「検索の苦労から」                           安藤 邦男

ことわざとの出会い(第18回)  ことわざ研究会会報「たとえ艸」第54号(2003年4月18日発行)に掲載)

3年前、「英語コトワザ教訓事典」を上梓した。英語の諺を教訓のテーマ別に分類した一種の用法辞典である。完璧ではないが、伝えたいメッセージや教訓からふさわしい諺を索引するという意図は、かなり達せられたのではないかと思っている。現在、それをインターネットで公開しているが、毎日500人前後のアクセスがあり、諺に対する需要の多さに驚いている。

 この本をつくるに至ったいきさつには、一つの諺との出会いがあった。10数年も昔のことだ。バレー部顧問の同僚から、部室に貼っておきたいから、何か座右の銘になるような諺を教えてくれと頼まれた。聞けば、チームのなかには、自分一人弱くてもカバーしてもらえるという甘えがある。一人の弱さは全体の敗北につながるということを、部員の頭に叩き込みたいという。

 何冊かの諺辞典に当たり、やっと次の諺を見つけた。The chain is no stronger than its weakest link.《くさりは一番弱いところ以上に強くなれない》これは、今も部室に貼ってあって、若者たちの励ましになっていると聞く。

 ところで、話はこれで終わらない。そのとき、検索に苦労した苦い経験が、やがて私を諺の教訓別分類に向かわせることになった。

 自分の言いたいメッセージを伝えてくれる諺を探すには、ABC順に配列された辞典はいわずもがな、たとえキーワード別に配列されていても、語彙別や題材別のものでは、あまり役立たない。例えばBarking dogs seldom bite《吠える犬はめったに噛まない》Dogの項に分類してあっても、検索のためには意味がない。やはり、裏の意味である教訓から選んだキーワード(この場合は「臆病者」とか「外見と中身の不一致」など)から索引できるのでなければ、目指す諺にはなかなか到達できないのである。

 諺研究もいろいろあるが、諺の「利用」という視点からの研究も、もっとなされる必要があると思っている。

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