数変化の言語習慣のない日本語の中では無用の長物として切り捨てられるし,condensed milk における -ed などの語尾活用は,英語においては複合語形成のための意味上・機能上の重要な役割を果たしているが,日本語ではcondensedとcondenseの間には意味上の相違を見ず,どちらも「濃縮」という意味の名詞として受け入れ,milkと合成してコンデンスミルクとなる。どちらも同じとすれば, -ed はむしろない方が簡単でよいことになる。

 石綿敏雄氏は,この方法は日本語の伝統であるとして,次のようにいう。「『赤いかわら』を『赤かわら』といい,『口の広いびん』を『広口びん』という。(中略)(このように)語の主要部だけつないでいって複合語をつくるのが日本語のやり方といえるだろう。」*11

 さて,このような語尾変化の切り捨てのほかに,もう一つカタカナ英語に特有な性質がある。それは品詞の転用ということである。

(2) 品詞の転用
 カタカナ英語の多くは名詞であるが,それは多くの英語の中からとくに名詞だけが選ばれ借用されたという意味ではない。むろん後述するように,名詞からの借用がもっとも多いが,動詞・形容詞・副詞などからの借用も結構ある。しかし,それを外来語として使用するときは,ほとんどを名詞として使用するのである。一部,形容詞として用いられることはあるが,それは少ないし,また動詞を借用してそれをそのまま動詞として使用することはさらに少ない。

 例えば,英語のdriveという動詞は名詞形がdrivingであるが,外来語としては「ドライビング」を使わず,「ドライブ」をそのまま名詞として使用し,「ドライブする」「ドライブに行く」などと使う。形容詞,副詞なども同じである。すべての品詞をまず名詞として取り入れ,その上で@動詞的内容を示すものは「〜する」をつけて動詞として用い,A性質・形状などを表すものには「〜な」をつけて形容詞として,B「〜に」をつけて副詞として使うのである。
 @「キャッチ」catchする,「テーク」takeする,
 A「リッチ」richな,「スマート」smartな,
 B「リッチ」rich(ly)に,「スムース」smooth(ly) に

 これは,日本語の中への漢語の取り入れ方とまったく同じである。
 @「勉強」する,「努力」する,「活動」する
 A「具体」的,「人工」的,「幸福」な
 B「徹底」的に,「犠牲」的に,「元気」に

ア 中学必須語におけるカタカナ英語の品詞別分類
 さて,カタカナ英語が名詞として借用されるということはどこまで事実として裏付けられるのか,調べて見ることにする。資料は中学校英語における必須語である。*12 前号でも触れたように,中学校必須語507語のうち336語が外来語化されているのであるが,では,それらの外来語の品詞別内訳はどのようになっているかといえば,およそ次のようである。

品    詞  品詞別語数   (%)注(1) 外来語化された品詞別語数  (%)注(2)
中学必須語    507    (100%)       337        (66.5%)
@名詞    192    (37.9%)       174        (90.6%)
A動詞    103    (20.3%)        72        (68.9%)
B形容詞     82    (16.2%)        47        (57.3%)
C副詞     51    (10.1%)        24        (47.1%)
D代名詞     38    ( 7.5%)         7        (18.4%)
E前置詞     21    ( 4.1%)         8        (38.1%)
F接続詞      7    ( 1.4%)         2        (28.6%)
G助動詞      8    ( 1.6%)         0        ( 0.0%)
H冠詞      3    ( 0.6%)         1        (33.3%)
I間投詞      2    ( 0.4%)         2        (100%)

注(1)全語数507語に対する各品詞別パーセント
 (2)品詞別語数に対する外来語化された語のパーセント

 これでわかるように,外来語化率の一番高いのは予想されたように名詞であり,以下動詞,形容詞,副詞と続く。逆に,外来語化され難い語は助動詞,接続詞,代名詞,前置詞と続き,とくに助動詞にいたっては,8語のすべてが外来語化されていない。いわゆる機能語(冠詞,助動詞,接続詞,前置詞など)は外来語化され難いことがわかるが,このことは,前述のように,文法的機能の借用を拒否する国語の文法体系と無関係ではあるまい。

イ ほとんどが名詞として転用されるカタカナ英語
 ではここで,上掲の表にもとづき,中学校で習う英語必須語のうち外来語化されたものについて,各品詞別にその主な特徴を挙げてみよう。

名詞・
 外来語化率は90.6%である。外来語化されていない名詞は18語(9.4%)だけで,その中には数詞(twelve, fourteen, sixteen, eighteen,),家族名(son, daughter, aunt),月名(November, December)などがあり,日常使い慣れた和語・漢語をもつ事物にはわざわざ外来語を取り入れて置きかえないことがわかる。

動詞・
 外来語化率68.9%で,3分の2以上が外来語化されている。意外に多い数字であるが,前述のように動詞の多くは外来語化してもその使用に際しては,単独の名詞(ドロー,ドライブ,エンジョイなど)として転用するか,他の語と組み合わせて複合名詞(ギブアップ,シースルールック,テークアウトなど)として使用するのがほとんどである。しかし英語の文法機能を借用し,動詞をそのまま動詞として用いる例(カット,プレー,ストップなど)も少数ながらある。なお,外来語化されていない動詞の中には,be 動詞や have 動詞,その他日常使う一般動詞(arrive, begin, come, do, eat, live, say, etc.)がある。ここでもやはり,日常的概念には外来語を取り入れていないことがわかる。

形容詞・
 外来語化率は57.3%である。形容詞の6割近くが外来語化されていることになるが,これらはその大部分が,ファインプレー,コールドウォー,ブルーカラーなどのように,他の外来語と結びついて複合名詞となるもので,単独語として形容詞的に用いられるもの(ビューティフル,リッチ,ワンダフルなど)は少ない。

副詞・
 外来語化率は47.1%である。副詞も形容詞と同じように,他の外来語と結びついて複合名詞をつくるもの(ホームイン,オフシーズン,ワンスモアなど)がほとんどである。単独に用いるもの(ハードに,8時ジャストになど)は少なく,その場合はrichlyなどのような語尾の -lyは取って用いる。また名詞として転用し,「〜する」をつけて動詞化するもの(バックする,ダウンするなど)もあれば,さらに形容詞的に使うもの(アバウトな,ナウいなど)もある。

代名詞・
 外来語化率は18.4%と低い。外来語化されているものは特殊な意味の語(イット<性的魅力>,ナッシング,サムシングなど)や複合語(ミーイズム,マイカーなど)だけであり,普通の人称代名詞,指示代名詞などは外来語化されていない。

前置詞・
 外来語化率は38.1%である。やはり複合語として用いるもの(アフターファイブ,インザホール,オンエアなど)がほとんどである。

接続詞・
 7語の中で外来語化されているものはほとんどなく,それもやはり複合語(エンドラン,オールオアナッシングなど)としてである。

助動詞・
 8語のうち外来語化されたものは皆無である。これは助動詞が動詞と結びつく性質上,単独使用が困難なためであろう。

 以上でわかるように,借用されたカタカナ英語はほとんどが複合名詞として用いられている。そしてこの複合名詞こそがカタカナ英語をアルファベット英語から区別する一番大きな特徴であるといっていい。すなわち和製英語である。では,次章でこの和製英語を見ることにする。

3.意味の上で受ける変化

(1) 和製カタカナ英語の成立
 いわゆるカタカナ英語なるものは,あくまで日本語である。英語の意味が比較的正しく取り入れられていると思われるカタカナ英語でも,子細に見れば原語との間に微妙な意味の違いがある。というのは,外来語を輸入する際,原語のもっている多くの意味の中から一つの意味だけを切り取って取り入れ,ほかの意味はすべて切り捨てるからである。例えば「チャンネル」の原語であるchannelには,主な意味として@水路,A河床,B海峡,C(報道などの)ルート,D(放送の)チャンネルという意味があるが,カタカナ語としての「チャンネル」には英語のDの意味にだけ使用される。その点で「チャンネル」はchannelのもつ意味の一部を代表するが,その全部を代表しているわけではない。

 このように,一つの意味だけを取り入れたカタカナ英語は,必ずしも元の英語の意味と対応していないのであるが,われわれはうっかりするとこの事実を忘れがちである。しかしそれはまだよい。さらに重大な問題がいわゆる和製カタカナ英語(以下和製英語という)の中に含まれている。例えば,試験の不正行為をカンニングという。これは原語にはない意味である。このような和製英語の氾濫が,実は表記や発音の問題以上に厄介であるのはいうまでもない。

 和製カタカナ英語のなかで圧倒的に多いのは,「省略語」と「複合語」である。英語の語句を日本流に省略したり,組み合わせたりしたものである。荒川惣兵衛氏によれば,それはちょうど「部分品を輸入して,日本で組み立てるノック・ダウン方式の外車に似ている。」*13 だから,「その構成要素の一つ一つは確かに英語であるが,その組み合わせは英語にない」*14 というものである。

 ところで,このような和製カタカナ英語の氾濫を,どのように評価すべきであろうか。和製英語を言語の誤用として非難する見方に対して,和製英語はもともと外国に対するコミュニケーションは意図していないので,その非難はあたらないとする説がある。確かに,もっともな説である。ちょうど漢語がその豊富な造形力によって日本語の語彙を豊かにしたように,和製英語は日本語の語彙を増加させてきたし,今後もますます増加させるであろう。その点ではむしろ,喜ぶべき現象かもしれない。

 しかし,われわれが今押し進めようとしている発信の英語という見方からすれば,和製英語の氾濫には多くの問題があると見なければならない。それは一方では英語を身近なものにしたが,一方では正しい英語の妨げになっている。ライシャワー博士はいう,「これほどたくさんの英語を借用したのだがら,日本人の英語習得はさぞや容易になったであろうと想像する向きもあるかもしれない。たしかにその面もなくはない。(中略)だが,借用語があるために,かえって外国語習得上の障害が増えたという側面もある。」*15

 和製カタカナ英語のデメリットは,似て非なる英語がなまじ英語の顔をもっているということである。見慣れ,使い慣れていると,次第に正真の英語であるという錯覚が生まれてくる。それは表記や発音の間違いより始末が悪い。カタカナ英語とアルファベット英語の発音の違いは,耳で聞けばすぐに分かるので,間違いも訂正しやすい。しかし意味のズレはなかなか気づきにくいし,まして組み合わせが日本的造語であるかないかは,よほど吟味しないとわからない。

 だから,カタカナ英語の国際通用性を高めるためには,和製英語を和製英語としてハッキリ認識し,それに対応する正しいアルファベット英語をきちんと身につけることがどうしても必要である。

(2) 和製カタカナ英語の分類
 ここでいう「和製カタカナ英語」には,発音・表記がアルファベット英語と違うもの,例えばラジオ radio,パイラpilotなどは含めない。それらは表記を正せば,ほぼ同じ意味を表すアルファベット英語に復元できるからである。ここでは,和製英語として、ア 意味不一致型(英語本来の意味と違う意味で使用された和製カタカナ英語)と,イ 造語型(日本で部品組み立て方式で造語され,英米には存在しないカタカナ英語)の二つを取り上げ、その実態を探ってみよう。」。

ア. 意味不一致型
 【注】  a. カタカナ英語(その意味)    →  相当する正しい英語
       b. 借用対象英語(その意味)

  a. エスケープする(授業をサボる)   →cut class
  b. escape(逃亡する)

  a. カンニング(試験での不正行為)   →cheating
  b. cunning(ずるい)

  a. コンセント(電気の差し込み)     →outlet, socket
  b. consent(同意)

  a. ジュース(炭酸水入りジュース)   →soft drinks
  b. juice(100%生野菜ジュース)

  a. スマート(かっこよい)          → good-looking, slim
  b. smart (頭がよい,抜け目ない)

  a. ドライブウエー(自動車道路)     → motorway
  b. driveway(道から車庫までの私道)

  a. フェミニスト(女性に優しい男)     → gallant
  b. feminist(女権拡張主義者)

  a. ハンドル (自動車用)          → steering wheel
    ハンドル (自転車用)          → handlebar
  b. handle (取っ手,つまみ)

  a. バイキング(バイキング料理)     → smorgasbord
  b. Viking (北欧海賊)

 
 a. マンション(高層集合住宅)      → apartment house, condominium
  b. mansion(大邸宅)

  a. ムーディーな (情緒のある)     → atmospheric
  b. moody(不機嫌な)

イ. 造語型

(a)合成造語型@(単語)【注】( → は正しい英語を示す)

・「類推組み立て型」
 スキンシップ(skin+ship)        → skin contact,
 ファンタジック(fantasy + fantastic)   → fantastic,
 カリカチュアライズ(caricature + ize) → make a caricature of

・「日英混種型」
 カンピュータ(勘+<コン>ピュータ), 
 マンガチック(漫画+ティックtic),
 アル中(アル<コール>中【毒】), 
 カラオケ(空 + orchestra), 
 サラ金(salaried man +金融), 
 脱サラ(脱<出>+サラ<リーマン>)

・「国語同化型」
 ダブる(double+る), デモる(demonstrate+る), トラブる(trouble+る), ナウい(now+い), ネグる(neglect+る), サボる(sabotage+る)

(b)合成造語型A(複合語)  【注】( → は正しい英語を示す)

・「前部一致型」
 OL, オフィスレディ(office+lady) → office girl, career woman,  
 サラリーマン(salary+man)    → salaried worker,  
 ダンプカー(dump+car)       → dump truck,  
 チアガール(cheer+girl)      → cheer leader,  
 バックネット(back + net)      → backstop,  
 パンティストッキング(panty + stocking)→ pantyhose,  
 ビーチパラソル(beach + parasol) → beach umbrella,  
 フロアスタンド(floor + stand)   → floor lamp,
 ブックカバー(book+cover)    → book jacket

・「後部一致型」
 ジェットコースター(jet + coaster)    → roller coaster,
 シャープペンシル(sharp + pencil)    → mechanical pencil,
 テーブルスピーチ(table + speech)  → after-dinner speech,
 デコレーションケーキ(decoration + cake)→ fancy cake,
 ドライブマップ(drive + map)      → road map,
 ハイティーン(high + teens)      → late teens,
 バックミラー(back + mirror)      → rearview mirror,
 マカロニウェスタン(maccaroni+western)→ spaghetti western

・「語順転換型」
 シーズンオフ(season + off)    → off season,
 ポテトフライ(potato + fry)     → fried potato,
 オーダーメイド(order + made)   → made to order, custom-made

・「付加型」
 インディアンペーパー(India + n + paper)   → India paper,
 ウオーミングアップ(warm + ing + up)    → warm up,
 フリーランサー(free-lance + r)        → free-lance,
 オーナードライバー(owner + driver)     → driver,
 ガードマン(guard + man)           → guard,
 ダンスパーティ(dance + party)        → dance

・「前後部不一致型」
 オートバイ(auto+bicycle)       → motorbike, motorcycle,
 ガソリンスタンド(gasoline+stand)  → gas station, filling station,
 ゴーストップ(go + stop)        → traffic signal,
 コインランドリー(coin+laundry)    → Laundromat,
 
ゴールデンアワー(golden+hour)   → prime television time,
 フロントグラス(front+glass)     → windshield,
 プレイガイド(play+guide)        → ticket agency,
 ベースアップ(base+up)       → pay raise,
 ホームドラマ(home + drama)    → soap opera,
 ワンピース(one+piece)       → dress

(c)省略造語型@(単語)【注】( → は正しい英語を示す)

・「前部省略型」
 (フラン)ネル     → flannel,
 (ダイナ)マイト    → dynamite,
 (ア)メリケン     → American

・後部省略型
 イントロ(ダクション)   → introduction,
 インフレ(ーション)    → inflation,
 コネ(クション)      → connection,
 シンパ(サイザー)    → sympathizer,
 スーパー(マーケット)  → supermarket,
 ネガ(ティブ)       → negative,
 リストラ(クチュアリング)→ restructuring,
 レジ(スター)      → register

・「前後部省略型」
 コレ(ス)ポン(デンス)  → correspondence,
 アン(ダー)グラ(ンド)  → underground

(d)省略造語型A(複合語)【注】( → は正しい英語を示す)

・「前部省略型」
 (ヒット)エンドラン       → hit and run,
 (インフェリオリティ)コンプレックス → inferiority complex,
 (グランド)スタンドプレー   → grandstand play,
 (モーター)バイク       → motorbike,
 (ソーイング)ミシン      → sewing machine

・「中央部省略型」
 スクランブル(ド)エッグ      → scrambled egg,
 アフター(セールス)サービス   → after-sales service,
 アフター(ケア)サービス     → after care service,
 エンゲージ(メント)リング     → engagement ring,
 コイン(オペレイテッド)ロッカー → coin-operated locker,
 ソフト(アイス)クリーム       → soft ice-cream,
 バック(グラウンド)ミュージック → background music,
 ハム(アンド)サラダ       → ham and salad

・「後部省略型」【注】( → は正しい英語を示す)
 アパート(メントハウス)     → apartment house,
 エアコン(ディショナー)     → air conditioner,
 ソフト(ウエア)          → soft wear,
 デパート(メントストア)     → department store,
 パーマ(ネントウエーブ)    → permanent wave,
 フロント(デスク)        → front desk,
 ボディービル(ディング)    → body building,
 ホワイトカラー(ワーカー)   → white-collar worker,
 マスコミ(ュニケーション)   → mass communication

・「前後部省略型」
 ゼネ(ラル)スト(ライキ)       → general strike,
 パ(ー)ソ(ナル)コン(ピュータ) → personal computer,
 ハム(アンド)エッグ(ズ)      → ham and eggs,
 ハン(ガー)スト(ライク)      → hunger strike,
 マイ(クロ)コン(ピュータ)    → micro computer,
 リモ(ート)コン(トロール)    → remote control,
 ワー(ド)プロ(セッサ)     → word processor

(e)品詞の転用型 【注】( → は正しい英語を示す)
 これは,英語の動詞をそのまま名詞として用いたものである。
 アナウンス(メント)    → announcement,
 エキサイト(メント)    → excitement,
 ドライブ(イング)     → driving,
 スペル(イング)     → spelling


U新しい外来語表記試案

 前号で見たように,外来語一般の表記は国語審議会の原則があるにもかかわらず,かなり乱れている。外国への発信の手段としての外来語という側面だけを考えれば,現行の乱れた慣用表記を思い切って整理し,100%の原音主義に徹するのがもっとも効果的方法であるのはいうまでもないであろう。しかし,外来語は長い年月を費やして蓄えられてきた国語の遺産でもある。これは一朝一夕にして改めることのできるものではない。遺産は遺産として伝承しながら,じょじょに原音表記の方向を目指す以外に道はないのである。となれば,現実的戦略としては段階的改革を採らざるをえないであろう。そこで筆者はA案,B案,C案と三つの案を段階的に考えることにしたい。

 A案は,これまで国語審議会などが進めてきた改革路線を踏襲し,その枠内で最善の具体策を考えるというものである。国語審議会案を一歩進めたものというべきである。具体的にいえば,ラジオ,コーヒーなど慣用が固定しているものを除き,できる限り原音表記を心がける。発信のためカタカナ英語の表記としては十分とはいえないが,一歩前進であることは確かである。

 B案は,A案の表記法をさらに進めたカタカナ英語(前号で述べたように外来語と英語との中間に位置する言語)としての表記を目指している。新しいカナの組み合わせなども取り入れることによって,より原音に近づけようとする案である。それだけに,これまでの伝統的慣用表記を若干無視する一面も出ている。したがってこれを直ちに外来語の表記として用いることには抵抗があるかもしれないが,いずれはカタカナ英語表記のあるべき形として評価されることを期待したい。

 C案は,慣用にとらわれず,純粋に発信の手段としてカタカナ英語を考えた場合の表記の方法である。カナとして可能な限りの近似的発音を目指したものであるから,外来語表記としてそのまま一般社会で用いることはできないが,英語教育の現場では従来の英語発音記号に代わって用いることはできるであろう。そして,カナ発音記号はいずれは英語教育の現場から広く世の中に出ていき,一般社会の市民権を得ていくことができるかもしれないし,またそうあってほしいと思うものである。

 もう一度,A案,B案,C案の特徴を列記すれば、次のようである。

 A案: 国語審議会案にのっとり、それをさらに進めたもの。外来語表記として、原語に一歩近づいている。

 B案: 外来語と英語の中間言語としてのカタカナ英語の表記を目指したもの。この表記が普及すれば、カタカナ英語から英語学習への道が大きく開ける。

 C案: 英語教育の現場で、英語発音記号に代わって用いられることを目指したもの。発音記号を覚えなくてもよいし、正しい原語の発音が可能になる。 

 むろん,このA〜C案は筆者の私案であり,不完全であるのは百も承知している。にもかかわらずあえて公表するのは,多くの人たちに外来語表記への関心を持ってもらいたいからである。原音に近い表記を心がける人が増えれば,カタカナ英語は少しずつアルファベット英語に近づき,やがて発信の英語として役立つ日も来るであろう。

1.A案の原則:

  在来のカナを用いて,できるだけ原音に近い 表記をする。表記にゆれのあるものは原音に近 い表記に統一する。ただし慣用の固定している ものは原音とは違っていても慣用に従う。

 以下の各項目における原則,ゆれ,例外の分類について説明する。
 原則 の例は,原則通りに表記したものであり,これは国語審議会の案ともおおむね一致する。
 ゆれ の例は,表記にゆれのあるもので,外来語辞典では両方の表記があるが,ここでは原音に近いものを取り,原音から遠いものを斥けた。この例のいくつかは国語審議会の資料から借りている。*16
 例外 の例は,原則から逸脱しているが,慣用が固定しているので,例外として認めたものである。

 なお,以下に取り上げた表記はすべての子音や母音にわたるものではなく,とくに問題があるものに限っている。また,A案の表記を提案する具体的理由・根拠に関しては,すでに前号において「国語審議会の表記の原則」に対する批判等の形で説明済み*17 であるので,ここでは最小限の記述にとどめた。

(1)「子音」の表記
・park における「k] は,「ク」と表記し,「キ」と表記しない。
 前節の「開音節化現象」のところで触れたように,「ク」に統一したい。
 原則  park パーク,taxi タクシー,bike バイク
 ゆれ  extra エクストラ(×エキストラ),  excite エクサイト,(×エキサイト),  flexible フレクシブル(×フレキシブル)
 例外  strike ストライキ, cake ケーキ, deck デッキ, brake ブレーキ, exotic エキゾティック

・[t] [d] は「ト」「ド」と表記し,「ツ」「ヅ」と表記しない。ただし複数語尾をもつ [ts] [ds] は「ツ」「ズ」と表記する。
 原則  tractor トラクター,  skirt スカート, billiard ビリヤード, boots ブーツ, goods グッズ
 例外  tree ツリー, drawers ズロース

(2)「子音+母音」の表記
・[ti] [di] は「ティ」「ディ」と表記し,「チ」「ジ」と表記しない。
 原則  tea ティー, disk ディスク, dinner ディナー
 ゆれ  team ティーム(×チーム), ticket ティケット(×チケット), credit クレディット(×クレジット)
 例外  tip チップ, teak チーク, still スチール, satin サテン, Latin ラテン

・[tu] [du] は「トゥ」「ドゥ」と表記し,「ツ」「ヅ」と表記しない。
 原則  tunica トゥニカ, Duden ドゥーデン
 ゆれ  two トゥー(×ツー), tool トゥール(×ツール), tour トゥアー(×ツアー)
 例外  two piece ツーピース, tourist ツーリスト, twin ツイン

・cat における [ca] は「キャ」と,America における[ca] は「カ」と表記する。
 原則 captain キャプテン, campus キャンパス, pelican ペリカン
 ゆれ camera キャメラ(×カメラ), canvas キャンヴァス(×カンバス)
 例外 career キャリア, capacity キャパシティ, Canada カナダ, casual カジュアル

・shell における [she] は「シェ」と表記し,「セ」と表記しない。
 原則  shaker シェーカー, shaver シェーバー,
 ゆれ  shepherd シェパード(×セパード)
 例外  milk shake ミルクセーキ,

・gender における [ge] は「ジェ」と表記し,「ゼ」と表記しない。
 この「ジェ」も原音からは「ヂェ」と表記すべきものであるが,A案としては「ゼ」を「ジェ」に変更しただけでも前進であると考え,「ジェ」とした。「ヂェ」は,B案の表記として後で提案する。
 原則  gender ジェンダー, digest ダイジェスト
 ゆれ  generation ジェネレーション(×ゼネレーション),  jelly ジェリー(×ゼリー), gentleman ジェントルマン(×ゼントルマン)
 例外  general strike ゼネスト, midget house ミゼットハウス

・[fa]〜[fo] は「ファ」〜「フォ」と表記し,「ハ」「ホ」と表記しない。
 原則  fine play ファインプレー, field フィールド
 ゆれ  fork フォーク(×ホーク), cellophane セロファン(×セロハン),  filetフィレ(×ヒレ)
 例外  coffee コーヒー, platform プラットホーム

・[va]〜[vo] は「ヴァ」〜「ヴォ」と表記し,「バ」「ボ」と表記しない。
 ゆれ  Venice ヴェニス(×ベニス), vitamin ヴィ タミン(×ビタミン), violin ヴァイオリン (×バイオリン), veranda ヴェランダ(×ベランダ)
 例外  TV テレビ, shovel シャベル, visa ビザ

・[wa] 〜 [wo] は「ウァ」〜「ウォ」と表記し,「ウア」〜「ウオ」や「ア」〜「オ」と表記しない。
 ゆれ  swing スウィング(×スイング), whisky ウィスキー(×ウイスキー), stop-watch ストップウォッチ(×ストップウオッチ)
 例外  sandwich サンドイッチ, equal イコール, whistle ホイッスル, wink ウインク

(3)「母音」の表記
・[ei] は「エイ」と表記し,「エー」や「エ」と 表記しない。
 現在,ほとんどすべてのカタカナ英語はまるで長音「ー」が外来音の特徴ででもあるかのように,「エー」と表記している。しかし,映画は「えーが」でなく「えいが」と表記するように,「テーブル」も「テイブル」と二重母音を生かした表記をすべきである。だが,長音「ー」の慣用は根強いので,当分はその慣用を認めざるを得ないであろう。
 原則  AIDS エイズ, feint フェイント, layout レイアウト, paint ペイント
 ゆれ  raincoat レインコート(×レーンコート), waitress ウエイトレス(×ウエートレス), maid メイド(×メード), main メイン(×メーン)
 例外  tape テープ, cake ケーキ, table テーブル, lady レディー, major メジャー等多数。

・[ou] は「オウ」と表記し,「オー」,「オ」と表記しない。
 [ou] と [o:] とを区別するためには,[ou] は「オウ」という二重母音として表記するべきである。しかしこれも「エー」と同様「オー」と表記する慣用表記が強いので,当分はこの「オー」を認めないわけにはいかない。
 原則  Seoul ソウル, soulful ソウルフル
 ゆれ  bowling ボウリング(×ボーリング)
 例外  poker ポーカー, owner オーナー, open オー プン, only オンリー, omit オミット等多数。

・その他の母音で原音と違う発音は原音どおりに表記する。
 ゆれ  Thames テムズ(×テームズ), recreation レクリエイション(×リクリエーション),  reference レファレンス(×リファレンス), glove グラブ(×グローブ)
 例外  pageant ページェント, salmon サーモン, oven オーブン

・[mm] [nn]の重ね字の表記には撥音「ン」を挿入しない。
 原則  tennis テニス, mammy マミー
 ゆれ  summer サマー(×サンマー), thinner シナー(×シンナー), symmetry シメトリ(×シンメトリー), commercial コマーシャル(×コンマーシャル)
 例外  hammer ハンマー, runner ランナー, dilemma ジレンマ, comma コンマ

・耳から聞いたりして訛ったものは正しい発音にもとづいて表記する。
 ゆれ  pudding プディング(×プリン), yard ヤード(×ヤール), roast ロウスト(×ロース), handkerchief ハンカチーフ(×ハンカチ)
 例外  truck トロッコ, glas(蘭) ガラス, jitterbug ジルバ

・清音か濁音かについて「ゆれ」のある場合は,原音どおりに表記する。*18
 ゆれ   smooth スムーズ(×スムース), loose ルース(×ルーズ)

2.B案の原則:

 A案において,例外として認めていた慣用による表記を,できるだけ原音表記の原則に改めるとともに,さらに旧いカナ文字を利用したり,カナの新しい組み合わせを工夫したりして,可能な限り原音に近い表記を心がける。

(1)A案において慣用として認めていた表記を,B案では例外として認めず,原則通りの表記とする。

        A案の表記(例外) → B案の表記
   deck    デッキ     →   デック
   tip     チップ      →   ティップ
   tourist   ツーリスト   →   トゥーリスト
   career   キャリア     →   カリア
    coffee    コーヒー     →   コーフィ
    TV     テレビ      →   テレヴィ
    tape    テープ      →   テイプ
    poker   ポーカー     →   ポウカァ
    runner  ランナー      →   ラナァ

(2)「ワ」〜「ヲ」,「ワ゛」〜「ヲ゛」,「ヂ」,「ヅ」などの旧カナ文字を用いる。
 昭和19年の文部省制定の発音符号表では,「発音の区別のなくなったヰ・ヱ・ヲ・ヂ・ヅを用いず,イ・エ,オ・ジ・ズのみとする」とある。昭和29年原則も,平成3年原則も,これに準じている。また,平成3年案では,昔行われた例として,スヰフトの「ヰ」,ヱルテルの「ヱ」,ワ゛イオリンの「ワ゛」,ヱ゛ルレエヌの「ヱ゛」,ケンブリッヂの「ヂ」,ワーヅワースの「ヅ」などを挙げ,「過去に行われたさまざまな表記を否定しようとするものではない」としている。しかし,現代の表記としては,これらのカナは用いないものとしている。*19

 日本語の音を豊かにするという意味では,折角旧来からある「ヰ」「ヲ」「ヱ」「ヅ」「ヂ」などのカナは,外来語表記として是非使用したいものである。国語音に使われないからといって,これらのカナを死蔵させるのはいかにももったいない。

・measure における[s] は「ジ」と表記し,engine における [gi] は「ヂ」と表記する。
 外来語の表記においては「ジ」と「ヂ」の区別は,是非しなければならない区別である。日本人には「ジ」などの摩擦音と「ヂ」などの破裂音(破擦音)との区別が難しいといわれる。日本人のG はZ と誤解される。まず,「ジ」と「ヂ」をはっきり区別して表記することである。現代仮名遣いではこの「ヂ」や,次に述べる「ヅ」の文字の使用を鼻血「はなぢ」や三日月「みかづき」の例で認めている。「ヂ」「ヅ」を国語の表記に使い,外来語の表記に使わない理由はないのである。これらのカナを外来語表記に使うならば,再び音としての力を取り戻し,生き返ることであろう。
           A案の表記   →    B案の表記
  measure   メジャー     →    メジャー(同じ)
  casual     カジュアル   →    カジュアル(同じ)

  engine    エンジン     →    エンヂン
  Virginia    バージニア   →    ヴァーヂニア

・[z] は「ズ」と表記し,[dz] は「ヅ」と表記する。
 「ズ」と「ヅ」の区別も「ジ」「ヂ」の区別と同様,外来音の表記においては重要である。これも摩擦音と破裂音(破擦音)の差である。ここでは次のように表記する。

           A案の表記  →  B案の表記
  [z]  quiz     クイズ    →  クイズ(同じ)
    size     サイズ    →  サイズ(同じ)

 [dz]  goods    グッズ    →  グッヅ
    Richards  リチャーズ  →  リチャーヅ

・[wa] 〜 [wo] は「ワ」「ヰ」「ヱ」「ヲ」 と表記する。 また, [va] 〜 [vo] は「ワ゛」「ヰ゛」「ヱ゛」「ヲ゛」と表記する。
 [wa]〜[wo] 行,[va]〜[vo] 行の音はそれぞれ1音節の音であるから,「ワ」「ヰ」「ヱ」「ヲ」,「ワ゛」「ヰ゛」「ヱ゛」「ヲ゛」がふさわしい。「ウィ」「ウォ」などと綴れば,どうしても2音節の「ウイ」「ウオ」に訛りやすくなる。それは従来のウイスキーwhiskyやウオッチwatchなどの表記を見ても明らかである。「ヰスキー」「ヲッチ」なら間違いは起こらない。

          A案の表記    →   B案の表記
   whiskey   ウィスキー   →    ヰスキー
   watch    ウォッチ     →    ヲッチ

   violin    ヴァイオリン   →    ワ゛イオリン
   veil     ヴェール     →    ヱ゛ール

(3) 原音に近い表記をするため,在来のカナを新しく組み合わせて外来音をつくる。

・[wu] は「ウゥ」と表記する。
 従来,[w] も [wu] も [u] もすべて「ウ」で表記していたが,これも不便である。 [w] と [wu] は区別して,[w] には「ウ」を,[wu] には「ウゥ」をあてたい。そこで,「ワ」行は,
  ワ   ヰ   ウゥ  ヱ   ヲ
と表記する。

         A案の表記  →   B案の表記
   wool    ウール    →    ウゥル
   woman   ウーマン   →    ウゥマン

・shipにおける[shi]とsitにおける[si]を区別するため,[shi]を「シ」と表記し、[si]を「スィ」と表記する。
 また、occasion における [si] と music における [si] を区別するため,前者を「ジ」と表記し、後者を「ズィ」と表記する。
 「『外来語の表記』に用いる仮名と符号の表」(平成3年)の中の本文「3」には,「第1表・第2表に示す仮名では書き表せないような,特別な音の書き表し方については,ここでは取り決めを行わず,自由とする」とある。そしてこの点について「留意事項その1」では,その特別な音には,「スィ,ズィ,グィ,グォ,キェ,ニェ,ヒェ,フョ,ヴョ等の仮名が含まれる」としている。*20 国語審議会が特別なカナとして自由に使ってもよいとする上記の「スィ,ズィ・・・」などのカナは,カナ発音表記としては大いに使うべきものである。英音では [si] が非常に多く,従来これをすべて「シ」で表記してきたが,「シ」は [shi] に対応し,[si] の音とはかなり異なる。両者は区別したい。
 
       A案の表記   →   B案の表記
   sheet    シート    →   シート(同じ)
   ship     シップ     →   シップ(同じ)
   seat     シート     →   スィート
   season   シーズン   →    スィーズン
   measure  メジャー   →    メジャー(同じ)
   pleasure  プレジャー →    プレジャー(同じ)
   Zipper   ジッパー   →  ズィッパー
   zigzag   ジグザグ   →   ズィグザグ

・[fu] は「フゥ」と表記し,[hu] は「ホゥ」と表記する。
 従来,「ハ」行と「ファ」行は紛らわしかった。古くは「ファ」行を「ハ」行で代用し,「フィレ」に「ヒレ」を,「フォーク」に「ホーク」をあてるなどしたが,最近は「ファ」音は「ファ」行で表記している。しかし [fu] と [hu] にはどちらにも「フ」をあてるので,両者の区別がつかない。hood も food も「フード」となってしまう。これも区別したい音である。そこで,「ハ」行と「ファ」行を次のように表記することにする。
    ハ   ヒ   ホゥ  ヘ   ホ
    ファ  フィ  フゥ  フェ  フォ

         A案の表記  →  B案の表記
  [hu] hood  フード     →    ホゥード
      hoop  フープ     →    ホゥープ
  [fu] food   フード      →     フゥード
     foot   フット       →    フゥット
 ただし,母音と結びつかない単独子音 [f] は,「フ」と表記する。
  [f]  friend  フレンド  →   フレンド(同じ)
     knife   ナイフ   →   ナイフ(同じ)

・促音の有無については,原音にアクセントのある母音は「ッ」を伴うが,そうでないときはつけない。
 この趣旨の背後には,カタカナ英語のアクセントも英語のアクセントに準じて読むという原則があることはいうまでもない。前章の「促音化現象」においても触れたように,促音「ッ」の表記は,従来無原則であった。国語審議会の「原則」は「アクセッサリー」は用いず,「アクセサリー」とするとあるが,その理由の説明はない。すべて慣用である。ここで筆者は,「アクセントのある短母音」+「破裂音・破擦音」の場合に促音「ッ」を用いるという原則を立てたい。すなわち,単音節にはアクセントが来るから,shutter「シャッター」,cutting「カッティング」などの例のように「ッ」を添えて表記する。しかし,2音節以上の語においてアクセントのある短母音の次には「ッ」を入れるが,アクセントのない短母音の次には「ッ」をおかないということにする。そうすれば,Mississippi は「ミシシピ」ではなく,「ミシシッピ」のように表記することになり,biscuitは「ビスケット」ではなく,「ビスケト」と表記することになる。

 ところでこの原則からいけば,accessoryは「アクセッサリー」であって「アクセサリー」ではない。またPhilippineは「フィリピン」であって「フィリッピン」ではない。したがって,国語審議会の「表記の原則」が推奨するようにaccessoryを「アクセサリー」と促音のない表記をすれば,どこにアクセントを置いてよいかわからなくなり,「アクセサリー」と「ア」にアクセントをおく読み方が出てくる。「アクセッサリー」なら正しく「セ」にアクセントをおいて読める。一方,国語審議会の「原則」は「フィリピン」の表記を勧め,「フィリッピン」を退けているが,これは正しい。「フィリッピン」では「リ」にアクセントを置きたくなるが,「フィリピン」では正しく「フィ」にアクセントを置くことができるからである。正しい表記の例を示せば,次のようである。
 accessory アクセッサリー(×アクセサリー),  philippine フィリピン(×フィリッピン), appeal アピール(×アッピール), peanuts ピーナツ(×ピーナッツ)

3.C案の原則:

 ここでは発音記号としてのカナ表記を考える。そのために,アクセントを太文字で表記し,子音はすべて小書きとし,新しい表記方法や符号を用いて,最大限に原音に近づける工夫をする。

(1) アクセントのある文字を太字で書く。
 英語の発音記号にとって欠かせないものは,アクセント記号である。カナ発音記号にとってもそれは同じである。アクセントの表し方はいろいろあるが,太字で表すのが一番わかりやすい。以後,例として挙げるカタカナ英語はすべて,アクセントをゴシック体で示すことにする。

(2) 小書き文字を次のような場合に用いる。
・母音と結びつかない独立の子音の表記には,小書きのカナ文字を用いる。
 カタカナを発音符号として用いる場合に音韻上の一番の大きな問題点は,すでに述べたように,日本語には原則として開音節しかないということである。例えば,[t] [d] という破裂音が母音と結びつくときはよいが,子音として独立するときは,ハッキリ言って表記するカナ文字が日本語にはないのである。新しい文字を用いて表記するのも一つの方法である。しかしそれは日本語の表記体系を変更することなので,できることなら従来の表記体系の中で,なんとか母音の影響を排除し,閉音節に近づける道はないものかと,いろいろ工夫がなされてきた。

 例えば,戦前の文部省制定の発音符号表では,「音節中の母音の無声化を表すには,該当する符号の左側に「△」を付ける」として,この問題を解決しようとした。*21 あるいはまた最近の「Go, English!」のように,「カナ発音記号」に新しく「ト」「ド」の下側に点 [ .] を打つ表記を用いるのも一つの方法である。発音記号としては,これらの方法でも間に合うかもしれない。しかし,「・」や「△」を付けて閉音節を表すのは煩雑すぎる。従来のカナ表記体系の枠内で,それを最大限利用していくのが良策であろう。だとすれば,在来のカナを使い,これを小書きにすることで母音を発音しないということに決めておけばよいのである。すなわち,原語が母音に結びつかない子音(「子音+子音+母音」で始まる語や「母音+子音」で終わる語など)を含む場合は,子音は(有声無声にかかわらず)すべて小書き(小文字)で表記するということである。小書き文字ならば,五十音図の中にも存在する正統な表記法である。発音記号として使えることはもちろんであるが,カタカナ英語一般の表記に使うことも出来ないわけではない。例を示せば,次のようである。

 (以下、半角カナ文字の使用を避けるため、カナ文字全体を倍角文字にした。故に、普通のカナ文字は倍角に、小書きのカナ文字は全角になっている。)

 serve サー, milk ミル , rush ラッシュ

 子音で始まる場合や途中に子音のくる場合も,むろん小文字になる。

 screen スクリーン, tree リー

 ただこの場合,従来促音に使われていた小書きの「ッ」との区別がつきにくいという問題がある。

 nuts ナッッ, guts pose ガッッウズ

 しかし,これなどは例が少ないし,また慣れれば解決する問題であろう。

・拗音や外来音の表記にも,小書きのカナ文字を用いる。
 次に,子音を小文字で書くという原則は,拗音や外来音にも及ぼしてはどうだろうか。小書きの原則に従い,拗音の「チャ」 における「」 は子音と見なし,「ヤ」 は母音と見なす。そうすれば前のカナの「」は小さく,後ろのカナの「ヤ」は大きく,ヤ」と書くことになる。同様に,「イ」,「オ」は,「テ」「ウ」のように書く。

 ヤ行・ワ行における半母音 y と w は,子音に準じて小文字とするので,次のように表記する。
   ヤ行  ヤ   ィイ    ユ    ィエ    ヨ
   ワ行  ワ   ヰ   ゥウ    ヱ    ヲ

 さて,この方法でカタカナ英語を表記すれば,次のようになる。

                A案の表記       →     C案の表記
   cat        キャット        →     キヤッ
  communist    コミュニスト      →    コ
ユニスト
  Mark Twain   マーク・トウエーン  →    マー
トウエインヌ

・小書き(小文字)で表記することのメリット
 子音を小文字で書くことの第1のメリットは,従来の表記の方法の範囲内で書くということであり,馴染みやすいということである。

 第2のメリットは,カタカナ英語における開音化された発音は,発信の英語としてはその母音を消さなくてはならないが,カナを小さく書くことによって,母音を消すという作業が意識的に行われるのに役立つであろう。

 第3のメリットとしては,拗音や外来音に関係するものであるが,2文字構成の拗音や外来音は,後ろの文字の方を大きくした方が自然だということである。従来の表記法では,ティ,テュ,トゥ,ファ,フォなどの外来音は誤読が多かったが,その主な原因は最初の文字を大きく,二つ目を小さく書くという,その表記方法自体の中にあると思われる。「ファ」という表記を見れば,自然に小さい文字の「ァ」よりも大きい文字の「フ」に力点をおいて読みたくなるものである。その結果が [fuan](不安)という発音をつくることになる。子音を小さく綴る「フ」という表記法の方が [fa] 音を作リやすいのである。

 しかし留意すべきは,いくら小書き表記しても,それで日本人の開音化の習慣が直るわけではないということである。「開音節」から「母音」を消す発音訓練は,小さいときから意識的に行わなければならないのはいうまでもない。

・二重母音の表記において,2文字目は小書きにする。
 さて,「フ」などの外来音はこのように「」に力点を置いて読むのであるが,それとちょうど正反対のことが「エイ」などの二重母音についていうことができる。英語の2重母音 [ei] は1音節であるが,「エイ」は表記どおりに読めば2音節になる。原音では最初の母音は強いが後ろの母音は弱く,なめらかに移行して消えていくのが2重母音の特徴である。後ろの文字を小書きにして「イ」と表記すれば,1音節であることを特徴づけることになり,自然である。これは3重母音についてもいえることである。

  「ア」 → 「ア」,  「アウ」 → 「ア」, 「イア」 → 「イ」, 「ウア」 → 「ウ」, 「エイ」 → 「エ」, 「エア」 → 「エ」, 「オウ」 → 「オ」, 「オイ」 → 「オ

               A案の表記    →    C案の表記
    bacon        ベーコン    →   ベ
     cake        ケーキ    →   ケ
イク
    coat        コート      →   コ
ウト
    ocean       オーシャン   →   オ
ウシ
    strike       ストライク    →   
ストイク
    ice         アイス      →   ア
イス
    flower       フラワー   →   
ウァー

・語尾の -ar, -er, -ur などは「ァ」と小書きし, 長音符号「ー」は使わない。
 例えば teacher は 「ティーチャー」では「」が1拍となり,やや長く感じられる。「チヤァ」と「」を小書きにすれば,もっと弱く,短く発音することができて,一層原音に近づくのではなかろうか。例えば,次のようである。

           A案の表記   →   C案の表記
   father     ファーザー   →    
アーザァ
   sailor      セーラー     →    セィラァ
   broker    ブローカー   →    
ロゥカァ

・語尾が -y [i] で終わる語は,「ィ」と小書きし,長音符号「ー」を使わない。
 例えば,happy は 「ハッピー」 と表記されているが,実際は1拍の「ー」ではなく,半拍程度の音であるから,小さく「」をつけ「ハッピィ」とする。

           A案の表記   →  C案の表記
   lucky     ラッキー   →   ラッキィ
   money    マネー    →   マニィ
   hockey   ホッケー   →   ハッキィ


(3) 発音記号として新しい音の表記を工夫する。
・文中において子音に先立つ [n] は「ヌ」と表記し,文尾では「ンヌ」と表記する。
 従来も,日本語の「ン」は [n] を表すには相応しくないという指摘がよくなされてきた。日本語の「ン」は舌先が歯茎の裏にくっつかず,きわめて弱い音であるが,とくに米語の [n] は,例えば I want to go. における want の [n] が後続の [t] を飲み込んで,I wan(t t)o go. になるというように,力強い音である。ただ,はっきり「ヌ」と表記したのでは「ヌ」に伴う [u] の母音が強くなりすぎるという欠点もあり,何となく「ン」で済ませてきたというのが実状であろう。しかし,やはりここは文中では「ヌ」と,文尾では「ンヌ」と表記し,舌先を歯茎の裏に押しつける習慣を付けるべきであろう。[u] の母音は,後で述べるように,子音を小書きにすることによってかなり防げるはずである。

           A案の表記     →    C案の表記
   pain       ペイン       →    ペ
インヌ
   badminton   バドミントン    →    バ
ンヌ
   stainless    ステンレス    →    
イヌ
   government  ガバンメント   →    ガ
ント

・単独の子音 [m] は「ム」と表記する。
 [p], [b] に先立つ [m] は発音符号としては,やはり唇を閉じた「ム」音をあてるべきであろう。その方が次の [p],[b] の破裂音が自然と強く発声できるからである。

                A案の表記     →   C案の表記
   combination   コンビネーション  →   コ
ビネヨン
   symposium    シンポジウム    →   
ウズイア
   symphony    シンフォニー    →    
ムフオニィ

・[æ] 列の音の [kæ] [sæ] [tæ] などは,ア」「ア」「ア」などと表記する。
 
           A案の表記   →    C案の表記
   camp      キャンプ   →    
ンプ
   tanker      タンカー   →    
カァ
   salad      サラダ    →    
アラ

(4)新しい符号 [] を用いて表記する。

・[g] は「」と表記し,king などにおける [ng] は「」と表記する。
 昭和19年8月,文部省教学局国語課はアジアへ日本語を広めるために,発音符号表を制定・発表している。それを見ると,「行鼻音を表すには,[] のごとく,カの仮名の右上 に [ ] を添えた符号を用いる」とある。そして,「」という鼻音の表記を掲げている。*22

 そこで英音の鼻音 [?] を表すのにも,これを借りて次のように表記してはどうであろうか。

・[g] の場合は「」行で表記する。
 finger ガァ, fog オッ

・[ng] の場合は「」行で表記する。

        A案の表記    →   C案の表記
    singer  シンガー    →    

    song   ソング     →     ソ
ンク
    young  ヤング     →    ヤ
ンク

・[r] と [l] の発音を区別して,[ra] 〜 [ro] は 「ラ」 〜 「ロ」 と表記し,[la] 〜 [lo] は 「ラ」 〜 「ロ」と表記する。
 [ ] の利用方法はほかにないかと考えていたら,たまたまこの[ ]符号を同じように類似の音の区別に利用している例を発見した。海外でリスボンと言おうとしてその「リ」が [li] か [ri] かとっさに思い出せず困った経験をしたという西村肇氏は,[l] に [ ] をつけて「ロンドン」,「リスボン」と書くことを思いついたという。*23  [r] と [l] の子音の区別に悩まない日本人はいないであろうが,それは日本語にそれを区別する音声がないし,表記するカナもないからである。しかし国際通用語としては [r] と [l] の区別は是非とも必要である。そこでこの符号 [ ] を借りて [l] 行をと表記することにする。

           A案の表記      →    C案の表記
   play ball   プレーボール     →    
ボー
   lip cream   リップ・クリーム   →    リ
リー

・[l] で終わる音のカナ表記を工夫する。
 さらに,西村肇氏は[l]が語尾に来る場合については,次のようにいう。「また日本人の英語のなかでとくに聞きぐるしいのは語尾のlがルになることだが,これはまちがったカタカナ表記が固定観念として頭に入っているからであると思う。語尾の [ pl] , [ gl ] などを下表のように正しい発音通りにカタカナ表記をするようにし,これが頭に入ればすぐ直せると思う。英語辞書の発音記号は目に残らないが,カタカナなら1度見たら忘れないからである。」*24 そして「サンプル」を「サンプオル」と,「トリプル」を「トリプオル」と表記するように勧めている。

 これを参考にして,さらに [kl],[nl],[tl] などの例を加え,次のように書くことにしてはどうか。

          A案の表記    →    C案の表記
   devil      デヴィル     →    デ
ヴオル
   double     ダブル      →    ダ

   uncle     アンクル     →    ア
ヌクオル
   channel    チャンネル   →    
ヌオル

・[ s ] と [ 無声th ] を区別するために後者を 「」と表記し,また [ z ] と [ 有声th ] を区別するために後者を 「」と表記する。
 [r] [l] の区別ほど目立たないが,[s] [z] と [無声th] [有声th] の区別もやはり重要である。これもやはり「」を用いたい。
    S音      サ   イ   ス   セ   ソ
     Z音      ザ   
   ズ   ゼ   ゾ
   無声th音    サ  
 ス   セ  ソ
    有声th音    ザ  
 ズ   ゼ   ゾ

             A案の表記     →   C案の表記
   thank you     サンキュー     →  

   the end       ジ・エンド      →   
イ・エンド
   think tank     シンク・タンク    →   
ンクンク
   see-through   シー・スルー    →   
イー・ ルー

(5) 新しいカナ文字を創設する必要がある。
 さて,以上符号の「 」を用いて国語にない音を表記する方法について述べてきたが,むろんこれは便法であって日本語における音不足の基本的解消にはなっていない。かえって混乱を増すだけという批判もあるだろう。やはり新しいカナ文字の創設が望まれる。とくに [t],[d] などは「ト」[to],「ド」[do]と表記すると,母音 [o] の影響が強すぎるし,「ツ」[tsu],「ヅ」[dzu] では子音 [s],[z] が混入し,別の音になってしまう。新しいカナの創設が望まれる。

 すでに昭和29年の外来語表記の原則の審議の過程においても,新カナの必要性が認められ,「明治以来漢字音をかなで教育してきたため,日本語の音韻は少なくされている」として,「将来のため,ある種の外来語音を国語に取り入れる用意をすべきである」*25 という進歩的意見もだされている。残念ながら,この意見は時期尚早ということで見送られたようであるが,当時すでにこのような原語の発音を重視する意見が出されていたことは注目に値する。平成3年の外来語表記の原則の審議の過程においても,新しいカナ表記の工夫と関連して「RとLの区別もできればするほうがよい」という意見も出されているが,これも見送られてしまっている。*26

  このことについて,英語を実際に海外で使う立場の人たちからも,「TH音やL音,F音をカナで表記したり,強いアクセントを表記したりする方法を考案すれば,英語をカタカナで書くことが楽になるはず」であるとして,新しいカナ表記を積極的に用いる必要性を説く人も出始めている。*27 在来のカタカナ文字に代わるべき新しいカナ文字の中には,子音のほかに母音の [ æ ] や [ 曖昧母音 ] なども含まれるであろう。いずれにしても,新しい音を国語音として取り入れるという問題は国家百年の計であり,ただ国語審議会だけでなく広くジャーナリズム,学会,教育会を始め,国民一人一人の問題として取り組んでいくべき問題であろう。

<おわりに>

・発信のカタカナ英語は日本語を混乱させるか。
 さて,本稿は発信のためのカタカナ英語の主張であるが,それはこれまで入ってきた外来語の表記・アクセント・和製英語などを,なるべく原語に近いものに改めようというものである。しかしそのような主張に対しては,外来語を国語の一種として定着させてきた伝統的考え方からは当然反発が予想される。例えば,次のような意見がある。「日本語のなかで,外国語とギャップがあるような使い方があるのはよくない。そういう使い方をなくし,英語に準じた使い方を日本語のなかで行おうという意見も出てくる。この意見に対して真向から反対をいうわけではないが,これにもまた危険な面があることは注意しておきたい。たとえばアクセントの面で,日本語と英語の相違は著しいが,外来語において英語に準じたアクセントにしようとすると,木に竹をつぐというたとえのとおり日本語のなかの混乱ははかりしれないものがあろう。英語でone foot, two feetというからというので,日本語で1フート,2フィートということを奨励しても,やはりひどい混乱が生ずるだろう。単数・複数という区別は日本語にないのに,それを日本語にもちこもうとするからである。それはある意味で英語からの日本語への内政干渉である。放置すれば,大げさにいえば日本語の危機をむかえることになろう。」*28

 この意見には,どこかに論旨のすり替えが感じられる。というのは,日本におけるカタカナ英語の借用は内政干渉のような外圧ではなく,内発的要求だからである。それに,文法までも取り入れようとするカタカナ英語推進者はまずいないと言っていい。取り入れようとしても難しいのは,外来語借用の歴史が証明している。さしあたって,あまりに原音からかけ離れた表記は原音に則して改め,アクセントは正しいアクセントを用いるべきではないかといっているに過ぎない。目指すは伝達力の回復である。原音に近い表記であれば,カタカナ英語は今よりずっと通じやすくなる。

 もう一つの問題点は,アクセントを英語式にすることは決して「木に竹をつぐ」ことにはならないということである。外来語のアクセントが日本語化され,平板読みが多いのは先に見たとおりである。しかしすべて外来語を平板読みにしなければならないという理屈はない。げんに頭高アクセントや,中高アクセントなどの例に見られるように,アルファベット英語のアクセントを踏襲しているカタカナ英語もかなりある。原音と同じカタカナ英語のアクセントを日本語の中で用いても,少しも不自然さを与えるものではない。少なくとも平板読みはやめ,英語と同じアクセントをおいて読む習慣をつければ,カタカナ英語は飛躍的に発信力を増すのである。

 ただ,筆者は次のようにいう石綿氏には,全面的に賛成である。氏は,外来語と英語の間に存在するズレが大きな障害になっている事実に触れ,「これについては,外来語と英語の間にどういう差があるかを,どんなことばにどんな相違があるかを,外国語を教育する人,学習する人がなるべく多くの語についてくわしく知ることが必要だとわたしは考える」*29  といっている。その通りだと思う。とくに,外国語教育に従事するものはアルファベット英語とカタカナ英語との間にある発音・アクセント・意味のズレを十分認識し,それをきちんと教えなければならない。そうすればいずれはそのズレは縮まり,正しい伝達力のあるカタカナ英語が生まれるであろう。

・外来語辞典はアクセントを明示すべきである。
 アクセントが日本の東西で正反対であるというわが国では,国語審議会のいうごとく,日本語のアクセントは強制すべきものではないであろう。*30  しかし外来語のアクセントは,もとになる英語のアクセントがきちんと統一されている以上,それをきちんと表示し,その通りに覚えた方がいい。それは発信のカタカナ英語として絶対の必要条件であるだけでなく,メリハリの利いた英語アクセントを取り込めば,平板化する日本語にある種の変化を与えるものとしても歓迎されるのではないだろうか。その意味で,外来語辞典にはアクセントを付けてほしい。それも「下線」や「・」ではなく,ハッキリわかるようなゴシック文字でつけてほしい。新聞や雑誌なども新出の外来語にはアクセントの所在を明記してもらいたい。そして放送関係者や教育関係者は「その影響の大きさに配慮して」*31 外来語の正しいアクセントを話し,普及する努力をしてもらいたい。

・小学校教育における外来語の音声指導
 カタカナ表記についていえば,いかに表記を工夫し,新しいカナ文字を開発したとしても,それでカタカナ英語がただちに発信の役に立つ英語に変わることは出来ない。カナ発音記号はいくら精巧に工夫を凝らしても,所詮はアルファベット英語の近似値でしかない。溝を埋めるのは正しい音声教育しかない。

 話は旧聞に属するが, 平成2年10月,文部省調査協力者会議は,段階別の外来語の用例を中間報告として発表し,英語などを習っていない小学生には,原音に近い表記や一般的によく使わない ウィ,ウェ,クェ,テュ,ヴァ,グア などは教える必要はないとした。*32 しかし,時代は変わっている。前号でも触れたように,平成8年5月第5期中央教育審議会は小学校における特別教育活動の時間などを利用して英語教育の実施を勧告した。われわれはその早期実施を期待するものであるが,その中には是非,英語の音声面での指導とともに,外来語の発音指導も含めてもらいたい。「ファ」行や「ヴァ」行,「ティ」,「ディ」,「トゥ」,「ドゥ」などの外来音の正しい発声の仕方は,いうまでもなく低学年での訓練が一番有効である。またこれに関連することであるが,国語の音読指導における「ワ」「ヰ」「ヱ」「ヲ」など旧字体を含む「ワ」行の音づくりや,「ジ」と「ヂ」の区別の仕方など,あわせてマスターしてほしい事柄である。外来音を対比させることによって,一層和音の特徴がはっきりし,ひいては国語教育に利する点も見逃せないことである。

・カタカナ英語と英語教師
 表記法は時とともに変わる。終戦直後,進駐軍によって夏時間がもたらされたとき「サンマータイム」といっていたが,今は「サマータイム」である。「ラジオ」は戦前は「ラヂオ」であった。このように時代とともに表記の変わった外来語は多い。「コンミュニケ」は「コミュニケ」に,「ピヤノ」は「ピアノ」に,「パインアップル」は「パイナップル」に変わっている。原音に近づくものもあれば逆に遠ざかるものもある。国語審議会の議論の中では「慣用の固定したもの」「慣用にゆれのあるもの」という表現が使われている。「ラジオ」のような「慣用の固定したもの」を「レイディオウ」に改めることは難しいが,慣用にゆれのある「セパード」を「シェパード」にしたり,「チケット」を「ティケット」に改めることは簡単にできる。われわれ英語教師としては原音表記を心がけるならば,ゆれのある表記のうち原音に遠いものは次第に淘汰され,原音に近い表記が確立し,慣用として定着していくであろう。

 外来語の広まっていく過程に注目して,松岡洸司氏は次のようにいう。「新参者である外来語は,まず特定の集団で用いられ,その中のあるものが公共生活と係わりをもつに至って,初めて公共の場に登場してくるという過程をとる。」*33 むろん,すべての外来語が必ずしもこの過程を取るとは限らず,個人として使用した外来語がマスコミに乗ったりして広まるケースもあるであろうが,外来語が本来専門用語である限り,まず特定の専門集団で用いられたものが一般社会へ広まり,次第に市民権を得ていくという過程を取る。

 つまり外来語は,本来専門家集団で用いられる専門用語である。だとすれば,専門的知識に乏しい人たちが外来語の間違った使い方をすれば,専門家はそれを正さなければならない。それは専門家としての驕りではなく,専門家としての義務であり,責任であるだろう。ふたたび言うが,慣用はつくるものである。その慣用をつくる責任の一端は英語教師が負うべきものであろう。
                                                                      おわり

【参考文献】
*1 矢崎源九郎「日本の外来語」p.175
*2 「中学校英語指導要領」,大蔵省印刷局,平成元年3月
*3 石綿敏雄「外来語と英語の谷間」,秋山書店,pp.44〜45
*4 「同書」,p.36
*5 エドウィン・ライシャワー「ザ・ジャパニーズ」,文芸春秋,1979,p.388)
*6 平成9年4月7日朝,NHKテレビニュースより
*7「国語審議会報告 第20号」,文化庁,平成7年,p.306
*8 柴田武「日本語は面白い」,岩波新書,1995,pp.178〜187
*9 準拠した資料は,金田一春彦監修「明解日本語アクセント辞典」三省堂,1992
*10 外来語において開音化した語頭の音は,英語では子音であるから当然アクセントはない。
*11 石綿敏雄「外来語と英語の谷間」, 秋山書店,p.58
*12「中学校英語指導要領」,大蔵省印刷局,平成元年3月
*13 荒川惣兵衛著・鈴木正編「外来語に学ぶ」,新泉社,1980,p.140
*14「外来語」ことば読本,石綿敏雄「和製英語と国際通用語」,河出書房新社,p.93
*15 エドウィン・ライシャワー「ザ・ジャパニーズ」,文芸春秋,1979,p.396
*16「国語審議会報告書 第17号」,pp.252〜255
*17名古屋経済大学・市邨学園短期大学「人文科学論集」60号,「カタカナ英語と英語教育」,pp.6〜12
*18「同書」(p.254)によれば,日本新聞協会やNHKの出している外来語の表記では,間違った表記の「スムーズ」が使われているが,一般辞書では正しい「スムース」の方が優勢になりつつあるという。
*19「国語審議会報告書 第18号」,p.183
*20「同書」,p.185〜186
*21 武部良明「日本語の表記」,角川書店,昭和54年,p.254
*22 武部良明「日本語の表記」,角川書店,昭和54年,p.254
*23「サバイバル英語のすすめ」西村肇,ちくま新書,筑摩書房,1995,p.931
*24 同書,p.32
*25「国語審議会報告書第17号」(文化庁編集,平成元年5月)付録「昭和29年表記部会長報告」p.257
*26「同報告書」昭和62年「外来語表記委員会での討議の概要」第1回〜第3回(昭和62年4月・5月・6月)p.240。これは次のような文脈において記述されている。「『ヴ』を生かすのは,国際化していく中で外国語を覚えるために必要であり,非常によいと思う。(新しい仮名の工夫と関連して)RとLの区別も,出来ればする方がよいのではないか。」
*27 諏訪邦夫「発表の技法」p.134
*28 石綿敏雄「外来語と英語の谷間」,秋山書店,pp.184〜185
*29「同書」,p.186
*30「国語審議会報告書 第20号」p.306。ここでは次の記述がある。「一般にアクセントは地域によって違いがあり,国が全国民を対象とする規範の類を示すのは行き過ぎであろう。」
*31「同報告書」p.306
*32 「読売新聞」平成2年10月23日付け
*33 河出書房新社編「ことば読本 外来語」,松岡洸司「外来語の歴史」p.136

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