老人福祉法と市町村の高齢者福祉への責務
〜「老人福祉法 第2章 福祉の措置」についての考察 〜
2003/10/29修正作成
介護保険制度が2000年4月1日から施行されました。また、同時に老人福祉法も「改正」されて、その内実の多くは介護保険制度へ移行しました。そして、老人福祉法による福祉の措置は、やむを得ない事由により、介護保険法に規定する在宅・施設サービスを利用することが著しく困難であると認められるときに限られると厚生省からは説明されてきました。
しかし、福祉の措置はそうした限定的なものに限られていません。高齢者が適切な総合的な支援を受けられるよう、市町村が地域の体制整備を努力する義務をうたっています。
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老人福祉法(2000年4月1日改正)より 第2章 福祉の措置 (支援体制の整備等) 第10条の3 市町村は、65歳以上の者であって、身体上又は精神上の障害があるために日常生活を営むのに支障があるものが、心身の状況、その置かれている環境等に応じて自立した日常生活を営むために、最も適切な支援が総合的に受けられるように、次条及び第11条の措置その他地域の実情に応じたきめ細かな措置の積極的な実施に努めるとともに、これらの措置、介護保険法に規定する居宅サービス、居宅介護支援及び施設サービス並びに老人クラブその他老人の福祉を増進することを目的とする事業を行う者の活動の連携及び調整を図る等地域の実情に応じた体制の整備に努めなければならない。 2 市町村は、前項の体制の整備に当たっては、65歳以上の者が身体上又は精神上の障害があるために日常生活を営むのに支障が生じた場合においても、引き続き居宅において日常生活を営むことができるよう配慮しなければならない。 |
1.福祉の措置の規定のおさらい
実施主体:市町村
対象:65歳以上の者であって、身体上又は精神上の障害があるために日常生活を営むのに支障があるもの
目的:心身の状況、その置かれている環境等に応じて自立した日常生活を営むために、最も適切な支援が総合的に受けられるように
実施内容:
@次条(第10条の4)の措置=やむを得ない事由により、介護保険法に規定する介護保険サービス利用が著しく困難な場合の居宅における介護(訪問介護、通所介護、短期入所生活介護、痴呆対応型共同生活介護、福祉用具給付または貸与)
A第11条の措置=養護老人ホーム入所、介護保険による入所が著しく困難な場合の特養ホーム入所、養護受託者への委託
Bその他地域の実情に応じたきめ細かな措置;積極的な実施に努めるよう謳っている。すぐその後に「これらの措置」と記述しているのですから、第10条の4、第11条だけでなく、この「地域の実情に応じたきめ細かな措置」を含めて福祉の措置を指すことは明白です。
C介護保険サービス
D老人クラブその他老人の福祉を増進することを目的とする事業を行う者の活動。NPO、生協、農協、婦人団体、市民団体、地域住民等の活動(介護保険サービスを除く)、いわゆるインフォーマルサービスもここに含まれると思われる。
@〜Bの福祉の措置とC、Dの連携及び調整を図る等、地域の実情に応じた体制の整備に努めなければならない。
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参照 (居宅における介護等) 第10条の4 市町村は、必要に応じて、次の措置を採ることができる。 1.65歳以上の者であって、身体上又は精神上の障害があるために日常生活を営むのに支障があるものが、やむを得ない事由により介護保険法に規定する訪問介護を利用することが著しく困難であると認めるときは、その者につき、政令で定める基準に従い、その者の居宅において第5条の2第2項の厚生労働省令で定める便宜を供与し、又は当該市町村以外の者に当該便宜を供与することを委託すること。 ※第5条の2第2項の厚生労働省令で定める便宜=介護保険サービスとしての訪問介護 2.(略 ほぼ同じ表現で「老人デイサービスセンター等」の利用) 3.65歳以上の者であって、養護者の疾病その他の理由により、居宅において介護を受けることが一時的に困難となったものが、やむを得ない事由により介護保険法に規定する短期入所生活介護を利用することが著しく困難であると認めるときは、その者を、政令で定める基準に従い、当該市町村の設置する老人短期入所施設若しくは第5条の2第4項の厚生労働省令で定める施設(以下「老人短期入所施設等」という。)に短期間入所させ、養護を行い、又は当該市町村以外の者の設置する老人短期入所施設等に短期間入所させ、養護することを委託すること。 4.65歳以上の者であって、痴呆の状態にあるために日常生活を営むのに支障があるもの(共同生活を営むのに支障がある者を除く。)が、やむを得ない事由により介護保険法に規定する痴呆対応型共同生活介護を利用することが著しく困難であると認めるときは、その者につき、政令で定める基準に従い、第5条の2第5項に規定する住居において食事の提供その他の日常生活上の援助を行い、又は当該市町村以外の者に当該住居において食事の提供その他の日常生活上の援助を行うことを委託すること。 2 市町村は、65歳以上の者であって、身体上又は精神上の障害があるために日常生活を営むのに支障があるものにつき、前項各号の措置を採るほか、その福祉を図るため、必要に応じて、日常生活上の便宜を図るための用具であつて厚生労働大臣が定めるものを給付し、若しくは貸与し、又は当該市町村以外の者にこれを給付し、若しくは貸与することを委託する措置を採ることができる。 (老人ホームへの入所等) 第11条 市町村は、必要に応じて、次の措置を採らなければならない。 1.(略 養護老人ホーム入所委託) 2.65歳以上の者であって、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なものが、やむを得ない事由により介護保険法に規定する介護老人福祉施設に入所することが著しく困難であると認めるときは、その者を当該市町村の設置する特別養護老人ホームに入所させ、又は当該地方公共団体以外の者の設置する特別養護老人ホームに入所を委託すること。 3.(略 養護受託者への委託) |
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※「やむを得ない事由」とは何か? 1999年9月17日、「要介護認定の実施と事前サービス調整等について」(介護保険全国担当課長会議資料 介護保険事業計画・基盤整備チーム)によれば、「やむを得ない事由により、事業者との『契約』による介護サービスの利用やその前提となる市町村に対する要介護認定の『申請』を期待しがたい者に対し、職権を持って介護サービスの提供に結びつける主旨である。」とのことである。そして、「やむを得ない事由」としては、@本人が家族等の虐待又は無視を受けている場合、A痴呆その他の理由により意思能力が乏しく、かつ、本人を代理する家族等がない場合などを想定している。 しかし、そもそもこの文書が法的に根拠のあるものなのか検討しなければならない。介護保険全国担当課長会議資料として提出された介護保険事業計画・基盤整備チームの見解にすぎない。これが老人福祉法の解釈として妥当なのか?関係者による検討と議論が必要ではないだろうか? |
2.第10条の4、第11条の措置は極めて限られた規定で良いのか?
ここで、重要なポイントになるのは、第10条の4、第11条の措置の「やむを得ない事由」をどうとらえるかですが、注釈のように国は非常に狭い範囲を対象と考え、ほとんどの市町村もそれに従っています。そのため、第10条の4、第11条の措置の実施は極めて限られたケースしか行われていません。
しかし、市区町村にとって、高齢者福祉は自治事務であり国の規定に一挙一動まで従う義務はないと考えます。「やむを得ない事由」の規定適用について研究検討の余地があるのではないでしょうか?
3.「地域の実情に応じたきめ細かな措置の積極的な実施に努める」規定の活用を
そして、さらに重要なのは、第10条の3の「地域の実情に応じたきめ細かな措置の積極的な実施に努める」の規定です。国は、福祉の措置と言うと第10条の4、第11条の措置のみ説明してきました。しかし、老人福祉法の規定には、「地域の実情に応じたきめ細かな措置の積極的な実施に努める」の規定が存在するのです。市区町村が地域の高齢者の実情をきちんと把握して、その必要に応じたきめ細かな措置の積極的な実施に努めるよう明文化されているのです。
私は、介護予防生活支援事業も法源的にはこの規定によるのではないかと考えます。介護予防生活支援事業は国庫補助事業です。積極的に活用して欲しいものです。そしてそれにとどまらず、市区町村が必要な事業を独自にすすめていく姿勢が老人福祉法の法文上求められると考えます。
なお、すでにいろんな市区町村で高齢者福祉の独自の施策が実施されています。浜松市でも緊急事態での介護保険外のショートステイの必要性に応えるものとして、「浜松市要援護高齢者短期入所支援事業」が2001年8月から施行されました。対象は、要介護、要支援認定者並びに虚弱高齢者で低所得者。個人負担がないのが特徴で、そうしたものも払えない、なおかつ生活保護の対象とならない特殊な事情の場合備えるものです。収入、所持金額を確認し必要な資金がない場合のみ適用されます。こうした施策も、法源的には第10条の3のこの規定に基づくものと考えられます。
4.最も大切なのは「地域の実情に応じた体制の整備」=地域ケアの体制作り
老人福祉法では、福祉の措置と、介護保険サービス、インフォーマルサービスなどとの連携及び調整を図る等、地域の実情に応じた体制の整備に努めなければならないと規定されています。第10条の4、第11条、 その他地域の実情に応じたきめ細かな措置も大切ですが、もっとも大切な本旨は、それらの措置と介護保険サービス、インフォーマルサービスなどを総合的に連携した「地域の実情に応じた体制の整備」、つまり地域ケアの体制作りです。進んだ市区町村では、こうしたネットワークの構築を行政が進めていますが、法源的には、老人福祉法の第10条の3の規定が根拠なのです。
厚生労働省は地域ケア会議の推進を指導しています。その真の目的は、地域ケア会議で個々の事例を検討するだけでなく、この地域ケアの体制作りにあります。ですから、個々の事例検討も大切ですが、それで終わってはならないのです。地域ケア会議を開催する中で、地域ケアを推進するネットワークの構築を図っていくことが大切です。
おわりに
「心身の状況、その置かれている環境等に応じて自立した日常生活を営むために、最も適切な支援が総合的に受けられるように」という規定をふまえるなら、「その他地域の実情に応じたきめ細かな措置」をもっと積極的に捉えることもできるのです。現在、保険制度では解決できない困難ケースが数々発生してきています。「利用料が払えないために必要なサービスが使えない。」「介護者が疾病・入院のために定められた限度以上のサービスが是非とも必要。」そうした困難ケースの解決のために高齢者福祉施策で補っていく模索が市町村に求められています。
介護保険の実施の中で、介護保険は問題点と課題を多大に含んだ制度である事が明白になってきています。そもそも介護保険制度とは、保険料を納めた人が、要支援以上の認定を受けた場合、要介護度に応じて決められた範囲で保険が給付される。利用する際は利用料も必要というように、決められたルールにのった場合に使える限定的な保障です。限定的な保障だけで国民の生活が守れるはずがありません。福祉の措置を含む保険外の高齢者福祉施策と、介護保険が車の両輪にそろってこそ、社会保障の安全運転ができるのではないでしょうか。
介護保険内での改善とともに、高齢者福祉の再生が求められていることを、多くの人に呼びかけていくものです。