ことわざの文化      安藤邦男

ことわざに見る英米文化と日本文化

序 論


1.ことわざの不易と流行


 (1)ことわざは文化の化石
    
《 歴史や文化の痕跡を留める》

    
@ 女性蔑視ことわざの日英比較

 ことわざの特徴として先ず第一に挙げなければならないことは、ことわざは昔の人がどのように考え、どのような生活をしてきたかを忠実に映す、いわば鏡のようなものだということです。言い換えれば、文化と思想の化石、あるいはDNAみたいなもの、といえるでしょう。

 現在は情報化時代で、それぞれの国が独自性を失って画一化の道を進みつつあります。しかし、表面的、現象的には同じに見えても、それぞれの国にはそれぞれの長い歴史があり、固有の文化はそう簡単に変わるものではありません。その意味で、われわれはことわざを通して、その国の文化や国民性の本質を知ることができるし、またその発展の歴史も知ることができるのです。

 日本人も明治以来、「脱亜入欧」の合い言葉で、欧米の文明を輸入しました。とくに戦後はいろんな面でアメリカナイズの影響が見られます。しかし、日本人の本質はなかなか変わらない部分があります。それがDNAなのです。

 民主主義思想の発祥地である欧米は、どうでしょうか。たしかに男女平等思想は日本より普及しているように思えます。しかし、ほんの1、2世紀前、欧米も女性の地位は低かったし、現在もウーマンリブやフェミニズムの運動が起こるのを見れば、まだまだ男女平等社会は完全なものであるとはいえないのです。

 そこでここでは、文化の化石であることわざを日米両国から取り上げて、その中に見られる男女差別の思想、とくに女性蔑視の思想を比較しながら検討してみたいと思います。

【注@】  例文を引用した資料は、次のものに限定しました。
    ・ Rosalind Fergusson 編The Penguin Dictionary of Proverbs
    ・ 小学館編・故事ことわざの辞典


【注A】  本HPのことわざこぼれ話(6)で扱った女性蔑視のことわざは、英米のものだけでしたが、ここでは日本の女性蔑視ことわざも取り上げ、両者の比較をしました。

(a) 女性の知恵について

 この種のことわざは日英ともにありますが、英語の方がずっと具体的、写実的です。

日・
「女の猿知恵(浅知恵)」
  「女賢しうして牛売り損なう」

英・
Women have long hair and short brains.《女は髪は長いが脳は短い》
  When an ass climbs a ladder, we may find wisdom in women.《ロバが梯子に登る時が来れば女にも知恵が見られるだろう》
  A woman's advice is no great thing, but he who won't take it is a fool.《女の助言は大したことはないが、それを聞かないものも馬鹿だ》


(b) 女性のおしゃべりについて


 これは英語が圧倒的に多い。英米の女性は日本の女性よりおしゃべりのようです。

日・
「女三人寄れば姦しい」
  「女の長尻・(長話)」
  「雌鳥(めんどり)うたえば家亡ぶ」
英・A woman's tongue is the last thing about her that dies.《女の舌は最後に死ぬ》
  One tongue is enough for a woman.《女の舌は一枚で十分》
  Three women and three frogs make a market.《女三人と三匹のカエルで市ができる》
  A woman conceals what she knows not.《女の口が秘密を守るより、ザルの方が水をよく保つ》
  A woman conceals what she knows not. 《女が秘密を保てることは知らないことだけ》
  Three things drive a man out of his house - smoke, rain, and a scolding wife.《三つのものが男を家から追い出す−煙と雨漏りとガミガミ女房》
   It is a sad house where the hen crows louder than the cock.《めんどりがおんどりより鳴き声が高いのは嘆かわしい家》

 
とくに結婚して家庭に入った女について、英米の男はそのおしゃべりや口達者に閉口している様子が読みとれます。

(c) 女性の気まぐれ・我が儘・感情の激しさなどについて

 英米の女性は感情が激しいのでしょうか、表面に出してはばからないようです。

日・
「女心と秋の空」
  「女の心は猫の目」
英・A woman's mind and a winter wind change oft.《女心と冬の風はよく変わる》
  Forbid a thing, and that women will do.《女に何かを禁止してみろ、必ずそれをするから》
  Early rain and a woman's tears are soon over.《明け方の雨と女の涙はすぐに止む》
  Women naturally deceives, weep and spin.《欺く、泣く、紡ぐは女の性(さが)》
  Women are saints in church, angels in the street, and devils at home. 《女は教会では聖女、街頭では天使、家庭では悪魔》 

(d) 女性の嫉妬深さ・執念深さについて

 これは日本女性の専売特許です。感情を抑えるため、しこりとして残るせいでしょうか。

日・
「女に十二の角あり」
  「女の一念岩をも徹す」
  「女は嫉妬に大事を漏らす」
  「女の仕返しは三層倍」
  「女子と小人は養い難し」


(e) 嫁姑の関係について

 これも家族制度に基づく日本独特のもの。英米にはこの種のものはほとんどありません。

日・
「嫁と姑の仲のよいのは物怪の不思議」
  「嫁の留守は姑の正月」
  「嫁と姑の仲のよいのは盆三日」
  「嫁は姑に似る」
  「嫁と厠は遠いほどよい」
  「秋ナス嫁に喰わすな」


(f) そのほか女性を蔑視することわざ


 女性をけなすことわざは日英ともに多いが、英語の方が遙かにひどく、徹底的です。

日・
「女は地獄の使い」
  「女の髪の毛には大象も繋がる」
  「外面如菩薩内心如夜叉」
英・Women are the snares of Satan. 《女はサタンの罠》
  There is no devil so bad as a she-devil. 《女の悪魔ほどひどい悪魔はいない》
  Women in mischief are wiser than men. 《悪事にかけて女は男より賢い》
  A woman, a dog, and a walnut-tree, the more you beat them the better they be.《女と犬とクルミの木は、叩けば叩くほどよくなる》
   Man, woman, and devil, are the three degrees of comparison.《男−女−悪魔と並べると、比較の三段階変化ができる》
  A man is as old as he feels, and a woman as old as she looks.《男の歳は気持ちで決まり、女の歳は見た目で決まる》

  A man of straw is worth a woman of gold.《藁で出来た男でも黄金で出来た女に匹敵する》

    A 英語の女性蔑視ことわざと聖書

     
 (a) 楽園を追放されたアダムとイブ

 ところで、このような女性蔑視の思想はどこから来たのでしょうか。その起源を辿っていくと、われわれは最後に聖書に行きつくことを知ります。

 旧約聖書の創世記を見てみましょう。ご存じのように、神はアダムを創り、その後で「人がひとりでいるのはよくない」と考え、アダムの身体からその肋骨を一つ取り出して、これで女のイブを創りました。二人は神の祝福を受けて、エデンの園で幸福に暮らしましたが、やがて人間の幸福を妬んだヘビが、神から食べることを禁じられていた知恵の木の実(禁断の木の実)をイブに食べるよう誘惑し、その誘惑に乗って、彼女はアダムとともにその実を食べました。知恵の実を食べたことを知った神は怒って、彼らをエデンの園から追放しました。

 楽園追放のもとを作ったものは女性であるということで、女性は差別されるようになったのです。ユダヤ教から、キリスト教、イスラム教すべてに、女性差別の思想がみられますが、なかでもとくにイスラム教は、いまなお女性の人権に対してきびしい宗教です。寛容を説くキリスト教でも、なお女性に対する原罪意識は強いといわざるをえません。

    (b) 出産の苦しみは女に与えられた神の罰

 さて、前の聖書の話には続きがあります。それは、神が人間をエデンの園から追放したとき、アダムとイブに罰を与えたということです。まずイブへの罰としては、

In sorrow thou shall bring forth children; and thy desire shall be to thy husband, and he shall rule over thee.《汝は苦しみて子を生み、夫を恋い慕い、夫は汝を支配するであろう》(旧約聖書)

というものでした。つまり、イブは子供の出産という苦しみと、夫への隷属という不平等を受けなければならないということでした。

    (c) 労働の苦しみは男に与えられた神の罰

 一方、禁断のみを食べたアダムへ与えられた罰は、一生ひたいに汗して労働に従事しなければならない、というものでした。

In the sweat of thy face shalt thou eat bread, till thou return to the ground.《汝は土に帰るまで顔に汗して糧を得るべし》(旧約聖書)

 日本人には、働くことは男の喜び、出産は女の喜びという考え方がありますが、欧米には基本的には労働も出産も苦役であるという思想があります。働くことは余暇を楽しむためですから、男は金が入ればバカンスを楽しみに出かけるし、女はできるだけ子供を産みたがらないのです。

 日本も最近は欧米化され、彼らの生活習慣やものの考え方が持ち込まれています。若者には、何もしないニート族が増えていますし、サラリーマンは長期休暇を取るようになりました。一方女性も、子供を産みたがらなくなりました。


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