コトワザこぼれ話(1)

ものを対比的に見るコトワザ

1.コトワザは二項対立の論理である

 コトワザの特徴として目立つことは、ものを二面でとらえ、その特徴を対比・強調したり、逆説化したりすることで、常識的解釈を覆そうとするものが多いことです。

 例えば 教訓 3 で取り上げたコトワザ

a. No news is good news.「便りのないのはよい便り」

で説明しますと、普通は便りのないのは心配の種ですが、しかし何か悪いことがあれば知らせがあるはずですから、それがないことは何も異常はないということになります。これは、no news という「心配」の種を good news という「楽観」に逆転させた例です。

 さらに、コトバのワザ師であるコトワザは、このコトワザの主題と陳述を入れ替え、Good news is no news.という言葉を付け加えます。そして

b. No news is good news and good news is no news.《便りのないのはよい便りで、よい便りは便りにならない》(だから便りがないのはよい便りである)

という言葉遊びのコトワザさえ生み出します。

 このように、事物を二項対立的に眺めるなコトワザの常とう手段は、意識するとしないとにかかわらず、哲学でいう弁証法論理または弁証法的考え方と共通するものを生み出すことになります。この辞典で、まず最初の項目として「二項対立の論理」を立て「物事の二面性」について教えるコトワザを集めたのはそのためなのです。

2.意味の正反対の「対義コトワザ」が何故生まれるのか。

 コトワザは、ものを対立関係で見ようとするものですから、ある命題を述べるコトワザに対しては、ほとんどの場合、その反対を表明する対義コトワザが生まれることになります。コトワザのこのような矛盾をとらえてコトワザの非科学性をあげつらう意見がありますが、それはコトワザの何たるかをわきまえないものというべきでしょう。

 コトワザは、状況の中にある問題を解決するために状況の中で生まれ、伝えられ、使用されてきた知恵です。そして人間の生活する状況が千差万別、さまざまに矛盾している以上、その中に生まれたコトワザが多種多様に矛盾するのは当然のことなのです。

 例えば、次の二つのコトワザを見てみましょう。

c. Many hands make light work.《人手が多ければ仕事は軽くなる》
d. Too many cooks spoil the broth.《 料理人が多すぎるとスープの味がだめになる》

 (c)のコトワザは仕事を多人数ですることをすすめていますが、(d)では多勢での仕事をいましめています。二つは互いに意味が正反対です。しかし、よく考えてみますと、一口に多人数といっても、広い場所でのイチゴ摘みと狭い台所でのスープ作りとでは、おかれた状況がまったく違うことに気づきます。

 具体的に考えてみましょう。(c)のコトワザでいえば、ある農民夫婦が広い畑でイチゴ摘みをするとしますと、イチゴが多ければ夫婦だけでは仕事がはかどりません。そこで年寄りの親や若い子供たちにも手伝ってもらえば、またたく間に終わるでしょう。そんな状況では、多人数が仕事を軽減してくれます。

 しかし、その同じ家族が仕事の後、夕食の支度をするとします。一家そろって台所に入り、全員でスープ作りを始めれば、ただでさえ狭い台所、それぞれが好みの味を主張してけんけんごうごう、口論の場となります。そんな状況では、(d)のコトワザのいうように、スープの味は台なしになり、多人数はかえって仕事の邪魔になります。

 つまり、状況を無視して考えれば二つのコトワザは矛盾しますが、状況を考慮すれば二つは矛盾するどころか、どちらも正しく、それぞれの局面の真実を伝えていることがわかります。

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