9. 補 遺 安藤 邦男
(1) 法律万能の国アメリカ
@ 財産と生命を守る法律
かつてイギリスの植民地であったアメリカは、独立戦争という大きな犠牲を払って独立を獲得しました。それだけに独立心、それに伴う権利意識は、本国のイギリス人に比べてずっと激しいものがあります。それに、独立後も、南北戦争や原住民との戦いなどで、生命と財産を賭しての危険を冒してきました。そこでは、頼るべきものは武器であり、法律であったのです。
RIGHT という言葉には、「正しい」と「権利」の両義がありますが、アメリカ人は、RIGHT
は正しいことを相手に認めさせ、獲得するものと考えます。そして、獲得した権利は、法律で守る以外に道はないのです。法律は正義の味方であり、力であります。そして、法律が無力になれば、そのときは銃の出番であり、戦いが始まるのです。
・ Might is right.《力は正義なり》「勝てば官軍」
・ The law grows of sin, and chastises it.《法律は罪から生まれ、罪を罰する》
・ Where drums beat, laws are silent.《進軍ラッパがなれば法律は沈黙する》
A 訴訟天国アメリカ
西部開拓以来、血で血を洗う争いが絶えなかった歴史のなかでは、争いに勝つための手段、自己防衛の手段は、武器と法律でした。日本人にとっては、法律は従うべきものですが、アメリカ人にとっては、法律は自分の権利を守るための手段です。そしてそのためには、法律のプロである弁護士によって、最大限に法律を利用しようとします。アメリカが世界一弁護士が多く、訴訟が多いのは、そのためです。
だから、アメリカは訴訟社会であるといえます。全米の弁護士数は100万人を越えるといわれています。日本の弁護士の総数は約2万人ですから、50倍以上です。
弁護士は訴訟での成功報酬で食べているので、金になると思えば何でも裁判に持ち込みます。日本では考えられないような、おかしな訴訟がゴマンとあります。
例えば、学校に泥棒に入った少年が壊れた屋根の窓ガラスから落ちて怪我をし、そこに「危険」の張り紙がしてなかったことを訴えたという話。卒業後レストランのフランス語のメニューが読めなかったので、学校を訴えたという話。長年タバコ会社のCMに従事していた男が、肺ガンになり、タバコ会社を訴えたという話。最近では、アメリカ日系自動車会社の社長がセクハラで何百億もの慰謝料を請求されたという話。数え上げればキリがありません。
それを皮肉って、次のようなことわざがあります。
・ The good lawyer, an evil neighbor.《よき弁護士は悪しき隣人》
・ The better lawyer is the worse Christian.《よい弁護士はそれだけ悪いキリスト教徒》
また、アメリカでは飛行機事故の際、ふつう死傷者名を公表しませんが、これはプライバシーばかりのせいではないといいます。もっと大きな理由としては、公表したら弁護士が押し寄せ、その被害の方が大きいからといいますが、あながち笑い話ではなさそうです。
B 犯罪王国と銃社会
法律が整備され、弁護士が多いといっても、アメリカが必ずしも安全な国であるとは言い切れません。それどころか、アメリカは世界に名だたる犯罪王国であります。
・ The more laws, the more offenders.《法律が多くなればなるほど犯罪者は増える》
次は、外務省の「海外安全ホームページ」からの統計ですが、アメリカでは如何に犯罪が多いかわかります。
アメリカにおける2003年の犯罪認知総件数は、FBIの統計によると約1,180万件(日本の4倍強)であり、そのうち殺人、強姦、強盗等の凶悪犯罪は、約138万件(日本の約100倍)に達しています。これに対して、2003年の日本の犯罪認知総件数は、警察庁の資料によれば約279万件であり、そのうち凶悪犯罪は13,658件となっています。アメリカの総人口が約2億9,000万人であるのに対し、日本の総人口は約1億3000万人とほぼ半分であることを考慮しても、アメリカにおける犯罪が日本と比べ格段に多いことは明白と言えます。
殺人件数を比較しても、日本の年間殺人件数は1200〜1300人ですが、アメリカのそれは約1万8千件です。日本の実に14〜5倍の多さになっています。
このような情況ですから、いまだにアメリカでは銃は必要不可欠という意見が根強いのです。もっとも、2000年にコロラド州でおきた高校での銃乱射事件の後のアンケート結果では、実に80パーセントのアメリカ人が「銃は規制されるべき」との見解を示していますが、にもかかわらず、銃が規制されないのは、全米ライフル協会が政界に強く圧力をかけているからといいます。
(2) 英語の健康ことわざ
@ イギリス人の質素勤勉と料理
イギリスの料理のまずさは、定評があります。少し前のG8サミットで、フランス大統領シラク氏は、イギリス料理についてさんざん貶したというニュースがながれました。
たしかに、手の込んだフランスやイタリアの料理に比べて、イギリス料理は素朴で大味です。一つには、地理的・歴史的条件があります。北国のイギリスは気候が悪く、農作物も良く育たないし、地中海沿岸の豊富な海の幸にも乏しいのです。また、イギリス人の祖先である古代ゲルマン人は、もとゲルマーニアと呼ばれた未開の地域で、ローマのような高い食文化もありませんでした。
もう一つには、イギリス人の国民性として、質実剛健で、粗衣粗食に耐え、享楽的な雰囲気はありませんでした。食事の作法も粗野で、18世紀までは民衆の多くは手で食べる習慣を持っていました。軍隊などではナイフやフォークの使用は19世紀に入っても禁止されていたといいます。兵士が女々しくならないためと、刃傷沙汰を防ぐための配慮であったといいます。
そのようなイギリス人の気質を、イギリス詩人ワーズワースは次のようにいいました。
・ Plain living and high thinking.(William Wordsworth)《簡素な生活と高尚な思索》 (W.ワーズワース)
これは、最近亡くなった中野孝次氏の 「清貧の思想」と一脈通じるものがあるようです。
そのほか料理についてのことわざに、次のようなものがあります。いずれも、美食を潔しとしない英国人気質が表れたことわざです。
・ Hunger is the best sauce.《空腹が最上の調味料》
・ He was a bold man that first ate an oyster.《初めて牡蠣を食べたものは勇気があった》
・ It is good beef that cost nothing.《ただで手に入る肉が最上》
A 健康について教える英語ことわざ(粗食のすすめ)
イギリスのことわざで健康に関するものは、粗食と節制をすすめるものが圧倒的に多いようです。日本のことわざの「腹八分目に医者いらず」に相当するものです。
・ Gluttony kills more than the sword.《大食は剣より多くの人の命を奪う》
・ More die by food than famine.《食べ過ぎで死ぬ方が空腹で死ぬ方より多い》
・ Great eaters(Gluttons) dig their grave with their teeth.《大食漢は己の墓を歯で掘る》
・ Poverty is mother of health.《貧乏は健康の母》
・ Temperance is the best physic.《節制が最良の薬》
そのほかにも、次のようなことわざがあります。
・ Health is better than wealth.《健康は富にまさる》
・ An apple a day keeps the doctor away.《一日に一個のリンゴ医者知らず》
・ Sleep is better than medicine.《睡眠は薬にまさる》
・ Feed a cold and starve a fever.《風邪には大食、熱には絶食》
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