市邨短大英語科新入生訓話      平成  9年  4月  7日


 漱石に「夢十夜」という作品があります。
そのなかに、背中に背負った子供が急に「石地蔵のように重くなった」というくだりがあります。
それは、過去のある出来事を思い出したときです。この作品は、過去と現在の人間の生き方を象徴的に表しているといえます。

 われわれは人間はすべて、過去を背負って生きています。その背負っている過去は、年とともにだんだん重くなっていきます。われわれぐらいの年齢になりますと,もう過去が重くて背負いきれないほどです。しかしあなた方には,輝かしい未来があります。それはほとんど永遠と思われるほど光り輝いているかも知れません。そのため過去なんてほとんど意味がないくらい小さく感じられるでしょう。

 しかし,この過去は,年とともに重くなります。それはどういくことかといいますと,あなた方は今,市邨学園短大の英語科に入ったところで,気分的にもまだ浮ついた状態でしょうから,ことの重大さがまだわかっていないと思います。しかし,あっという間に2年が過ぎます。そして卒業します。就職する,あるいは結婚する。すると,この大学でこの大学で学んだという事実が次第に大きな意味を持ってきます。

 つまり,世間はあなた方を大学で英語を専門に勉強した,言うなれば英語の専門家として見ます。英語に関して,読んだり,話したり,書いたりすることの出きるプロだと思います。英語科は出たけれど,私は英語はあまり出来ません,なんて恥ずかしいことはいえませんよ。あなた方は世間のそういう期待に応えなければなりません。過去が重くなるというのは,そういう意味であります。あなた方はそのような過去かに縛られ,そのような過去から逃れることは出来ません。過去はあなた方に一生ついてまわります。

 そしてこのような過去は,今のあなた方にとっては現在なのです。その現在は,すぐに過去になります。そして過去はもう取り返しが出来ません。そしてだんだん重みをまします。だからこそ,一瞬である現在を大切にしてください。

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