昭和高1年生保護者会指導部主任挨拶     昭和53年11月14日

親子の対話と家庭のしつけ

 日ごろは生活指導の面で、学校にご協力いただき、また本日はお忙しいところ、保護者会へ多数ご出席いただき、有り難うございます。

 今日は、家庭における躾ということで、皆さま方にお話ししたいと思います。お手許に配布しました指導部からのプリントに沿って、すすめさせていただきます。

 私ども生活指導部では、このたびPTA生活指導委員会の協力を得て、家庭における生徒や保護者の生活の実態について、アンケートいたしました。その中で問題になったいくつかの点を、お話しいたします。

 その第一は、家庭における親子の会話がいかに大切かということであります。たまたまアンケートの最初の項目は、「親子の対話があるか」であり、2番目は「子どものことで悩んだことがあるか」という項目でした。その相関を見ると、「親子の対話がある」と答えた人は子どもについての悩みが少なく、「親子の対話が少ない」と答えた人は子どもについての悩みが多い、という結果が出ています。

 そこで「親子の対話の多いもの」と「親子の対話の少ないもの」と二つのグループに分け、子どもについての悩みだけでなくその他の項目についても調べてみました。するとその二つの間には、子どもの生活態度や親の躾の面でかなり大きな違いがあることがわかりました。

 例えば、「対話の多い」家庭の子どもは、通知表を親によく見せるし、家事の手伝いをよくするし、帰宅時間もきちんとし、外出や電話が少ないという結果になっていました。反対に、「対話の少ない」家庭の子どもは、家事の手伝いをあまりせず、外出や電話が多く、帰宅途中に店や友人宅に立ち寄ることが多く、帰宅時間も遅い、ということがわかりました。

 また、子どもについての悩みの中身は、飲酒、喫煙、外泊、金遣い、男女問題、麻雀など、多彩ですが、「対話の多い」家庭では「悩みのある」が0パーセントであるのに、「対話の少ない」家庭では15パーセントとなっています。

 実は、われわれも対話の有無によってこれほどハッキリと子どもの生活態度が相違するとは、思っていませんでしたので、この数字はかなりショッキングでした。

 しかし考えてみれば、これはむしろ当然のことかもしれません。というのは、親は子供との対話を通して子どもの日常の生活を観察し、その考え方も知ることができるのです。それだけでなく、対話を通して安定した親子の関係が維持できるのであって、これが子どもの健康な成長につながるのです。

 一方、親子の対話が少なければ、家庭はただ寝る場所だけになり、子どもは必然的に外の友人につながりを求めます。親子の「会話の少ない」子どもの方が「友人との交際が多い」というのは、そのためです。そして、それが校内の友人や真面目なグループとの交際ならまだよいのですが、校外の不良グループとの交際になりますと、親子の関係は完全に断絶してしまいます。

 もう一つの項目に、「家庭のしつけは主として誰がするか」というのがあります。「母親がする」と答えた家庭は50%弱あり、「両親でする」と答えた家庭は48%強ありました。おおざっぱにいえば、約半数の家庭は両親で躾をするが、半数の家庭は母親だけがするということであります。この数字をどのように評価するかはさておき、興味あるのは両者の家庭における子どもたちの躾がどのように身についているか、ということであります。その「躾の定着度」を調べてみますと、子どもの躾を両親でやる家庭の方が、母親だけに任せている家庭よりも、ずっと定着度が高いのが分かります。

 よく言われるように、現代は父親の権威喪失の時代であります。父親の権威喪失は、いま戦後第3のピークを迎えようとしている少年非行の増加と、決して無関係ではありません。先日もある資料で、非行少年の意識調査を読んだのですが、普通の少年と非行少年との間の一番大きな違いは、父親に対する態度であります。普通の少年は父親を尊敬していますが、非行少年はほとんど全部、父親を軽蔑しているか、さもなくば憐れんでいるかです。やはり、父親を中心とした親の権威が安定した家庭環境をつくらなければなりません。それが健全な人間関係を維持する力となっていくのです。忙しいお父さん方が子どもと対話する暇のないのはよくわかりますが、できるだけ話し合いの機会を持っていただけたらと思います。お母さん方も、できるだけ子どもが父親と話し合う機会がもてるよう、仕向けていただきたいと思います。

 もう一つお母さん方にお願いがあります。それは家庭での仕事をできるだけ子どもにやらせて欲しいということです。とくに、自分の部屋の整頓や掃除は必ずやらせて下さい。勉強は教えてやれないから、せめて掃除くらいでも、という親心かもしれませんが、かえってそれが彼らの持続力や忍耐力を奪う結果になるのです。たしかに、勉強は大変です。しかし、自分の部屋の掃除さえ出来ないものが、それ以上厳しい勉強にどうして堪えることができるでしょうか。

 生活態度は学習態度と決して無関係ではありません。それどころか、二つはまったく同じレベルの行動習慣であります。自分のことは自分で行う、決められたことはきちんと守る、規則正しい生活を送る、このような日常の基本的生活習慣は、毎日一定の時間机の前に坐る、予習復習をきちんとする、などという学習態度とまったく同じ領域に属する習慣です。躾の面で厳しい訓練に耐えたものは、勉強の面でも集中力を発揮し、最後まで頑張ることができるのです。

 ご静聴、有り難うございました。

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