教訓  1. ものには矛盾する二面がある。


There is no rose without a thorn.「バラにトゲあり」


 日本語のコトワザにも、「泥棒にも三分の道理」や「外面如菩薩内心如夜叉」のように、あるものの中には相互に矛盾・対立する二つの側面が存在することを指摘するものがありますが、英語のコトワザにもそのようなものが多くあります。日常生活では、人はともすればものの中に一面しか見ないものですから、このような見方に対してコトワザは、洋の東西を問わず、アンティテーゼを提出したくなるのでしょう。見出しのコトワザも、バラという美しい花には、トゲという危険なものがあることに注意を促しています。次のものも、そのような二面性に注意を引くコトワザです。
(a) There are two sides to every story.《どんな話にも二つの側面がある》(対立する見方はどちらも正しい)
(b) Every medal has two sides.《メダルにはみな裏と表がある》
(c) There is another side to the picture.《絵には裏がある》
(d) There are two sides to every question.《どんな問題にも二つの立場がある》
(e) There is no garden without weeds.《雑草の生えない庭はない》
(f) Fair face, foul heart.《美しい顔に汚い心》「外面如菩薩内心如夜叉」
          別掲 → 教訓17 美は短命で、醜と隣り合わせ。
 = Fair without, foul within.《外面は美しいが、内面は醜い》
(g) The peacock has fair feathers, but foul feet.《クジャクの羽は美しいが、足は汚い》
          別掲 → 教訓17 美は短命で、醜と隣り合わせ。
(h) No great loss but some small profit.《どんな大きな損害にも少しは利益がある》
(i) Every law has a loophole.《どんな法律にも抜け穴がある》
(j) There is no rule without some exception.《例外のない規則はない》
 = Every rule has its exception.
(k) The exception proves the rule.《例外が規則のあることを証明する》

ちなみに、(j) は「例外のない規則がある」ことも認めます。「例外のない規則はない」も一つの規則ですから、この規則自体に例外が当然予想されるからです。

 さらに、次のように極言するコトワザもあります。

(l) Rules are made to be broken.《規則は破られるためにある》

 続いてコトワザは、次のように、その二面を偏見のない目で公平に見よといいます。「盾の両面を見よ」です。すると、悪いと思われているものでもそれほど悪くないことに気づきます。

(m) Look on both sides of the shield.「盾の両面を見よ」
(n) Nothing is so bad in which there is not something of good.《良い点が少しもないほど悪いものはない》
(o) The devil is not so black as he is painted.《悪魔は絵に描かれているほど黒くはない》
(p) Give the devil his due.《悪魔でも認めるべき点は認めてやれ》
(q) Give credit where credit is due.《功績があれば当然認めてやれ》

 だから、賢者にも愚者の一面がなければならないといいます。

(r) He is not a wise man who cannot play the fool on occasion.《時には愚者の真似のできないのは賢者ではない》

 一国の歴史には栄光の部分もあるし、また知られたくない陰の部分もあります。次のコトワザは、そのことに気づかせてくれます。

(s) Happy is the country which has no history.《歴史を持たない国は幸せ》(一国の歴史は戦争、殺戮、革命など連続だから)


 これらのコトワザの教えは、物事は両面を公平に眺め正しく評価すれば、どんな完全に思われるものにも必ず欠点があることがわかるし、どんなに悪い人にも少しは良い点があることが知られるということです。だから、長所と短所をそれぞれ正しく評価しなければならないということになります。

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