教訓  3. ものは正反対のものに変化する。 


No news is good news.「便りのないのはよい便り」


 相反する二つのものをその極端な形において並べてみるコトワザがあります。これらのコトワザは二つのものの両極を比較することによって、両者が正反対のものであるにもかかわらず根底では同じものであるということ、そしてやがてはその正反対のものに転化するということを指摘しています。例えば、日本のコトワザの「慇懃無礼」のように、謙虚さも度をすぎると傲慢になるというのが、それにあたります。見出しのコトワザもその一例で、知人や友人からの音信不通は、普通は心配の種ですが、それが見事に裏を返して、元気の証拠とされているのです。次のコトワザも、すべて反対物に転化しています。

(a) Too far east is west.《東へ行きすぎると西になる》
(b) Corruption of the best becomes the worst.《最良のものが腐敗すると最悪になる》

(c) The sweetest wine makes the sharpest (or tartest) vinegar.《一番おいしいワインが一番すっぱい酢になる》
   = From the sweetest wine, the tartest vinegar.
(d) Many go out for wool and come home shorn.《羊毛を刈りに入って刈られて帰るものが多い》「ミイラ取りがミイラになる」
(e) The greater the sinner, the greater the saint.《罪人が罪深ければ深いほど聖人は偉大》「悪に強きは善にも強し」(大悪人は悔い改めると大聖人になる)
(f) From the sublime to the ridiculous is but (or only) a step.[Napoleon Bonaparte]《崇高から滑稽まではほんの紙一重》
(g) Patience provoked turns to fury.《我慢を刺激すると激怒に変わる》

          別掲 → 教訓71 人間には節度が必要である。

(h) Fair is foul, and foul is fair.[Shakespeare] 《きれいは汚い、汚いはきれい》
(i) The greatest hate springs from the greatest love.《最大の憎悪は最大の愛情から生まれる》「可愛さ余って憎さ百倍」
(j) Offense is the best defense.「攻撃は最善の防御」 「先んずれば人を制す」
 = Attack is the best form of defense.
(k) Extremes meet.《両極は相通じる》
(l) Opposites attract.《反対物は引き合う》

 同じものでもおかれた場所が異なると、恵みにもなるし災いにもなります。食べ物もそれを食べる人が違えば、薬にもなるし毒にもなります。

(m) Water is a boon in the desert, but the drowning man curses it.《水は砂漠では恵みだが、溺れるものには呪いだ》
(n) One man's meat (or gravy) is another man's poison.《ある人の食べ物はほかの人の毒になる》「甲の薬は乙の毒」 
          別掲 → 教訓20 人の好みも主観的である。

 同様に、広い世間でも、同じ知人に何度も出会うという偶然が重なると、案外狭いということになります。

(o) It’s a small world.《世間は狭い》「世間は広いようで狭い」

 このような、ものは反対物に変化するという考え方を対人関係におよぼしますと、例えば弁論の術でも極端に走ると、たとえ本人の意図は善意に満ちていても、結果的には悪く解釈される恐れがあるという、次のようなコトワザが生まれます。

(p) He who excuses himself accuses himself.《言いわけをする者は、自らを罪に陥れる》
(q) He who denies all confesses all.《みんな否定したら、みんな白状したのと同じ》
(r) He that talks much of his happiness, summons grief.《自分の幸福を吹聴する者は悲しみを招く》

これらはいずれも、あまりに自己弁護や自己主張が強すぎると、かえって逆効果を招き、良くない結果をもたらすことを教えています。

 次の例も、本人の意図とは反対の結果になる例です。

(s) He who goes against the fashion is himself its slave.[Logan Pearsall Smith]《流行に逆らうものも流行の奴隷である》

流行の奴隷にだけはなりたくないと思い、流行に反逆するものは、実は流行にこだわりすぎ、逆に流行の奴隷になってしまうということを言っているのです。

 また、勉強ばかりしているとかえって頭が悪くなるという、よく知られた次のようなコトワザもあります。

(t) All work and no play makes Jack a dull boy.《勉強ばかりで遊ばないと子供は馬鹿になる》「よく学び、よく遊べ」

 そのほか、cruel kindness《残酷な親切》、open secret《公然の秘密》などの矛盾語法(オキシモロン)を用いた慣用句がありますが、コトワザにもこれに似た二律背反(ジレンマ)または逆説(パラドックス)を含むものが、次のようにあります。

(u) Make haste slowly.《ゆっくり急げ》「急がば回れ」
          別掲 → 教訓98 あせらずゆっくりが勝利への道。

(v) The child is father of the man.[William Wordsworth]《子供は大人の父である》
          別掲 → 教訓238 親から受け継いだ性質は変わらない。

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