市邨短大英語科ゼミ説明会訓話         平成 8年12月13日

 今,パソコンのCDロムがいろいろ出回っていますが,その中に自動翻訳ソフトというものがあります。最近その一つを手に入れたので,早速使ってみました。簡単な英語の文章ですとかなり正確に,しかも1ページを2,3秒の速度であっと言う間に翻訳してくれます。しかし,長い文章や複雑な構文の文章になると,間違いが多いし,時には翻訳不能という表示が出て,何にもしてくれないこともあります。時にはとんでもない訳をしてくれることもあります。

 ところで,自動翻訳機のとんでもない訳の例として,以前何かの本で読んだことがあったのを思いだし,試しに訳させてみました。

 それは「光陰矢の如し」という諺ですが,英語では,一般には Time flies. という形で諺辞典には載せていますが,中には Time flies like an arrow. と「時間は矢のように飛ぶ」という,日本の諺とまったく同じ形で載せている辞書もあります。この Time flies like an arrow. という諺を,自動翻訳ソフトはどう訳すか,試してみました。すると訳文が三つ出てきました。

 最初に出てきた訳は,「時間は矢のように飛ぶ」という正しい訳文でありました。

 しかし,二つ目の訳として,Time flies を名詞と取り,「時間ばえ」と訳し,「時間蠅は矢を好む」というものです。

 三つ目は,Time を動詞と取って,「矢のような蠅のタイムを計れ」という風に訳しました。

 二つ目や三つ目の訳は,普通われわれには予想もつかないような訳ですが,しかし,言われてみれば確かにそうも訳せるのです。感心しました。同時にこれがコンピュータなんだなと思いました。

 というのは,われわれは予備知識というか,既成概念というか,そういうものがあるので,第二第三のような訳は思いつきもしません。しかし,コンピュータはそんなものはすべて無視し,条件さえ与えれば,現実の予想を超えて,可能な限りの答えをすべて出してくれるのです。

 2年生のゼミの学生にこの話をしたら,「先生,機械が翻訳してくれれば,英語を勉強しなくてもよくなりますね」と言いました。しかし,それは大間違いです。翻訳機械は先ほどの例のように三つの翻訳を出してくれるだけで,いずれが正しいのかということまでは言ってくれません。そのうちから状況に応じて最前の選択肢を選ぶのは、われわれ人間の力です。

 いずれ,コンピュータがすばらしく進歩し,判断までやってくれる時がくるかも知れません。しかし,そんな時がきたとしても,すべて機械に任せていいかということは別の問題です。機械が代わりをやってくれたら,楽かも知れないが,全然面白くないでしょうね。それはちょうど,機械に咀嚼をまかせて,栄養注射で生きているようなものです。食べ物のおいしさは,自分で食べてみなければ分かりませんね。

 語学も同じです。間違えたり,苦しんだりしながらも,自分の考えを相手に伝えたり,相手の考えを理解したりする,まさに自分自身で言葉を使うという行為の中にこそ喜びがあり,楽しさがあります。

 私のゼミには,英語が苦手であるが,好きな人に,私は是非来て欲しいと思います。

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