教訓 77. 何ごとにも順応して生きよ。


When in Rome do as the Romans do.《ローマではローマ人のするようにせよ》 「郷に入っては郷に従う」


 最後に、中庸をすすめるコトワザが教えることは、自分のおかれている時代や状況に逆らわず、世の中の大勢や常識にしたがい、「郷に入っては郷に従う」の態度で、すべてに順応して生きよということです。次のような類義コトワザがあります。

(a) It is ill striving against the stream.《流れに逆らうのはよくない》
(b) Do as most men do, then most men will speak well of you.《世間のやり方にしたがえば、世間から褒められる》
(c) One must howl among (or with) the wolves.《狼の群にいるときは吠えなければならない》(大勢には逆らえない)

 また、中庸をすすめるコトワザは、次のような具体的事例を挙げて、現実適応主義の生き方を提唱しています。

(d) Stretch your legs according to your coverlet.《掛け布団に合わせて足を伸ばせ》「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」
 = Everyone stretches his legs according to the length of his coverlet.
(e) Cut your coat according to your cloth.《自分のもっている生地に合わせて服を裁て》「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」
(f) Take things as you find them.《物事はあるがままに受け入れよ》
          別掲 → 教訓57 人生の苦楽をありのまま受け入れよ。
(g) Better bend (or bow) than break.《曲がる方が折れるよりまし》「柳の枝に雪折れはなし」「柔よく剛を制す」
          別掲 → 教訓97 しりぞくのも勇気のうち。
(h) Do not kick against the pricks.[The Acts26-14]《突き棒をけ飛ばすな》[聖書:使徒行伝26−14]
          別掲 → 教訓122 火遊びや先のとがったものは危険。
(i) It is no meddling with our betters.《目上の人々とは争えない》「長い物には巻かれろ」
          別掲 → 教訓144 指導者の絶対的権力は危険である。
(j) It is no meddling with short daggers.《短刀を帯びた支配層とは争えない》
          別掲 → 教訓144 指導者の絶対的権力は危険である。
(k) Whether the pitcher strikes the stone, or the stone the pitcher, it is bad for the pitcher.《水差しが石に当たろうが石が水差しに当たろうが、ひどい目に遭うのは水差しの方だ》(強いものと論争しても、弱いものが損をするだけ)「長い物には巻かれろ」
          別掲 → 教訓144 指導者の絶対的権力は危険である。
(l) There is no such thing as as bad weather, only the wrong clothes.《悪い天候というものはない、ただ悪い服装があるだけ》

 要するに、分相応に暮らし、状況をあるがままに受け入れ、無理な抵抗をせず、世の大勢に順応して生きよということです。

 また、確固とした思想や信念をもつことはよいことですが、間違っているとわかったら憶せず改めるのが賢者であると、コトワザはいいます。「君子豹変」のすすめといっていいでしょう。

(m) A wise man changes his mind, a fool never.《賢者は考えを変えるが、愚者は変えない》「君子豹変す」
(n) Wise men need not blush for changing their purposes.《賢者はその目的を変えることを恥じるに及ばない》

 しかし、思想や信念はそんなに簡単に変えられるものではないのかもしれませんが、変えないことが死に追い込まれるような状況では、少なくとも変えた振りをして生き延びるのが、おのれの信念を全うする道であると説きます。

(o) Say as men say, but think to yourself.《口では世間並みのことを言い、心では好きなことを考えよ》
          別掲 → 教訓199 世間は聞き耳を立てている。
(p) Speak fair and think what you like.《口では立派なことをいえ、心では何を考えてもよいから》
          別掲 → 教訓199 世間は聞き耳を立てている。

 さて、これまで見てきた順応主義は、たしかに中途半端であるという意味では、ずるい生き方のように思えます。しかしそこには、不十分でもゼロよりはましという、合理的な相対主義の精神があります。そこにはまた、日本のコトワザの「出る杭は打たれる」や「長い物には巻かれろ」のような権力追随型の事なかれ主義ではなく、現在の屈服は生き延びて他日の飛躍にそなえるためのものであるという、したたかな現実主義があります。これこそ、アングロサクソン民族の国民性にひそむ強靱な精神力だといえるのではないでしょうか。

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